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第六章 それぞれの兆し

6-6 アリス ~造船所の準備と人材募集

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 マイクは設計とは別に造船所の用地を物色し始めていた。
 当面は500トラン四方もあれば十分であるが、将来的には少なくとも10セトラン四方の広い敷地が必要と判断され、クレアラス郊外にその用地を求めた。

 最終的に選定したのはクレアラス中心部から70セトランほど離れた場所の原野であった。
 雑草が生い茂る若干の凹凸がある敷地であり、近くを高速軌道車のチューブラインが通っている。

 浮上車用の道路も敷地の縁を通っているので、資材の運び込みにも便利である。
 マイクは4億ルーブを投じてその敷地を買収した。

 敷地は道路に沿って幅12セトラン、奥行きが15セトランほどある。
 マイクは建設業者に敷地の地盤改良工事と当面の造船所用地500トラン四方の整備、上屋の建設、資材倉庫の建設を発注した。

 それらの総額は土地の買収費用を除いて2億ルーブに達する。
 4月に入って一挙に役所への申請作業が増えだした。

 私(アリス)とマイクが手分けして、申請作業を行っているが申請先が多岐に渡ることもあって、結構忙しい毎日を送るようになっていた。
 手が足りない時は使用人三人も駆り出されている状況である。

 いずれ人を雇う必要があるので、マイクは求人広告を出した。
 コンドミニアム近くの貸事務所を借りて、そこで面接を行った。

 面接は非常に簡単である。
 私かマイクが面接に来た者を片っ端からどんな人か思考を探るのである。

 本来、余りしないことになってはいるが、ゆくゆくは正式社員となる人材である。
 危ない人間や能力のないものは弾くしかない。

 二人で約200人を面接して、採用を決めたのは4人であった。
 彼らには、貸事務所をそのまま使って会社創設の準備作業をしてもらうことになった。

 メィビスは自由貿易惑星だけに企業の興廃が頻繁にある。
 そのため結構な数の人間が職を探している地でもあるのだ。

 レイク・ビショップは、元商事会社の社員であるが、事業縮小のあおりでリストラされた31歳。
 左程大手の商事会社ではなかったが、フェイムス恒星系に本拠を置く会社で、業績悪化でメィビスの事務所を閉めることになったのである。

 メイ・ロスチャイルドは、クレアラスを中心に120の店舗を持つスーパーの経理部門に勤めていたが、上司のセクハラに耐えかねて辞職した27歳。
 フェイ・ブラックは、大手弁護士事務所に勤務していたが、弁護士事務所の経営者と折り合いが悪く、弁護士事務所を止めた26歳、彼女の場合は大手弁護士事務所から回状が出回っており、他の事務所では雇ってもらえないという事情が有った。

 レイド・ワシントン48歳は、自ら特殊金属加工の工場を経営していたが、経理担当者が詐欺にひっかり、会社を抵当に取られて倒産した事業主である。
 何れも相応に優秀な人材である。

 マイクは更にジェイムスに話をして、現役の海兵隊員若しくは元海兵隊員で警備要員として使える人間は知らないかと尋ねた。

「通常の警備でしたら、先日お使いになったダンベルク警備保障で十分ではないかと存じますが、海兵隊員を使う理由がございますか?」

「ダンベルクは、元警察官が主体だからね。
 拳銃までは使えても、重火器や爆薬は扱えない。
 警備するのにそんなものは不要だが、少なくともそれらを扱える者がいないと困るかもしれない。」

「なんと・・・。
 テロ対策でしょうか?」

「まぁ、それに近いな。
 ビルブレン共産同盟の破壊工作員やギデオン帝国の特殊部隊が相手だと思えばわかりやすいだろう。」

「なるほど、では、海兵隊か陸軍の特殊部隊上がりになるでしょうね。
さて、そうなると・・・。
 私はそうした者は直接知る立場にはありませんでしたが、ケイン中佐ならば或いはそうした者を知っているかもしれません。
 仮にそうした者がいるとしてお雇いになる?
 それに、今旦那様が始めようとしている事業に関わりがあると見て宜しいでしょうか?」

「雇用については、今は必要ないが、いずれ必要になると思われるんでね。
 まぁ来年の春ころかな。
 来年の頭ぐらいにはある程度、どんな人物かだけでも知っておきたいとは思っている。
 向こうに事情がある場合は早めに雇っても構わないと思っているが人物次第だ。
 それと、事業に関係があることだ。」

「まだ時間はございますね。
 では、中佐に連絡を取ってみましょう。
 ある程度は事業の内容をお話ししても構いませんか?」

「ああ、構わないが、今の段階では君もあまり話せることは無いんじゃないかな?」

「ええ、確かに。
 新型宇宙船の造船所を手掛けるとしか知りません。」

「うん、その新型宇宙船が何たるかがわかると先ほど言った連中が動き出して妨害活動に出てくる可能性がある。
 ブーラ原理教会連邦も同類だな。」

「何と、四面楚歌ですな。
 それほど画期的な宇宙船ということでしょうか?」

「今のところ、会社の形も無いんだから、想像は難しいだろうけれど、仮に実現すれば現状の勢力図は劇的に変わってしまうだろうね。
 僕としては、その宇宙船を武器に使われたくはないが、海軍首脳はそうは思わないだろう。」

