好きやから!

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Chapter.2

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朝が苦手な僕がアラームがなるよりも先に目を覚ました。
身支度を終えて一階の居間に入ると、両親共に凝視されてしまった。
背後から「熱でもあるのか?」と漫画でよく聞く台詞が聞こえて来る。
だって仕方がないじゃないか。
古賀さんの家に行くのが楽しみなんだから。

寝間着のまま階段を降りて来た皐月にも同じように凝視されながら僕は家を出た。
なんだか今日は気分がいい。
イアホンから流れてくる曲に合わせて、鼻歌を歌いながらスーパーへと入った。
せっかくなので今日は自転車に乗り、途中から風が涼しい鴨川に沿って祇園へ。
古賀さんの家には二十分ほどで着いた。
今現在はまだ、六時くらい。
朝のホームルームまで一時間ちょっとはある。
ここで初めて、ヤンキー校に通っていて助かったと実感する。

僕は朝昼晩分の食材を地面に一度下ろして、家のチャイムを鳴らす。

「あの、古賀さん?」

返事はない。

「、、、あの」

僕は合鍵をカギ穴に差し込み、扉に手をかけて開いた。
すると、古賀さんが青白い顔をして玄関に倒れていた。

「古賀さん!」

慌てて駆け込み古賀さんの頭を支える。

「ちょっと!」
「きゅ、救急車、救急車」

僕はスマホをポケットから取り出す。
その瞬間、、、。
グゥゥゥキュルルルルゥ。
僕はスマホ画面から視線を古賀さんに移す。
あ、、、なんだこのデジャブ感。

僕は昨日と同じように作ったばかりのご飯をガツガツ頬張る古賀さんの姿に、深いため息をつく。

「古賀さん、昨日の今日ですよ。というか、昨日三人前くらいは食べたでしょうに。何があったんですか」

古賀さんがゴクリとご飯も飲み込む。

「いや昨日さ、ずっと勉強してて、水飲むのもなんか食べんのも忘れちゃって。気がついたら朝になってたってわけ」

バツが悪そうに言う彼に、頭を抱える。

「もお、、、本当に心臓に悪いのでやめてください。勉強が大切なのはわかりますけど、ちゃんと休憩も取ってください」
「、、、すみません」

今度は味噌汁をちびちび口にしながら謝る。
コロコロ変わる表情が可愛い。
僕は緩んだ頬を隠すように視線を外した。

「それにしても、男子高校生なのに料理が上手って意外だな」
「うち、家庭科があるので。こないだクレープ作りました」
「クレープか、、、いいな」

そう呟いてチラチラとこちらを伺うように見てくる姿に、また頬が熱くなる。
しかしその誘惑には負けまいと背筋を伸ばした。

「僕はもう少しで学校に行かなくちゃいけないんですから、クレープまで作ってられませんよ」
「ちぇ」

古賀さんは不満そうな口を叩きながらも、ニコニコ嬉しそうにご飯を食べる。
こんなに無邪気にご飯を食べる人は初めて見たかもしれない。
なんだかご飯の詰まった頬が、ハムスターみたいだ。
僕はふふっと吹き出した。

「どした?」

視線だけこちらに向けた彼は、首をかしげる。

「いえ、なんだか子供みたいで可愛いなと思っただけで」

そこまで言った僕は、ハッと口を閉じる。
口から思った事が滑ってしまった。
頬に熱が上がるの感じながら視線を逸らした。

「えと、、ありがとう。男の子から可愛いって言われたのは初めてだな」
少し照れ臭そうに頬をかく古賀さん。

「あ、いやでも子供みたいって、、」
照れた後に気がついたようにハッとなった彼の言葉に、僕は慌てて首を横にふる。

「あ、えっと悪い意味じゃなくて。素直でいいなと思っただけですよ」
「、、、そっか」

そう言ってまた嬉しそうな、照れ臭そうな表情を浮かべる。
ああ、だめだ。
この顔に僕は弱い。
まだ出会って二日目。
なのに僕はもう、かなりこの人のことを好きになっているのではないだろうか。

