バビロニア・オブ・リビルド『産業革命以降も、神と科学が併存する帝国への彼女達の再構築計画』【完結】

蒼伊シヲン

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序章-曇天の誕生日-

05『2人のガンナーと柘榴』

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 大木の下で雨宿りしている南花とアリサ。
南花の痺れが完全に解けるのを待っている…

「そのロングコートの女性、私の前に現れた人と同じかもしれない…」
「えぇ…今、私達がいる山は、帝国南部の西圏側と東圏側の境界線上に位置しているものね。」

ロングコートの女は、先に南花の前に現れ…
その後に、川の上流を目指し、自身の目の前にも現れた可能性をアリサが示唆する。

雨だけではなく、風も勢いが増していることを森の茂みが伝える。
茂みの方を凝視しながら、アリサが神妙な面持ちで口を開く…

「ねぇ…こんな近くに柘榴の木なんてあったかしら?」
「えっ?」
南花が、アリサの視線と同じ方角を見ると、二人よりも若干、背が高い柘榴の木が複数ある。
その木々には、赤く熟した果実が成っている…

「南花、柘榴の木に背を向けて…」
うん…と返事した南花は嫌な予感を抱きながらアリサの言うことを聞く。

すると、ザッ…ザザッと引きずる様な音と共に、何かが近づいてくる。
嫌な予感が確信へと変わった南花が、急に振り向き…
回転式拳銃リボルバーへと手を掛け、柘榴の木になる実を狙い発砲する。

放った銃弾は、見事に柘榴の実の外皮に命中するが…
その外皮は鉄の様に固く、銃弾は弾かれる。
「貫通しなかったか…」
苦い顔をする南花を、嘲笑うかのように、女性の甲高い笑い声が何処からか聴こえてくる。

その嘲笑は、柘榴の木から聞こえてくる。
そして、柘榴の木の幹は植物的な流線から、女性のくびれの様なラインへと変形し…
柘榴の果実は、人間の頭に該当する位置へと移動する。

「これは、人型食虫植物ペルセフォネ彼女マリアの血の匂いに気付いたみたいね。」
過去の大戦時、召還術によって製造された生物が、野生化し増殖した存在…
アリサが、茂みの後ろに視線を向けると、更にゾロゾロとやって来ているのが見える。

「南花、散弾銃を貸してくれるかしら?」
「良いけど…ペルセフォネにも有効なスラッグ弾の数は少ないから気をつけてね。」
南花が上下二連式散弾銃と実弾を手渡す。

「大丈夫。全弾、命中させるから問題ないわ。」
「ふ~ん、それじゃあ、士官学校の首席さんのお手並みを拝見させて貰うね。」
お互いに不敵な笑みを見せ、銃口を人型食虫植物ペルセフォネへと向ける。

熟れて割れた柘榴の実の様な口から、唾液を垂れ流しながら一体のペルセフォネが、距離が近いアリサへと飛び掛かる。
その、ペルセフォネの歯は、柘榴の果肉の様に大量に生えている。

アリサは、その不気味さに臆することなく狙いを定め、引き金を引く。
そして、放たれた弾丸は、頭部の内側である露出した歯の部分を見事に捉え…
血のように赤い果肉を撒き散らしながら、ペルセフォネは倒れる。

「おぉ、流石…」
短い言葉で相方の射撃の腕を賞賛しつつ、南花も自身へと迫りくる化物に狙いを定めて撃つ。

すると、右膝辺りに弾丸を食らったペルセフォネは、バランスを崩し膝を着く。
そこに、すかさず南花は2発目を放ち、化物の頭部を飛散させる。

アリサの元に新たなペルセフォネが立ち塞がる。
その一体は、噛み付こうとはせず、鞭の様にしなる右腕で標的へと一撃を加えようとするが…

その一撃は難なく回避された上に、アリサによって鞭と化した右腕を撃ち落とされてしまう。
右腕を撃たれ、女性の様な声で怯むペルセフォネ…

アリサは、その隙に散弾銃から空薬莢を排出し新たなスラッグ弾を装填すると、怯んでいる化物の頭部を撃つ。
しかし、背後から噛み付こうとしている新手の存在に気付いていないアリサ。

その窮地を、南花の回転式拳銃リボルバーが放つ、弾丸が救う。

背後でバタンと倒れ、痙攣しているペルセフォネに視線を向けるアリサは、危なかった…という表情を見せ…
「南花、助かったわ…」
そのピンチを回避してくれた相方へ感謝する。

「それにしても、多すぎじゃない?」
「神格を持つ存在の中でも、エルフの血は特に匂う上に、希少性が高いから余計に群がっているのかもしれないわね…」
ため息混じりの南花の問いかけに対して、冷静に状況を判断するアリサの視線は、まだまだゾロゾロとやって来るペルセフォネ達を捉えている。

