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第六章 それぞれの兆し

6-10 アリス ~訪問者's

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 そんな日々を送っている11月下旬、突然の訪問者が現れた。
 受付から連絡を受けたジェイムスが告げた。

「ヘンリエッタ・グレイソンという御嬢さんが受付に来て、旦那様と奥様に会いたいと申されているそうですが、如何いたしましょう。」

 結婚が決まったことで使用人達は私のことを奥様と呼ぶようになった。
 以前からマイクは旦那様であり、私はアリス様だったのだが急に呼び名が変わると色々と戸惑うこともあったが、
近頃ではそれが当たり前になっている。

 ヘンリエッタは、リス多臓器不全症候群で一時は医師から余命二カ月と言われていた女の子である。
 しかも彼女は超能力者であった。

 私とマイクは頷いた。

「ジェイムス、多分13歳もしかすると14歳ぐらいのブルーネットの髪と茶色の瞳の女の子よ。
 彼女とは話したことは無いけれど私もマイクも良く知っている。
 下に降りて家まで連れてきてくださいな。」

 10分後ヘンリエッタを連れてジェイソンが戻ってきた。
 やせ細ったヘンリエッタの面影は無かった。

 ややふっくらと丸みを帯びた顔と少女らしい体つきで健康になったことがわかるし、何よりオーラが強く輝いていた。
 彼女は愛らしい少女に戻り、きっと数年の後には若い男性を振り向かせるような美人になるだろう片鱗が見えていた。

 そのヘンリエッタが律儀に挨拶をした。

「初めまして、私はヘンリエッタ・グレイソンです。
 私は、難病のリス多臓器不全症候群にかかって、クレア先生も手の打ちようがないと諦められていたところを、マイクさんとアリスさんが作ってくれた新しいハマセドリンのお蔭で今こうして元気でいられます。
 今年の6月にベイマス医科大学付属病院を退院してクレアラスの自宅に戻ってきました。
 そうして、この10月までは一月に一度、クレアラス市内の大学病院で診てもらっていましたが、担当医の方に完治したと教えて頂きました。
 お二人の連絡先が分からずにお礼を申し上げるのが遅くなりましたが、お二人の結婚報道が有ってからようやく住所がわかりましたので、ご迷惑を顧みずにお礼とそれから結婚のお祝いを言いたくて両親にも告げずに参りました。
本当にありがとうございました。
 そして、ご結婚おめでとうございます。
 お二人の事はクレア先生から事情を伺ってからずっと報道で見ていました。
 とっても素敵なカップルがいるんだなってずっとそう思っていました。
 私の幼いころの夢は花嫁になることだったんです。
 でも病気で花嫁になることはもう無理と思っていたのですけれど、お二人がその夢を復活させてくれました。
 私もきっとマイクさんのような花婿さんを手に入れて見せます。
 お邪魔してごめんなさい。
 私、すぐに帰りますから。」

「ヘンリエッタさんね。
 急用が有るなら別だけれど、もし時間があるならそこに座ってくださいな。
 今、ルーシーとカレンが飲物とケーキを用意している筈です。
 それを食べてからでもそんなに時間はかからない。
 それにね。
 私達も貴方が訪ねて来てくれた事が嬉しいの。
 だから、少しおしゃべりしましょう。」

「あの、本当にお邪魔じゃありませんか?」

「ええ、大丈夫ですよ。
 外に沢山の記者さんがいたでしょう。
 だから私達余り外に出られないでいるの。
 だからお客様なら歓迎よ。」

 そう言った時、電話が鳴った。
 ジェイムスが出て、再度、マイクと私に問いかけることになった。

「マイク様、アリス様。
 受付にアイリーン様がお出でで、御面会を申し出ておられるそうです。
 如何いたしましょうか。」

「あら、アイリーンが?
 でも、こんな時によく入って来られたわね。
 ロビーに待たせているとまた記者連中がうるさいわ。
 アイリーンも連れて来てくれるかしら。
 どうせマネージャーも一緒でしょう。」

