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第二章 それぞれの出会い
2-20 アリス ~キティホークでの催事 その五(ダイアンとエスター)
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一人はディリー・プラネットの副社長エスター・バレンツであり、今一人は服飾デザイナーのダイアン・メズローである。
二人は顔見知りではあるが、会場の両端にそれぞれ位置しており、互いの目論見は異なっていた。
エスターはこの若い二人の記事となるべきネタを集めていたし、ダイアンは二人の動きをモデルとして見つめていた。
無論モデルとして使えるかどうかの吟味である。
マスクと容姿はモデルの大事な要件ではあるが、それ以上に人を惹きつけるだけの動きができるかどうかが大事であった。
演奏会での二人の動きはさほどないから判らなかった。
毎日午前中に運動をしている二人を見て体力的には十分と見ていた。
そこへ、このダンス大会への参加である。
ダンスは二人の足さばきを見るのに格好の機会であった。
この二人がダンスホールへ足を運ぶのは初めての様だ。
ダンスホール担当のボーイにも確認したし、実のところアシスタントの一人を二人に張り付けて、密かにビデオに撮らせていたから二人がダンスの稽古など一度もしていないのは知っている。
尤も、アリスの部屋なり、マイクの部屋なりに入ってからの事は判らない。
だからダンス大会出場者の名簿の中に二人の名を見た時は信じられなかった。
社交ダンスは実際のところかなり経験があっても難しいものである。
特にパートナーと余程気が合っていないと大会で入賞を狙うのは無理である。
気が合うと言っても恋愛ではないダンスパートナーとしての相性である。
こればかりは実際に踊ってみないとわからないものである。
従ってダンス大会での優勝者は概ね夫婦ものが多い。
しかも連れ添って15年から20年の夫婦が最も円熟したダンスを踊る。
たまたま夕食の席で一緒になった折に二人を冷やかしたところ、マイクとアリスはこの船で初めて知り合ったと聞いている。
マイクとアリスが仮にダンスの名手であったにしろ、一日4時間の稽古を3カ月続けてようやくものになるかどうかである。
だから、当然冷やかしとは思ったものの、二人の動きを見るのには絶好の機会なので、ダイアンも観客を装って会場に足を運んだのだ。
若い二人のダンスは見事であった。
二人の動きが見事にマッチしていた。
ダイアンはダンスについては殆ど素人ではあるものの、上手いか上手くないかぐらいは何となくわかる。
水が流れるがごとく自然な動きと、何かの拍子にミスが有って不自然な動きが含まれた場合の違いは歴然としているし、最初から動きがぎすぎすとしているのは論外である。
最初のシルツから若い二人は目立っていた。
何処にも無理のない自然な動きとシルツ特有の優雅さが彼らから匂い立っていた。
他にも上手な人たちはいたのだが、それらと比較しても目立つのであり、二人の動きに惹き付けられるのである。
そうして次々に落伍して行くカップルを尻目に、最後まで残って優勝したのには全くの驚きではあったものの、終わってみれば当然とも言える結果であった。
彼らの踊りに匹敵する者がいなかったのは明らかである。
ダイアンは二人のダンスから間違いなくモデルとしても超Aクラスと確信していた。
問題はどうやって二人にモデルをさせるかである。
アリスは一等船客、マイクは特一等船客であるから、金で釣っても意味は無いと思っている。
ダイアンは部屋に戻る途中、色々と策を考えてみたが、いい案は出て来なかった。
一方のエスターは、メィビスとアルタミル双方の情報網を使って二人の個人情報を集めさせていた。
本社から記事の反響が非常に大きいので、もしあるならば続報をという依頼が編集局長から寄せられたからである。
キティホークに乗船中の者はエスターしかいないので、部下である編集局長も上司にお願いするしかなかった。
報道局長からの私信では、特に音楽関係者が異様なほどに二人に関心を寄せているとのことだった。
アリスの情報はアルタミルからしか得られなかった。
マイクの情報はアルタミルとメィビスの両方から集まった。
アリスはアルタミルのパーカー学院大学部を僅かに17歳で卒業した才媛である。
