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躱せなかった告白

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さらにこの一ヶ月でドリームカンパニーへ何度も出向き、モデルタウンへの娯楽施設出店を承諾させた。

今日は細かい契約についての部分の話を詰めているらしい。

私はというと、あれから生田化成に何度も足を運び、新しい担当さんを今回のプロジェクトの提案で口説き落とし、今や「おっちゃん」「莉子ちゃん」と呼び合う仲にまでなった。

やはり頭の固いオヤジはメロメロに口説き落としてなんぼだ。メタボになれなんて呪いかけてごめんね、おっちゃん。長生きしてね。

「モデルタウンの方は私はわからないから完全に水瀬に任せっぱなしで、私は担当の事業用地に工場を建てるだけだから」

橋本くんは興味津々でプロジェクトの話を聞いてくれるから、私もそれに応えるように話す。

他の同期も気になっていたメンバーがいるようで、そのまま仕事の話で盛り上がろうとしていたところに、理沙の大きな声が響く。

「ちょっと! 今日は亜美のお祝い! 真隣で仕事の話はいいから」

それもそうだ。ついいつものノリで盛り上がろうとしてしまった。隣に座る亜美に両手を合わせる。

「ごめんね、亜美」
「いいのよ。それが莉子だもん」
「えへ、面目ない」
「その代わり、なんか面白いネタちょうだいよ」
「へ?」
「逃さないわよ。王子達とどうなってんの?」

また振り出しに戻ってしまった。あーれーとすごろくのスタート地点に飛ばされた気分。

……あれ、王子達って。それは爽くんのことだけじゃなくて水瀬のことも含まれてる?

でも水瀬と気まずくなったりというのは当事者である私達と爽くんくらいしか知らないし、亜美が言ってるのは仕事のことも含んでのことなんだろうか。

いずれにしても提供できる面白ネタなんて持っていない。

本日の主役である亜美の無茶振りに戸惑っていると、入り口がわずかに騒がしくなる。

私も亜美もそちらに視線を向けた。

「お疲れ」
「おー水瀬、お疲れー。間に合ったな」
「悪い、遅くなった」

掛けられた声に答えながら革靴を脱いでいる。

取引先との打ち合わせだったからか、ネクタイも緩めずにピシッとスーツを着た水瀬が座敷に上がってきた。

同期会の時、いつも水瀬はテーブルの一番端に座る。今日も水瀬の指定席は空いていて、その隣に私は座っている。

もう三年以上この定位置なため、何を意識しなくてもこの座り位置に落ち着くのだ。

当然のように私の隣に座り、用意されていた未使用のおしぼりで手を拭く。

「お疲れ」
「お疲れ様。ドリームカンパニー、どうだった?」
「あぁ、いい感じ。また纏めたら書面にしてそっち送るわ」

そう簡潔に話すと、私の反対隣に座っている亜美に声を掛ける。

「木本さん、結婚おめでとう」
「水瀬くん、お疲れ様。ありがとう」
「いつまで出社するの?」
「引き継ぎもそんなにないんだけど、きりもいいし今年いっぱいお世話になる予定」
「そっか、寂しくなるな」

ついて早々ちゃんと今日の主役に声を掛けて、にこやかに祝福する辺りはさすが王子。

女子がキュンとする仕草堂々一位(ただしイケメンに限る)のネクタイを緩める姿もちゃんとイケメンだから様になっている。

性懲りもなくまたそんなことを考えてしまった。

水瀬との間にあった気まずさは、今回のプロジェクトの忙しさの前に消えていた。

気まずいなとか、話ってなんだったんだろうとか、あの言葉の真意とか、そんなことを考える余裕もないほど忙しい一ヶ月だった。

やっとプロジェクトの形が整い、落ち着いて仕事が出来そうな兆しが見えたのがここ二、三日。

だから仕事抜きでこうして水瀬と話すのは、呪いの言葉を叫んだあの日以来今日が初めただった。

「水瀬くんはさすがだわ。莉子、見習って」
「ごめんって」
「佐倉なにやらかしたの」
「私そっちのけで橋本くんたちと仕事の話で盛り上がってた」
「お前って……」

先程の所業を告げ口され、呆れて笑う水瀬の視線に小さくなる。

「ふふ。だからね、罰として莉子に噂の真相を聞いてたとこ」
「噂?」
「ちょっ、亜美!」

私を間に挟んでの会話を慌てて止める。

この話題だけはタブーなのだ。今ここで爽くんの話題を出したくない。

そんな私の切なる願いが何も知らない亜美に届くはずもなく、あっさりとそのタブーが破られる。

「莉子と一緒の営業にいる水瀬くんの従弟、ついに本命が出来たのかってすごい噂になってるでしょ?だから真相を聞き出そうと思って」

亜美の楽しそうな思案顔とは裏腹に、水瀬の眉間には居酒屋の伝票が挟めるんじゃないかというくらい深く皺が刻まれた。

「……へぇ、本命?」
「水瀬くんは知らない?従兄弟同士ってそういう話しないの?」

ちょいと亜美さんや。水瀬の表情に気付きませんか。声が一段と低いのが聞こえませんか。

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