バビロニア・オブ・リビルド『産業革命以降も、神と科学が併存する帝国への彼女達の再構築計画』【完結】

蒼伊シヲン

文字の大きさ
上 下
62 / 79
終章.バビロニア・オブ・リビルド

53『東圏側のウシュムガル』

しおりを挟む
 「南花君が手にしている、アトラの星座早見表アストロラーベはレプリカだよ。」
自身が開発した飛行船から降り立ったエンキの一言に、南花とヨハンナは驚きを隠せない。

「本物の星座早見表アストロラーベの所在に関しては、私も知らないんだよ…」
開いた口が塞がらない2人を見ながらエンキが続ける。

「そもそも…どうして、私達の居場所が掴めたんですか?」
問い掛ける南花の語気には、焦る気持ちが乗っている。

「あぁ、単純なことだよ…君達がアトラ氏の懐中時計を集めている事は明白だったから…その内、帝国博物館に保管している物にもたどり着くと思い、館長に尾行を付けていたんだよ。」
南花の質問に答えたエンキが、2人にゆっくりと近付く。

「エンキ様は、再構築計画リビルド・コードに関して肯定的だと思っていたのですが…何故、私達を捕らえる側に回られたのですか?」
南花に続いて、ヨハンナが問い掛ける。

「それに関してもシンプルで、状況が変わっただけだよ…私の各研究へのパトロン達が、再構築計画リビルド・コードを実行しようとする君達を危険視したからだよ…複数の研究と言う大の虫と、南花君達と言う小の虫を天秤に掛けただけだよ。」
続けて答えたエンキが、南花とヨハンナにレンガ倉庫から出るようにと促す。

2人は、魔術師として圧倒的な実力を保持する統括長ドミニウムの1人エンキの指示に、抵抗する事を諦めて従うしかない。

南花が、倉庫の扉を開けると…
そこには小雨が降るなか…六型憲兵ゼクス九型憲兵ノイン八型憲兵ユキノによって捕らえられているハンムラビ達の姿が見える。

「やれやれ…帝国にとっての害虫駆除もこれにて終わりかな?」
回転式拳銃リボルバーを構える六型憲兵ゼクスが、膝を付いて拘束しているサクラ、コマチ、アオイの背中に立っている。

「おい…六型憲兵ゼクス、反逆者達を移送させる為の増援が着くまで気を抜くなよ…」
ハンムラビの隣に立つ大男の九型憲兵ノインが忠告する。

「あっ、そうだ…八型憲兵アハトちゃん、地下道化師トネリコ達の意識を奪って連行を楽にしなよ。」
六型憲兵ゼクスからの提案に対して頷いた、虚ろな瞳の八型憲兵アハトは、スーツの上着の内ポケットを探り、地下遊演地の娘【パネトーネ】から受け取った魔術書を取り出す。

「それは…やめてよ、ユキノ姉さん…」
地下道化師トネリコをチョーカーによって服従させる魔術書に視線を向けた、サクラが一芝居を打ち始める。

「…そうだ、頼むからそれだけはよしてくれユキノ。」
サクラの意図に勘づいたコマチが続ける。
「ユキノ姉ちゃん、返事してよ…」
アオイも続けて、問い掛けようとするが…

「黙りなよ、奴隷共。」
六型憲兵ゼクスに背後から蹴られたアオイは、短い悲鳴と共に倒れる。
そして、見せしめと言わんばかりに、六型憲兵ゼクスは続けざまに数回の蹴りを更に加える。

「ア…アオイ?」
目の前で痛みに耐えるアオイの姿を見る八型憲兵ユキノの瞳に僅かながら、生気が戻る…

「や…やめてよ、六型憲兵ゼクス…私の大切な…」
過去の記憶をたどり、真意を吐露し始めた八型憲兵ユキノが…背面から殴られて倒れ込む。

殴られた衝撃で、八型憲兵ユキノの目元を隠していた仮面が外れて、転がる…

八型憲兵アハト、何をしているんだ…魔術書を寄越せ。」
魔術書をぶん取った九型憲兵ノインが代わって、地下道化師トネリコを服従させる魔術を行使しようとするが…

「や…やめて…」
重い一撃を食らったユキノが、九型憲兵ノインの両膝にしがみつく。
「しつこいぞ!八型憲兵アハト、こいつらは罰しないといけない存在だ。」
足元を捕まれながらも、九型憲兵ノインは行使の準備を進める。