修士課程に1年半在籍したものの、マクバニー社生化学研究所副所長であった母エイミーが航空機事故で死亡したために、住まいが無くなり、アルタミルを転出するに至ったようである。
当該航空機事故はマクバニー社の航空部門の不祥事であり、500名を超える乗客乗員には相当額の損害賠償額が支払われたようである。
理由は簡単である。
仮に被害者遺族との間で損害賠償の訴訟が起きたならば、マクバニー本社にまで影響が及ぼすことにもなりかねないので、会社のお抱え弁護士が通常の倍額の慰謝料を提示して被害者遺族を黙らせたという噂が流れていた。
当該事故は明らかに整備不良と判明している事故なので会社責任を追及されると過去の判例では親会社を含む会社総資産の3割程度まで賠償しなければならないとする事例が有ったからである。
このために500人以上の乗員乗客全てに慰謝料として3000万ルーブ、それぞれの収入に応じてその300か月分をマックスとして損害賠償額を上乗せしたらしい。
この計算では月収2万5千ルーブの22歳のウェイトレスですら3750万ルーブの補償額になる。
アリスの母がいくら貰っていたかは知らないが、研究所の副所長という肩書からしておそらく20万ルーブは下らないだろう。
エイミーの44歳は働き盛りであり、間違いなく後20年は高収入を得られたはずである。
従って少なくともそれだけで5000万ルーブほどは上乗せになる筈である。
おそらくアリスが1億近い金額を手に入れたであろうことは推測がついていた。
マイクの方もメィビスからサビナス大学のディラ生であるというとんでもない情報が入ってきて、そのすぐ後にアルタミル支局からマイクが超ウラン元素であるウノレジリウムをアルタミル小惑星帯で採掘し、公営の交易所で100兆ルーブを超える金額で売却したことが判明したと通報があった。
それが事実ならば連合圏内の年末の長者番付で間違いなくトップを飾るだろう。
長者番付は高額納税者の番付であり所謂所得とは異なる。
しかしながら高額納税者はその納税額に応じた所得を得たのであるから間違いなく高所得者番付には違いないのである。
昨年のトップは、9億ルーブ超の納税で企業惑星デンダスの新会長ヒーブリック二世であった。
彼の場合、所得と亡くなったヒーブリック一世の相続税が加わって9億ルーブもの税金を支払ったのである。
だがマイクの納税額は40兆ルーブを超えるはずであり、二位以下を大きく引き離してトップになる筈である。
一昨年までの高額納税者は、5億ルーブを越えてはいなかったのであり、ヒーブリック二世とて相続財産が無ければそれほどの納税にはならなかったはずなのである。
いずれにしろ男女二人の億万長者は三面記事を飾るにもってこいの人物となるだろう。
そうした三流記者が押しかける前に情報を集めておこうと考えたエスターであった。
エスターは、アルタミルのカインズ・ハイスクール吹奏楽部との交流も最初から見ていた。
少しは上手だったかも知れないブラスバンドが、あれよ、あれよという間に見事な演奏をするようになるのを目の前で見て心底驚いたものである。
カインズ・ハイスクールの演奏は乗船して二日目に聴き、大したものではないと踏んでいた。
この程度の演奏ができるハイスクールならばメィビスには間違いなく片手以上もいる。
ヤノシア方面全部のハイスクールならば一把一絡げの部類で入賞も無理だろうと思われたからである。
だが二人の若い男女が稽古の指導に入って三日目にはまとまりを見せ始め、以後は日々上達して行くのが素人のエスターにも明確に判ったのである。
1週間後には括目するほど素晴らしい演奏が聞こえた。
エスター自身は、音楽には左程の造詣が有るわけでもないから、明確には言い切れない。
メィビス到着後3日目にヤノシア方面コンテストがあるから、その結果如何ではまたまたマイクとアリスの話が紙面を飾ることになるだろう。
そうして、今日のダンス・コンテストは実にハイレベルの競技だったと思うのである。
最後まで残ったもう一組はエスターも良く知っている。
クレアラス中心街でダンス教室を営むバッケス夫妻である。
バッケス夫妻はクレアラスでは常勝組であり、よもやこのキティホークで若いアベックに敗れるなど思いもかけなかったに違いない。
エスターも若い時分に社交ダンスに凝った口であるからその機微もそこそこわかっている。
従ってマイクとアリスが見せた動きには心底驚いたものである。
尋常の上手さではない。
あれならば連合圏内はおろか教会連邦や共産同盟との親善大会ですら優勝するかもしれないと思えた。