スマホ画面を確認する。

「もうそろそろ行かんと」
「あ、もうそんな時間か」

僕の独り言に、古賀さんも机代わりの段ボールの前から立ち上がった。
僕が身支度を始めるのと一緒に、彼もかばんにノーやら教材やらを詰めてゆく。

「やべ、課題の資料がない」
「床に全てぶちまけてるからでしょう?」
「片付けをしている時間が、もったいなくてかなわんけん」
「そんなこと言わずに、、、。明日は僕も手伝ってあげますから一緒に片付けましょう。」

立ち上がりながらそう言うと、申し訳なさそうな顔で首を横に振る。

「別にいいよ。そのくらい俺一人でできるし。そこまでしてもらうのは申し訳ねえし」
「いや、これは僕からのお願いです。古賀さん一人で片づけてる姿想像したら、開始数秒でもう既に救急車の効果音が響いてました」
「え、俺ってどんなイメージもたれてんの?」

俺はふふっと笑いながら玄関に向かう。

「いやまじで、なんか申し訳ないんだけど」

そう言いながら玄関までついてくる彼をちらりと振り返った。

「じゃあ、そうですね。俺に勉強を教えてください」
「勉強?」

首をかしげて聞いてくる古賀さんに僕は笑顔で答える。

「はい、古賀さん英国とのハーフでしたよね」
「そうだけど」
「実は僕英語が最も苦手な教科なんです。ぜひ教えていただければと思いまして」

古賀さんを見上げるように眺めると、少し動揺したように一歩後ずさった。

「べ、つにいいけどさ、俺なんかでいいのか?」

俺なんかッて、、。
僕は首をかしげる。

「どういう意味ですか?僕は古賀さんだからお願いしてるんです。だめですか?」

そう言うと、古賀さんのほほが少し赤く染まった気がした。

「いや、、いやいやいやいや、全然だめじゃねえよ!ビシバシ鍛えてやるけんな!」

嬉しそうに言う古賀さんに、僕の胸が熱くなる。

「ネイティブの方に教えてもらえる機会なんてそうそうないですからね。僕もありがたいです」
「あ、、、もしかして俺がネイティブだからお願いしたのか?それとも、、」

お、そう来たか。
僕はにかっと笑う。

「さぁ、どっちでしょう」



自転車に乗って鴨川の脇を走る。
涼しい風が顔にかかって気持ちがいい。
今日も頬の緩みが止まらない。
勉強はあまり好きではない。
ただ言われてやってきたら、結構のレベルまで成長していただけだ。
だから特に、もっとやりたいなんて願望はなかった。
でも、まあ、古賀さんとならいいかという乗りで提案してみたものの、実際に教えてもらえることになったらテンションが上がる。

さっきの答え。
古賀さんだからに決まっているでしょう?

