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2.ご褒美はキス?

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やっぱり感じ悪いあの人!

別にあなたに可愛いなんて思われたいわけじゃない。

美山さん達とあんなにベタベタしちゃってさ。

そりゃ酔った女の子達は可愛いでしょうよ。

実際本当に酔ってるかなんて怪しいけど、甘えてこられて悪い気なんてしないでしょ。

にこにこ可愛く笑いながら会話して、ちゃんと男の人を立ててあげて。

足早に離れて少しだけ後ろを振り返ると、キヨを抱えた天野さんの周りは美山さん達女性社員と、彼女たちと二次会に行きたい男性社員で囲まれていた。

ふと、こちらを見た美山さんと目が合う。

勝ち誇ったように微笑んだ彼女を見て、すぐに前を向いて歩き出した。


きっと……ただのスキンシップ。

あのキスを特別なことに感じたのは私だけ。

頭を振って、足を駅に向けて動かし始める。

褒めるって“頑張ったな”って優しく笑ってくれたり、頭をぽんぽんしたり、そういうのをしてくれるのかと思った。

役に立ったというのなら、松本さんやキヨが言ってくれたように、これからも補佐を頼んでくれたら、なんて期待もしてた。

でもその期待ももう終わり。月曜日には庶務課に戻る。

触れるだけのキス。押し当てられた唇はずっと外にいたのに思いのほかあたたかくて……。

生まれてはじめてのキスだった。

なのに嫌悪感がない自分にビックリした。それどころか、もっと……。

「蜂谷!」

慌ただしく近付いてくる足音。

呼ぶ声が誰のものかなんて、振り返らなくてもわかる。

あの人といると自分が自分でなくなりそう。

からかわれて嫌だったはずなのに、いつの間にか天野さんを気にしてる自分が信じられない。

庶務に戻りたいとずっと思ってたはずなのに、彼の近くにいたいと思い始めてる自分が怖い。

この気持ちに気付いていはいけない。

自分を呼ぶ声も、ドキドキうるさい胸の鼓動も聞こえないふりをして駆け出した。

それなのに……。

運動不足が祟ったのか、あっという間に追いつかれてしまう。息が切れて、暗闇に響くのは私の荒い息遣いだけ。

掴まれた手首が熱い。

「……っはぁ、二度も逃がすかっつーの」

一度目はきっと屋上のことを言っているんだろう。

自分から近付いていったくせに、私はあの日どうしたらいいのかわからずに突き飛ばして無心で階段を駆け降りたんだ。
あの時も喉の奥が焼けるように痛かった。

「なんで追ってくるんですか」
「お前が逃げるからだろ」

だって、どうしたらいいのかわからない。

この人の本心を知るのが怖い。

「主役が二次会いなくてどうするんですか」
「いい、松本達に任せてきた」
「キヨ、すごい酔ってましたけど」
「あれも誰かがなんとかするだろ」
「美山さんたちも、待ってるんじゃないですか」
「どうかな」
「……お持ち帰り、出来そうでしたよ?」

あー……。なに言ってんだろう、私。最低だ。

「していいのか?」

なんで私に聞くのよ。

眉間に皺を寄せながら真っ直ぐに私を見つめる大きな瞳に心の中まで覗かれそうで、その瞳を正面から見つめ返すことなんか出来ない。

美山さんの勝ち誇った笑顔が頭にちらつく。

「お持ち帰りでも味見でも好きにしたらいいじゃないですか」
「蜂谷」

なだめるような優しげな声で自分の名前を呼ばれて無性にイライラする。

そんな風に呼ばないで欲しい。苛立ちから思いの外冷たい声が自分の喉から発せられる。

「テーブルのはしっこに居心地悪そうに座って仏頂面でカシオレ飲んでた私よりよっぽど可愛い子がたくさんいましたよ」
「っはは。可愛く思えてきた、なんか」
「……はい?」
「顔だけじゃなく、その意地っ張りな態度」

何を言っているのかイマイチ理解できずに顔を顰めていると、クスッと笑う天野さんが私の頬に手を伸ばしてきた。

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