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第五章 催事と出来事
5-5 マルス ~大津波
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翌日から公爵夫妻が先頭に立って、避難計画とそれに合わせた準備を始めたのであるが、中でも公爵夫人の力の入れようは周囲が驚くばかりであった。
アマンダは確実に津波が到来することを承知の上で準備を進めているのだから、気の入れようが全く違う。
マルビスの住民を収容した場合の色々な不都合ができるだけ軽減できるように差配を進めたのである。
港の倉庫に保管してある品はその全てを館の敷地内に運び入れ始めた。
そのために急ぎ普請で木造の簡単な倉庫も造らせた。
庭園とその先に続く高台の城壁の外にも四阿が多数建てられ始めた。
四阿に壁は無いが取り敢えず板張りの床が設けられ、必要に応じて板壁も取り付けられるように工夫してある。
そうして各長が館に呼ばれ、綿密な避難計画を明かされた。
あくまで津波の避難訓練であるものの、住民全てに周知することが肝要だった。
実際の訓練の実行日は追って知らせることになっており、その連絡系統もそれぞれの長の責任で決められた。
マルスがマルビスに滞在を始めて18日目、楽師団の団員が多数マルビスを訪れた。
赤の楽師団のみならず、5つの楽師団全てからなにがしかの団員が参加していた。
総勢で80名もの楽師がマルビスに集まったのは初めての事であった。
楽師団の長の申し入れで一切の宴は辞退された。
彼らはひたすらにマルスとアンリの演奏を聴きにやってきただけであった。
演奏は彼らがマルビスを訪れた翌日の午前中に行われた。
館の大広間に椅子を置き、そこが演奏会場になったのである。
マルスとアンリは前日に相談し、7曲の演奏を行うことにした。
三つはモルゼックの重奏であり、4つはモルゼックとサリューズの競演であった。
楽師達は演奏に聞き入り、見事な演奏にのめり込んで歓喜し、とめどもなく涙を流した。
お昼までに終わった演奏の後、団員の一人一人が感謝の言葉を述べ、丁重に別れを告げてマルビスを去って行った。
◇◇◇◇
大地の精霊グラスマンから警告を受けてから14日目、再びグラスマンが現れた。
「三日後の正午頃地震が起きるよ。
地震が起きてから1時間後には最初の津波が押し寄せてくるだろう。
津波は第4波までが大きく、中でも第2波が最大だろう。
第5波以降はさほどでもないが、それでも注意は必要だ。
港の中に船がいると被害を拡大させるから湾口を抜けて外海に避難させておいた方がいい。
水深が百尋もあれば外海での津波は単なるうねりと一緒だから船の方は大丈夫だろう。」
「ありがとう。
住民に成り代わってお礼を申し上げる。
こんな津波はまた起きるのかな。」
グラスマンは笑った。
「可能性は何時でもあるよ。
だが、今度の地震が過去千年の間では二番目の規模だ。
一番目は140年ほど前の津波が起きた際のものだよ。
だからそうそう起きるものじゃないことは保証してあげよう。」
グラスマンはそう言って消え去ったのである。
予定が決まった。
その日、館から伝令が各長の元へ走った。
避難訓練は三日後であり、当日はできるだけ仕事を休んで避難訓練の準備をするようにとの連絡であった。
その命令は人伝に住民の末端まで浸透していた。
それとは別に、マルスは各大陸沿岸部の住民に不安の啓示を出した。
ある者は夢でお告げを聞き、ある者は何となく歴史にある津波の言い伝えを思い出していた。
人々の不安を掻き立てることで、地震が起きた時に反応しやすいようにしただけである。
マルビスの市民も当然にその啓示を受けていた。
港に停泊していた全ての商船と軍船は前の日から準備を整えており、当日の早朝、次々と湾口を出て沖合に出て行った。
軍船は公爵の指示によりできるだけの小舟を曳いて外海に出て行った。
少なくとも明日までは入港してはならないと言うのが公爵の指示であった。