毎朝のようにクラスに入る。
椅子に座ると前の席から祐介が挨拶をしてきた。

「はよ」
「おはよう」

手の甲に顎を乗せてこちらを見上げてくる。
僕は彼をじっと見降ろした。
言っちゃおうかな。
席に座ると、祐介と視線を合わせる。

「あのさ、ちょっと報告があるんやけど」

そこまで言うと、彼は驚愕の表情に早変わりして、がたりと椅子を鳴らして立ち上がった。

「おま!昨日の今日で!」
「は?」

全員の視線がこちらに向いていることに気が付き、彼はそそくさと座る。

「だから、報告ってまさか、彼女ができた的な?!慎之介だけは俺の仲間だと思ったのに!」

そう言いながら頭を腕の中にがばっと埋める祐介。
僕は呆れて、ため息を漏らす。

「だから最後まで聞いて?それに何最後ディスってんねん」
「え、違うん?」

僕は頷く。

「祐介がひとりでに突っ走っただけ」

僕の返事に祐介がほっと胸をなでおろす。

「んで、報告って何?」

僕はちらちらとあたりを見渡すと、祐介の耳元に口を寄せる。

「実は、、、好きな人ができてん」
「マジか!」

大声で叫ぶ祐介の腕をバシッとたたく。

「何のために小声で話してると思ってんの?」
「あ、わり」

僕はもう一度小声でささやく。

「で、実はそれが、、その」

そこで口雲ってしまった僕の言葉を待つ祐介。

「あ、今度のはほんまに叫ばんといてな?」
「お、おう」

真剣な表情になる僕に、祐介がごくりと固唾をのむ。
僕は小さな声でそっとささやいた。

「男性、、、やねんか。それで」
「男?!?!?」

また大声で叫んだ祐介の腕を、今度は割と本気でたたく。

「だから!」
「おお、ごめんごめん」

謝るも、祐介の混乱した表情は収まらない。
僕は深いため息をついて机に突っ伏した。

「やっぱ言うんやなった」
「ああいや、言ってくれてよかった。なんかごめん」

そう言って素直に謝ってくる祐介に僕はフフッと笑いをこぼす。

「いやでもびっくりした。昨日まで彼女ほしいって誰よりも言ってたんは慎之介やんか。」
「まぁそうなんやけど」

僕は彼の言葉にむくりと体を起こす。

「実際さ、だれか好きになったこともなかったし、なんかみんなどんどんリア充になってくから心配だっただけかもしれん」

そう言う僕を、祐介がじっと見上げた。

「まあ俺はいいけど。ってことはお前にとっては初恋なわけか」
「、、、そ、そうなる」

初恋という言葉にほんの少しくすぐったさを感じ、僕は頬を染める。
そんな表情を始めて見せる僕を、まじまじと見つめる祐介。

「慎之介でもそんな顔するようになったやな」
「え?」
「いやなんかさ」

僕が聞き返すと、彼は視線をそらして、気まずそうな表情になる。

「お前、いつも詰まんなさそうな顔してっから、なんか新鮮やなって」
「、、、詰まんなさそうな顔」

まさか、顔に出ているとは思わなかった。

「んで、付き合ってんの?」
「いや、片思い、、みたいな」
「へぇ」

そこまで言った祐介はいきなり僕の両肩をつかんだ。
彼は気合の入った笑みを浮かべている。

「じゃあとことん応援しないとやな。早速作戦考えようや!」
「さくせん、、、」

僕はなんだか嫌な予感がして「ちょっとお花摘みにぃ」と逃げようとするが、祐介は開放してくれない。

「逃げんなや慎之介。絶対お前の初恋実らせてやるかんな!」

そう言って「えいえいおー」とでも言った時のように、僕の腕をつかむと無理やり宙に振り上げた。

さてさて、作戦開始。
僕は古賀さんのご飯を作り終えると、さっそく机(段ボール製)の前に座った。
朝ご飯を片手に古賀さんが目の前に座っている。

「どこ教えてほしいんだ?」

僕はかばんから教材とノートを取り出し、机の上に広げた。

「ここ。今日小テストがあるんです。でも自分だけじゃどうしても文法が分からなくて」

僕がシャーペンの先で指したところを、彼が覗き込んだ。

「あぁ、ここね」

古賀さんは少し口に白飯を放り込むと、僕の手からシャーペンを借りる。
一瞬だけ触れた指が冷たかった。
頬のほてりを隠すように、文面をつらつらと書いてゆく彼の指先から視線を逸らす。
ごくりと飲み込む音が聞こえると、古賀さんが説明を始めた。

「まずここ、he began to play tennisこれは、、」

彼の説明に耳を傾ける。
たまに混ざる英語の発音がかっこいい。
机越しとはいえ、すぐ近くに感じる古賀さんの体温がここちい。
僕はノートに英文を連ねながら、実感する。
ああ、恋をするとこんな気持ちになるのか。

出発まで残り数分。
僕と古賀さんは身支度を始めた。
今日は講義が朝からあるというので僕たちは一緒に家を出ることになった。
僕はこの瞬間を狙っていた。
二人並んで道を歩く。
僕は自転車に彼の荷物を載せて歩く。