「わかりました。
 取り敢えずはその程度の情報で十分です。
 但し、中佐と連絡できても結果は保障できません。」

「あぁ、余り無理はしなくていい。
 本来、君に頼むべき仕事じゃないのは判っているからね。」

「畏まりました。」

 数日後、ジェイムスはケイン中佐その人をマイクに紹介した。
 ケイン中佐はメィビス宇宙海軍本部勤務であり、防諜部に属していた。

 邸の大きさに気圧されているケイン中佐は、小さな居間に通され、そこでマイクとアリスの二人が面談した。

「ジェィムスに相談を受けた所ですが、もう少し詳しいお話を伺えますかな?
 単に海軍出身者ならばともかく、民間の方で特殊部隊出身者を捜しておられるというのは極めて異例なことでしてな。
 私に心当たりがないわけではないが、少なくとも雇い主に雇用の目的を聞かなければご紹介もできないのです。
 単なるボディガードとも違うようなので・・・。」

「はい、その通りです。
 仕事としては、中佐が今所属している防諜部と警備会社を併せ持つ機能だと考えて頂けば宜しいかと存じます。
 主な仕事は、外部からの妨害行為を防ぎ、排除する仕事になります。
 勿論一人でやれる仕事では無いので、複数の人が携わることになりますが、キーパーソンは重火器や爆薬に精通している人が必要になると考えています。
 警察出身者でもいないわけではないのですが、彼らとは性質を異にしますので。」

「つまりは、武器を使う可能性もあると?」

「できるだけ使わせたくはありませんが、状況次第です。」

「デスクワークでは済まないのですね?」

「私の懸念が的中しなければデスクワークで済みます。」

「今一つ、ヒルブレン共産同盟圏やブーラ原理教会連邦がイリーガルズを使ってまで妨害行為に出るというお話が理解できません。
 まかり間違えば連合に対する重大な挑発行為と取られるので、通常はそのような無理はしないのが常識です。
 新型宇宙船の開発に関わる新規事業とお聞きしましたが、何故彼らが関心を持つと判断しているのかがわからない。
 可能であればその判断理由を教えて頂けませんか?」

「貴方の属する海軍に対しても当面内密にしていただけるならお話しします。」

「それは・・・。
 然るべき時が来たなら海軍当局に話してもいいということですかな?」

 マイクは頷いた。

「なれば、当面軍にも話さないということを約束しましょう。」

「では、夢物語として聞いてください。
 私の作る造船所は取り敢えず小型シャトル程度の宇宙船を建造することになります。
 場所は軌道衛星ではなく、地上です。
 その宇宙船が、例えばこれから出発して数時間で連合の主星デンサルに到着するということは信じられましょうか?」

「それは無理だ。
 タムディに行くには少なくとも三つのワームホールを通過せねばならん。
 1か月なら海軍もやってできんことはないが、それだけの高Gで走れば無理が出る。
 ん?
 もしや、ワームホールを使わないということか?」

 マイクは頷いた。

「まさか、・・・。
 古い理論でそのような方式も可能性があるという話は聞いたことがあるが、その理論も未完成の筈だ。」

「現状ではそう言うことになっております。
 ですから夢物語と申しました。」

 ケイン中佐は、暫く無言でいたがやがて言った。

「実現の可能性は?
 そうして仮にテスト船ができるとすれば何時頃のことだね?」

「九分九厘できますし、1隻目が完成するのは、造船所が稼働しはじめてから1年以内ということになります。」

「造船所の竣工は?」

「社屋だけならば来年3月に完成しますが、新たな設備を色々と設置しなければなりませんので、来年の半ば、遅ければ来年の秋ごろになるでしょう。」

「ウムムム、・・・。
 止むを得ん。
 約束だからその話は当面聞かなかったことにする。
 だが、テスト航海をする前には知らせて欲しいが、できるかね。」

「試験航海をする前には必ずお知らせします。
 そうして1週間前には正式なフライトプランを宇宙管理局と海軍に提出することになります。」

「ふむ、その辺も事前の連絡がなされた際に協議することになりそうだな。
 わかった。
 心当たりの人物に連絡してみよう。
 ただ、一人ではなく、二人になる可能性があるが、雇うのは二人でも構わないか?」

「ええ、それは構いませんが、どのような方です?」

「ちょっと変わり者の夫婦でね。
 二人とも特殊部隊にいて、結婚して、まだ若いのだが昨年退役して今は民間にいる。
 だが、雇用主と折り合いが悪いらしく、どうも長続きしそうにないらしい。」

「それはまた・・・。
 まぁ、ご本人達にその気があって、なおかつ人物を見てから採用するかどうか決めましょうか。」

「ああ、その方がいいだろうな。
 結構癖のある性格だが、二人とも信用のおける人物ではあることは保証する。
 連絡が付いたら、こちらに知らせよう。
 名前はハーマン・マクリアスにサラ・マクリアスだ。」

 その二日後、ケイン中佐から連絡が入った。

「二人には連絡が付いた。
 だが、検討するから一週間ほど待ってくれという。
 再度連絡が来たなら知らせるが、・・・。
 その前に君たちに直接コンタクトするかもしれない。
 あの二人は多分にそういうところがある。」

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