正午にもう少しという時点で小さな大地の振動があり、敏感な者は大地の縦揺れを感じた。
それからしばらく空いて今度はゆっくりとした横揺れが感じられた。
テーブルの上の物が落ちたりもせず、乱雑に積み上げた書物が崩れるようなことも無い極々ささやかな揺れだった。
だが、すぐにマルビスの市民は館の大鐘が鳴り出したことに気づいた。
地震が感じられた直後でもあり、不安に駆られながら海の方を見たが津波の兆候はどこにもなかった。
だが領主の命により予め決められた避難を開始しなければならなかった。
前日から準備を終えていた住民は食料を携え、大事な物を抱えて続々と館へと向かった。
大勢の人が大通りの坂道を群がるように黙々と上っていた。
大鐘が鳴り始めて1時間後坂道の上にはまばらに人がいるだけであったが、それでも足の不自由な人などの避難が遅れていた。
マルスはモリソンと数人の騎士を連れて、その人たちを手助けに行った。
その時湾内の海水の水位が一旦目に見えて下がった。
それから程なくして湾口から大波が襲ってくるのが見えた。
不安が現実の恐怖となり、悲鳴を上げて坂道に残っていた人が館めがけて一斉に走り出した。
背後には高い海水の壁が迫っていた。
マルス達のいる処は坂道でも比較的高いところである。
そこがある意味で避難民が最低限度達していなければならない境界でもあった。
140年前の津波はその近辺まで押し寄せたことがわかっているのである。
だが最後尾で荷を一杯に持った一人の男の足取りは重かった。
マルスは男に向かって大声で怒鳴った。
「荷を捨てて逃げろ。
津波が迫っている。」
その声で背後を振り返った者が真っ青になり、すぐに荷物を大部分放り出して駆け上ってきた。
その男がマルス達の脇を駆け抜けると同時に波が先ほどまで男の居た場所に押し寄せた。
マルス達も危険を避けるためにそこから引き揚げた。
波はマルス達が立っていた場所付近にまで駆け上がってようやく引いて行った。
館の入り口前のところには大勢の人が津波の襲来を見守っていた。
中には泣き叫びながら町が津波に覆われて行く様を見ているものがいるし、呆けたように立ちすくんでいる者もいた。
木造の家は家ごと押し流され周囲の家を押し流しながら自らもバラバラに崩壊していた。
恐ろしい光景であり、自然の猛威の前に自分達が何もできないという情けない思いが人々を落胆させていた。
マルスは言葉を荒げて言った。
「津波はまだやってくる。
できるだけ奥の高台に避難しなさい。」
肩を落としながら大勢の人々がその言葉に従った。
その後も大きな津波が数度押し寄せ、マルビスの街を破壊しつくしていた。
夕刻になってようやく襲来する津波の規模は小さくなり、海岸に大きな波は来ても家を押し流すようなことは無くなった。
もっとも海岸部に面した場所で押し流せるような建造物はほとんど残っていなかった。
石造りの家でさえも大量の瓦礫の衝突と大津波の圧力に耐え切れずに破壊されていたものがあるからである。
大量の避難民は、館の庭園の中だけでは到底納まりきれず、城壁の外へも溢れていた。
彼らにとって四阿は何よりの休息場所になった。
予め設けられた石造りの仮設炊事場で若い女達が手分けして炊き出しを始め、男たちは薪を切り出しに、或いは清水を汲みに出かけた。
この分では暫く野宿をしなければならないからであり、誰もが協力しあわねばならない状況であることを自覚していた。
公爵からは翌日の夜明けまで街に戻ることは固く禁じられていたのである。
そのために数十年来閉じられることのなかった海に面した館の大門がその日の日没をもって閉じられた。
夕焼けに染まったマルビスの街並みは無残な姿に変わり果てていた。
予測通り街の半分が津波の襲来で破壊されていた。
石造りの家でさえ港に近い場所では破壊されていた。
まともに津波の来襲を受けた低い場所では、残っているのは土台だけと言う家がほとんどなのである。
多くの瓦礫が残されたが、同時に港内には多くの木材などの漂流物が残されていた。
避難の対象から外されていた小舟はあちらこちらで破壊され、家の中に突っ込み、あるいは小高い丘の上にまで到達していた。