「あの古賀さん」
「んー?」

さっき食べたばかりだというのに、もうチョコアイスを頬張る古賀さん。
朝からチョコアイスって、、、。

「実は小テストにスピーキングテストもあるんです」
「ほお」
「自己紹介をいかに時間内に完ぺきにこなすことができるかってやつ」
「時間内が一番嫌いだわ」
「それわかります。でも、今回は態度でも結構点数をくれはるみたいですし、できるだけ簡単にまとまればいいんです。それで、ちょっ
と駅に着くまで手伝ってほしいんです」

そう言うと、僕よりも頭一つ分背の高い古賀さんが感心するような目で見降ろしてくる。

「慎之介君、ほんとに勉強熱心だな」

古賀さんの言葉に僕は視線を逸らす。

「、、、そうでもないです」
「そっか。」
「古賀さんが、教えてくれるから」

ぼそりとつぶやくと、古賀さんが急にむせる。

「えっ俺?」

口についてしまったチョコアイスを指先でふき取りながら頬をほんのり赤く染めた。

「じゃ、じゃあ練習するか」

僕はこくりと頷く。

「まずは古賀さんの自己紹介を聞かせてください」
「まじか」
「はい、見本をお願いします」

僕の言葉に彼は覚悟を決めたように深呼吸をする。

「時間はどんくらい?」
「二分で」
「よし」

僕はスマホのタイマーを二分間に設定する。

「よーい、はじめ」
僕の合図とともに古賀さんは口を開いた。

「Hello, I,m Jackson Koga. My friends call me Jack. My mother is Japanese and my farther is English. I  can speak both languages normally, but speaking in Japanese is much  easier for me.  I  have lived in Japan for most of my life. But when I graduate  from  university I have chosen to」「テレレレッテレー、タケコプター!」
「うお!」

スマホからあの有名な、ネゴ型ロボのキャッチフレーズが大音量で鳴る。
自己紹介を遮られた古賀さんが、驚いた顔でこちらを見やる。

「まじでびびった」
「すみません」

僕は恐怖に震える彼を横目に、笑いをこらえる。

それにしてもこれはいい作戦とは言えなかった。

自称恋愛マスターこと祐介の幼馴染初恋成就作戦一!
『彼の素性に触れるべし。』

祐介の作戦では今日行われるスピーチテストの練習を兼ねて、個人情報を聞き出してこいとのことだった。
しかし、英語で話している時点で、ほとんど聞き取れなかった。
それに、英国人の発音なので、よく耳にしている米人の発音より、理解が難しい。
この作戦は失敗か。
僕は頬を指でかく。

