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序章-赤坂村のベッコウ師-

05『首都のマキナ』

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 暗闇に包まれる校舎の昇降口で再会した親友の信じがたい姿に対して、テフナの思考が停止してしまう。

「どうして…レイが…」
視線の先には、胸元に雷クモが寄生しているレイが佇んでおり…その足元には、テフナに襲い掛かってきていた2体の化物が倒れている。

「ねぇ、レイってば!」
テフナから強く呼び掛けられたレイが、ゆっくりと視線を合わせる。

「あぁ、テフナ…駄目じゃない…こんな雑魚2体に苦戦するなんてぇ…」
語尾のトーンが不気味に下がったレイは、自身にとっても面識があったテフナの元友人の亡骸に再び軍刀を刺して立たせる。

「や、止めてよ…寄生されて命を落としたとは言っても、同じ学校の生徒だったんだから…」
普段のレイでは絶対にあり得ない道徳心を軽視する行動に対して、更に動揺するテフナ。

「えぇ?そんなことを言っていては、源坂家のベッコウ師としての…『権利ノブレス』と『責務オブリージュ』を…遂行…」
言葉を詰まらせたレイは、ゆっくりと足元の惨状…次に、目の前で怯えるテフナの順番で状況を改めて把握していく…

「えっ…いや!?どうして私が!」
そして、雷クモが寄生する胸元を見たレイは、ベッコウ師としての理性が戻る。
「ねぇ…今日の放課後、私と別れたあと何があったの?」
テフナが恐る恐る問い掛ける。

「それは…テフナ、ごめんね…!?」
理性が一時的に戻り言葉を振り絞ろうとしたが、新たな存在に感付いたレイは、校舎の外への出入口の方向に視線を向ける。

それに釣られてテフナも視線を向けると…そこには赤坂村では見慣れないセーラー服を着て、長い三つ編みの髪型に丸眼鏡が特徴的な同年代くらいの少女が立っていた。

そして、そのセーラー服姿の少女は、何の躊躇いも見せずに拳銃の銃口をレイへと向けて、そのまま連射する。

「っう!」
レイは自身に向けて放たれた銃弾を全て、軍刀で弾くという常人では有り得ない対処法を難なくとして見せる。

次の瞬間、レイに寄生した雷クモが激しく蠢き…その苦痛に対してレイは片膝を突いてしまう…

「テフナ…さようなら…せめて私の落ち度は…自分で片を付けてから…ねぇ…」
そう言い残したレイは、セーラー服姿の少女からの更なる発砲を避ける為に、廊下側の窓ガラスを突き破って去っていく…

「そんな…レイ…」
親友が去って行った方角を、見つめることしか出来ないテフナの元へ、足音が近付いて来る。

「貴方もベッコウ師なんですね…」
目の前に立ったセーラー服姿の少女は、テフナの足元…蜂が刺繍されたブーツに視線を落とす。

「はい…貴方もってことは…」
突然現れた少女に対して戸惑いながらもテフナは応じる。

テフナの顔に視線を戻したセーラー服姿の少女が言葉を続ける。

「すいません。名乗り遅れましたね…私は帝国空軍所属のベッコウ師…桜です。」
「桜さん?…えっと、私はこの赤坂村のベッコウ師の一人である源坂テフナです。」
一瞬、間を空けた後に下の名前しか名乗らなかった桜に対してテフナは怪訝に思う。

そして、テフナは出会い頭に抱いた桜への一番の疑問を投げ掛ける。

「どうして…暗闇の中で離れた距離の、私の隣にいた彼女レイが、雷クモに寄生されていた事が瞬時に分かったんですか?」
テフナは、再び廊下の割れた窓に視線を向ける。

「はぁ、確かに…疑問に思われても仕方ないですよね。」
そうワンクンション置いた少女が改めて名乗る。

「私は首都の空軍所属【藤原研究所】にて、雷クモの遺伝子情報を組み込んで培養されたクローンである…【試作型戦マキナ・桜】です。故に、雷クモの能力を僅かに使用する事が出来て、先ほどの彼女が寄生されている事を探知出来たのも、その能力の一つです。」
桜は淡々と自身の出自について語る。

「藤原って…まさか、御三家の内の一つの藤原家ですか!?」
テフナが唯一、聞き慣れた単語に対して反応する。

「はい。古くからこの国を支えて来た源家、平家たいらけに並ぶ名家の一つである、藤原家が管轄する研究所です。」
桜は再び淡々と答える。

「そうですか…それ以外の…遺伝子情報…クローン…は分からない単語だけど…納得は出来ました。」
テフナは頭を傾げる様子を見せながらも、レイの寄生を一瞬にして気付いたと言う現実と組み合わせることで全てを飲み込む。

「理解が早くて助かります…私は別件で、この赤坂村を訪れていたタイミングで…今回のレッドスプライトに巻き込まれたという状況です。」
軽く礼を告げた桜は、自身の現状に関して説明する。

「そうですか…差し支えがなければ教えて欲しいのですが、その別件というのは何ですか?」
状況を細かく知るためにもテフナが追及する。

「この状況下において、ベッコウ師同士として協力すべきでしょうし…お教えします。先に一つ忠告しておきますが…」
賛同した桜が、言葉を続ける。

「恐らく先ほどの寄生された彼女レイも、私の一件に関係していると思われます。そして、源坂さん…貴方が彼女の友人であるのであれば、一刻も早く貴方が彼女の命を終わらせて上げるべきだと思います。」
神妙な面持ちの桜に対して、テフナは驚くばかりで言葉が出ない。

その様子を見ながらも、目の前の首都からやって来たクローン【試作型戦マキナ・桜】は冷酷に、冷静に続ける。

「そうしなければ…彼女が雷クモに寄生された人間として死ぬ以上の地獄を見ることになると思います。」
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