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4章.モネータとハンムラビ
46『イスカリオテの夕席』
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帝国西圏側、第一騎士団の本拠地である聖堂にて、南花達は晩餐を開いている。
聖堂内に点在するシャンデリアの明かりを、最奥の壁にある多色なステンドグラスが反射し厳かな雰囲気を漂わせている…
ステンドグラスを中心にして、両側に長いテーブルが設けられている。
左側のテーブルに南花、アリサ、コマチ、サクラ、アオイが席についており…
右側のテーブルに団長であるヨハンナ、秘書であるハンムラビ、そして第一騎士団の団員3人が席についている。
「うわ…龍魚の刺身とウィスキーは合うね…」
ヨハンナは、白くて淡白な歯応えのある肉質を称賛する。
「そうですね…臭みもありませんし…」
同じく刺身を口にしたハンムラビが、続けて感想を述べる。
「そうですか…新鮮なので、お造りにした甲斐がありました。」
初めての珍食材を相手に模索した南花が、笑みを返す。
「この蒸したやつは、鶏肉に近い食感になるな…」
「それは、私が蒸し器で調理したやつです!」
コマチの感想に対して、アオイが自慢気な表情を見せる。
「この軟骨ごと揚げた天ぷらも、ご飯が進むね…アリサもそう思わない?」
「……ええ、そうね。」
問い掛けに対して、長い間の後に冷たく応えたアリサに、サクラは怪訝を示す。
淡々と黙々と食を進めるアリサに戸惑いつつも、南花がヨハンナへ話題を切り出す。
「ヨハンナさん…龍魚をさばいた結果、この懐中時計が出てきましたが…こちらで間違いないでしょうか?」
南花が差し出した懐中時計を、ヨハンナとハンムラビが確認する。
「ハンちゃん、これで間違いないかしら?」
「団長、わざとらしい問い掛けはよして下さい、木槌を加えますよ…そうですね、こちらで間違いないです。」
ヨハンナに木槌をちらつかせたハンムラビが頷く。
「いやぁ、ハンちゃんの制裁こわいよ~」
ヨハンナは、ハンムラビをからかいつつも…南花から【アトラの懐中時計】を受け取り、更に見つめる。
「そんなに制裁をご所望されるとは変態ですね!」
今度は、ハンムラビが木槌のみならず、トランプカードも取り出す。
2人の悪ふざけが展開されるなか、音を立ててアリサが唐突に立ち上がる…
その場にいる全て人間の視線が、アリサへ集まる。
そして…アリサは、単発式拳銃を構える…
その銃口は、ヨハンナへと向けられており…
ヨハンナがキョトンした表情を見せた瞬間…
一発の銃声が、聖堂内に高く響き渡る。
そして、見事に眉間を射貫かれたヨハンナは、そのまま後ろへと倒れこむ。
予期せぬ出来事に、南花達がフリーズするなか…
ハンムラビが一人だけ、即座に躊躇いも見せず、反撃を試みるが…
2丁目の拳銃である、回転式拳銃を取り出したアリサと相討ちとなり、二人は同時にその場に倒れる。
「えっ…アリサが、どうして?」
南花からシンプルな疑問がこぼれ落ちる。
「いやぁ…いや…」
そして、アオイが信じがたい現実に、戸惑い混じりの悲鳴を上げる。
奇想天外な事態に、聖堂内が支配されるなか…
いきなり開かれた扉が、その空気を一変させる。
「あぁ…間に合わなかったのね…」
わざとらしい言い方と共に、真っ先に姿を見せたのは、仮面を付けた小柄な女性である【六型憲兵】だった。
「おい…聖堂内にいた人間は、全員動くなよ。」
六型憲兵の次に入ってきた、仮面を付けた大柄の男【九型憲兵】が警告する。
そして、西圏側の秘密警察と銃声を聞いた第一騎士団の団員が、各数人ずつ雪崩れ込んでくる。
「おほん…何も知らないっていう表情をして、とぼけるつもりなのかな?」
六型憲兵が、全く要領を得ていない南花達へ歩み寄り、続ける。
「アリサ・クロウによる…第一騎士団の団長暗殺計画に加担しておきながら、それはないんじゃないの?」
「えっ…さっきから、何を言っているんですか?アリサがそんなことをする訳が…」
唐突な冤罪に、南花は狼狽する。
「いやいや…現にヨハンナ団長が、アリサ・クロウに撃たれて倒れているじゃん?」
「いえ…発砲音の後に、聖堂内に入室したにも関わらず、断定するには早すぎませんか?」
冷静さを何とか保とうとするサクラが、問い掛ける。
「だ・か・ら…ここで倒れている襲撃者の私室から、暗殺の計画書を見つけたから追いかけて来たけど…間に合わなかったっていう話なのよ。」