二度目の大津波は海面から実に14尋の高さにまで押し寄せていたのである。
公爵はマルビスに大津波が襲来し、街の半分以上を瓦礫に変えたが、住民は全員が事前に避難しており人的被害は無いこと、海軍の大型艦は避難訓練のために沖合にあって全船無事であることを第一報として知らせるべく陽が高いうちに伝令を王都に向かわせた。
一夜明けて大勢の人々が街並みの有った場所に降りて、瓦礫を片づけ始めた。
高台に有って被害を免れた家の住民も総出で瓦礫の後片付けに結束して働いた。
その中にマルスと公爵一家の姿もあった。
瓦礫の木材は一か所に集められ、使える材料は別としても、残りのほとんどが薪にされて冬場に利用されることになった。
そのために数か所が廃材置き場として決められ、全く再利用の目途が立たないごみとは区別されて仕分けされたのである。
公爵家から王都へ大津波による被害を知らせる第二報の急使もその日の明け方に送り出されていた。
内容は第一報とさほど変わらないが、現状を伝えることが大事だったのである。
マルビス以外の地域の海岸領主二か所からも被害状況が王都に知らされたが、マルビス以外の地域では死者もかなり出ていた。
だが140年前の大津波に比べると死者の数は大幅に少ないものだった。
地震の揺れと同時に多くの者が最寄りの山へ逃げ込んでいたからである。
死者の多くは津波の第一波が引いた後に家を見に行って第二波に襲われて死亡した者であった。
マルビス以外の領主が第二波の危険を周知警告していなかった故の災危であった。
王家からはすぐに故事にならって可能な支援を各領主に命じたのである。
バルディアス各領主からの支援は大津波発生の三日目になってようやく被災地に届き始めていた。
マルビス以外の地域では避難準備などはしていなかったために食料さえもなくなりかけていたが、支援が届き始めたことでようやく先行きに見通しがつくようになっていた。
マルビスでは、復興が家造りから始められた。
これまでの港寄りの街ではなく、その多くは城壁の外の高台に造られた。
マルビスは間もなく夏場が終わり秋を迎える。
マルスは石造りの家を建設するには手間暇がかかって冬場に間に合わないと判断していた。
アマンダは確実に津波が到来することを承知の上で準備を進めているのだから、気の入れようが全く違う。
マルビスの住民を収容した場合の色々な不都合ができるだけ軽減できるように差配を進めたのである。
港の倉庫に保管してある品はその全てを館の敷地内に運び入れ始めた。
そのために急ぎ普請で木造の簡単な倉庫も造らせた。
庭園とその先に続く高台の城壁の外にも四阿が多数建てられ始めた。
四阿に壁は無いが取り敢えず板張りの床が設けられ、必要に応じて板壁も取り付けられるように工夫してある。
そうして各長が館に呼ばれ、綿密な避難計画を明かされた。
あくまで津波の避難訓練であるものの、住民全てに周知することが肝要だった。
実際の訓練の実行日は追って知らせることになっており、その連絡系統もそれぞれの長の責任で決められた。
マルスがマルビスに滞在を始めて18日目、楽師団の団員が多数マルビスを訪れた。
赤の楽師団のみならず、5つの楽師団全てからなにがしかの団員が参加していた。
総勢で80名もの楽師がマルビスに集まったのは初めての事であった。
楽師団の長の申し入れで一切の宴は辞退された。
彼らはひたすらにマルスとアンリの演奏を聴きにやってきただけであった。
演奏は彼らがマルビスを訪れた翌日の午前中に行われた。
館の大広間に椅子を置き、そこが演奏会場になったのである。
マルスとアンリは前日に相談し、7曲の演奏を行うことにした。
三つはモルゼックの重奏であり、4つはモルゼックとサリューズの競演であった。
楽師達は演奏に聞き入り、見事な演奏にのめり込んで歓喜し、とめどもなく涙を流した。
お昼までに終わった演奏の後、団員の一人一人が感謝の言葉を述べ、丁重に別れを告げてマルビスを去って行った。
◇◇◇◇
大地の精霊グラスマンから警告を受けてから14日目、再びグラスマンが現れた。