銃声の度に、二人の足元に空薬莢が散らばっていく…
そして、必然だが…二人が所持する残弾数も減っていく。
「くっ、このままでは…ジリ貧ね。」
撤退の決断を迫られるアリサではあるが、一つネックがある。

「撤退しないと不味いけど…それじゃあ、マリアの遺体を回収した状態で弔ってあげられない。」
南花も現状のままだと、鯔のつまり、全滅してしまうことは頭では理解しているが、心が足枷になっている。

「南花の気持ちは分かるけれど、彼女の個人識別標ドッグタグだけを回収するほかないわ。」
「う、うん…そうだよね。」
南花は、悔しい気持ちを抑えつつ、マリアの首もとで光る個人識別標を回収しようと手を伸ばすが…

ペルセフォネが、その隙を突いてくる。
化物は、口の中にびっしりとある、種のような歯を南花に向けて、勢いよく放つ。
放たれた赤い種は、弾丸の様な速さで、南花の左の太ももに着弾する。
「っう!しまった…」
小さな焼け石を押し付けられた様な痛みに襲われる。

「南花!っあ!?」
目の前で苦しむ相方に気を取られ、自分へと放たれた赤い弾丸への対処が遅れ…
アリサは、右腕を撃たれた衝撃で、散弾銃を手放してしまう。

アリサは痛みに耐えながら、散弾銃を拾おうと駆け出すが、ペルセフォネの鞭が逃さない。鞭による、素早い一撃を背中に受けたアリサは、短い悲鳴を上げた後に、その場で倒れてしまう。

「アリサまで死なせない…」
南花の太ももに着弾した種は、血を吸い、まるで根を伸ばすかのように侵食していく…

その痛みが、南花の照準を狂わせる。
ペルセフォネの弱点である、頭部の内側を狙ったはずの銃弾は、外皮によって弾かれてしまう…

「そんな…」
痛みと恐怖から来る焦りで、装填しようとした、回転式拳銃リボルバーの最後の弾丸5発すべてを落としてしまい絶望する南花。

そして、数体のペルセフォネは甲高い笑い声を上げながら、鞭による攻撃でアリサの命が、いつ終わりを迎えるのかいたぶる。

二人の心が絶望によって染まっていく…

絶望の空気は、唐突に這ってきた凍てつく冷気によって一転する。
その冷気を帯びた複数の矢に襲われたペルセフォネ達は、急速に乾き凍りつく…

「南花君、ここに居たのか…それに、どうしてここにアリサが?」
ペルセフォネ達を一掃したのは、ダージリンが弓矢に付与して放った氷魔術だった…

そして、ダージリンの他にも、グレイや第四騎士団の団員数人が、南花とアリサの目の前に現れる。

その場にいたペルセフォネの大半が、ダージリンの一撃で木っ端微塵になり…
その様に、怖じ気づいた敵の残党は敗走する。

「あっ、兄さん…良かった…助かった。」
全身に浅い切り傷を負ったアリサは、第四騎士団の団長であり、自身にとって異父兄妹に当たる兄の姿を見て、安堵したのかの様に気を失う。

「ダージリン団長の妹のアリサとの出会いがこんな状況って…どんな確率なの…」
南花は全身の痛みに耐えながら、たった半日でコロコロと変化した現実に苦笑するしかない…

錬金術師であり衛生兵ヒーラーとして同行した、グレイは、まずアリサへの応急手当を始める。
「ラピスラズリの指輪パルスよ、私の神格に応えなさい。」
その言葉に反応した、グレイの右手の人差し指にある指輪が淡く発光し…
淡い光はアリサの全身を閉じ込め、傷と毒の症状を緩和させていく。

そして、アリサを閉じ込めた淡い光は、結晶化し浮遊する担架へと変わる。

「南花さん。これを飲んで、ペルセフォネの毒を中和する助けになるわ。」
アリサの治療を終えたグレイは、南花の元に駆け寄り、南花の侵食された太ももを見るや、数種類の薬草由来の薬が入った小瓶を渡す。

「はい、ありがとうございます。」
小瓶を受け取った南花は、明らかに苦そうな色に対して一瞬躊躇いを見せるが、背に腹は変えられないっと一気に飲み干すが…
ウプって、吐き気を催すものの我慢する。

「南花さんも辛いでしょうから、担架に乗りなさい。」
「はい。グレイさん助かります。」
南花が瑠璃色の担架に腰を掛けると、担架は浮遊し、アリサの後方へと移動する。
二人の治療を終えたグレイは、マリアに近付くと膝を付き、祷りを捧げる。

そして、マリアが納められた瑠璃色の棺は、南花の担架の後ろへ位置を付ける。

「それでは、帰還する。」
ダージリンの短い号令の後、救出部隊は、隊列を組み移動を開始する。

移動に合わせて上下する担架…
揺られる南花は、前方のアリサ、後方の棺、小雨の降る空の順に見つめ、嘆く。
「なに、この歪に傾いた世界…」
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