そう言った六型憲兵は、スーツの上着のポケットから、アリサの筆跡で書かれたと思われる書類を取り出す。
「いや…そんな話、アリサから一ミリも聞かされていないぞ!」
コマチも否定する。
「まぁ、何にせよ詳しい話は場所を変えて聞くから、抵抗して無駄にややこしくしないでよね…そ・れ・と…」
南花達の言い分を無視する小柄な憲兵は、話の主導権を譲るジェスチャーを見せる。
「おほん…私達は、そこに倒れているヨハンナ団長とハンムラビ秘書が、第四騎士団に所属していた【マリア・アッシリア】を教唆し、あなた…源南花さんの暗殺計画を実行させた容疑と…」
狼の仮面を付けた秘密警察の一人である女性の言葉に、南花は驚きを隠せない。
「帝国が管理するレバノン杉の森で警備に当たっていた、第一騎士団の団員20名の逃亡罪にも協力した容疑について、当人達を追及するつもりで訪れたのですが…」
その秘密警察は、ピクリともしない容疑者2人を交互に見る。
重々しい空気が、聖堂内のステンドグラスが割れることで一変する…
そのステンドグラスを割ったのは、一羽の孔雀だった。
硝子の破片と共に舞い降りた孔雀は、最も間近に立つ六型憲兵を警戒するかの様に、赤を基調した綺麗な羽を広げる。
「くそ、しまった!」
焦りを漏らした九型憲兵は、孔雀に向けて回転式拳銃を数発、発砲するが…
孔雀の元から勢いよく放たれた赤い羽根が、その銃弾を弾き無力化する。
次の瞬間…孔雀が羽を音を立てながら揺らすと、赤い煙幕が放出される。
そして、聖堂内は煙幕が充満し視界が奪われる。
「南花ちゃん達、こっちよ…ハンちゃん、最後尾は任せるから…」
「はい、了解しました。」
煙幕の中…現状に右往左往するだけの南花達は、倒れたはずのヨハンナとハンムラビの声に誘われる。
そして、煙幕が霧散する頃には…南花達は勿論のこと、地面に伏していた団長と秘書の姿が消えていた…
その代わりに、ヨハンナとハンムラビが倒れていた場所に、2枚の孔雀の羽根が落ちている。
「流石は、最も統括長に近いと言われる魔術師…ヨハンナ団長だな。」
一気に主導権を奪われた現実に対して、九型憲兵は呟くことしか出来ない。
「あぁ…逃がしちゃったかぁ…まぁ、良いか…当初の目的は達成出来たわけだし。」
さほど悔しさを感じさせない言葉を六型憲兵が発した直後…
ヨハンナとハンムラビを襲撃し、己自身も倒れたはずのアリサの体が…
砂上の楼閣の様に、サラサラっと崩れ消失する。
聖堂内に点在するシャンデリアの明かりを、最奥の壁にある多色なステンドグラスが反射し厳かな雰囲気を漂わせている…
ステンドグラスを中心にして、両側に長いテーブルが設けられている。
左側のテーブルに南花、アリサ、コマチ、サクラ、アオイが席についており…
右側のテーブルに団長であるヨハンナ、秘書であるハンムラビ、そして第一騎士団の団員3人が席についている。
「うわ…龍魚の刺身とウィスキーは合うね…」
ヨハンナは、白くて淡白な歯応えのある肉質を称賛する。
「そうですね…臭みもありませんし…」
同じく刺身を口にしたハンムラビが、続けて感想を述べる。
「そうですか…新鮮なので、お造りにした甲斐がありました。」
初めての珍食材を相手に模索した南花が、笑みを返す。
「この蒸したやつは、鶏肉に近い食感になるな…」
「それは、私が蒸し器で調理したやつです!」
コマチの感想に対して、アオイが自慢気な表情を見せる。
「この軟骨ごと揚げた天ぷらも、ご飯が進むね…アリサもそう思わない?」
「……ええ、そうね。」
問い掛けに対して、長い間の後に冷たく応えたアリサに、サクラは怪訝を示す。
淡々と黙々と食を進めるアリサに戸惑いつつも、南花がヨハンナへ話題を切り出す。
「ヨハンナさん…龍魚をさばいた結果、この懐中時計が出てきましたが…こちらで間違いないでしょうか?」
南花が差し出した懐中時計を、ヨハンナとハンムラビが確認する。
「ハンちゃん、これで間違いないかしら?」
「団長、わざとらしい問い掛けはよして下さい、木槌を加えますよ…そうですね、こちらで間違いないです。」
ヨハンナに木槌をちらつかせたハンムラビが頷く。
「いやぁ、ハンちゃんの制裁こわいよ~」
ヨハンナは、ハンムラビをからかいつつも…南花から【アトラの懐中時計】を受け取り、更に見つめる。
「そんなに制裁をご所望されるとは変態ですね!」
今度は、ハンムラビが木槌のみならず、トランプカードも取り出す。
2人の悪ふざけが展開されるなか、音を立ててアリサが唐突に立ち上がる…
その場にいる全て人間の視線が、アリサへ集まる。
そして…アリサは、単発式拳銃を構える…
