上 下
26 / 29
三章-長崎・ベースメント-

21『天丼のマキナ』

しおりを挟む
 首都の空軍基地の宿舎にて、テフナを中心に藤原研究所の戦マキナの少女達が夕食の時間を迎えようとしている…

二口あるコンロの内、一つには深い鍋に黄金色の油が加熱されており…
もう片方のコンロでは、土鍋が加熱されていて、赤子が泣いている。

「熱いから気を付けて入れてね。」
テフナの注意に対して小柄な戦マキナ葵が頷く。
その葵の前には…牛海老ブラックタイガー、鱒の白身、しし唐辛子、椎茸、蓮根が小麦の衣を纏った状態で並んでいる。

「よし…牛海老ブラックタイガーから入れるよ…」
葵が牛海老を恐る恐る油の中へ入れるが…食材の水分がバチバチ!っと沸騰し…
思わず、短い驚きの声を上げる。

その葵の様子を、背後から小町が思わず笑いを漏らす。

「こ、小町…また見にきたの!まだ出来ていないから向こうに行ってよね!」
照れ隠しに葵が、小町を追い返す。

「そうか…まだか…」
腹の虫を鳴らしながら小町は、踵を返し…トボトボっと戻っていく。

「っふ、ふふ…これが天丼ね。」
幼い頃の記憶を思い出しながら、テフナが微笑む。
「(うん?天丼…どういうわけ?)」
クローンとして生を受けて間もない葵は、理解が出来ずに首を傾げる。

空腹に苛まれる小町がシュン…っとしながら隣の部屋に戻ると…
そこには、空軍の戦マキナ達の責任者であるユキノが、試作型の桜と会話をしている。

「なるほど…三週間での雷クモの討伐数は…桜が18体、テフナ君が15体か…」
テフナが首都へ出向してから現在までの報告書に目を通しながら、ユキノはカフェラテを飲む。

「はい…直近の1ヶ月で雷クモ達の動きが活発になっているように感じますが…赤坂村の【大枝イブキ】の自宅に残された手記にあった【松尾】と呼ばれる人物が関与しているのでしょうか?」
ユキノの正面に座る、桜が問い掛ける。

「う~ん、どうだろう…松尾がどういう人物かも把握出来ていないし…」
ユキノは少しの間の後に、否定する。

そうこうしていると…出来上がった天丼を持った、テフナと葵が現れる。

「さぁ、食べるぞ!」
待ちに待った小町の口元から、よだれが溢れている。

全員が夕食の席に座った事を確認した、ユキノが頂きますっと食事の合図をする。

「天丼か…初めて食べるなぁ…」
ユキノが慎重に言葉を選ぶ。

「海老にこんな食べ方があったとはなぁ…」
小町が程よく火が通った海老に好感触を示す。

「私は白身が好きかな…」
葵がホクホクな鱒の白身と共にタレが染み込んだご飯を食べる。
「椎茸もなかなか…」
桜は椎茸の旨味にハマる。

「久しぶりに作ってみたけど…上手くいったみたいで良かった。」
そう安堵したテフナは、獅子唐を口に運ぶ。

楽しい食事の時間が進むなか…ユキノが藤原研究所の局長としての言葉を述べる。

「テフナ君、葵…長崎へ赴く許可は出したけど…それを良く思わない人間もいるだろうから気を付けて。」
いつもの気だるげな雰囲気とは打って代わり、ユキノの語気は厳しい。

「はい…雷クモが初めて観測された地であって、出くわす雷クモも強いと聞くので用心します。」
応じるテフナの隣で、天丼を頬張る葵は無言で首を縦に振る。

「隙あり!」
そう言い放った小町が、葵の丼から海老をかっさらう。
「ちょっと!小町、最後の楽しみに取っていたのに!返してよ!」
小町の語気が強くなる。

「世界は弱肉定食だからな!諦めろ、葵。」
そうドヤ顔を見せる小町の口元では、海老の尻尾だけが出ている。
「はぁ…小町、それは弱肉強食の間違いよ。」
桜がため息混じりに突っ込むと、テフナやユキノが微笑む。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro
キャラ文芸
 『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。  しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。  登場する艦艇はなんと58隻!(2024/12/30時点)(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。  ――――――――――  ●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。  ●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。かなりGLなので、もちろんがっつり性描写はないですが、苦手な方はダメかもしれません。  ●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。  ●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。またお気に入りや感想などよろしくお願いします。  毎日一話投稿します。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

処理中です...