バビロニア・オブ・リビルド『産業革命以降も、神と科学が併存する帝国への彼女達の再構築計画』【完結】

蒼伊シヲン

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3章.無神格と魔女の血

32『レモネードと硝子職人』

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 南花達5人は、東圏側B区内を走る蒸気機関車に揺られている…
目的地は、東圏側B区の最果て…城壁付近にあるサクラ、コマチ、アオイの出身地のレンガ作りが主な産業の村である。

「それにしても…私達の技術者としての知見を広めたいと言う理由で、エンキ局長が自由行動を許可してくれるなんてね…」
機関車内のボックス席に座る南花が、不思議に思う。

「うん…冥界に行った上に、帝国憲兵の秘密の断片にも触れてしまった状態なのにね。」
肯定したサクラは、自分達の立ち位置を客観的に説明する。

「そうね、私達を拘束するのは容易いと言うことだけれども…エンキ局長的に表現するなら『それでは、面白くない』と言った所感なのでしょう…きっとね…」
泳がされているだけだと推測するアリサ。

「それじゃあ、他の統括長ドミニウムだったら行動を制限されてたってことですか?」
窓際で景色を見ていたアオイが、アリサの方に視線を向ける。

「恐らくね…あの夜、パネトーネさんが持っていた、サクラたちのチョーカーの魔術書を発砲事件に関する証拠という名目で兵士たちが回収していたけれど…」
アリサが、更に言葉を紡ごうとするが…

「常にどうとでも出来るぞっと言う脅しだろうな。」
珍しく鋭い視線を放つ、コマチが応える。
その言葉に、サクラとアオイは無言で頷く。

ボックス席に張り詰めた空気を、間もなく5人の目的の駅に停車する事を知らせる汽笛が破る。

ーーー

機関車を降りた南花達は、10年前にサクラ、コマチ、アオイ…そして、【ユキノ】が孤児になるきっかけとなった、事件当時に関する情報を求めて…
事件直後に、サクラ達が保護されていた教会に辿り着いたのだが…

「嘘でしょ…」
そう悲しみを呟いたサクラの眼前には、信仰を失い、人の気配が感じられない、廃れ朽ちた教会が佇んでいる…

ユキノの行方を追う上で有力な候補を失った5人を、嘲笑うかのようにカラスが鳴いていると…
そこに、箒とバケツを持った初老の男性が訪れる。

「すいません。この教会は、何時からこの状態なのですか?」
アオイが、男性に問い掛ける。

「あぁ…確か5年前位からかな…ならず者達がゴミを捨てていくんでね、出来る範囲で私が掃除をしているのだけれど…」
昔を思い出すかの様に、古びた教会を見上げた男性が続ける。

「所々、崩れかけているし…近々、取り壊すことが決まっているんだよ。」
そう告げた男性は、日頃、村では見かけない南花達に、怪訝を表す。

「そ、そうですか…ありがとうございます。」
咄嗟にアリサが応え、5人は来た道を引き返す。

ーーー

季節外れの暑さの中…最初の有力候補が完全に空振りに終わってしまった南花達は、河辺に架かる石橋で一休みしながら…次の候補を話し合う。

「うーん…私達の家周辺は、あの日の大雨で流されて無くなっているし…」
アオイは、石橋の塀にもたれながら、頭を悩ます。

「私達が小さい頃の行きつけだった食堂も、別の町に移転してたしな…」
コマチはノスタルジックに浸りつつ、別の候補を模索する。

「やはり、通っていた小学校かしらね…お世話になっていた先生が今も残っていることに掛けるしかないか…」
額から落ちそうになる汗を、サクラはハンカチで拭う。

幼い頃に慣れ親しんだ状態とは異なる村に、サクラ達が戸惑いを抱いていると…

「あれ?その声…もしかして、サクラちゃん?」
カラン…っと瓶の窪みにあるビー玉を鳴らしながら、レモネードを飲む中性的な女性が、話しかけてくる。

「えっと…すいません、どなたですか?」
記憶の中から、眼前の女性に関する記憶を思い出せないサクラが問い掛ける。

「ありゃ?覚えてくれてない?ユキノと友達だった【葉月きりこ】だよ!」
南花達より少し年上の短髪の女性は、微笑み更にボーイッシュな雰囲気を放つ。

「あっ…あぁ!きりこさん!」
思い出したサクラは、思わずポンっと手を叩く。
「私も思い出したぞ、でも…大分と会っていないのに、良く私達に気付けたな…」
コマチが感心する。

「まぁね、耳が覚えていたから…硝子職人として売りになる、この耳がね!」
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