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第五章 催事と出来事
5-9 アリス ~ダンスコンテストと陸上競技記録会
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翌日は早朝6時にコンドミニアムを出て、美容院へ出向き、長い髪を結い上げ、ティアラを付けてもらった。
美容師たちがティアラを見て、その見事なデザインと丁寧な造りに驚き、何処で購入したのか、あるいはいくらだったのかと口々に尋ねたが、私は秘密ですと言ってはぐらかした。
7時半までに家に戻って、朝食を終えたが、ダンス・コンテストの間はジョギングもお休みである。
私たちは9時までに会場の控室に入った。
カレンがお付でついて来てくれている。
午後一番には衣装を着替えなければならないからである。
その日から4日間ダンス・コンテストは波乱も無く無事に終わった。
結果は私達が断トツのトップであった。
審査員は5名、それぞれ、規定ダンスと、自由ダンスに20点ずつ持っており、10点が技術点、10点が芸術点となる。
出場者は上手ではあったが、技術点、芸術点ともに9点を超える者はいなかったのに比して、私たちは4種目すべてに9.9を出していたからである。
「二人のダンスは正確なステップを踏み、華麗なターンを行ない、動きが滑らかで、感情豊かであり、なおかつ基本となるダンスの姿勢がとてもよく、終始笑顔を絶やさなかったのが高得点の理由である。」
とは審査員長のハーゲン・マイヤーさんが後夜祭で述べた好評であった。
第二位にはバッケス夫妻が、第三位は4位、5位の組と僅差で競り上がったヴァレッタ夫妻が入賞した。
私達を含めてこの三組が、来年1月に開催されるヤノシア地区ダンス・コンテストに出場することになる。
このニュースは意外に大きく取り上げられて、話題になっていた。
アリスとマイクのカップルという通り名がマスコミで定着してしまったようである。
ホロ・ビジョンのニュースは無論のこと、週刊誌までが私達を取り上げていた。
そんな中でも私達の生活は変わらない。
10月12日には初老の紳士の勧誘に乗って二人で陸上競技場に行ってみた。
今にも雨が降ってきそうな天候ではあったが、天蓋の付いているクレアラス陸上競技場は、天候とは無縁である。
9時半から始まる記録会に参加するためには、参加種目を明記した申込書と一緒に参加費用を払わねばならない。
マイクは100トランと30セトランのトラック競技、それに槍投げのフィールド競技に参加を申し込み、私は同じく100トランと30セトランのトラック競技に走り幅跳びを申し込んだ。
費用は二人で400ルーブ。
一種目だけなら一人100ルーブなのだが複数種目に参加の場合、二種目以上は半額になるのである。
私達二人は会費の支払いと入れ替わりにゼッケンを貰った。
ゼッケンには小さな素子が組み込まれており、参加競技の出発点で審判が専用機器でチェックすることによって機能するようになっているのである。
その素子のお蔭で、私たちのタイムが自動的に記録されるのである。
但し、槍投げと走り幅跳びなどは実際に審判員が測定しなければならない。
私とマイクは互いにゼッケンをつけあった。
マイクは黒の58番、私は赤の37番であった。
最初に短距離100トランの競技が有った。
記録会は予選など無く、100トランと30セトランの競技は一回の競争でタイムを競い合う。
100トラン競争で、私は女性の参加者ばかりの2組目で出場した。
スタートの号砲と同時に飛び出て私は快調に飛ばし、ゴールに飛び込んだ。
その組では一着になり、タイムは10秒03。
電光掲示板に表示された私のタイムは赤い光で明滅していた。
一緒に走ったハイスクール生が驚きの声を上げた。
「嘘っ、ディフィビア連合の新記録だわ。
でも、惜しいなぁ。
あと100分の1秒で世界記録に並んだのに・・・。
あ、でも、とにかく、おめでとうございます。」
場内アナウンスの御嬢さんが興奮した声でディフィビア連合新記録の誕生を放送し、私の名前を繰り返し叫んでいた。
結局女子の部100トラン三組24人の出場者で私が一番であった。
続いて男子の部の100トランが始まり、マイクは4組目の出場だった。
マイクも素晴らしく早かった。
スタートからぐんぐんと他の競技者を引き離し、彼がゴールした時には二位の選手とは15トランほども離れていたに違いない。
そうして全員がゴールして電光掲示板に表示が出た。
彼のタイムは9.65秒、私と同様に赤の点滅がしていた。
