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過去と現在

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そう考えると、心の奥がチクリと痛む。

私はこれ以上真っ赤な顔を晒さないように必死に平常心を取り戻そうとして、今の一連の出来事も胸の痛みもなかったことにすることにした。

「あのパンダのスタンプさ、水瀬っぽくなくない?なんで買ったの?」

関東では珍しい赤だしのお味噌汁は、濃い味付けのポークソテーに負けずとても良い。

話題を変えたくてずずっとお味噌汁を飲みながらずっと気になっていた例のパンダのことを聞くと、なんでもないことのように答えが返ってきた。

「あぁ、あのパンダ? 似てない? お前に」
「……は?」

似てる? 私が?
あの人をおちょくったような顔をしているパンダに?

どういうこと?!

「小憎たらしい顔とか」
「ちょっと?」
「ちんまりしててなんか可愛いし」
「……」
「だからお前用に買ってみた」

どういう意味だと詰め寄ってなじってやるつもりだったのに。

ふいに投げつけられた『可愛い』という言葉に心が大袈裟に反応し、咄嗟に言葉を返すことが出来なかった。

困る。非常に困る。

こういう時、咄嗟にうまい切り返しが思いつくひみつ道具が欲しい。

冗談じゃなく切実に。

いちいち赤くなってしまう顔もどうにかしたい。ファンデーションを厚塗りすれば顔色もわからなくなるだろうか。

もはや仮面をかぶっていたい。

似てるというのなら、あの殴りたくなる顔のパンダのお面でもかぶってやろうかと本気で考える。

頭の中でぐるぐる考えたまま何も言葉を発せなかったが、水瀬はさして気にしていないようでマイペースにカレーを食べ終えていた。

「定時で上がれそう?」

それはきっと先週から言われている約束の件。

いつも通りのポーカーフェイスでこちらを見つめている水瀬が、どことなくそわそわしているように感じるのは気の所為だといい。

「うん」
「じゃあ十七時半にそっち迎えに行くから」
「え?! いいよ、下で待ち合わせよう」

フラットにとんでもないことを言い出した水瀬に、ブンブンと首を振って拒絶を示す。

「そうでもしないとお前逃げるだろ」
「逃げない、絶対逃げないから。わざわざ営業課に来るのはやめて」
「……絶対だぞ」

じろりと睨むように確認され、私は大きくひとつ首を縦に振る。

なんとも信用がないなと思いつつ、先週の同期会を途中でこっそり抜け出している私はコレに関しては強く出られない。

現に今だって今夜の約束から逃げられるものなら逃げたいと思っているのだ。

それはきっと水瀬にも伝わっている。だからこそこうして念を押しているんだろう。

水瀬とふたりで仕事帰りに食事することなんて今まで何度もあった。

それは私にとってとても楽しい時間で、ノー残業デーである水曜日を楽しみに思っていた。

だけど今は……。

【マジで話があるんだけど】

水瀬はそうメッセージで送ってきていた。

それがどんな話なのか。

出来れば聞きたくない。

そう思ってしまう。頼りになる同期として、気のおけない男友達として、ずっとずっと付き合っていきたい相手。

だからどうか。私が思っているような話じゃないといい。

そう願っている私の頭の中で、あの殴りたくなる顔のパンダがドヤ顔で笑っていた。



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