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3章.無神格と魔女の血

34『ドッピオとギルガメッシュ』

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 首都機関【バベルの塔】の下階、技術開発局の作業室にて…
技術開発局の局長ギークであるエンキと職員として南花達5人が対峙している。

「ふぅん…なるほどね、複数の孤児院への炊き出しの為に、首都機関所有のトラックを貸して欲しいという訳か…」
椅子の背もたれに寄り掛かったエンキは、眠たそうにあくびをしつつ…南花達が提出した作業計画書に目を通している。

「はい、ギルタブリル討伐の際の副産物である、老白ヘンウェンの猪肉を加工したソーセージもまだ大量に余っていますし…駄目でしょうか?」
南花が代表して応える。

「一つ良いかい?何で、東圏側A区の孤児院を集中的に訪問する予定なんだい?」
徹夜明けの頭に糖分補給させる為に、カフェラテを一口飲んだエンキが指摘する。

「それはですね…日頃、接することが少ないA区の国民の方達とも交流することで、新たな意見が得られるのではないかと思いまして。」
一瞬、言葉に詰まりながらもアリサが応える。

「ふぅん…サクラ君、コマチ君、アオイ君の出身地の村もあるB区を巡回した方が、地域貢献の感じが出ると思うのだけれどねえ?」
炊き出しはお表向きの口実で、何か別の狙いがあるのでは?っと執拗に疑いを掛けるエンキ。

「確かにエンキ局長のご意見にも一理あるとは思いますが…」
サクラが、言葉選びに慎重になっていると…
作業室の扉が勢い良く開き、空気が変わる。

「エンキ、ようやく見つけたぞ。」
「おやおや、これは、24時間年中無休の【残業王】じゃないか…どうしたんだい?」
東圏側A区の統括長であり、首都機関の長でもある【ギルガメッシュ】がズカズカとエンキに迫る。

「いつになく、忙しいオーラ全開だね…糖分が足りていないんじゃないかい?チョコでも食べて落ち着きなよ。」
「そうだな、助かる…そうではなくてだな…」
エンキから受け取った板チョコを、ひとかじりしたギルガメッシュは本題を切り出す。

「ザグロス山脈の鉱山としての開発計画書は、いつになったら提出してくれるんだ?」
「あぁ…その件かい…そうだねぇ、あと一週間は欲しいかな?」

「はぁ、またか…あと一週間しか待たないからな?良いな?」
露骨にヤバいっという表情を見せるエンキに対して、帝国のトップ【ギルガメッシュ】は、ため息をつく。

隣に立つ南花達に気が付いた、ギルガメッシュが声を掛ける。
「討伐作戦での働き見事だった!面と向かって直接、礼を伝えていなかったからな、改めて感謝する。」
首都機関長からの激励に対して、5人は敬礼する。

「ありがとうございます。ギルガメッシュ王、少しお時間よろしいでしょうか?」
「俺を王と呼ぶのは、よしてくれ…確かフェルムの娘、アリサだったな?どうした?」
アリサからの質疑にギルガメッシュは足を止める。

「討伐作戦での副産物を利用した、A区内の孤児院への炊き出しを計画しているのですが…是非ともギルガメッシュ【統括長】にも一読して頂けたらと思いまして…」

「ほう…俺の統括地域に対するボランティアか…エンキ、見せてくれ。」
首都機関長ではなく、敢えて統括長としての立場を強調したアリサの狙い通りに、ギルガメッシュは南花達の計画書に興味を示す。

「首都機関の一員として、利益を帝国全体に分配し、【権利ノブレス責務オブリージュ】を果たす事が狙いか…」
ざっと計画書を読むギルガメッシュの眼が、その一文に止まる。

「エンキ、許可してやれ。その見返りとして、鉱山の開発計画書の提出期限を10日後まで延長してやる。」
ありがとうございます!っと頭を下げる南花達5人よりも、ガッツポーズをするエンキの方が目立つ。

「それでは、早速、準備に取り掛かる為にも失礼致します。」
言葉を発した南花に続いて、他の4人も軽く頭を下げ退室していく…
そして、ガチャリ…っと扉が閉まった音を聞いた、エンキが口を開く。

「あんな、他の狙いが見え見えな計画を通して、本当に良かったのかい?【王様】?」
クックク…っと短くエンキは笑いつつ、珈琲ドッピオが入ったマグカップを、ギルガメッシュに手渡す。

「あぁ…10年前から、アヌの使徒である【アトラ】によって導かれたとは言え、民意の一つなのであるならば…首都機関長として耳を傾けるしかないであろう。」
受け取った珈琲ドッピオを飲んだギルガメッシュが続ける。

「それが、王としての【権利ノブレス責務オブリージュ】を与えられた者の使命であり、民主主義であると【親友アイツ】と約束をしたからな…それにしても、この珈琲、苦すぎるな…」
「ふっ…珈琲とは、そういうものだよ。」

珈琲を飲み干した2人の統括長ドミニウムは、仕事に戻る。
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