場内アナウンスの御嬢さんがまたしても興奮した声を張り上げていた。
「只今100トラン男子の部でマイク・ペンデルトンさんが世界新記録を打ち立てました。
これまでの世界新記録9.88秒を0.23秒縮める大金星です。
繰り返します。
只今・・・・。」
私は競技場の休息場所と控えの場所にもなっている客席で見ていたのだが、彼が私の傍に寄ってくると周囲の視線が一斉に二人に向けられた。
無理もないかもしれない。
二人の新記録樹立者がとっても仲良さそうに話しているからである。
「次は?」
「15分ぐらいで走り幅跳びよ。
マイクは?」
「僕は30分ぐらい後だね。
槍投げだ。」
「三回も競技をするのもねぇ。
記録は一回だけでいいから、ジャンプが成功したら残りはパスする。」
「ああ、それでもいいんじゃないかな。
僕もそのつもりでいる。
フィールド競技が終わったら早めに軽食に行こうよ。
長距離走は午後二時半の予定だから早めに食事を済ませておいた方が良い。」
「ええ、そうしましょう。」
私は15分後にはフィールドの中にいた。
走り幅跳びの出場者は12名、その内の6名はハイスクール生徒で5名は大学生である。
社会人(?)は私一人のようだ。
私の出場順位は6番目である。
先ほど100トランのスタート地点に居た顔ぶればかりである。
私の順番がやってきて、私は30トランほどの助走で完璧にスピードに乗り、踏切板にかなり余裕を残してジャンプした。
砂場に着地した時、無論白旗が上がっていた。
記録はすぐに計測され、電光掲示板に表示された。
また赤い色が明滅しているのを確認した。
記録は7.68トラン。
新記録の様だが別に感慨もない。
審判員の人に残り二回は棄権しますと言って客席に戻り始めた。
場内アナウンスが再度叫んでいた。
世界記録のようだった。
マイクが笑顔で迎えてくれた。
「また新記録だったようだね。
マスコミがまた騒ぐぜ。」
「騒いでも一時のこと。
特に問題ないわ。」
其の30分後に、またまた新記録が生まれていた。
槍投げでマイクは118.5トランの世界記録を作ってしまったのだ。
彼は一投だけで残りは棄権し、戻ってきた。
それから二人は連れ立って食事に出かけた。
二時間ほどして戻った時には様相が変わっていた。
マスコミ関係者が急増していたのである。
二人を見つけると一斉に彼らが駆け寄ってきた。
口々に新記録のご感想はと叫んでいるが、二人はまだ競技があるのでノーコメントですと言って一切の取材を断った。
30分後にはトラックで長距離走が始まるからである。
長距離走は、10セトラン、20セトラン、30セトランの出場者が一斉にスタートすることになっている。
しかも男女が一緒にレースをするのである。
私とマイクは二人で準備運動を始めだした。
周囲にはマスコミ関係者が40名以上も集まっており、更に遠巻きに今日の出場選手や役員がいる。
そんな中でトレーニングウェアの男性が近づいてきた。
その男性は、ジョギングで声をかけてきた男性であった。
「私はアラン・グリエールと申します。
先日タイム・パーク周辺の道端でお声をかけた者ですが、覚えておいででしょうか?」
「ええ、勿論です。
貴方のお誘いが無ければ、ここにはいなかったはずですので。」
「なるほど、まぁ、あなた方なら素晴らしい記録を出してもおかしくないと思っていたのは勿論なのですが、それは長距離走であって、短距離走やフィールド競技で活躍されるとは思いもしませんでした。
まもなく、長距離走が始まるようですからまたレース後にお会いしましょう。
あなた方と是非ともご相談しておきたいことがありますので。」
長距離走の10分前に私達二人はトラックの集合場所に行った。
参加者はおよそ100名、その内の7割は男性、3割を女性が占めている。
それらの人が一斉にスタートするのだからスタート直後は混み合うことになる。
特にスタートラインは先陣を切ってできるだけいい記録をと願う出場者がライン間近に並ぶことになる。
それでもラインに一線になれるのは20数名で、残りはその後ろに密集することになる。
私とマイクは、そうした混雑に巻き込まれないようコース外側の後方で集団とは少し離れてスタートを待っていた。
号砲が鳴って全員が一斉にスタートを切ったものの、団子状態になっている。
私とマイクはその後をついて行くように一番外側のコースを並んでゆっくりと走った。
一周が400トランのトラックを25周で10セトラン、50周で20セトラン、私たちは75周しなければならない長丁場である。
コースを一周すると集団がかなりばらけてコースの外側はかなり空いた状況になる。
