42 / 45
番外編2.彼はココア男子
3
しおりを挟む
その翌週の土曜日。
蓮も私もようやく仕事が落ち着き、爽くんから貰ったチケットをありがたく使わせてもらうことにした。
今までは基本近場で出かけてばかりだったので電車移動だったけど、水族館が隣県で車の方が早いからと、初めて蓮の運転する車に乗ることになった。
「なんか新車のにおいがする」
「あぁ。莉子と付き合いだしてすぐ買って、オプションとか色々こだわってたら先月ようやく納車された」
「え、そうなの?」
家まで迎えに来てくれた蓮の車は、本人と同じくスタイリッシュな黒のセダン。
高級外車だったらどうしようかと思ったが、国産車でホッとしてしまった。それでもオプション云々で色々お高いんでしょうけども。
「言っとくけど、自分の金だから」
「え?」
「お前のことだから、いかにも跡取り息子っぽい車とか親に与えられてんの好きじゃないだろ」
さすがにエスパー水瀬は鋭い。
御曹司感はなるべく排除する方向でお願いしたい。
根っから庶民の私には、あの高級タワーマンションに行くのもいまだに慣れないのだ。
その上、車まで空が飛べそうな宇宙船っぽいやつだったりしたら、居たたまれなさに溶けてしまいそう。
「家賃がかかってないせいで余裕があるんだから、完全にスネかじってないかって言われりゃ微妙だけどな」
「まぁそこはハウスメーカーの御曹司だから。っていうか、なんで急に車買う気になったの?」
都内に住んでいれば、特に車が必要だと思う機会は少ない。
蓮が車好きだという話も聞いたことがなかったし、今まで持っていなかったのなら必要に迫られてという訳じゃなさそう。
何の気無しに聞いてみると、思ってもみなかった理由が返ってきた。
「……爽がお前助手席に乗せてんの、腹立ってたから」
――――え、まさかそれだけのために買ったの?
ここで御曹司感出してくる? 想定外なんだけど。
冗談だよね?と運転席の方を見やるが、車を発進させた蓮は私の視線に気付かないのか無視を決め込んでいるのか。
「仕事中の社用車だよ?」
「関係ねぇ」
「……拗ねてます?」
「黙秘」
「ふふ、それほぼ認めてるようなもんなんでしょ」
いつかの意趣返しでそう言えば、こちらを見ないまま全く痛くないデコピンを繰り出してきた。
「ふふっ、ソフトツッコミ罪」
ちょっとしたヤキモチがくすぐったいけどすごく嬉しい。
会えない時間に燻っていた寂しさが、この短時間で一気に解消されていく気がした。
途中、可愛らしい古民家風カフェに寄って軽くランチをとって水族館へと向かう。
係員のお姉さんにチケットを渡してパンフレットを貰いながらエントランスをくぐると、久しぶりなせいかテンションが上がった。
「かわうそ! かわうそ見たい!」
「かわうそ?」
「あの目のくりっとしたぬるぬる動く茶色い生き物が大好きなの」
特に小さいコツメカワウソがたまらない。調べたところ、最近三つ子の赤ちゃんが生まれたらしい。絶対見たい。
「……表現の仕方。ってか、まずはイルカとかペンギンが定番なのかと思ってた」
「え、なに言ってんの。水族館来たらまずはかわうそとカピバラでしょ!」
「特殊だわ」
ツッコミをいれながらも、パンフレットでかわうそと触れ合えるコーナーの場所を確認してくれている。
「え、そうかな。ダントツかわいいじゃん」
「まぁ可愛いけど。なんとなくお前に似てるし」
「ひっ」
だからやめてくれないかな! その隙あらばさりげなく甘いセリフぶっ込んでくるの。
可愛いだなんて言われ慣れなくて変な声出るし、私が照れて何も言えなくなるのをわかってて言ってくるんだからタチが悪い。
現に今も私の顔を見てニヤリと笑っている。
いつかやり返したいと思ってはいるものの、反撃の手段も浮かばない。
「チョコパフェ男め」
「なんて?」
「なんでも。蓮は? まずは何見たい?」
「オオグソクムシ」
「特殊だわ!」
やいやい言い合いながら館内を進んでいく。
蓮も私もようやく仕事が落ち着き、爽くんから貰ったチケットをありがたく使わせてもらうことにした。
今までは基本近場で出かけてばかりだったので電車移動だったけど、水族館が隣県で車の方が早いからと、初めて蓮の運転する車に乗ることになった。
「なんか新車のにおいがする」
「あぁ。莉子と付き合いだしてすぐ買って、オプションとか色々こだわってたら先月ようやく納車された」
「え、そうなの?」
家まで迎えに来てくれた蓮の車は、本人と同じくスタイリッシュな黒のセダン。
高級外車だったらどうしようかと思ったが、国産車でホッとしてしまった。それでもオプション云々で色々お高いんでしょうけども。
「言っとくけど、自分の金だから」
「え?」
「お前のことだから、いかにも跡取り息子っぽい車とか親に与えられてんの好きじゃないだろ」
さすがにエスパー水瀬は鋭い。
御曹司感はなるべく排除する方向でお願いしたい。
根っから庶民の私には、あの高級タワーマンションに行くのもいまだに慣れないのだ。
その上、車まで空が飛べそうな宇宙船っぽいやつだったりしたら、居たたまれなさに溶けてしまいそう。
「家賃がかかってないせいで余裕があるんだから、完全にスネかじってないかって言われりゃ微妙だけどな」
「まぁそこはハウスメーカーの御曹司だから。っていうか、なんで急に車買う気になったの?」
都内に住んでいれば、特に車が必要だと思う機会は少ない。
蓮が車好きだという話も聞いたことがなかったし、今まで持っていなかったのなら必要に迫られてという訳じゃなさそう。
何の気無しに聞いてみると、思ってもみなかった理由が返ってきた。
「……爽がお前助手席に乗せてんの、腹立ってたから」
――――え、まさかそれだけのために買ったの?
