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終章.バビロニア・オブ・リビルド

47『アリサとパノプティコン』

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 西圏側の湖畔にあったガレージで、意識を奪われたアリサが再び目を覚ます。
そして、先ず、視界に映ったのは冷たい鉄格子だった…
周囲の状況を把握する為に体を動かそうとするが、拘束されている両腕が妨げとなる。

短く重たい音を響かせる、左右の鉄の枷を見上げたアリサは、勝手に質素な白いワンピースに着替えさせられている事も踏まえて、自身に降りかかった状況を察する。

「あの時…私を襲った偽物わたしは、首都機関の技術の一つ…ホムンクルスね。」
そう呟いたアリサの耳が、近付いてくる足音に気付く。

「確か…あなたは、東圏側A区にある孤児院の…」
「えぇ、そうよ…ここは、【地下養成管理棟パノプティコン】。こんな形で再会出来て、私は嬉しいわ。」
アリサの目の前に現れた孤児院の支援員長【メアリー・アプシー】は、何故か感嘆を漏らしている。

「私が士官学校に在籍していた時に、個人情報の一つとして帝国へ登録していた、遺伝子情報を元に、私の偽物を生み出したわけね…」
両腕は拘束され、両膝を冷たい床に付いているアリサが、何とか見上げる。

「えぇ、その通りよ…首都機関の地下に眠る土人形【エンキドゥ】から得られた技術の一つを使って、貴方を襲う計画を建てたお偉いさんが複数いてね…」
アリサの推測に頷いたメアリーは、新聞を鉄の檻の中へ投げ入れる。

「これは…嘘でしょ…」
目の前に飛び込んで来た記事を、アリサは否定する。

「技術開発局職員のアリサ・クロウ、西圏側の第一騎士団ヨハンナ・ユノー団長へ暗殺未遂…武器職人の名匠鉄之助氏の娘、源南花も関与か…」
全く記憶にない罪を着せられたアリサは、次に視界に入った文面にも驚きを隠せない。

「ヨハンナ・ユノー団長、その秘書ハンムラビ・ミドラーシュの両名、第四騎士団の団員へ暗殺計画を教唆した容疑で指名手配…」
急変した現実に対して震えるアリサの様を見た、メアリーは愉悦の微笑する。

「利権にしがみつく為に、有ること無いことを書かせる現在の帝国に対して、あなたは可笑しく思わないの?」
メアリーの微笑に対して、憤りを感じたアリサが問い掛ける。

「えぇ、私も帝国が今のままの方が良いと思う側の人間だから…貴方達の企てが成功したら私の楽しみが奪われてしまい兼ねないし…」
「楽しみって何かしら?」
首を傾げるアリサを他所に、メアリーが右手の指先をパチンっと鳴らすと…

「えっ…アハト…ユキノさん?」
メアリーの隣に現れた…八型憲兵アハトことユキノの視線は、以前の様な冷静さは感じられず、何処か虚ろである。
そのユキノの手には、熟れて割れた小さなザクロの実がある。

「ユキノちゃん、良い子ね…今でも私のコレクションの中で、貴方は特別よ…」
「はい…先生、ありがとうございます。」
ユキノの全身を下から上へと、ゆっくりと見ながらメアリーは、生気を感じられないユキノの背後へ立つ。

「流石、私の特別…エンキ局長の再調整にも耐えれるなんて…」
「再調整?…えっ…」
アリサの疑問に応えるかの様に、メアリーが、スーツ姿のユキノのシャツの第二ボタンへ手を掛ける。

ユキノは、メアリーの手を止めることもなく…微動出せず佇んでいる。
そして、ユキノの胸元で鼓動を打つ『疑似神格術式』が、アリサの瞳に映る。

「これが…無神格の人間でも魔術を扱える様になる、あの疑似神格術式…」
「ふふ…ユキノちゃんの凄い所を見せてあげる。」
自慢気なメアリーは、今度はユキノの左の脇腹付近のシャツを捲り上げる。

「そんな…嘘でしょ…」
アリサの瞳が、ユキノの2個目の疑似神格術式を捉える。
メアリーによって可愛がる様に、脇腹を擦られたユキノは苦痛が走り、顔を歪ませる。

「ユキノちゃん、大丈夫よ…直ぐに馴染むからね…」
「ッウ…はい、先生…」
メアリーへの圧倒的な信頼を見せた、ユキノは、目の前で囚われているアリサには敵意を向ける。

「さぁ…あの悪い反逆者に、制裁を加えなさい。」
「はい、先生…お任せ下さい。」
頷いたユキノは、アリサがいる檻の中へ、足を踏み入れる。

そして、小型のナイフを取り出し…その刃を、アリサの胸元に当てる。
「な、何をする、つもりなの?」
拘束された状態で、刃を向けられたアリサは、焦りを現す。

「簡単なことです…貴方への拷問の準備です。」
そう淡々と答えたユキノは、躊躇うことなく…アリサの左の胸元を軽く傷付ける。

「っう…それは、何?」
刃による僅かな痛みに耐えたアリサは、ユキノが手にしているザクロの実に恐怖する。
「アリサさんと南花さんにとって、縁のある存在ですよ。」
そう答えたユキノは、ザクロの実を、アリサの胸元の傷口に当てる。

すると…血の匂いに反応したザクロの実は、次の瞬間…実が割れて見える無数の種の部分が、自我を得たかの様に、アリサの傷口を貪り始める。
「くぅう!…いやぁ!」
予期せぬ痛みにアリサが悲鳴を上げ、両腕を拘束する鎖が激しく音を立てる。

傷口からアリサの胸元に侵入した、ザクロの実は根を張り巡らせていく…
アリサは、うつ向きながら言葉にならない声を漏らしている。

「ふふ…良い声ね…お陰で新たな楽しみが増えたわね…」
自らも檻の中へ入ったメアリーは、アリサを拘束していた鉄の枷を外す。
鎖からは解放されたが、新たな枷に苦しむアリサは床に倒れ込む。

「はぁ…あなたの…悪趣味に付き合わされる…人間の事も、考えて欲しいわ…ッウ!」
何とか虚勢を張るアリサの顔に、ユキノの蹴りが入る。
「アリサさん、早く南花さん達の情報を渡した方が良いですよ…じゃないと…」
うずくまるアリサに視線を近付ける為に、しゃがみこんだユキノが続ける。

「侵食が進み過ぎると…あなた自身が、人型食虫植物ペルセフォネになってしまいますから。」
その言葉に対して、アリサは苦痛に耐えながら、南花達に関する情報を渡すまいと無言の姿勢を見せる。
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