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番外編2.彼はココア男子
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しおりを挟む「莉子先輩、さかな好き?」
十階にある営業フロアの一角に位置する休憩スペースでココアをふうふう冷ましていると、隣でブラックコーヒーを飲んでいた爽くんがポケットから取り出した封筒を渡してきた。
「なに?」
「水族館の特別招待券」
水族館?
あ、さかなってそっち。
よかった、うかつに『秋刀魚が好きです。でも、大トロのほうがもぉっと好きです』とか言わなくて。
心の中でホッと安堵の息を吐きながら封筒を開けると、中にはイルカがジャンプしている写真がプリントされたペア招待券が入っていた。
「友達の誕生日パーティーのビンゴで当たったの。でも俺、もう誘う女の子いないから莉子先輩にあげる」
「え?!」
驚いて隣を見つめたのは、招待券をくれると言われたからではない。
「誘う女の子いないの?」
「うん。もういい加減やめようかと思って」
「ええっ?! やめられるの? あんなにとっかえひっかえだったのに?!」
休憩スペースとはいえ、職場に似つかわしくない言葉を大声で叫ぶ。
爽くんのキテレツな恋愛観は、この職場では知らない人はいないんじゃないかというほど有名だった。
彼氏や片思い相手がいる女の子ばかりをターゲットにするというゲーム感覚な恋愛をしていた理由を聞きはしたけれど、やっぱり私には理解不能だと思っていた。
頬を腫らして出社したのも一度や二度じゃなかったのに。
一体どんな心境の変化が……。
「ヒドイ。だって莉子先輩が言ったんですよ、御曹司としてじゃない俺を見てくれる子が絶対いるって」
「うん。言ったね。顔も身体も好みの子がいるはずだって」
「あ、意外に根に持ってますね、その発言」
別に根に持ってるわけじゃないけど。
『半年一緒に働いて、俺を御曹司扱いしない女の人って珍しくて気になったからターゲットにしてみただけだった。特に好みの顔でも身体でもないですし』
『莉子先輩が好きです。たぶん……初恋なんです』
告白されてんだかディスられてるんだかわからなくて混乱したのは記憶に新しいのだ。
爽くんの私への想いが嘘だったとか勘違いだったとか思っているわけじゃない。
でもだからって熱烈に恋されていたのかと言われれば、きっとそうじゃないんじゃないかと思っている。
水瀬帝国の第二王子である蓮という同期がすでにいた私にとって、第一王子の爽くんは御曹司だろうと特別でもなんでもなかった。
だからこそ普通に接した私に興味を持ったんだろうけど、爽くんからの想いをお断りして蓮と付き合いだして三ヶ月。
とっくにキテレツな遊びを再開させているものだと思っていた。
「莉子先輩は全然蓮兄と別れる気配ないどころか、うちの親父達とまで馴染んでるし」
「あはは、確かにね」
蓮のお父さんである我が社の副社長だけでなく、爽くんのお父さんの社長もかなり気さくな方だ。
蓮に連れられご挨拶してすぐになぜか気に入られ、それぞれ会社の外では『聡志パパ』『仁志パパ』と呼ばせてもらっている。
今や蓮抜きでも飲みに行ったりカラオケに行ったりする仲なのだ。
「水瀬帝国の王族はみんなフレンドリーだよね」
「だからさ、俺そろそろ莉子先輩のこと諦めないとなーって。それで蓮兄とデートでもしてきたら? 最近会えてないんでしょ?」
その言葉にドキッとする。爽くんの言うとおりだった。
ここ最近、私も少し関わったモデルタウンの案件が佳境を迎えていて、蓮はとても多忙だった。
私は私で、口説いていた大学の寮の建て替えをすべて請け負ったことで関係各所との連携に追われ、いつも以上に残業が続いている。
よく行っていたノー残業デーの飲みはもちろん、互いに休日も出勤することが多くてなかなかゆっくり会えていない。
私自身も仕事は好きだし全力でやりきりたいタイプだから、忙しくしている蓮に不満はない。
肝入りで立ち上がったプロジェクトである大型複合施設の入るモデルタウンがどんな形で完成するのかも楽しみだし、蓮が頑張っているのを応援したい。
疲れているのなら、たまの休日は身体を休めてほしいし、私も一度失敗しているので倒れない程度に睡眠時間は確保したい。
だけど、本音を言えば寂しいとも感じている。
蓮の在籍している建築企画課の首都圏プロジェクト室は、私のいる建築事業部の営業課と違って女性社員も多い。
パンツスタイルとぺたんこパンプスで外回りに駆けずり回っている私と違って、タイトなスカートに華奢なヒールのパンプスで出来る女オーラが漂っている人から、流行を取り入れた可愛らしい服装で女子力むんむんスタイルのアシスタントの子もいる。
ただでさえ目を引く外見の蓮だが、水瀬帝国の第二王子とあって狙っている女性社員は多かったはず。
私と付き合っていることを隠さないおかげであからさまなアピールはないらしいが、同期の亜美や理沙からの情報だと、いまだに諦めてない人もちらほらいると聞く。
もちろん蓮が浮気するなんて考えているわけじゃないけど、会えない日々が続くとどうしてもモヤモヤと考えてしまう日もある。
そんなタイミングでの爽くんからの提案だった。
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