5年に一度、人類社会がこぞって開催する大会がある。
スポーツ、音楽などの他に社交ダンスの競技会もあるのである。
ビルブレン、ブーラ、ディフィビアの各宙域を順繰りに開催地を替えて行うイベントであり、来年はディフィビア、しかもメィビスで開催される予定である。
無論、ギデオン帝国を含む中間勢力からの参加も回数を重ねるごとに増加している。
この大会だけは仮に戦時中であっても途切れたことの無い平和の祭典でもあった。
過去2百数十年の歴史の中で二大勢力或いは三大勢力が戦闘中或いは紛争中にもかかわらず、大会が開催される50日間とその前後二カ月の間は停戦が行われたことが実際に三度もあるのである。
実質半年ほどの停戦で戦争や紛争が収まったのは二度もあり、正しく平和の祭典に相応しいイベントである。
エスターは、マイクとアリスのペアならば音楽の演奏部門かダンス部門で上位を狙えるのではないかと考えているのである。
今年から来年春にかけてはその前哨戦があり、各宙域で予選会が開催されることになっている。
メィビスでも二か月後から各種予選会が始まることになっている。
ハイスクール部門のヤノシア方面吹奏楽コンテストもその一環ではある。
ここで上位三位にまで食い込むと、来年初頭に開催されるディフィビア連合の予選会出場権が得られるのである。
予選会には各方面宙域から選抜された36チームが集い、その中から上位7チームが平和の祭典であるブラビアンカに参加できることになる。
各星の地区大会、方面宙域大会、連合大会と3回の予選を潜り抜けなければならないのだから非常に狭き門と言えるだろう。
バッケス夫妻も前回のブラビアンカに参加、5位までの入賞枠に僅かに届かず7位に終わっている。
従って今回こそはと狙っていた筈であろうが、新たなライバルの出現に内心は戦々恐々としているかもしれない。
エスターは、事務長に頼んで船内で収録しているビデオのコピーを頼むつもりである。
ケイシー・ドグマンとの共演、ダンス・コンテストの模様の二つである。
ブラスバンドの稽古模様については自分のビデオに収めている。
それらは社に戻ってから映像関係者の専門家を交えて編集し、必要に応じて今後の報道に使うつもりである。
ディリー・プラネットは文字情報だけではなく画像情報をも扱っているのである。
エスターは、少なくとも数人によるチームを編成して、この若きカップルの行動を追いかけるつもりでいた。
二人は顔見知りではあるが、会場の両端にそれぞれ位置しており、互いの目論見は異なっていた。
エスターはこの若い二人の記事となるべきネタを集めていたし、ダイアンは二人の動きをモデルとして見つめていた。
無論モデルとして使えるかどうかの吟味である。
マスクと容姿はモデルの大事な要件ではあるが、それ以上に人を惹きつけるだけの動きができるかどうかが大事であった。
演奏会での二人の動きはさほどないから判らなかった。
毎日午前中に運動をしている二人を見て体力的には十分と見ていた。
そこへ、このダンス大会への参加である。
ダンスは二人の足さばきを見るのに格好の機会であった。
この二人がダンスホールへ足を運ぶのは初めての様だ。
ダンスホール担当のボーイにも確認したし、実のところアシスタントの一人を二人に張り付けて、密かにビデオに撮らせていたから二人がダンスの稽古など一度もしていないのは知っている。
尤も、アリスの部屋なり、マイクの部屋なりに入ってからの事は判らない。
だからダンス大会出場者の名簿の中に二人の名を見た時は信じられなかった。
社交ダンスは実際のところかなり経験があっても難しいものである。
特にパートナーと余程気が合っていないと大会で入賞を狙うのは無理である。
気が合うと言っても恋愛ではないダンスパートナーとしての相性である。
こればかりは実際に踊ってみないとわからないものである。
従ってダンス大会での優勝者は概ね夫婦ものが多い。
しかも連れ添って15年から20年の夫婦が最も円熟したダンスを踊る。
たまたま夕食の席で一緒になった折に二人を冷やかしたところ、マイクとアリスはこの船で初めて知り合ったと聞いている。
マイクとアリスが仮にダンスの名手であったにしろ、一日4時間の稽古を3カ月続けてようやくものになるかどうかである。
だから、当然冷やかしとは思ったものの、二人の動きを見るのには絶好の機会なので、ダイアンも観客を装って会場に足を運んだのだ。