「やっぱり二分間はきついですね」
「二分で何が言える?そんなん無理に決まっとったい!」

怒りと羞恥で博多弁モード全開の古賀さん。
僕はフフッと吹き出す。

「さすが古賀さんですね。かっこよかった」

自然と口からこぼれた一言。
古賀さんは横目で僕を眺めながら、くしゃっと笑う。

「何言ってんだよ。照れんだろ」

そう言いながら嬉しそうに笑う彼に見とれる。

いや、やっぱりさっきのは撤回しよう。
この作戦は大成功。
祐介にお礼言わなくちゃ。


翌日の土曜日。
僕は親に、土日は基本的に祇園にいることを言い残し、古賀さんのところに来ている。

「古賀さん、京都には慣れましたか?」

そう聞くと、彼は肩を上下させる。

「慣れたって言うか、大学ん時以外ほぼ家から出てねえし、わかんない」

そう言う古賀さんに僕は苦笑する。

「観光とか行きたいけど、日差しキッツイじゃん?毛が逆立つ」
「猫ですか」

僕は古賀さんと会話を交わしながら考える。

「古賀さん、今日と明日空いてます?」

僕の質問に彼は、ちょっと待ってとでも言うように手を掲げると、スケジュール帳を開く。

「、、、明後日レポート提出日だけど、もう少しで終わるし、特に予定はねえや」
「ほんとですか!」

そう言って古賀さんにずいっと迫る。古賀さんは、ニカニカ笑う僕に動揺するように後ずさる。

「じゃあ観光しましょう観光!知ってます?京都に住んでる現地人は、観光客よりも寺とか行ったことがない人が結構いるんです」
「そっか」

嬉しそうに言う僕の姿に、古賀さんの頬がふっと柔らかくなる。

「やっぱりこの辺といえば、清水寺ですよね。清水寺には学校の研究授業以来行ってへんし、、、あ、でもやっぱここは金閣寺、、、」

ひとり盛り上がる僕を嬉しそうに眺める古賀さん。

「お前さ」
「ん?はい」
「俺のことさ、天然とか子供だ言いようけど、慎之介くんのがよっぽど可愛いかろうもん」

僕の頬が真っ赤に染まる。

「か、かわ」

まさかとは思うが、僕が古賀さんの博多弁に弱いことを知っているのだろうか。
脳内がオーバアーヒートして、突っ立ていると古賀さんがブハッと吹き出した。

「なんて顔してんだよ。うし、じゃあ行くか」
「は、はい、、、」

のそのそと立ち上がった彼に続いて、僕も惚けながら身支度を始める。

頬の火照りを隠すように少し視線を落として歩く。
それにしても、、、。

「古賀さん、、、なんですかその服」
「ん?」

真顔で聞き返してくる古賀さんをじとっと眺める。
ズボンは部屋で履いていたジャージのまま。
上は真っ黒なコートを羽織っている。
目部下にかぶったフードから覗く色素の薄い髪はたまらないが、目にかけた、真っ黒なサングラスはやめて欲しい。

「今何度か知ってます?」
「めっちゃさみい。慎之介くんはそれでいいの?」
「今三十度近くありますけど」

僕の言葉に古賀さんは口をあがっと開く。

「嘘だろ?!体感五度くらいしかねえじゃん。いやぁ最近の天気予報はあてになんねえかんなぁ」

この人は、この先ちゃんと生きていけるだろうか。
それに周りからの視線が痛い。
「変質者だわ」なんて声が聞こえてくる。

『外出用の服が実はかっこよくなる』みたいなギャップを少しでも期待した僕が馬鹿だった。
僕は彼の手首を掴むと、引っ張りながら観光客で溢れかえる道を急いだ

高所にいるからなのか、蒸し暑い空間とは一変。
涼しい風が髪を通りねける。
僕たちは、清水寺の『清水の舞台』と呼ばれる広場に来ている。
ここからの景色は美しい。
僕は熱っぽい息をつく。

「やっぱここ好き、、、」
「慎之介くんの方が観光客みたいじゃねえか」

ケラケラ笑いながらいう古賀さんを僕は見上げた。

「楽しいですか?」
「、、、うん」

僕がふっと微笑む。
彼が一瞬目を見開いたかと思えば、ゆっくりと僕の頭に手を伸ばす。
そして、ワシャワシャと髪をかき回して来た。

「な、なにっ」

古賀さんの手の感触に頬を真っ赤に染める僕。

「いや、なんとなく」

口角を片方だけあげて弱ったように笑った。
上から見下ろす古賀さんの姿に僕の胸が熱くなる。

「じゃあ、好きなだけ、、どうぞ」
「お、まじか」

古賀さんが嬉しそうに笑って、今度は両手で髪をかき回して来た。

今は友達気分なんだろう。
なんの抵抗もないのがその証拠だ。
でも、いつかは、、、、。


「古賀さん、ちょっと聞いてもいいですか?」
「んー?」

近くのカフェに来た僕たちは向かい合って座る。
さっき食べたばかりなのに、もう大きな抹茶パフェを頬張る古賀さん。
一体どこに入っていくんだろうか。
なぜそれで引きこもりなんだ、、、。

