ハイカラ・オブ・リビルド『雷クモと乙女たちのモダン戦記』

蒼伊シヲン

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序章-赤坂村のベッコウ師-

10『西方のピルグリム』

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 雷クモによる被害が沈静化した赤坂村の公園には3機の輸送ヘリが着陸しており、その隣には空軍のテントが幾つも設置されている。
そのテントの一つの中に、テフナと戦マキナの一人である桜が、対角線上に置かれた椅子に腰を掛けている。

そして、2人の狭間には黒い棺の様な冷蔵の保存装置が鎮座しており…その中には、意識を失ったレイが拘束されている。

「どうなるんだろ…レイも…この村も…」
放課後まで普通に会話を交わしていた筈のレイの様子を、保存装置にある小さなガラス越しに覗き込む。

そうテフナが不安の言葉を漏らした直後、テントの入り口が開き…白衣に白色のアンダーリムの眼鏡を掛けた女性、そして、桜と同様のセーラー服を着た小柄な短髪の少女が入って来る。

白衣の女性とセーラー服の少女は、桜の隣に立ち、テフナの方を改めて見る。

「赤坂村の役所の方達と今後の対応について話していて、すっかり挨拶が遅れてしまいましたね…私は、帝国空軍所属の『藤原研究所』で所長を務める【藤原ユキノ】と言います。」
ユキノと名乗った女性の髪は肩まで伸び毛先に掛けて緩くウェーブしており、語気は柔らかくも、その目元からは微かに鋭さを感じさせる。

「桜ちゃんから聞いてると思うけど、私は偵察・探知に特化した偵察型戦マキナ【葵】です。よろしくね。」
明るい声で自己紹介した少女の葵は、軽く頭を下げる。

「はい、よろしくお願いします。私は源坂テフナです…今回は、赤坂村への迅速な支援ありがとうございます。」
そう返したテフナは、ユキノと葵の順番で握手を交わす。

「いいえ、礼には及びません。元々、追っていた【大枝イブキ】が起因となって生じた『レッドスプライト』を空軍のレーダー網で特定し、結果的に赤坂村を訪れただけです。」
簡潔に経緯を説明したユキノが続ける。

「それと、源坂って…確か…【南花さん】の一族である源家の分家に当たる一族でしたよね。」
ユキノは友人の名前から思考を巡らせ、テフナの家について確認を取る。

「はい、その通りです。古くからこの赤坂村を守る役割を与えられています…藤原所長は、刀鍛冶として有望視されながらも突如として行方を眩ました【鉄乃助様】のご息女【南花様】とはどのようなご関係なのですか?」
一呼吸おいたテフナが、慎重に質問する。

「それはですね…約10年前に異邦の地【バビロニア帝国】から長旅を共にし、この日本に辿り着いた友人の一人ですね…南花さんにとっては、祖先の一族が住まう国への帰国という形になった旅路でしたね。」
昔を思い出す素振りを見せながら、答えるユキノは僅かに笑う。

「えぇ!?博士って日本人じゃなかったの?…それじゃあ、アレだ…少し前に読んだ本に載っていた…【異邦人ピルグリム】…ってやつだよね。」
葵は年相応の少女らしく感情の起伏に合わせて、表情もコロコロと変わる。

「えぇ…その通りね…でも、今後は私の前では『ピルグリム』っていう単語は禁句にするから気を付けて欲しいな…」
さっきまで笑顔だったユキノの表情と語気が一瞬だけ険しくなる。

「えっ…うん、分かった。」
そう返事をした葵と桜は、日頃あまり見かけないユキノの雰囲気に対して若干、戸惑う。

「おほん…そんな事よりも、テフナさんにとっては厳しい事実を伝えることになってしまうけど良いですか?」
気を取り直したユキノが、テフナの方に視線を向ける。

「はい…今後のレイの処遇についてですよね…」
テフナが神妙な面持ちで敢えて確認を取る。

無言で頷いたユキノが淡々と告げる。
「えぇ…卜部レイさんに関してですが…戦マキナ計画における完成型である【よろず型】の素体候補になってもらいます。」
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