若い二人のダンスは見事であった。
二人の動きが見事にマッチしていた。
ダイアンはダンスについては殆ど素人ではあるものの、上手いか上手くないかぐらいは何となくわかる。
水が流れるがごとく自然な動きと、何かの拍子にミスが有って不自然な動きが含まれた場合の違いは歴然としているし、最初から動きがぎすぎすとしているのは論外である。
最初のシルツから若い二人は目立っていた。
何処にも無理のない自然な動きとシルツ特有の優雅さが彼らから匂い立っていた。
他にも上手な人たちはいたのだが、それらと比較しても目立つのであり、二人の動きに惹き付けられるのである。
そうして次々に落伍して行くカップルを尻目に、最後まで残って優勝したのには全くの驚きではあったものの、終わってみれば当然とも言える結果であった。
彼らの踊りに匹敵する者がいなかったのは明らかである。
ダイアンは二人のダンスから間違いなくモデルとしても超Aクラスと確信していた。
問題はどうやって二人にモデルをさせるかである。
アリスは一等船客、マイクは特一等船客であるから、金で釣っても意味は無いと思っている。
ダイアンは部屋に戻る途中、色々と策を考えてみたが、いい案は出て来なかった。
一方のエスターは、メィビスとアルタミル双方の情報網を使って二人の個人情報を集めさせていた。
本社から記事の反響が非常に大きいので、もしあるならば続報をという依頼が編集局長から寄せられたからである。
キティホークに乗船中の者はエスターしかいないので、部下である編集局長も上司にお願いするしかなかった。
報道局長からの私信では、特に音楽関係者が異様なほどに二人に関心を寄せているとのことだった。
アリスの情報はアルタミルからしか得られなかった。
マイクの情報はアルタミルとメィビスの両方から集まった。
アリスはアルタミルのパーカー学院大学部を僅かに17歳で卒業した才媛である。
修士課程に1年半在籍したものの、マクバニー社生化学研究所副所長であった母エイミーが航空機事故で死亡したために、住まいが無くなり、アルタミルを転出するに至ったようである。
当該航空機事故はマクバニー社の航空部門の不祥事であり、500名を超える乗客乗員には相当額の損害賠償額が支払われたようである。
理由は簡単である。
仮に被害者遺族との間で損害賠償の訴訟が起きたならば、マクバニー本社にまで影響が及ぼすことにもなりかねないので、会社のお抱え弁護士が通常の倍額の慰謝料を提示して被害者遺族を黙らせたという噂が流れていた。
当該事故は明らかに整備不良と判明している事故なので会社責任を追及されると過去の判例では親会社を含む会社総資産の3割程度まで賠償しなければならないとする事例が有ったからである。
このために500人以上の乗員乗客全てに慰謝料として3000万ルーブ、それぞれの収入に応じてその300か月分をマックスとして損害賠償額を上乗せしたらしい。
この計算では月収2万5千ルーブの22歳のウェイトレスですら3750万ルーブの補償額になる。
アリスの母がいくら貰っていたかは知らないが、研究所の副所長という肩書からしておそらく20万ルーブは下らないだろう。
エイミーの44歳は働き盛りであり、間違いなく後20年は高収入を得られたはずである。
従って少なくともそれだけで5000万ルーブほどは上乗せになる筈である。
おそらくアリスが1億近い金額を手に入れたであろうことは推測がついていた。
マイクの方もメィビスからサビナス大学のディラ生であるというとんでもない情報が入ってきて、そのすぐ後にアルタミル支局からマイクが超ウラン元素であるウノレジリウムをアルタミル小惑星帯で採掘し、公営の交易所で100兆ルーブを超える金額で売却したことが判明したと通報があった。
それが事実ならば連合圏内の年末の長者番付で間違いなくトップを飾るだろう。
長者番付は高額納税者の番付であり所謂所得とは異なる。
しかしながら高額納税者はその納税額に応じた所得を得たのであるから間違いなく高所得者番付には違いないのである。
昨年のトップは、9億ルーブ超の納税で企業惑星デンダスの新会長ヒーブリック二世であった。
彼の場合、所得と亡くなったヒーブリック一世の相続税が加わって9億ルーブもの税金を支払ったのである。
だがマイクの納税額は40兆ルーブを超えるはずであり、二位以下を大きく引き離してトップになる筈である。