「まったく…何を揉めてんだが…八型憲兵アハト君の再調整が甘かったのかな?」
そうぼやいたエンキが、右手の指をパチンっと鳴らした直後…小さな閃光が放たれる。

「っう…かはぁ!いや…お腹が…」
次の瞬間、腹部に激痛が走った八型憲兵アハトは、うずくまり…
痛みに踞るあまり…脇腹辺りのシャツがはだけ、二つ目の【疑似神格術式】が露になる。

「ふぅん…やはり、1人に二つ目の疑似神格術式を埋め込むのは無理があるのかねぇ…」
八型憲兵アハトが痛みに苦しむ様子を、エンキはあくまでも実験の過程として淡々と観察する。

「何をボーっとしているんだい、九型憲兵ノイン君?さっさと、魔術書を行使したら…うん?なんだ…」
エンキは、川に停泊している複数の船が不気味に音を立てながら揺れ始めた事に気付く。

「強風が吹いた訳でも…地震による揺れでもないですね…」
ハンムラビが周囲を見渡しながら呟く。
「いや…川の流れが上流へと逆流し始めた?」
ヨハンナが続けて疑念を漏らす。

次の瞬間…局所的な豪雨を南花達が襲った…
かと思いきや、僅か十数秒で治まり…

それまでとは打って代わり、静寂…つまり、凪の状況に周囲は支配され…
そして、水面が徐々に凍りついていく。

「この現象は…いや、この前触れは…まさか!?」
何かを察したエンキの言葉を、遮る様に水面の氷が轟音と共にひび割れていく…

そして、割れた氷を纏った一匹の瑠璃色のドラゴンが、一同の眼前に現れる。

「ティアマトの神獣の一匹…【ウシュムガル】とは厄介だよ…」
突如、現れた神獣に対してエンキは焦りを露にする。

ウシュムガルは、茫然自失の一同を横目に、体に付いた氷を撒き散らしながら…上昇し、東圏側A区の方角の空へと消えていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

救世の魔法使い

菅原
ファンタジー
賢者に憧れる少年が、大魔法使いを目指し頑張るお話です。 今後の為に感想、ご意見お待ちしています。 作品について― この作品は、『臆病者の弓使い』と同じ世界観で書いたシリーズ物となります。 あちらを読んでいなくても問題ないように書いたつもりですが、そちらも読んで頂けたら嬉しいです。 ※主人公が不当な扱いを受けます。 苦手な人はご注意ください。 ※全編シリアスでお送りしております。ギャグ回といった物は皆無ですのでご注意ください。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃
ファンタジー
〈異世界帰還後に彼等が初めて会ったのは、地球ではありえない異形のバケモノたち〉  異世界から帰還した四人を待っていたのは、新たな戦争の幕開けだった。  六年前、米原孝弘たち四人の男女は事故で死ぬ運命だったが異世界に転移させられた。  世界を救って欲しいと無茶振りをされた彼等は、世界を救わねばどのみち地球に帰れないと知り、紆余曲折を経て異世界を救い日本へ帰還した。  これからは日常。ハッピーエンドの後日談を迎える……、はずだった。  しかし。  彼等の前に広がっていたのは凄惨な光景。日本は、世界は、異世界からの侵略者と戦争を繰り広げていた。  彼等は故郷を救うことが出来るのか。  血と硝煙。数々の苦難と絶望があろうとも、ハッピーエンドがその先にあると信じて、四人は戦いに身を投じる。

愛すべき『蟲』と迷宮での日常

熟練紳士
ファンタジー
 生まれ落ちた世界は、剣と魔法のファンタジー溢れる世界。だが、現実は非情で夢や希望など存在しないシビアな世界だった。そんな世界で第二の人生を楽しむ転生者レイアは、長い年月をかけて超一流の冒険者にまで上り詰める事に成功した。  冒険者として成功した影には、レイアの扱う魔法が大きく関係している。成功の秘訣は、世界でも4つしか確認されていない特別な属性の1つである『蟲』と冒険者である紳士淑女達との絆。そんな一流の紳士に仲間入りを果たしたレイアが迷宮と呼ばれるモンスターの巣窟で過ごす物語。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

異世界を服従して征く俺の物語!!

ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。 高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。 様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。 なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

処理中です...