私とマイクはスピードを上げた。
そうして3周目には当然の様にトップを走っていた。
コースにはどうしても内側に人が集まるので、私たちはコースの中央付近をずっと走るように心がけた。
それだけ走る距離が伸びてしまうのだが、いずれ追い抜くときにコースを変える必要もない。
5週目には周回遅れの人を追い抜いていた。
彼らは遠慮して第一コースを避けて第二コースを走っているのだが、私たちは更に外側を追い抜いて行く。
コースの周回数は自動で記録され、ゴールラインを通過すると付近の電光掲示板に表示される。
従って自分の周回数を間違えることもないし、同時に途中タイムも計時される。
最初の一周では90秒以上もかかったものの、二周目以降は概ね70秒以内で周回しており、順調な滑り出しである。
15周目には多分私達二人を除く出場者全員を周回遅れにしていたはずである。
その後もいつものペースで走る二人で有り、25周目には私達の通過タイム28分35.8秒に赤い点滅が入っていた。
臨時に設けられていた記者席から歓声が上がり、まばらな観客からも拍手が届いていた。
10セトラン出場者はおよそ半数で、その人たちがゴールするとコースは大分空いてくる。
それでも私達はコースの中央付近4コースと5コースを維持していた。
50周目、再度私達の通過タイム55分43.6秒に赤い点滅が入った。
記者席の動きが急に慌ただしくなったように思えた。
殆どの競技が終了して残りは長距離走だけなのであるが、今日の参加者たちは全員が客席に集まってレースの行方を見守っていた。
そうして74周目に入るとまばらな観客も、レースが始まる前よりかなり多くなったマスコミも総立ちになっていたのがわかった。
私達が75周目を終えた時タイムは1時間22分55.4秒であった。
私達はクールダウンのためにスピードを落として更に2周を回って、フィールドで整理体操を始めた。
マスコミ関係者が一斉にそのフィールド目がけて走り寄って来た。
第一声が、世界記録なんですけれどご感想はといきなり私に集音マイクを突き付けてきた。
その後は喧騒に包まれたが、私たちは終始無言で整理体操を続けた。
きっちりとクールダウンして、客席においてあるバッグからタオルをとって汗をぬぐい、水を飲んでから周囲のマスコミに向かって言った。
「あの、・・・。
私達にとっては毎日のジョギングの延長なんです。
ですから騒がれるのはとても迷惑です。」
そう言ってもその後もマスコミが勝手に色々と聞こうとするが、私たちはそれらを無視して帰り支度を始めた。
美容師たちがティアラを見て、その見事なデザインと丁寧な造りに驚き、何処で購入したのか、あるいはいくらだったのかと口々に尋ねたが、私は秘密ですと言ってはぐらかした。
7時半までに家に戻って、朝食を終えたが、ダンス・コンテストの間はジョギングもお休みである。
私たちは9時までに会場の控室に入った。
カレンがお付でついて来てくれている。
午後一番には衣装を着替えなければならないからである。
その日から4日間ダンス・コンテストは波乱も無く無事に終わった。
結果は私達が断トツのトップであった。
審査員は5名、それぞれ、規定ダンスと、自由ダンスに20点ずつ持っており、10点が技術点、10点が芸術点となる。
出場者は上手ではあったが、技術点、芸術点ともに9点を超える者はいなかったのに比して、私たちは4種目すべてに9.9を出していたからである。
「二人のダンスは正確なステップを踏み、華麗なターンを行ない、動きが滑らかで、感情豊かであり、なおかつ基本となるダンスの姿勢がとてもよく、終始笑顔を絶やさなかったのが高得点の理由である。」
とは審査員長のハーゲン・マイヤーさんが後夜祭で述べた好評であった。
第二位にはバッケス夫妻が、第三位は4位、5位の組と僅差で競り上がったヴァレッタ夫妻が入賞した。
私達を含めてこの三組が、来年1月に開催されるヤノシア地区ダンス・コンテストに出場することになる。
このニュースは意外に大きく取り上げられて、話題になっていた。
アリスとマイクのカップルという通り名がマスコミで定着してしまったようである。
ホロ・ビジョンのニュースは無論のこと、週刊誌までが私達を取り上げていた。
そんな中でも私達の生活は変わらない。
10月12日には初老の紳士の勧誘に乗って二人で陸上競技場に行ってみた。
今にも雨が降ってきそうな天候ではあったが、天蓋の付いているクレアラス陸上競技場は、天候とは無縁である。
9時半から始まる記録会に参加するためには、参加種目を明記した申込書と一緒に参加費用を払わねばならない。