一昨年までの高額納税者は、5億ルーブを越えてはいなかったのであり、ヒーブリック二世とて相続財産が無ければそれほどの納税にはならなかったはずなのである。
いずれにしろ男女二人の億万長者は三面記事を飾るにもってこいの人物となるだろう。
そうした三流記者が押しかける前に情報を集めておこうと考えたエスターであった。
エスターは、アルタミルのカインズ・ハイスクール吹奏楽部との交流も最初から見ていた。
少しは上手だったかも知れないブラスバンドが、あれよ、あれよという間に見事な演奏をするようになるのを目の前で見て心底驚いたものである。
カインズ・ハイスクールの演奏は乗船して二日目に聴き、大したものではないと踏んでいた。
この程度の演奏ができるハイスクールならばメィビスには間違いなく片手以上もいる。
ヤノシア方面全部のハイスクールならば一把一絡げの部類で入賞も無理だろうと思われたからである。
だが二人の若い男女が稽古の指導に入って三日目にはまとまりを見せ始め、以後は日々上達して行くのが素人のエスターにも明確に判ったのである。
1週間後には括目するほど素晴らしい演奏が聞こえた。
エスター自身は、音楽には左程の造詣が有るわけでもないから、明確には言い切れない。
メィビス到着後3日目にヤノシア方面コンテストがあるから、その結果如何ではまたまたマイクとアリスの話が紙面を飾ることになるだろう。
そうして、今日のダンス・コンテストは実にハイレベルの競技だったと思うのである。
最後まで残ったもう一組はエスターも良く知っている。
クレアラス中心街でダンス教室を営むバッケス夫妻である。
バッケス夫妻はクレアラスでは常勝組であり、よもやこのキティホークで若いアベックに敗れるなど思いもかけなかったに違いない。
エスターも若い時分に社交ダンスに凝った口であるからその機微もそこそこわかっている。
従ってマイクとアリスが見せた動きには心底驚いたものである。
尋常の上手さではない。
あれならば連合圏内はおろか教会連邦や共産同盟との親善大会ですら優勝するかもしれないと思えた。
5年に一度、人類社会がこぞって開催する大会がある。
スポーツ、音楽などの他に社交ダンスの競技会もあるのである。
ビルブレン、ブーラ、ディフィビアの各宙域を順繰りに開催地を替えて行うイベントであり、来年はディフィビア、しかもメィビスで開催される予定である。
無論、ギデオン帝国を含む中間勢力からの参加も回数を重ねるごとに増加している。
この大会だけは仮に戦時中であっても途切れたことの無い平和の祭典でもあった。
過去2百数十年の歴史の中で二大勢力或いは三大勢力が戦闘中或いは紛争中にもかかわらず、大会が開催される50日間とその前後二カ月の間は停戦が行われたことが実際に三度もあるのである。
実質半年ほどの停戦で戦争や紛争が収まったのは二度もあり、正しく平和の祭典に相応しいイベントである。
エスターは、マイクとアリスのペアならば音楽の演奏部門かダンス部門で上位を狙えるのではないかと考えているのである。
今年から来年春にかけてはその前哨戦があり、各宙域で予選会が開催されることになっている。
メィビスでも二か月後から各種予選会が始まることになっている。
ハイスクール部門のヤノシア方面吹奏楽コンテストもその一環ではある。
ここで上位三位にまで食い込むと、来年初頭に開催されるディフィビア連合の予選会出場権が得られるのである。
予選会には各方面宙域から選抜された36チームが集い、その中から上位7チームが平和の祭典であるブラビアンカに参加できることになる。
各星の地区大会、方面宙域大会、連合大会と3回の予選を潜り抜けなければならないのだから非常に狭き門と言えるだろう。
バッケス夫妻も前回のブラビアンカに参加、5位までの入賞枠に僅かに届かず7位に終わっている。
従って今回こそはと狙っていた筈であろうが、新たなライバルの出現に内心は戦々恐々としているかもしれない。
エスターは、事務長に頼んで船内で収録しているビデオのコピーを頼むつもりである。
ケイシー・ドグマンとの共演、ダンス・コンテストの模様の二つである。
ブラスバンドの稽古模様については自分のビデオに収めている。
それらは社に戻ってから映像関係者の専門家を交えて編集し、必要に応じて今後の報道に使うつもりである。
ディリー・プラネットは文字情報だけではなく画像情報をも扱っているのである。
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