上 下
26 / 28
オンリーワンになりたくて

しおりを挟む

項垂れたまま零れ出た嫉妬と独占欲に塗れた呟きに、私は思わずクスっと笑ってしまった。

「処女がよかった?」
「そうじゃないけど。だって、他に朱音を抱いた男がいると思うと……」
「私よりマシでしょ。同じ女は抱かないって、一体何千人いるのよ」
「そんないるわけないだろ! ……ってか、え? 朱音は? 元カレって何人いるの?」
「……そんなこと知りたい?」
「知りたくはない。でも朱音のことで知らないことがあるのも嫌だ」

知りたいけど知りたくない。以前私も遊人さんの居もしない彼女について考えていた時、そんな風に感じたのを思い出した。

「今夜は、たくさん話したい。遊人さんのこと知りたいし、私のことも知ってほしい。苦しいほど嫉妬すると思うし、嫉妬させることもあるかもしれないけど……」
「うん。そうだね、たくさん話そうか」
「あ、でもそしたら……」

泊まるのならそれなりの準備がいる。メイクも落としたいし、出来れば替えの下着も欲しい。

「コンビニ行く?」
「え?」
「クレンジングとか化粧水もいるでしょ? 着替えたいだろうし」

私が言い出すより先に、気を利かせてくれた遊人さんが提案してくれる。しかし私はこの発言をありがたく好意的に受け取れるほど器は大きくない。

急にぶすっとしだした私に戸惑った遊人さんが「どうした?」と優しく聞いてくれるけど、自分でも面倒くさいと思うこの感情をどこまで曝け出していいのかわからない。

「大丈夫。言って?」

私の葛藤はお見通しなのか、またぎゅっと抱きしめてくれる。甘い抱擁に溶かされて、モヤモヤした思いが口からするりと出口を求めて吐き出される。

「女とのお泊りに慣れてる感じが嫌だったの。着替えはともかく、クレンジングとか化粧水にまで気が回る男の人なんて初めて見た」
「あぁ。なんだそんなこと」

遊人さんは嬉しそうに笑った。

「別に過去に女がそう言ってたな、とかじゃないよ? 俺の年の離れた姉貴がメイクアップアーティストなんだ。小さい頃から練習台にされてたから、その辺の知識は普通の男よりはあるかも」
「……おねえさん」
「俺、誰かとどっかに泊まったことって修学旅行以外でないよ。次の日休みだろうと絶対家に帰ってきてた。だから、お泊りも初体験」

宥めるように髪を撫でられて、ちょっとしたことで妬いていた自分が恥ずかしくなる。

「ごめん、面倒くさい女で」
「なんで。俺すごい嬉しい、妬かれるの」
「……変態」
「ねぇ、相変わらず俺の扱い酷くない?」
「ふふっ、自業自得でしょ」
「じゃあ挽回出来るように、朱音の好きそうなコンビニスイーツでも買いに行こうか」
「やったぁ!」

大好きな甘いものとお酒を買って、今夜はたくさん話そう。

たくさん聞かせて欲しい。私を好きって言って欲しい。過去に対する嫉妬に飲み込まれてしまわないように。

一歩外に出ると空調の効いた快適な部屋とは違うむっとした暑さに顔を顰めた。

それでも恋人っぽいことがしたくなって、自分から遊人さんの手を取って繋ぐと、彼は少し驚いたあとに「彼女と手を繋いでコンビニ行くの初めて」と嬉しそうに笑った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

アクセサリー

真麻一花
恋愛
キスは挨拶、セックスは遊び……。 そんな男の行動一つに、泣いて浮かれて、バカみたい。 実咲は付き合っている彼の浮気を見てしまった。 もう別れるしかない、そう覚悟を決めるが、雅貴を好きな気持ちが実咲の決心を揺るがせる。 こんな男に振り回されたくない。 別れを切り出した実咲に、雅貴の返した反応は、意外な物だった。 小説家になろうにも投稿してあります。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

自信家CEOは花嫁を略奪する

朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」 そのはずだったのに、 そう言ったはずなのに―― 私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。 それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ? だったら、なぜ? お願いだからもうかまわないで―― 松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。 だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。 璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。 そしてその期間が来てしまった。 半年後、親が決めた相手と結婚する。 退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――

私と彼の恋愛攻防戦

真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。 「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。 でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。 だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。 彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。

ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした

瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。 家も取り押さえられ、帰る場所もない。 まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。 …そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。 ヤクザの若頭でした。 *この話はフィクションです 現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます ツッコミたくてイラつく人はお帰りください またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

処理中です...