マイクは100トランと30セトランのトラック競技、それに槍投げのフィールド競技に参加を申し込み、私は同じく100トランと30セトランのトラック競技に走り幅跳びを申し込んだ。
費用は二人で400ルーブ。
一種目だけなら一人100ルーブなのだが複数種目に参加の場合、二種目以上は半額になるのである。
私達二人は会費の支払いと入れ替わりにゼッケンを貰った。
ゼッケンには小さな素子が組み込まれており、参加競技の出発点で審判が専用機器でチェックすることによって機能するようになっているのである。
その素子のお蔭で、私たちのタイムが自動的に記録されるのである。
但し、槍投げと走り幅跳びなどは実際に審判員が測定しなければならない。
私とマイクは互いにゼッケンをつけあった。
マイクは黒の58番、私は赤の37番であった。
最初に短距離100トランの競技が有った。
記録会は予選など無く、100トランと30セトランの競技は一回の競争でタイムを競い合う。
100トラン競争で、私は女性の参加者ばかりの2組目で出場した。
スタートの号砲と同時に飛び出て私は快調に飛ばし、ゴールに飛び込んだ。
その組では一着になり、タイムは10秒03。
電光掲示板に表示された私のタイムは赤い光で明滅していた。
一緒に走ったハイスクール生が驚きの声を上げた。
「嘘っ、ディフィビア連合の新記録だわ。
でも、惜しいなぁ。
あと100分の1秒で世界記録に並んだのに・・・。
あ、でも、とにかく、おめでとうございます。」
場内アナウンスの御嬢さんが興奮した声でディフィビア連合新記録の誕生を放送し、私の名前を繰り返し叫んでいた。
結局女子の部100トラン三組24人の出場者で私が一番であった。
続いて男子の部の100トランが始まり、マイクは4組目の出場だった。
マイクも素晴らしく早かった。
スタートからぐんぐんと他の競技者を引き離し、彼がゴールした時には二位の選手とは15トランほども離れていたに違いない。
そうして全員がゴールして電光掲示板に表示が出た。
彼のタイムは9.65秒、私と同様に赤の点滅がしていた。
場内アナウンスの御嬢さんがまたしても興奮した声を張り上げていた。
「只今100トラン男子の部でマイク・ペンデルトンさんが世界新記録を打ち立てました。
これまでの世界新記録9.88秒を0.23秒縮める大金星です。
繰り返します。
只今・・・・。」
私は競技場の休息場所と控えの場所にもなっている客席で見ていたのだが、彼が私の傍に寄ってくると周囲の視線が一斉に二人に向けられた。
無理もないかもしれない。
二人の新記録樹立者がとっても仲良さそうに話しているからである。
「次は?」
「15分ぐらいで走り幅跳びよ。
マイクは?」
「僕は30分ぐらい後だね。
槍投げだ。」
「三回も競技をするのもねぇ。
記録は一回だけでいいから、ジャンプが成功したら残りはパスする。」
「ああ、それでもいいんじゃないかな。
僕もそのつもりでいる。
フィールド競技が終わったら早めに軽食に行こうよ。
長距離走は午後二時半の予定だから早めに食事を済ませておいた方が良い。」
「ええ、そうしましょう。」
私は15分後にはフィールドの中にいた。
走り幅跳びの出場者は12名、その内の6名はハイスクール生徒で5名は大学生である。
社会人(?)は私一人のようだ。
私の出場順位は6番目である。
先ほど100トランのスタート地点に居た顔ぶればかりである。
私の順番がやってきて、私は30トランほどの助走で完璧にスピードに乗り、踏切板にかなり余裕を残してジャンプした。
砂場に着地した時、無論白旗が上がっていた。
記録はすぐに計測され、電光掲示板に表示された。
また赤い色が明滅しているのを確認した。
記録は7.68トラン。
新記録の様だが別に感慨もない。
審判員の人に残り二回は棄権しますと言って客席に戻り始めた。
場内アナウンスが再度叫んでいた。
世界記録のようだった。
マイクが笑顔で迎えてくれた。
「また新記録だったようだね。
マスコミがまた騒ぐぜ。」
「騒いでも一時のこと。
特に問題ないわ。」
其の30分後に、またまた新記録が生まれていた。
槍投げでマイクは118.5トランの世界記録を作ってしまったのだ。
彼は一投だけで残りは棄権し、戻ってきた。
それから二人は連れ立って食事に出かけた。
二時間ほどして戻った時には様相が変わっていた。
マスコミ関係者が急増していたのである。
二人を見つけると一斉に彼らが駆け寄ってきた。
口々に新記録のご感想はと叫んでいるが、二人はまだ競技があるのでノーコメントですと言って一切の取材を断った。
