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躱せなかった告白
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しおりを挟む一ヶ月ぶりの同期会。
いつもはだいたい三ヶ月に一度のペースで開催されるのだが、今回は寿退社することが決まった亜美のお祝いを兼ねている。
そのため出席率も高めだ。
入社四年目の二十六歳。男性陣はともかく、女子社員はなんとなく結婚を意識し出すお年頃。
飲み会も一時間が経つ頃には、みんないい感じにお酒が入ってきて恋バナに花が咲く。
「結婚羨ましい」
「理沙は彼とそんな話出ないの?」
「出ない……」
理沙は一つ年上の彼と同棲して二年だという。このままズルズルなんて展開は一番悲惨なことになると、本人も自覚があるらしい。
「テーブルに結婚情報誌置いといてみたら?」
「莉子……あんたそれ一番やっちゃダメなやつだから!」
親切なアドバイスのつもりだったが怒られてしまった。ここは黙っておくに限る。
隣に座った亜美が私にもサラダと唐揚げを取って寄越してくれたので、大人しくそれをつまみにレモンサワーを飲む。
「亜美も結婚かぁ。旦那さん、四つ年上の商社マンだっけ?」
「エリート捕まえたよねぇ」
「どこに惚れたの?」
「仕事辞めるの悩まなかった?」
周りからの質問攻めに苦笑しながらも、やはり嬉しそうにお相手との馴れ初めを話している亜美はどこから見ても幸せそう。
「優しい人だよ。彼、転勤ばっかりだから、私が辞めるか単身赴任の二択しかなくて。それならやっぱり一緒にいたいし」
クールだと思っていた亜美の照れた表情に、同じ女ながら見とれてしまう。
そんな私の視線に気付いたのか、亜美が私に話を振ってきた。
「莉子は? 前の彼氏と別れてから何もないの?」
飲んでいたレモンサワーで溺れそうになったのをごまかしつつ「何もないよ」と小さな声で返す。
「えー? 営業の第一王子が莉子にご執心だって聞いてるけど?」
ニヤニヤしながら投げかけられた言葉に、今度こそレモンサワーを噴いてしまった。
「ちょっと! きったないな!」
「ごほっ、な、なにそのご執心って……」
「社長の息子の水瀬爽くん?ずっと莉子にベッタリらしいじゃない?」
「あー! それ私も聞いた!」
爽くんのキテレツな恋愛観はもはや社内で知らないものはおらず、隣を歩く女の子が一ヶ月サイクルで替わるのに誰も驚きはしない。
そんな彼が今は誰も隣に置かず、私にくっついているらしいと専らの噂らしい。
「仕事だよ。今、都市開発と合同のプロジェクトになって忙しくて」
「それにしても!第一王子の莉子を見つめる目がマジだって」
「いやいやいや……」
もうこの話題は勘弁して欲しい。
確かに爽くんは私が彼のマンションに行った日以来、事あるごとに本気だとアピールしてくる。
生田化成での出来事も、私のためを思ってしたはずだったけど逆に失礼な事だったかもしれないと謝ってくれたりもした。
もちろん失礼だなんて思わなかったし、私が不甲斐なかったためにしてくれたことだとわかっているから、謝罪は不要だと伝えたけど。
『でも蓮兄は……莉子先輩を一瞬で立ち直らせた』
拗ねたように呟いた爽くんは、王子ではなく年相応のオトコノコって感じが可笑しくてつい笑ってしまった。
それからというもの、プロジェクトでも私の補佐についてくれる爽くんは、本当に一日中ぴったり私にくっついている。
それこそ、打ち合わせで首都圏プロジェクト室を訪れたときには、水瀬が眉間に皺を寄せて不機嫌になるほどに。
今ここに水瀬がいなくて本当によかった。申し訳ないとは思いつつ、心の底からホッとした。
例のアミューズメントパークの運営会社であるドリームカンパニーとの話し合いが伸びているらしく【少し遅れる】というメッセージと、謝っているんだかバカにしているんだかわからないパンダのスタンプが届いていた。
相変わらず水瀬はこのパンダを使い続けている。私に似ていると宣ったこのパンダを。
「ねぇ亜美、このスタンプさ」
「あはは! 何このぶっさいくなパンダ!」
「……もういい」
「何よー。それ水瀬くんからなんでしょ?そのスタンプがどうかしたの?」
言えるわけない。水瀬がこのパンダと私が似てるから買ったらしいだなんて。
『ちんまりしててなんか可愛いし』と言われて顔から火が出るほど赤くなってしまっただなんて。
それを……嬉しいと感じてしまっているだなんて。
「合同プロジェクトといえばさぁ、それ佐倉と水瀬が主導だってマジ?」
いつものごとく神か仏のようなタイミングの良さで話に割って入ってくる橋本くんを拝みながら、私個人の話題から仕事の話に切り替える。
「主導って言うと大袈裟だけど。私が担当してた取引先を口説くのに、水瀬の部署を巻き込んでったら大きくなっちゃって」
あれから水瀬は有言実行で素早く動いてくれた。
それぞれの部署に現状と今後の展望を含めて報告して合同のプロジェクトチームを作らせ、長引いていた会議に終止符を打つようにアミューズメントパークの誘致を決めた。
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