 ジェイソンは再度ロビー階に迎えに行った。

「あの、お客様でしょうから、私、失礼します。」

「ううん、いいのよ。
 ヘンリエッタも知っている人よ。
 歌手のアイリーン・セントルード。」

「はい、今一番のアイドル歌手、・・・。
 ええっ、・・・!?
 ここに来るんですか?」

「ええ、たまに遊びに来るの。
 だからあなたも嫌じゃなければ一緒に御話したらいい。」

「嫌だなんて、とんでもない。
 私、アイリーンさんの大ファンなんです。
 特にマイクさんとアリスさんの作詞作曲した歌は大好きです。」

「そう、じゃぁ、是非とも会わなきゃね。
 アイリーンに紹介してあげる。」

 アイリーンが間もなくやって来た。

「あ、アリスお姉さまこんな時にお邪魔してすみません。
 でも下は大変ですねぇ。
 通り抜けるのにひと苦労。
 あ、お客様でしたのね。
 ごめんなさい。」

「いいのよ。
 アイリーン、こちらはヘンリエッタ・グレイソン。
 私達の知り合いなの。
 そうして、貴方の大ファンだって今聞いたばかり。
 ヘンリエッタ、知っているでしょうけれど、アイリーンよ。
 御挨拶したら?」

「あの、あの、初めまして、私、貴方の大ファンです。」

「そう、ありがとう。
 アリス姉さまの知り合いなら私も大歓迎よ。
 でも、こちらで会うのは初めてよね。」

「はい、私もここにお邪魔したのは初めてで・・・。
 御世話になったお礼を言って、結婚のお祝いを言ったらすぐに帰るつもりでいたんですけれど、・・・。」

「あら、折角来たんだったらゆっくりして行きなさいな。
 こんな有名なカップルに中々会える機会無いんだから。
 でも、ヘンリエッタって可愛いわね。
 貴方、アイドルになれそうな気がするな。」

「そんな無理です。
 私、暫く病気で学校もお休みが続いていましたし・・。」

「あら、そんなの関係ないのよ。
 私だって歌手になってからは、まともにハイスクールなんか行けてないもの。
 でも、ここに来るとアリス姉さまとマイク兄様にいろんなこと教えてもらえるからしょっちゅうお邪魔してる。
 でも、この騒ぎだからちょっと来れないと思っていたのだけれど、来ざるを得なくなっちゃって・・・。
 あ、ヘンリエッタ、ちょっと待っててね。
 ここに来た理由をアリス姉さまに言わなくっちゃ。」

「何かしら、急な要件でもできたの?」

「ええ、まぁ・・・。
 お姉さまたちの結婚式の話なの。
 うちのオーケストラが、お姉さまたちの結婚式を何とか盛り上げたいと言って、何とか会場で演奏をさせてもらえないかって私に申し入れてきたの。
 お姉さまたちのお蔭でオーケストラも存続しているけれど、お姉さまたちがいなかったら、それこそプロダクションのお偉方の一言で解散していたかもしれないの。
 だから何としてもその恩返しをしたいって言ってるの。
 うちのバンド75名だけれど、何とか会場に押し込めないかしら。
 彼らが披露宴の間の演奏は請け負うって言ってるから。」

「おやまぁ、75名もなの?
 楽器も持ってくるから場所も取るわよねぇ。
 マイク、どうする?」

「ウーン、まぁ、会場も広い方になったから大丈夫じゃないかな。
 それに、ホテル側で用意するバンドを外せば少しは余裕もあるだろう。」

「うん、そうだけれど・・・。
 じゃぁ、ホテル側に交渉してから返事するわ。」

「良かった、これで私の役目は終わり。」

 アイリーンがそう言った途端またまた電話が鳴った。
 ジェイソンが出て、それから言った。

「今度はダイアン様が、団体でお見えとか、如何いたしましょう。」

「何だか、今日は来客が多いのね。
 何人ぐらい?」

「ダイアン様を含めて7名だそうです。」

「マイク、ダイアンさんには衣装の件もあるし、断れないわよね。
 大きい居間に移りましょう。」

 マイクは苦笑しながら頷いた。
 ヘンリエッタが恐る恐る言った。

「あの、私、失礼した方が・・・。」

「いいのよ、ダイアンさんも私の知り合いなんだし、貴方も我が家のお客様。
 先客はでんと構えてればいいの。
 貴方にも紹介してあげるから。
 トップ・デザイナーのダイアンさんよ。」

