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オンリーワンになりたくて
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しおりを挟む項垂れたまま零れ出た嫉妬と独占欲に塗れた呟きに、私は思わずクスっと笑ってしまった。
「処女がよかった?」
「そうじゃないけど。だって、他に朱音を抱いた男がいると思うと……」
「私よりマシでしょ。同じ女は抱かないって、一体何千人いるのよ」
「そんないるわけないだろ! ……ってか、え? 朱音は? 元カレって何人いるの?」
「……そんなこと知りたい?」
「知りたくはない。でも朱音のことで知らないことがあるのも嫌だ」
知りたいけど知りたくない。以前私も遊人さんの居もしない彼女について考えていた時、そんな風に感じたのを思い出した。
「今夜は、たくさん話したい。遊人さんのこと知りたいし、私のことも知ってほしい。苦しいほど嫉妬すると思うし、嫉妬させることもあるかもしれないけど……」
「うん。そうだね、たくさん話そうか」
「あ、でもそしたら……」
泊まるのならそれなりの準備がいる。メイクも落としたいし、出来れば替えの下着も欲しい。
「コンビニ行く?」
「え?」
「クレンジングとか化粧水もいるでしょ? 着替えたいだろうし」
私が言い出すより先に、気を利かせてくれた遊人さんが提案してくれる。しかし私はこの発言をありがたく好意的に受け取れるほど器は大きくない。
急にぶすっとしだした私に戸惑った遊人さんが「どうした?」と優しく聞いてくれるけど、自分でも面倒くさいと思うこの感情をどこまで曝け出していいのかわからない。
「大丈夫。言って?」
私の葛藤はお見通しなのか、またぎゅっと抱きしめてくれる。甘い抱擁に溶かされて、モヤモヤした思いが口からするりと出口を求めて吐き出される。
「女とのお泊りに慣れてる感じが嫌だったの。着替えはともかく、クレンジングとか化粧水にまで気が回る男の人なんて初めて見た」
「あぁ。なんだそんなこと」
遊人さんは嬉しそうに笑った。
「別に過去に女がそう言ってたな、とかじゃないよ? 俺の年の離れた姉貴がメイクアップアーティストなんだ。小さい頃から練習台にされてたから、その辺の知識は普通の男よりはあるかも」
「……おねえさん」
「俺、誰かとどっかに泊まったことって修学旅行以外でないよ。次の日休みだろうと絶対家に帰ってきてた。だから、お泊りも初体験」
宥めるように髪を撫でられて、ちょっとしたことで妬いていた自分が恥ずかしくなる。
「ごめん、面倒くさい女で」
「なんで。俺すごい嬉しい、妬かれるの」
「……変態」
「ねぇ、相変わらず俺の扱い酷くない?」
「ふふっ、自業自得でしょ」
「じゃあ挽回出来るように、朱音の好きそうなコンビニスイーツでも買いに行こうか」
「やったぁ!」
大好きな甘いものとお酒を買って、今夜はたくさん話そう。
たくさん聞かせて欲しい。私を好きって言って欲しい。過去に対する嫉妬に飲み込まれてしまわないように。
一歩外に出ると空調の効いた快適な部屋とは違うむっとした暑さに顔を顰めた。
それでも恋人っぽいことがしたくなって、自分から遊人さんの手を取って繋ぐと、彼は少し驚いたあとに「彼女と手を繋いでコンビニ行くの初めて」と嬉しそうに笑った。
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