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1.「俺の補佐はお前だ」
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しおりを挟む「企画部の天野です、よろしく」
爽やかに笑顔で挨拶されて手を差し出される。
なるほどイケメンだ。
朝イチなのにむくみとは一切縁のなさそうなくっきりした二重に意志の強そうな眉。目の前に出された手は、驚くほど指が長くて綺麗で思わず凝視してしまう。
女性社員が騒ぎたい気持ちがよくわかる。こういうスキンシップは苦手だけど邪険にするわけにもいかない。
「……総務部庶務課の蜂谷です。お役に立てるかどうか」
申し訳なく思いつつ、ニコリともせずに嫌々差し出した手をぎゅっと握られた。
つい周りを気にして目が泳ぐ。上司に対してあんまりな態度を取っている自覚はある。
それでも周りの視線が気になり、早く手を離してほしくて肩が竦む。
「あのさ。何を警戒してるのか知らないけど」
天野さんは握手した手を離さずにぐっと引き寄せると、私を大きな瞳に映したままニッと笑った。
「そんな警戒しなくても、俺にも好みってもんがあるから」
―――――それって……。
「お前みたいな愛嬌もない女には興味ないってこと。自意識過剰はよくないよ、蜂谷さん?」
か……っ
感じ悪っ!!!!!!
* * *
「まずは新しいラインの店舗のコンセプトから固めていこう」
日当たりの良い第三会議室。
各部署から招集されたプロジェクトメンバーが一同に会し、チームリーダーである天野さんがホワイトボード前に陣取り会議の指揮を取る。
私、蜂谷あすかが働く『カランドコーポレーション』は全国に百二十店舗あるカフェ『calando』の企画・運営・経営を行っている会社。
店舗数は大手ファストフードチェーンに遠く及ばないものの、音楽用語であるcalando《和やかに》の名の通り、楽しく和やかな空間を提供するという経営理念が功を奏し、会社の業績は外食チェーン全体が厳しい中異例の右肩上がり。
そんなカフェ『calando』のメインはコーヒーと軽食であるホットサンドやパスタ。
素材にこだわりを持ちつつ気軽に食べられるよう、値段設定は比較的お財布に優しい。
テイクアウトも出来、イートインスペースには家族連れでも入りやすいよう子供用の椅子やカトラリーも用意されている。
メインユーザーは若い層やファミリーが主体だ。
一号店開業から二十年を迎える来年、『calando』とは違った客層を取り込むため、新たなコンセプトの店舗をオープンさせることになった。
その大きなプロジェクトを発足させるため、開発部、企画部、店舗統括部、マーケティング部、広報部など、各部署から人員が集められるにあたり、大規模な組織改編があった。
当然庶務課にいた私にもその一大プロジェクトの話は届いていたが、同じ総務部の人事課やお隣の経理部に手伝いにいく頻度が高くなるくらいで自分には無関係だと決め込んでいた。
まさかそんなチームの責任者である天野さんのアシスタントに呼ばれるだなんて、夢にも思わなかった。
企画部に助っ人に来て二日目。
私は第三会議室のすみっこで議事録を取っていた。
初日の昨日、このプロジェクトチームの責任者である物凄く感じの悪い天野さんに今回の説明を受けた。
仕事内容は、ほぼ雑務。
「必要資料の作成から電話対応。総務や経理、法務に回す書類の管理。あとは今回営業とマーケと一緒に外に出ることも増えるから、俺のスケジュール管理も頼みたい」
庶務課の仕事は嫌いじゃないし、特に不満もなかった。
誰からも評価されないような部署だけど、自分たちがいなければ会社は立ち行かない。
会社のなんでも屋さんの二つ名は、私にとって大事な誇りだ。
何より庶務課は居心地が良い。
仕事はほぼマニュアル化されているから難しいことはないし、特に忙しい時期でない限りは定時退社が出来る。
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