「こないだの自己紹介」
「がどした?」
「何言ったか教えて欲しいなって思いまして」

古賀さんは、口に着いた生クリームをふき取りながら「ああ」と頷く。

「なに、日本語でやりゃいいの?」
「はい」

そう返事をすると、古賀さんは「んんっん」と喉をならして、僕に視線を合わせた。
僕の頬が熱くなる。

「こんにちは。僕は古賀ジャクソンです」
「詩音は言わないんですか」
「質問は後ほど!」
「は、はい」

こないだ猫型ロボットに自己紹介を遮られたのを随分根に持っていたのか、質問をした僕を割と本気で止める。

「是非ジャックと呼んでくだ」
「あの!」
「なに!」

また古賀さんの言葉を遮る。
珍しい古賀さんすね顔がかわい、、、いやそうじゃなくて。

「博多弁でお願いします」
「な、なんで」
「なんでもです」

そうビシッというと、彼はバツが悪そうに頬をかく。

「ばあちゃんくせえって言われんのがいやだから、結構必死に標準語練習したってのに」

僕は首をかしげる。

「おばあちゃんくさい?別に可愛いじゃないですか」

そういう僕の言葉に動揺をあらわにする古賀さん。

頬を染めた彼が「お、おま」とうろたえる。

「は!まさかさっきの仕返しか」
「は?」

古賀さんはため息をつくと、両手を肩の高さに挙げる。

「わかったよ。降参」
「やっとですか」
「、、、、まさか計算?」

僕はニコッと微笑む。

「古賀さんの性格が結構分かって来たので」
「お、恐ろしい子」

そう言って困ったように笑う古賀さん。

好きな人だからいじめてしまう。
初めてその気持ちがわかった気がする。
こんな表情が見れる機会はなかなかない。

古賀さんはまだ頬を染めたまま、チラチラとあたりに座る客を気にしながら口を開いた。

「こんにちは。僕は古賀ジャクソンていいます。友達にはジャックて呼ばれとう。」

やばい、、、録音しちゃダメかな。

「お母さんは日本人やけど、お父さんはイギエリス人たい。」

お母さんとお父さんって呼んでるんだ。

だんだんと自然体になっていく古賀さん。
やはり、博多弁を使っている時が楽しいのか、声が弾んでいる。

「日本語も英語も普通に喋れるっちゃけど、俺にとっちゃ日本語の方がずっと喋りやすかったいね。生まれてからほとんど日本に住んどっちゃけど、大学卒業したらイギリスに戻ろうかなと思っとー。」
「え」
「こないだはここで邪魔が入ったんやったっけ」

思い出して頬が引きつる古賀さん。
でも、僕はじっと彼を眺めた。

「、、、イギリス、戻らはるんですか」
「そ。ってもまだ四年後やけどね」
「そう、、ですか」

急に静かになる僕は古賀さんがじっと眺める。

福岡に帰るんじゃないのか。
イギリスか。

「遠いな」

思わず口からこぼれた一言に、古賀さんが弱ったような顔をする。
すると、優しく僕の髪を撫でた。

「まだ会って少ししか経ってないのに、えらい懐かれたもんだな」

そう言うと、僕の顎に手指をかけて、顔を上に向けた。

「んな顔すんな。まだ行きたいって思ってるだけで実際に行けるかはわからねえ。行くとしても、テレビ電話とかで毎日話そうぜ」

不器用な古賀さんが必死に励まそうとしてくれている。
柔らかい笑顔を僕に向ける彼。

「、、、古賀さん一人じゃすぐに死んじゃいます」
「ハハッ、お、じゃあメイドでも雇うか。あ、てかいいなメイド。『ご主人様、今日は何をして差し上げましょうか』みたいな?」
「ばか」

僕の表情が緩んだのを見て、古賀さんも笑う。

そうだよ、まだ四年間もある。
言葉の綾かもしれない。
でも、四年後も一緒にいてくれるように言ってくれた。
胸がいっぱいだ。

わざわざ小さな嘘をついてまで古賀さんに自分のことを言わせた。
そんな遠回しなことをやっていてどうする。
相手のことを知りたいときはどうすればいいか。
そのくらい僕は分かっている。
とりあえずは友達としてでいい。