「三日後の正午頃地震が起きるよ。
地震が起きてから1時間後には最初の津波が押し寄せてくるだろう。
津波は第4波までが大きく、中でも第2波が最大だろう。
第5波以降はさほどでもないが、それでも注意は必要だ。
港の中に船がいると被害を拡大させるから湾口を抜けて外海に避難させておいた方がいい。
水深が百尋もあれば外海での津波は単なるうねりと一緒だから船の方は大丈夫だろう。」
「ありがとう。
住民に成り代わってお礼を申し上げる。
こんな津波はまた起きるのかな。」
グラスマンは笑った。
「可能性は何時でもあるよ。
だが、今度の地震が過去千年の間では二番目の規模だ。
一番目は140年ほど前の津波が起きた際のものだよ。
だからそうそう起きるものじゃないことは保証してあげよう。」
グラスマンはそう言って消え去ったのである。
予定が決まった。
その日、館から伝令が各長の元へ走った。
避難訓練は三日後であり、当日はできるだけ仕事を休んで避難訓練の準備をするようにとの連絡であった。
その命令は人伝に住民の末端まで浸透していた。
それとは別に、マルスは各大陸沿岸部の住民に不安の啓示を出した。
ある者は夢でお告げを聞き、ある者は何となく歴史にある津波の言い伝えを思い出していた。
人々の不安を掻き立てることで、地震が起きた時に反応しやすいようにしただけである。
マルビスの市民も当然にその啓示を受けていた。
港に停泊していた全ての商船と軍船は前の日から準備を整えており、当日の早朝、次々と湾口を出て沖合に出て行った。
軍船は公爵の指示によりできるだけの小舟を曳いて外海に出て行った。
少なくとも明日までは入港してはならないと言うのが公爵の指示であった。
正午にもう少しという時点で小さな大地の振動があり、敏感な者は大地の縦揺れを感じた。
それからしばらく空いて今度はゆっくりとした横揺れが感じられた。
テーブルの上の物が落ちたりもせず、乱雑に積み上げた書物が崩れるようなことも無い極々ささやかな揺れだった。
だが、すぐにマルビスの市民は館の大鐘が鳴り出したことに気づいた。
地震が感じられた直後でもあり、不安に駆られながら海の方を見たが津波の兆候はどこにもなかった。
だが領主の命により予め決められた避難を開始しなければならなかった。
前日から準備を終えていた住民は食料を携え、大事な物を抱えて続々と館へと向かった。
大勢の人が大通りの坂道を群がるように黙々と上っていた。
大鐘が鳴り始めて1時間後坂道の上にはまばらに人がいるだけであったが、それでも足の不自由な人などの避難が遅れていた。
マルスはモリソンと数人の騎士を連れて、その人たちを手助けに行った。
その時湾内の海水の水位が一旦目に見えて下がった。
それから程なくして湾口から大波が襲ってくるのが見えた。
不安が現実の恐怖となり、悲鳴を上げて坂道に残っていた人が館めがけて一斉に走り出した。
背後には高い海水の壁が迫っていた。
マルス達のいる処は坂道でも比較的高いところである。
そこがある意味で避難民が最低限度達していなければならない境界でもあった。
140年前の津波はその近辺まで押し寄せたことがわかっているのである。
だが最後尾で荷を一杯に持った一人の男の足取りは重かった。
マルスは男に向かって大声で怒鳴った。
「荷を捨てて逃げろ。
津波が迫っている。」
その声で背後を振り返った者が真っ青になり、すぐに荷物を大部分放り出して駆け上ってきた。
その男がマルス達の脇を駆け抜けると同時に波が先ほどまで男の居た場所に押し寄せた。
マルス達も危険を避けるためにそこから引き揚げた。
波はマルス達が立っていた場所付近にまで駆け上がってようやく引いて行った。
館の入り口前のところには大勢の人が津波の襲来を見守っていた。
中には泣き叫びながら町が津波に覆われて行く様を見ているものがいるし、呆けたように立ちすくんでいる者もいた。
木造の家は家ごと押し流され周囲の家を押し流しながら自らもバラバラに崩壊していた。
恐ろしい光景であり、自然の猛威の前に自分達が何もできないという情けない思いが人々を落胆させていた。
