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第五章 催事と出来事

5-15 アリス ~コンテストとアクセサリー

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 2月12日、ファーボーズ記念音楽堂でディフィビア連合ハイスクール吹奏楽コンテストが開催された。
 出場校は16の地区から3校ずつ、全部で48校が出場している。

 このため三千人収容の大きな音楽堂の半分がその出場校の生徒達で占められており、観客は後方の客席と二階席に廻って超満員であった。
 1日目と2日目午前中は規定曲だけの演奏、2日目午後から3日目は自由曲の演奏が行われることになっている。

 私達の教え子たちは非常に良い演奏をしてくれていた。
 規定曲の演奏ではカインズ校が1位、シュルツとランスロップ校が僅差で2位、3位を占めた。

 規定曲だけにしろ、ヤノシア地区のハイスクールが三位までを独占したのは初めてのことだった。
 3位と4位の差はかなり開いていた。

 ファルド審査委員長は一人頷き、小さな声で呟いた。

「ほう、狙い通りか・・・。
 それにしても、カインズは成長著しいな。」

 ファルド委員長は、シュルツに89.6点、ランスロップに89.5点を出し、カインズには94.9点を出していた。
 他の審査員もほぼ同様の点数を出しており、審査員自体のレベルも上がっていた。

 彼らも、90点以上は半分プロの領域と心得ているから95点を超える得点はなかなか出せない。
 それでもぎりぎりの点数を与えるということは、それだけ彼らの演奏を評価しているからである。

 毎日、朝8時半から始められたコンテストは夕方5時半まで昼食の1時間の休憩を挟んで継続された。
 2日目後半と3日目で自由曲の演奏が行われ、ヤノシア地区の3校の優位は動かず却って差が開いた。

 カインズが1位、2位がシュルツ、3位がランスロップで決まったのである。
 4位クロベニア地区のディケンズ校、5位シムズ地区のエマーソン校、6位連合主星タムディ地区オーソンズ校、7位バッカニア地区ドルトン校までが平和の祭典出場校と決まった。

 特筆すべきは自由曲の演奏で、全審査員がカインズ校に対して95点を僅かに超える高得点を与えたことであった。
 後日、私とマイクは、カインズ、シュルツ、ランスロップ各校の宿泊ホテルを訪れ、お祝いを述べるとともに、それらの吹奏楽部に10万ルーブの寄付金を出してあげた。

 総勢で130名を超える生徒達との会食も出来なくはないが、他の地区から来ている生徒達の手前個人でそうしたことをするのは控えたのである。
 その代わりにヤノシア地区ハイスクール吹奏楽協会が祝賀会を催したのでそちらに賛助金として5万ルーブを出した。

 その席で生徒達が私達二人に群がるのは致し方のないことだった。
 私達は生徒達一人一人に声をかけ健闘を称え、祝福したのである。

 ◇◇◇◇

 私達の日常が始まった。
 2月20日にはディフィビア連合陸上競技協会の招聘状が届けられた。

 それには、ディフィビア連合陸上競技大会の開催に当たり、100トラン、400トラン、30セトランのトラック競技、走り幅跳び、走り高跳び、槍投げの6種目に二人の出場を招請すると記載されていた。
招聘状を持参したアラン会長に質問した。

「私の記録は、ディフィビアの記録には及ばなかったものがある筈ですけれど、何故に出場が認められたのですか?」

「確かに走り高跳びと槍投げの記録はディフィビア連合の記録に僅差で及びませんでしたな。
 しかしながら、貴方の記録は今季の記録ではディフィビアで一番の記録だったのです。
 仮にアリス嬢が正規のヤノシア地区予選に出場していれば間違いなく代表選手に選ばれたはず。
 それに今回各地区から選抜されている選手の中で貴方の記録に匹敵する記録を出した者がいないのです。
 なれば貴方が招請されて当然な訳です。」

「でも、途中から無理やり割り込んだみたいで何となく気持ちの整理がつかないのですけれど。」

「いやいや、全ては我々協会が責任を負うべきことです。
 お二人が心配をするには当たりません。」

 そう言って、アラン会長は笑顔を見せた。
 私達二人はこうしてディフィビア連合陸上競技大会に飛び入りで参加することになったのである。

 私は仕方がないので、マイクに再度詳しく槍投げと走り高跳びのコツを教わった。
 テレパスのリンクで教わる方法は極めて有効である。

 マイクが私の筋肉の動きを見ており、無駄な部分と力を入れるタイミングを適切に教えてくれるのである。
 それと走り高跳びでの跳び方を変えることにした。

 私の跳び方ではバーを見ながら横向きに跳ぶ方法であったのだが、背面跳びの方がより高く飛べるらしい。
 踏切の位置さえ間違いなければ私も世界記録を出せるだけの地力はあるようだ。

