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Intermezzo-間章-

間章-桜の汽車道中記-

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 赤坂村での事件から数日後…首都にある空軍管轄の施設『藤原研究所』内の自身の事務室へと帰還した、研究者である【藤原ユキノ】は作業机の椅子に腰を掛け、珈琲を一口飲む。

研究所の所長であるユキノの事務室内には…無造作に積まれホコリを被った書物、十数匹の小魚と小型のエビが同居する球体水槽アクアリウム、一度切断され縫合の跡がある蛹が数匹入っている虫籠が混在している。

そして、ユキノは眼前に立つクローンの少女であり、戦マキナの試作型【桜】がタイプライターで打った報告書に目を通している。

「ふぅ~ん…赤坂村へと向かう汽車の中で出会った自称私の知り合いの錬金術師から、このブリキ缶に入ったキャラメルを貰ったわけか…」
何故か不機嫌なユキノは、桜から受け取ったそのキャラメルを一つ頬張る。

「はい…その女性と博士は知り合いなんですか?でも…錬金術師とは言ってなかったような…」
桜も同じキャラメルを口にしながら、その汽車内でのやりとりを思い出す…

ーーー

赤坂村へ向かうために乗った蒸気機関車の三等客車のボックス席に座る桜は、首を傾げている…

「(このお菓子のどのへんが…シベリアなの?)」
不思議そうな顔を見せる桜の右手には、駅の売店で好奇心の赴くままに買った、カステラの間に小豆餡と羊羮が挟んだ形の菓子シベリアが握られている…

「(これがシベリアの味なの?)」
腑に落ちない表情を浮かべながら黙々と菓子シベリアを、3個4個…っと食べ終わった桜は、空になった菓子箱を座るボックス席の窓から投げ捨てるが…

走る汽車が発する風圧に押し返された空箱が、車内へと勢いよく戻って来る。

そして、その空箱が向かう先には、桜が気付かない内に相席していた西洋風の装いの貴婦人が座って読者をしている。

「あっ!あぶ…」
桜が危険を知らせようとするが、間に合わなかった…しかし、読者に集中する貴婦人は、本に視線を向けたまま…左手で瞬時に空箱を掴む。

「えっ!?…あっ、ごめんなさい、大丈夫ですか?」
その様に目が点になった桜は、我に帰り謝る。

「はい、気にしなくても大丈夫ですよ…その御菓子シベリアの名前の由来は、雪原を走るシベリア鉄道から来てる説や戦争中にシベリアの地でよく食べられていたとか…ないとか…」
見た目に反して飄々とした明るい声で答えた貴婦人が桜の方を見る…その貴婦人は右目が隠れる程に、つばの広い帽子を斜めに深々と被っている。

「そうなんですね…どちらの国からいらしたのですか?」
抱いていた疑問に対してある程度の答えを得られた桜が問い掛ける。

「そうだな…どこから来たって言えば良いのかな…まぁ【イタリ】の地から来たっていうことにしておこうかな。」
そう貴婦人がのらりくらりと返事をしている所へ、車内販売の女性が二人が座るボックス席へと近付いてくる。

「良かったら、あなたも食べる?」
その貴婦人が、車内販売の女性へと声を掛けて購入した2つの白桃のうち一つを桜へ差し出す。

「いえ、桃はあまり好きではないので、お気持ちだけ貰っておきます。(戦マキナである私は、桃を食べてはいけないって博士から言われてるし)」
少しあたふたする桜の様子に対して、貴婦人は左手で深く被っている帽子を持ち上げ、左目の視界を更に確保した上で凝視する。

その左目は僅かに瑠璃色の炎の様に輝き…帽子全体が持ち上がった事で、眼帯に覆われた右目部分も露になる。

「昔、見覚えのある女の子の一人に似てるなっと思って声を掛けてみたけど…そういうことか…紅茶よりも珈琲派の科学者ギークさんの知り合いだったのか…」
合点がいった貴婦人が微かに笑う。

「えっ、藤原博士と面識のある方でしたか…この汽車は下りなので、首都にいる博士と会う為には乗り換えないといけないですよ。」
桜が親切心から、貴婦人に対して諭す。

「ふっ…この国でもねぇ…あぁ、別にアナタのところの博士に会いに来た訳では無いから大丈夫。」
そう不敵な笑みを浮かべた貴婦人は、右手に持っている白桃をかじるかと思いきや…蛇の様に一つ、二つと軽快に丸のみする。

そして、ビックリする桜を他所に、白桃の種をちり紙に吐き出したついでに口元を拭き取る。

「それでは、どうして日本を訪れたのですか?」
落ち着きを取り戻した桜が問い掛ける。
「う~ん、そうだな…この国の未来…」
一瞬、考える素振りを見せた貴婦人が続ける。

「この国が歩む、滅びへの道を確めに来た…とでも言っておこうか…」
そう言葉のトーンを下げた貴婦人の左目は、またしても瑠璃色に輝いている。

「滅びる?…それは雷クモによって?…それとも、別の要因でですか?」
貴婦人の雰囲気が一変したこともあり、桜も真剣に返事をする。

「まぁ…そのうち、分かると思うよ…取り敢えず風変わりな貴方にとって役立つアイテムを渡しておこうかな。」
そう告げた貴婦人は、幾何学的な華の模様が刺繍されたトランクを開けて探り…キャラメルを桜へと差し出す。

ーーー

「あの変人が発明したお菓子にしては、なかなか美味しいじゃない…」
桜の報告書を読み終えたユキノは、不服そうな表情を見せながらも口の中でキャラメルを転がす。

「はい、そうですね…赤坂村での一件の際に源坂さんにも食べて貰いましたが、あまり好みではないと言っていましたね。」
同じく口の中でキャラメルを転がす桜が答える。

「まぁ、好みは人それぞれだからね。それよりも、気乗りはしないけど…戦マキナへの回復効果が見込めるのなら、このキャラメルを解析して各戦マキナへ持たせるしかないねぇ…」
そう考えを述べたユキノは、『守ヶ永もるがな・賢者乃キャラメル』と商品名が記載されているブリキ缶に対して、右手でデコピンを加える。

ユキノが再び珈琲を飲み、口の中の甘みを緩和していると…扉を強くノックする音が事務室内に響く。
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