「次行こうぜ次!」
「はい」

カフェから出て、歩道を歩く。
僕は家から出た時よりも一歩古賀さんの近くに立った。

「古賀さん、もっと古賀さんのこと教えてください!」



空がオレンジ色に染まり、僕らの影が伸びる。

「遊んだなぁ」

ぐぐっと腕を伸ばす古賀さん。

「清水寺から次に向かう途中でダウンしてましたけどね」
「外に出んの慣れてないんだよ。いっぱい食ってんのに体力がどうしてもつかないんだよな」
「ああ、あれですか。食べても食べても太らない人っていますよね」
「いやそうでもないぞ」
そういうと、古賀さんは自分の頬を引っ張る。

「おまへのほはんふっへから、ちょっとはいじゅうふえは(お前のご飯食ってから、少し体重増えた)」
「は?」

そう言うも頭の隅では、『可愛い可愛い可愛可愛い』なんてことを思っている。
恋愛脳、おさまれー。

家の路地の前まで来た。

「古賀さん、今日はありがとうございました」

「な、なに?かしこまっちゃって」

うろたえる古賀さんから視線を逸らして、僕は困ったように笑う。

「なんだか、僕に付き合ってもらっちゃった感じになってしまって」
「いやいや、俺楽しかったし」

手を目の前でブンブン振った古賀さんに「そうですか」と胸をなでおろす。

「じゃあ僕はここで」
「あれ?帰んの?」

首をかしげる古賀さん。

「当たり前でしょ」
「泊まるのかと」

彼の爆発宣言に僕はうろたえながら「な、何言ってんですか!」と叫ぶ。

「いやだってさ」

そう良いながら古賀さんは、ジャージのポケットから携帯を取り出す。

「これが来たから」

携帯画面を向けられ、覗き込む。

 From: 吉田母
 To: Jackson Koga

 こんにちは。いつも息子がお世話になっています。
 今日、慎之介が古賀さんのところに土日ずっと一緒にいれるとに張り切っていたので、せっかくだし泊めてやってください。
 今日は夫婦水入らずでデートに出かけることにしました。
 楽しんで。

 慎之介の母より。
 P.S. 息子にこのことを言うのを忘れたので、サプライズってことでよろ!

「、、、、、」

なんちゅう親だ。
右向いても左向いても自由人。

僕は羞恥と怒りで頭をかき回す。

「なんか、、、本当にすみません」
「いや良いよ」

ヘラヘラ笑いながらスマホ画面を切る古賀さん。
僕は苦笑する。

「あの、やっぱり今日は帰ります。鍵持ってるので」

そう言って家に背を向けるが、古賀さんに手首を掴まれる。

「いやそんなこと言わずにさ、泊まってけよ。てか、家にひとりとか危ないから」
「僕もう高校生ですけど」
「良いから良いから」

そう言って家の中に連れ込まれる。

なぜこうなった。
僕は晩御飯を口に運ぶ古賀さんの正面に座っている。

「うめえ」

ニコニコしながら食べる姿は微笑ましいが、まさかこんな状況でそんなのんきなことを言っていられない。

「あの、僕ほんとに」
「お前も食べろよー」

多めに作っていた分の食事が僕の前に並んでいる。
僕はご飯を茫然と眺めた。

いや、え、、、やばいやろ。
好きな人の家に泊まるだと?
寝室は残念なことにここに一部屋。
正直、恋愛初心者にはハードルが高い!
どうしよどうしよどうしよ。

「なんだよ食わねえの?じゃあ風呂にでも浸かってくれば?」
「ふ、ふろっ」

うろたえていると、彼がぶはっと噴き出した。

「そんな構えんなよ。ほらほら、野郎同士なんだし別に意識する理由もねえだろ」

あ、、、、。
今のはちょっと、傷ついた。
野郎同士。
そりゃそうだ。

僕は「じゃあ、借りますね」と一言残して立ち上がる。

「いってらー」
「い、いってきます」
「あ、服、俺の使っていいから」
「え」

顔が真っ赤に染まるのを感じ、浴室に逃亡した。
風呂から上がり、古賀さんにジャージを借りた。
着るのに少し抵抗を感じたが、思い切って腕を通す。
髪の毛をタオルで拭きながら浴室から出た。