30分後にはトラックで長距離走が始まるからである。
長距離走は、10セトラン、20セトラン、30セトランの出場者が一斉にスタートすることになっている。
しかも男女が一緒にレースをするのである。
私とマイクは二人で準備運動を始めだした。
周囲にはマスコミ関係者が40名以上も集まっており、更に遠巻きに今日の出場選手や役員がいる。
そんな中でトレーニングウェアの男性が近づいてきた。
その男性は、ジョギングで声をかけてきた男性であった。
「私はアラン・グリエールと申します。
先日タイム・パーク周辺の道端でお声をかけた者ですが、覚えておいででしょうか?」
「ええ、勿論です。
貴方のお誘いが無ければ、ここにはいなかったはずですので。」
「なるほど、まぁ、あなた方なら素晴らしい記録を出してもおかしくないと思っていたのは勿論なのですが、それは長距離走であって、短距離走やフィールド競技で活躍されるとは思いもしませんでした。
まもなく、長距離走が始まるようですからまたレース後にお会いしましょう。
あなた方と是非ともご相談しておきたいことがありますので。」
長距離走の10分前に私達二人はトラックの集合場所に行った。
参加者はおよそ100名、その内の7割は男性、3割を女性が占めている。
それらの人が一斉にスタートするのだからスタート直後は混み合うことになる。
特にスタートラインは先陣を切ってできるだけいい記録をと願う出場者がライン間近に並ぶことになる。
それでもラインに一線になれるのは20数名で、残りはその後ろに密集することになる。
私とマイクは、そうした混雑に巻き込まれないようコース外側の後方で集団とは少し離れてスタートを待っていた。
号砲が鳴って全員が一斉にスタートを切ったものの、団子状態になっている。
私とマイクはその後をついて行くように一番外側のコースを並んでゆっくりと走った。
一周が400トランのトラックを25周で10セトラン、50周で20セトラン、私たちは75周しなければならない長丁場である。
コースを一周すると集団がかなりばらけてコースの外側はかなり空いた状況になる。
私とマイクはスピードを上げた。
そうして3周目には当然の様にトップを走っていた。
コースにはどうしても内側に人が集まるので、私たちはコースの中央付近をずっと走るように心がけた。
それだけ走る距離が伸びてしまうのだが、いずれ追い抜くときにコースを変える必要もない。
5週目には周回遅れの人を追い抜いていた。
彼らは遠慮して第一コースを避けて第二コースを走っているのだが、私たちは更に外側を追い抜いて行く。
コースの周回数は自動で記録され、ゴールラインを通過すると付近の電光掲示板に表示される。
従って自分の周回数を間違えることもないし、同時に途中タイムも計時される。
最初の一周では90秒以上もかかったものの、二周目以降は概ね70秒以内で周回しており、順調な滑り出しである。
15周目には多分私達二人を除く出場者全員を周回遅れにしていたはずである。
その後もいつものペースで走る二人で有り、25周目には私達の通過タイム28分35.8秒に赤い点滅が入っていた。
臨時に設けられていた記者席から歓声が上がり、まばらな観客からも拍手が届いていた。
10セトラン出場者はおよそ半数で、その人たちがゴールするとコースは大分空いてくる。
それでも私達はコースの中央付近4コースと5コースを維持していた。
50周目、再度私達の通過タイム55分43.6秒に赤い点滅が入った。
記者席の動きが急に慌ただしくなったように思えた。
殆どの競技が終了して残りは長距離走だけなのであるが、今日の参加者たちは全員が客席に集まってレースの行方を見守っていた。
そうして74周目に入るとまばらな観客も、レースが始まる前よりかなり多くなったマスコミも総立ちになっていたのがわかった。
私達が75周目を終えた時タイムは1時間22分55.4秒であった。
私達はクールダウンのためにスピードを落として更に2周を回って、フィールドで整理体操を始めた。
マスコミ関係者が一斉にそのフィールド目がけて走り寄って来た。
第一声が、世界記録なんですけれどご感想はといきなり私に集音マイクを突き付けてきた。
その後は喧騒に包まれたが、私たちは終始無言で整理体操を続けた。
きっちりとクールダウンして、客席においてあるバッグからタオルをとって汗をぬぐい、水を飲んでから周囲のマスコミに向かって言った。
「あの、・・・。
私達にとっては毎日のジョギングの延長なんです。
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