その銃口は、ヨハンナへと向けられており…
ヨハンナがキョトンした表情を見せた瞬間…
一発の銃声が、聖堂内に高く響き渡る。
そして、見事に眉間を射貫かれたヨハンナは、そのまま後ろへと倒れこむ。
予期せぬ出来事に、南花達がフリーズするなか…
ハンムラビが一人だけ、即座に躊躇いも見せず、反撃を試みるが…
2丁目の拳銃である、回転式拳銃を取り出したアリサと相討ちとなり、二人は同時にその場に倒れる。
「えっ…アリサが、どうして?」
南花からシンプルな疑問がこぼれ落ちる。
「いやぁ…いや…」
そして、アオイが信じがたい現実に、戸惑い混じりの悲鳴を上げる。
奇想天外な事態に、聖堂内が支配されるなか…
いきなり開かれた扉が、その空気を一変させる。
「あぁ…間に合わなかったのね…」
わざとらしい言い方と共に、真っ先に姿を見せたのは、仮面を付けた小柄な女性である【六型憲兵】だった。
「おい…聖堂内にいた人間は、全員動くなよ。」
六型憲兵の次に入ってきた、仮面を付けた大柄の男【九型憲兵】が警告する。
そして、西圏側の秘密警察と銃声を聞いた第一騎士団の団員が、各数人ずつ雪崩れ込んでくる。
「おほん…何も知らないっていう表情をして、とぼけるつもりなのかな?」
六型憲兵が、全く要領を得ていない南花達へ歩み寄り、続ける。
「アリサ・クロウによる…第一騎士団の団長暗殺計画に加担しておきながら、それはないんじゃないの?」
「えっ…さっきから、何を言っているんですか?アリサがそんなことをする訳が…」
唐突な冤罪に、南花は狼狽する。
「いやいや…現にヨハンナ団長が、アリサ・クロウに撃たれて倒れているじゃん?」
「いえ…発砲音の後に、聖堂内に入室したにも関わらず、断定するには早すぎませんか?」
冷静さを何とか保とうとするサクラが、問い掛ける。
「だ・か・ら…ここで倒れている襲撃者の私室から、暗殺の計画書を見つけたから追いかけて来たけど…間に合わなかったっていう話なのよ。」
そう言った六型憲兵は、スーツの上着のポケットから、アリサの筆跡で書かれたと思われる書類を取り出す。
「いや…そんな話、アリサから一ミリも聞かされていないぞ!」
コマチも否定する。
「まぁ、何にせよ詳しい話は場所を変えて聞くから、抵抗して無駄にややこしくしないでよね…そ・れ・と…」
南花達の言い分を無視する小柄な憲兵は、話の主導権を譲るジェスチャーを見せる。
「おほん…私達は、そこに倒れているヨハンナ団長とハンムラビ秘書が、第四騎士団に所属していた【マリア・アッシリア】を教唆し、あなた…源南花さんの暗殺計画を実行させた容疑と…」
狼の仮面を付けた秘密警察の一人である女性の言葉に、南花は驚きを隠せない。
「帝国が管理するレバノン杉の森で警備に当たっていた、第一騎士団の団員20名の逃亡罪にも協力した容疑について、当人達を追及するつもりで訪れたのですが…」
その秘密警察は、ピクリともしない容疑者2人を交互に見る。
重々しい空気が、聖堂内のステンドグラスが割れることで一変する…
そのステンドグラスを割ったのは、一羽の孔雀だった。
硝子の破片と共に舞い降りた孔雀は、最も間近に立つ六型憲兵を警戒するかの様に、赤を基調した綺麗な羽を広げる。
「くそ、しまった!」
焦りを漏らした九型憲兵は、孔雀に向けて回転式拳銃を数発、発砲するが…
孔雀の元から勢いよく放たれた赤い羽根が、その銃弾を弾き無力化する。
次の瞬間…孔雀が羽を音を立てながら揺らすと、赤い煙幕が放出される。
そして、聖堂内は煙幕が充満し視界が奪われる。
「南花ちゃん達、こっちよ…ハンちゃん、最後尾は任せるから…」
「はい、了解しました。」
煙幕の中…現状に右往左往するだけの南花達は、倒れたはずのヨハンナとハンムラビの声に誘われる。
そして、煙幕が霧散する頃には…南花達は勿論のこと、地面に伏していた団長と秘書の姿が消えていた…
その代わりに、ヨハンナとハンムラビが倒れていた場所に、2枚の孔雀の羽根が落ちている。
「流石は、最も統括長に近いと言われる魔術師…ヨハンナ団長だな。」
一気に主導権を奪われた現実に対して、九型憲兵は呟くことしか出来ない。
「あぁ…逃がしちゃったかぁ…まぁ、良いか…当初の目的は達成出来たわけだし。」
さほど悔しさを感じさせない言葉を六型憲兵が発した直後…
ヨハンナとハンムラビを襲撃し、己自身も倒れたはずのアリサの体が…
砂上の楼閣の様に、サラサラっと崩れ消失する。
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