マルスは言葉を荒げて言った。
「津波はまだやってくる。
できるだけ奥の高台に避難しなさい。」
肩を落としながら大勢の人々がその言葉に従った。
その後も大きな津波が数度押し寄せ、マルビスの街を破壊しつくしていた。
夕刻になってようやく襲来する津波の規模は小さくなり、海岸に大きな波は来ても家を押し流すようなことは無くなった。
もっとも海岸部に面した場所で押し流せるような建造物はほとんど残っていなかった。
石造りの家でさえも大量の瓦礫の衝突と大津波の圧力に耐え切れずに破壊されていたものがあるからである。
大量の避難民は、館の庭園の中だけでは到底納まりきれず、城壁の外へも溢れていた。
彼らにとって四阿は何よりの休息場所になった。
予め設けられた石造りの仮設炊事場で若い女達が手分けして炊き出しを始め、男たちは薪を切り出しに、或いは清水を汲みに出かけた。
この分では暫く野宿をしなければならないからであり、誰もが協力しあわねばならない状況であることを自覚していた。
公爵からは翌日の夜明けまで街に戻ることは固く禁じられていたのである。
そのために数十年来閉じられることのなかった海に面した館の大門がその日の日没をもって閉じられた。
夕焼けに染まったマルビスの街並みは無残な姿に変わり果てていた。
予測通り街の半分が津波の襲来で破壊されていた。
石造りの家でさえ港に近い場所では破壊されていた。
まともに津波の来襲を受けた低い場所では、残っているのは土台だけと言う家がほとんどなのである。
多くの瓦礫が残されたが、同時に港内には多くの木材などの漂流物が残されていた。
避難の対象から外されていた小舟はあちらこちらで破壊され、家の中に突っ込み、あるいは小高い丘の上にまで到達していた。
二度目の大津波は海面から実に14尋の高さにまで押し寄せていたのである。
公爵はマルビスに大津波が襲来し、街の半分以上を瓦礫に変えたが、住民は全員が事前に避難しており人的被害は無いこと、海軍の大型艦は避難訓練のために沖合にあって全船無事であることを第一報として知らせるべく陽が高いうちに伝令を王都に向かわせた。
一夜明けて大勢の人々が街並みの有った場所に降りて、瓦礫を片づけ始めた。
高台に有って被害を免れた家の住民も総出で瓦礫の後片付けに結束して働いた。
その中にマルスと公爵一家の姿もあった。
瓦礫の木材は一か所に集められ、使える材料は別としても、残りのほとんどが薪にされて冬場に利用されることになった。
そのために数か所が廃材置き場として決められ、全く再利用の目途が立たないごみとは区別されて仕分けされたのである。
公爵家から王都へ大津波による被害を知らせる第二報の急使もその日の明け方に送り出されていた。
内容は第一報とさほど変わらないが、現状を伝えることが大事だったのである。
マルビス以外の地域の海岸領主二か所からも被害状況が王都に知らされたが、マルビス以外の地域では死者もかなり出ていた。
だが140年前の大津波に比べると死者の数は大幅に少ないものだった。
地震の揺れと同時に多くの者が最寄りの山へ逃げ込んでいたからである。
死者の多くは津波の第一波が引いた後に家を見に行って第二波に襲われて死亡した者であった。
マルビス以外の領主が第二波の危険を周知警告していなかった故の災危であった。
王家からはすぐに故事にならって可能な支援を各領主に命じたのである。
バルディアス各領主からの支援は大津波発生の三日目になってようやく被災地に届き始めていた。
マルビス以外の地域では避難準備などはしていなかったために食料さえもなくなりかけていたが、支援が届き始めたことでようやく先行きに見通しがつくようになっていた。
マルビスでは、復興が家造りから始められた。
これまでの港寄りの街ではなく、その多くは城壁の外の高台に造られた。
マルビスは間もなく夏場が終わり秋を迎える。
マルスは石造りの家を建設するには手間暇がかかって冬場に間に合わないと判断していた。
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