 次から次へと有名人がやって来るのでヘンリエッタは目を丸くしている。
 皆が大きい居間の方へ移ってからようやくケーキとお茶が出た。

 カレンが言った。

「すみません遅くなって、予めわかっていれば準備も出来たのですけれど、ルーシーが大至急7人分のケーキも作ってます。」

 そう言っているうちにダイアンを先頭にモデルやら縫い子さんたちがやって来た。
 ダイアンが、アイリーンとヘンリエッタを見るなり言った。

「あら、お客様だったのね。
 ごめんなさい突然押しかけてきて。
 お邪魔だったかしら。」

「いいえ、構いませんよ。
 ダイアンさんは、アイリーンはご存知ですよね、そちらはアイリーンのマネージャーのロザリーさん、それにこちらが僕らの知り合いのヘンリエッタ嬢です。
 ヘンリエッタ、こちらはデザイナーのダイアンさん、後ろにいるのはモデルのポーラさんにベリーヌさん、それとスタッフのオリビアさんにナタリーさん。
 ごめんなさい。
 後の方は知らないな。」

「マイクが知らないのは当然よ。
 多分初対面だもの。
 こちらはモデル組合代表のミシェル、それともう一人はデザイナー協会の幹事をしているマルグリット。
 マルグリット、貴方からお願いしなさい。」

「あの、・・・。
 私からお願いするんですか?」

「そりゃぁ、そうよ。
 言いだしっぺは、協会であって私じゃないわ。
 私は口利きで来ただけだもの。」

「あの、誠に申し上げにくいことながら、・・・。
 お二人の結婚式に私ども協会の会長だけでもご招待願えないかと存じましてお願いに参りました。」

「はぁ?
 あの、デザイナー協会の会長さんを、・・・ですか?
 そう言えば、モード・デ・ヴァリューの際に御挨拶だけしたような気がしますけれど、申し訳ございません。
 お顔も覚えておりません。」

 ダイアン女史が後を引き継ぐように言った。

「そりゃぁ、そうよね。
 私があちらこちら引き回した時にちらっと会っただけで、ろくに挨拶もしていないんだから。」

「で、ございましょうが、ブラビアンカで関連された協会幹部の方はご招待されておりまして、私どもの協会が仲間外れにされたようで、何とも面目が御座いません。
 末席でも構いませんので何とか潜りこませていただくわけには参らぬでしょうか?」

「あの、私どもの結婚式に出席されなければ面目が無いという理屈がよくわかりませんが・・。
 私ども結婚式に参列することが栄誉になるとも思えません。」

「とんでもございません。
 何の関わりも無い団体、協会であってもお二人の結婚式には何とか潜りこみたいはずでございます。
 お二人はブラビアンカで連合の名を上げたヒーローにヒロインです。
 その知己の者がいるというだけで、団体名、協会名が恩恵を被ることは火を見るよりも明らかです。」

「うーん、何ともいいようがない屁理屈ですが、ダイアンさん貴女がいいと思うならダイアンさんのお付の一人として了解しましょう。
 どうされますか?」

「あらら、私にお鉢が回って来たの。
 うーん、しょうがないわね。
 会長とは付き合いもあるし、・・・。
 マイク、アリス、何とかお願い。
 お付でもなんでもいいから混ぜてやってくれる。」

「わかりました。
 ダイアンさんがそう仰るなら、ダイアンさんとご一緒の席を用意します。
 でも一人だけですよ。」

 マルグリットは、ほっと溜息をついた。

「ありがとうございます。
 早速に会長にご報告しなければなりませんので、私はここで失礼させていただきます。」

 マルグリットは、そう言ってそそくさと引き上げて行った。
 そこへカレンがケーキとお茶を持って現れた。

「あらら、お一人帰られましたか?」

 人数分のケーキとお茶を置くと、カレンも引き下がった。

「ダイアンさん、でもよくあのマスコミの連中の中を抜けて来られましたね。」

「ええ、もう、大変だったわ。
 うるさいったら、ありゃしない。」

 そう言ってダイアンはお茶を飲んだ。
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