「古賀さん、あがりました」
「おかえり」
「た、ただいま」

余裕ぶっこいて振り返る顔に、少し腹が立つ。

「じゃあ俺風呂入るけど、もう遅いし寝といて」

そう言って、地面を指さす。
そこには、布団と寝袋が並んでいる。
でも、、、なんか近い。
僕がぴったりくっついた二つを凝視していると、古賀さんが立ち上がる。

「近すぎませんか」
「別にこんなもんでしょ」
「な、なに基準?」
「え、過去のお泊り会基準っすかね」
「そう、ですか」

質問攻めにする僕に首をかしげる古賀さん。

「慎之介君は布団使って。」
「え、いや悪いです」

「いいんだよ。寝袋意外と気持ちいし。そんじゃ、おやすみ」

そう言って彼は、僕の頭をわしゃわしゃとなで回す。

「お、おやすみ、なさい」

古賀さんは部屋の電気を消しながら、ふすまを背後に閉じて廊下へと姿を消す。
ふすまから漏れる光が彼の姿を映して、ゆらゆら揺れる。
薄暗くなった部屋に一人残される。
僕はゆっくり布団に近づいて、震える手で中に滑り込んだ。

しばらくして、ザーっとシャワーの音が聞こえ始めた。
僕はじっと天井を見上げる。

そういえば、この天井の造り、あの絵本『いるのいないの』に出てくる天井みたいだ。
だれか、どっかから覗いてるかな。
あれ読んだときは天井見るのすら、怖かったな。

必死に他のことを考えようとする。
眠れない。

相手が襲ってくるわけでも何でもない。
緊張する必要なんてない。
どうしたんだ僕は?

外からスーツっとふすまの開く気配がした。
僕は慌てて布団の中に顔ごと潜り込む。
一瞬布団の外が明るくなると、足音が聞こえた。
そして隣でガサゴソと布の擦れ合う音が聞こえて、、、、。

すぐに寝息が聞こえてくる。
早いな。
僕は布団から少しだけ頭を出して隣を覗く。
すぐ近くに、きれいな寝顔がある。
僕はじっと古賀さんを眺めた。
まつ毛長いな。
あ、右目の下にほくろが。
気付かなかった。
僕はフフッと笑う。

触りたい。

無意識に手が伸びる。

「ん」

古賀さんが寝返りを打つ。
僕ははっと我に返り、慌てて手をひっこめた。

僕、今なんて思った、、、?
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新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

俺のソフレは最強らしい。

深川根墨
BL
極度の不眠症である主人公、照国京は誰かに添い寝をしてもらわなければ充分な睡眠を得ることができない身体だった。京は質の良い睡眠を求め、マッチングサイトで出会った女の子と添い寝フレンド契約を結び、暮らしていた。 そんなある日ソフレを失い困り果てる京だったが、ガタイの良い泥棒──ゼロが部屋に侵入してきた!  え⁉︎ 何でベランダから⁉︎ この部屋六階なんやけど⁉︎ 紆余曲折あり、ゼロとソフレ関係になった京。生活力無しのゼロとの生活は意外に順調だったが、どうやらゼロには大きな秘密があるようで……。 ノンケ素直な関西弁 × 寡黙で屈強な泥棒(?) ※処女作です。拙い点が多いかと思いますが、よろしくお願いします。 ※エロ少しあります……ちょびっとです。 ※流血、暴力シーン有りです。お気をつけください。 2022/02/25 本編完結しました。ありがとうございました。あと番外編SS数話投稿します。 2022/03/01 完結しました。皆さんありがとうございました。

新緑の少年

東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。 家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。 警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。 悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。 日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。 少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。 少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。 ハッピーエンドの物語。

男だけど女性Vtuberを演じていたら現実で、メス堕ちしてしまったお話

ボッチなお地蔵さん
BL
中村るいは、今勢いがあるVTuber事務所が2期生を募集しているというツイートを見てすぐに応募をする。無事、合格して気分が上がっている最中に送られてきた自分が使うアバターのイラストを見ると女性のアバターだった。自分は男なのに… 結局、その女性アバターでVTuberを始めるのだが、女性VTuberを演じていたら現実でも影響が出始めて…!?

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

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