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エピローグ
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しおりを挟む友藤さんと付き合うと決心した八ヶ月後。
私は北海道にいた。旅行ではなく、この土地に住んでいるのだ。
健康推進会の北海道西支部に異動願を出し、それが受理されて2ヶ月前からこの北の大地で出張健診に携わっている。
なぜそんなことになったのか。理由は私が彼に別れを切り出したからだった。
『ごめんなさい、やっぱり別れてください』
夏の終りに付き合い始め、冬が来る前には限界が来た。我ながら堪え性がないと笑うことも出来ない。
それまでも小さないざこざは何度もあった。
キスが慣れすぎてて嫌だと泣き、セックスも上手すぎて経験の多さを物語っていて嫉妬で辛くなり、結局スムーズに出来るようになるのに二週間はかかった。
それでも彼は根気よく私の嫉妬心に向き合ってくれて『俺には朱音だけだ』と何度も愛情を伝えてくれた。その度に絆を強くして、だからこそ私は彼を信じて三ヶ月は耐えたのだ。
しかし私に別れを決意させた決定的な出来事は、職場にいる彼の過去の女性たちの現在の動向だった。
彼女たちは彼の変貌ぶりに驚きつつ、私が落とせたのなら自分もいけると猛アプローチを掛けだしたのだ。
今までほぼ来る者拒まずとはいえ、一度きりの関係しか持てなかった彼に未練があった女性はやはり大勢いたらしい。
私の目があろうとお構いなしにお誘いを掛けられている姿を連日見せられ、会話の端々から『あぁこの人とも過去に寝たんだな』と何度も目の当たりにする日々。
もちろん彼は『大事な彼女がいるから』と冷たく断っているみたいだけど、それとこれとは別。
徐々に彼に触れられるのが苦痛になり、キスも出来なくなっていった。好きだからこそ辛い。
今更過去のことで責めたって彼にはどうすることも出来ないとわかっているから何も言うことは出来ないし、それを理解して覚悟をして交際を始めたはずだったのに、まさかこんな風に過去の女性達に悩まされるとは思いもしなかった。
さすがに目の前で過去に関係があったと知ってしまった女性と一緒にいれば、心が否応なく悲鳴を上げる。
そんな私の変化に気付かないはずのない友藤さんは、C健を辞めると言い出した。
『どれだけもう今は無関係だとしても、俺が過去に関係した女と一緒のところ見るの、やっぱ嫌でしょ? 俺だってもし朱音が今もスパークルで働いてたら嫌だし』
とはいえ、優秀な営業の彼をC健だって逃したくないだろうし、男性が恋愛のゴタゴタで職場を変えるだなんて現実的ではないことは私が一番分かっていた。
そうなれば私がC健を辞めれば済む話だけど、それはそれでせっかく仕事も覚えて楽しくなってきたのに惜しい気がするのと、やはり彼が私の目の届かなくなったここで働き続けるのを耐えられそうになかった。
だから…別れを切り出した。そしてC健を離れる決意をした。彼に内緒でルー部長に異動願を出したのだ。
すると、去年北海道の東側に新しく支部が出来たが、その関係で西支部が人員不足に悩まされているとのことだった。
北海道と聞いて未知の場所に慄きはしなかった。離れるならいっそそのくらいの距離じゃないと、どこに彼を知っている人が居るか知れない。
すぐにでも行きたいと返事をして引き継ぎを済ませ、三月には東京を発った。
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