 槍投げも同じであった。
 走る力と身体の背筋力の瞬発力を如何に有効に使えるかで飛距離が違ってくる。

 無論手首のスナップもかなり必要なのではあるが、トレーニングマシーンの調整をかなり微妙に行って、私は無理のないトレーニングに留めることにした。
 マイクが言うには女性の本能で無理な力を出すことは抑える傾向にあるという。

 ところが我が子の危機に際してはあり得ないほどの力を非力な女性が発揮することもあるというから、私にも守るべきものが出来たなら、そう言うこともあるかもしれないと思った。
 今の私に守るべきものがあるとしたならマイクである。

 いずれにしろ身体を壊すほどの無理をしてまで成績を上げる必要はない。
 それが私とマイクの共通の理解である。

 2月末になって新たに4つのアクセサリーが出来てこれから送るとベン・ハーロック氏に連絡すると、ハーロック宝飾店から受取人を派遣するので宅配便で送るのは止めて欲しいと連絡が有った。
 どうやら、私の作ったアクセサリーがかなり価値を生むらしい。

 万が一にでも宅配業者の手違いで壊れてしまったりすると、取り返しがつかないというのである。
 結局ハーロック宝飾店の者が家まで受け取りに来ることになった。

 3月10日、ハーロック宝飾店では「アリスの宝石箱」で陳列していた4品をオークションにかけた。
 4品はそれぞれが20万ルーブ以上の価格を付けて落札された。

 一番小さなイヤリングで最初は1万ルーブから始めたオークションであるが、すぐに22万ルーブまで跳ね上がって落札された。
 一番大きなブローチは31万ルーブであった。

 オークションが終わってすぐにベン・ハーロック氏から連絡が有り、売り上げの半額を入金したいので口座を教えて欲しいと連絡が入った。
 私は1日待ってもらって新たな口座を造り、そこに入金してもらうようにした。

 入金額は47万5000ルーブであった。
 ベン・ハーロック氏は、オークション会場でもきちんと『使われているのはケルヴィスと形状記憶合金それにネオプラを台座として使っている』旨を説明し、個々のケルヴィスは純然たる宝石ではない旨を説明したが、買い手たちはそれを了承したうえで切り返してきたそうである。

「これらの品は、ここでしか売っていないのでしょう?
 ならばそれだけで希少価値が有ります。
 それにデザインをなさり、造られたのがあのMAカップルのアリス・ゲーブリングならば、間違いなく希少なものです。
 それに宝石ではないと貴方は言うけれど、これほど綺麗な色合いはガラス玉では無理です。
 如何に他の宝石であろうと本当に綺麗であるかどうかを見るのは買い手の私達。
 貴方が如何に石ころを宝石だと称しても、私どもが認めない限りは売り物にはならないではありませんか?
 売り手と買い手が互いに希少価値とその美しさを認めてこそ価値があるというものです。
 私は、この品が気に入りました。
 ですから多少高額でも購入しようという気になるのです。
 毎月、新たな品が出品されるかもしれないということも承知しておりますが、同じものは出ないのでしょう。
 少なくとも、今アリスの宝石箱に陳列してある品は意匠が違いますものね。
 私は、あれもとても良い品だと思いますよ。
 これからどんなものが出て来るのかそれが楽しみね。」

 確かにハーロック宝飾店は、出入りの工芸士に頼んで他の代用品で似たような品ができないか試してみたらしい。
 だが、ガラス玉は無論のこと宝石をカットしてできる粉末を利用しても、同じ品を作ることはできなかった。

 似たようなものはできるが、光によって微妙に変化する色合いと深みはどうやってもできないとわかったのである。
 おまけにそれらの偽物は本物を並べてみると一瞥してすぐにわかるほどの違いがあったのである。

 宝石の類は実用価値としてはほとんどない。
 むしろ人に見せびらかすための道具である。

 壷や骨とう品同様その価値を認めるものだけに意味があるのである。
 その典型的なものが美術品であろう。

 模造品がいくらそっくりに造られていても、本物の価値には及ばない。
 どうやら、私が作るアクセサリーもその類になったようである。
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