ここで御曹司感出してくる? 想定外なんだけど。
冗談だよね?と運転席の方を見やるが、車を発進させた蓮は私の視線に気付かないのか無視を決め込んでいるのか。
「仕事中の社用車だよ?」
「関係ねぇ」
「……拗ねてます?」
「黙秘」
「ふふ、それほぼ認めてるようなもんなんでしょ」
いつかの意趣返しでそう言えば、こちらを見ないまま全く痛くないデコピンを繰り出してきた。
「ふふっ、ソフトツッコミ罪」
ちょっとしたヤキモチがくすぐったいけどすごく嬉しい。
会えない時間に燻っていた寂しさが、この短時間で一気に解消されていく気がした。
途中、可愛らしい古民家風カフェに寄って軽くランチをとって水族館へと向かう。
係員のお姉さんにチケットを渡してパンフレットを貰いながらエントランスをくぐると、久しぶりなせいかテンションが上がった。
「かわうそ! かわうそ見たい!」
「かわうそ?」
「あの目のくりっとしたぬるぬる動く茶色い生き物が大好きなの」
特に小さいコツメカワウソがたまらない。調べたところ、最近三つ子の赤ちゃんが生まれたらしい。絶対見たい。
「……表現の仕方。ってか、まずはイルカとかペンギンが定番なのかと思ってた」
「え、なに言ってんの。水族館来たらまずはかわうそとカピバラでしょ!」
「特殊だわ」
ツッコミをいれながらも、パンフレットでかわうそと触れ合えるコーナーの場所を確認してくれている。
「え、そうかな。ダントツかわいいじゃん」
「まぁ可愛いけど。なんとなくお前に似てるし」
「ひっ」
だからやめてくれないかな! その隙あらばさりげなく甘いセリフぶっ込んでくるの。
可愛いだなんて言われ慣れなくて変な声出るし、私が照れて何も言えなくなるのをわかってて言ってくるんだからタチが悪い。
現に今も私の顔を見てニヤリと笑っている。
いつかやり返したいと思ってはいるものの、反撃の手段も浮かばない。
「チョコパフェ男め」
「なんて?」
「なんでも。蓮は? まずは何見たい?」
「オオグソクムシ」
「特殊だわ!」
やいやい言い合いながら館内を進んでいく。
3
お気に入りに追加
319
あなたにおすすめの小説
純真~こじらせ初恋の攻略法~
伊吹美香
恋愛
あの頃の私は、この恋が永遠に続くと信じていた。
未成熟な私の初恋は、愛に変わる前に終わりを告げてしまった。
この心に沁みついているあなたの姿は、時がたてば消えていくものだと思っていたのに。
いつまでも消えてくれないあなたの残像を、私は必死でかき消そうとしている。
それなのに。
どうして今さら再会してしまったのだろう。
どうしてまた、あなたはこんなに私の心に入り込んでくるのだろう。
幼いころに止まったままの純愛が、今また動き出す……。
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
契約結婚!一発逆転マニュアル♡
伊吹美香
恋愛
『愛妻家になりたい男』と『今の状況から抜け出したい女』が利害一致の契約結婚⁉
全てを失い現実の中で藻掻く女
緒方 依舞稀(24)
✖
なんとしてでも愛妻家にならねばならない男
桐ケ谷 遥翔(30)
『一発逆転』と『打算』のために
二人の契約結婚生活が始まる……。
Good day !
葉月 まい
恋愛
『Good day !』シリーズ Vol.1
人一倍真面目で努力家のコーパイと
イケメンのエリートキャプテン
そんな二人の
恋と仕事と、飛行機の物語…
꙳⋆ ˖𓂃܀✈* 登場人物 *☆܀𓂃˖ ⋆꙳
日本ウイング航空(Japan Wing Airline)
副操縦士
藤崎 恵真(27歳) Fujisaki Ema
機長
佐倉 大和(35歳) Sakura Yamato
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
Perverse
伊吹美香
恋愛
『高嶺の花』なんて立派なものじゃない
ただ一人の女として愛してほしいだけなの…
あなたはゆっくりと私の心に浸食してくる
触れ合う身体は熱いのに
あなたの心がわからない…
あなたは私に何を求めてるの?
私の気持ちはあなたに届いているの?
周りからは高嶺の花と呼ばれ本当の自分を出し切れずに悩んでいる女
三崎結菜
×
口も態度も悪いが営業成績No.1で結菜を振り回す冷たい同期男
柴垣義人
大人オフィスラブ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる