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終章.バビロニア・オブ・リビルド

60『錬金術師と将軍の茶会・前編』

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 帝国西圏側の城壁が遠くに見える平野に生える巨木の根元で、錬金術師と将軍が屋外での茶会…野点のだてを開いている。

「かつて、ブドウ将軍と呼ばれていた君には、ワインの方が良かったかな?」
そう切り出した異邦の錬金術師こと【モルガーナ・ピルグリム】は、自ら点てた抹茶が入った茶碗を客人に差し出す。
そのモルガーナは、いつもは深々と被っている鍔の広い帽子を脱帽しており、失った右目部分を覆う眼帯が露になっている。

「ふん…ブドウ将軍か…俺の事をそう呼ぶのはお前だけだぞ、黒魔女。」
西圏側の統括長ドミニウムの一人である大男【マルドゥク】は、敢えて相手を蔑称で呼んだ上で、差し出された抹茶を躊躇うことなく飲み干す。

「えぇ~そうだったかな?エレシュキガルも、君のことをブドウ将軍って呼んでいたような気がするけどな…まぁ、いいや。」
モルガーナがわざとらしく首を傾げていると、一羽のカラスがモルガーナの右肩に止まり短く鳴く。

「そっかそっか…東圏側では、私の予想通りに進んでいるみたいだね。」
右肩に止まるカラスから、帝国内の状況を聞いたモルガーナは軽く頷く。

「今回のお前のその予想…いや、予知能力は、その左目…【創造主アヌ疑似理眼ぎじりがん】によるものか…」
マルドゥクは溜め息を漏らしながら続ける。

「いくらこの世の真理を知りたいとは言え、創造主アヌに自分の右目を差し出す気が分からないな。」
そう吐き捨てたマルドゥクは、茶菓子を手掴みで頬張る。

「私が旅した中のとある地には、『無知は罪なり、知は空虚なり、英知を持つもの英雄なり』という言葉があってだね…知識を得た上で、行動し結果を得られる事にこそ価値があると思うんだよね。」
そう落ち着いた口調で返したモルガーナも、抹茶の茶碗を右に回した後に口にする。

「そんな小難しい旅の土産話は、ギルガメッシュにでも聞かせてやれ…これだから、命知らずの不気味な魔女は困る。」
マルドゥクは、やれやれと言った素振りを見せる。

「命知らず?って…もしかして、私が世界樹に逆さまに宙吊りになって、いっぺん死んでみた時の話をしてる?」
モルガーナが昔話をもう1つ語り出す。

「確かに…あの時は、危なかったなぁ…宙吊りになった事で見えた知識を…偶然、目の前を通りかかったエレシュキガルに分けて上げた事で、蘇らせて貰ったもんね…」
改めて聞かされて若干、引き気味のマルドゥクを他所に、モルガーナはウンウンっと頷いた上で更に続ける。

「それにしても、思い出話をし過ぎたね…こんな時なのにね。」
「こうしてお前と話をするのも、これで最後だろうし…別にいいじゃないか。」
現状況を思い出したモルガーナに対して、マルドゥクが冷静に返す。

「それもそうだね…そろそろ、始めよっか。」
自身の抹茶を飲み終えたモルガーナは、隣に置いていた帽子を深く被り…右目の眼帯を隠す。

「あぁ…お前の茶飲み話に付き合ってやったんだから…次は、俺の武人としての流儀に付き合って貰うぞ。」
そう答えたマルドゥクも立ち上がり、踵を返すと…遠くで待機している部下の騎士達の元へ歩みを進める。

そうして、異邦の錬金術師【モルガーナ】と帝国西圏側の統括長ドミニウム…百戦錬磨の将軍【マルドゥク】として、改めて対峙する二人。
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