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おとぎ話の表と裏
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◇ ◇ ◇
古い大きな教会を一部改修して作った孤児院は、そこで生活する者だけでなく、地域の子供達の遊び場になっている。
円形状の天井と尖塔アーチが特徴的なゴシック調の外観。石畳の中庭は広く、中央には使われていない大きな井戸がそのままにしてある。
孤児院の表にある庭は季節の花が咲き誇り、手入れのために王宮から専属の庭師が派遣されている。
3年前に王太子妃の発案で教会の改修と共に小さなバラ園が作られ、その手入れだけは孤児院の子供たちに任されている。
馬車から下りて大きな門を1人歩いて入っていくと、「リサ様ー!」と早速姿を見つけた子供たちに大きな声で名前を呼ばれた。
「リサ!今年も綺麗に咲きそうだぞ!」
リサが孤児院に着くなり元気いっぱい報告してきたテオドールは今年14歳になる。
もっと年嵩の子もいる中で、やんちゃで活発な彼がリーダーのようにこの孤児院の子供たちをまとめていた。
「テオ! 王太子妃様かリサ様って呼ばなきゃダメなんだよ!」
「そうだよ。リサ様は王宮に住んでるんだよ」
口々に他の子供たちに責められるテオドールだが、そんなこと物ともせずに笑ってみせる。
「だってリサがいいって言ったんだ。な、リサ?」
出会った頃はまだ少年だったテオドールは、いつの間にかリサの身長を越して声も低くなった。それでもやはり可愛いには違いなく、リサはうんと頷いてやった。
「もちろん。テオだけじゃなく、みんなも普通にお友達を呼ぶみたいに呼んでいいんだよ」
「でも、リサ様は偉い人でしょう?」
「ううん、なんにも偉くない。私もみんなと一緒で孤児院出身だよ」
「えーっ! ほんとうに?! 王宮に住んでるのに?」
「本当に。だから掃除だって洗濯だって得意だよ。大好きな人と結婚して住む場所が変わっただけ」
手を引かれるまま庭のベンチに座って他愛ないお喋りをしていると、騒いでいる子供たちの声で王太子妃が来たと知った司祭や孤児院の教師たちが庭に出てくる。
この3年の間、毎月様子を見に来る王太子妃に最初は戸惑った彼らも、今は同じ子供たちを見守る同志として歓迎してくれていた。
「リサ様。ようこそお越しくださいました」
「司祭様、先生、こんにちは」
形式張らない簡単な挨拶だけ済ませて差し入れの焼き菓子を渡すと、子供達は「頂いた焼き菓子を食べましょう」と言った司祭に連れられて、孤児院の中に入っていく。
それを見送り、リサはテオドールに手を引かれてバラ園へと足を踏み入れた。
そこには開花間近の真っ白なバラの蕾が並んでいた。
バラの生育はとても難しい。虫が付きやすく水やりも気温や湿度との兼ね合いを考えながらしなくてはならない。冬には剪定する必要もある。
それらを孤児院の子供たちで協力しながらすることで、楽しんで学びながらコミュニケーションを取ってくれたらいいとバラ園の管理を任せている。
そんなリサの期待に、ここの子供たちは見事に応えてくれた。きっと次に来る時には大輪の花を見られそうだとリサはテオドールに向けて微笑んだ。
「上手に育ててるね。蕾が開くの楽しみ」
「リサのために一生懸命育てたんだ」
「私の? ふふ、ありがとう」
「これで俺の嫁になる気になったか?」
隣に立つテオドールが、リサの手をぎゅっと握った。
ここ1年程、年頃になったテオドールはリサを口説き落とそうと必死だった。そんな彼に少しだけドキドキしつつ、やはり可愛く思いながらリサは言葉を探した。
「テオの周りには、もっと可愛い女の子がたくさんいるでしょう?」
「俺はリサがいい。だから俺と結婚しよう」
古い大きな教会を一部改修して作った孤児院は、そこで生活する者だけでなく、地域の子供達の遊び場になっている。
円形状の天井と尖塔アーチが特徴的なゴシック調の外観。石畳の中庭は広く、中央には使われていない大きな井戸がそのままにしてある。
孤児院の表にある庭は季節の花が咲き誇り、手入れのために王宮から専属の庭師が派遣されている。
3年前に王太子妃の発案で教会の改修と共に小さなバラ園が作られ、その手入れだけは孤児院の子供たちに任されている。
馬車から下りて大きな門を1人歩いて入っていくと、「リサ様ー!」と早速姿を見つけた子供たちに大きな声で名前を呼ばれた。
「リサ!今年も綺麗に咲きそうだぞ!」
リサが孤児院に着くなり元気いっぱい報告してきたテオドールは今年14歳になる。
もっと年嵩の子もいる中で、やんちゃで活発な彼がリーダーのようにこの孤児院の子供たちをまとめていた。
「テオ! 王太子妃様かリサ様って呼ばなきゃダメなんだよ!」
「そうだよ。リサ様は王宮に住んでるんだよ」
口々に他の子供たちに責められるテオドールだが、そんなこと物ともせずに笑ってみせる。
「だってリサがいいって言ったんだ。な、リサ?」
出会った頃はまだ少年だったテオドールは、いつの間にかリサの身長を越して声も低くなった。それでもやはり可愛いには違いなく、リサはうんと頷いてやった。
「もちろん。テオだけじゃなく、みんなも普通にお友達を呼ぶみたいに呼んでいいんだよ」
「でも、リサ様は偉い人でしょう?」
「ううん、なんにも偉くない。私もみんなと一緒で孤児院出身だよ」
「えーっ! ほんとうに?! 王宮に住んでるのに?」
「本当に。だから掃除だって洗濯だって得意だよ。大好きな人と結婚して住む場所が変わっただけ」
手を引かれるまま庭のベンチに座って他愛ないお喋りをしていると、騒いでいる子供たちの声で王太子妃が来たと知った司祭や孤児院の教師たちが庭に出てくる。
この3年の間、毎月様子を見に来る王太子妃に最初は戸惑った彼らも、今は同じ子供たちを見守る同志として歓迎してくれていた。
「リサ様。ようこそお越しくださいました」
「司祭様、先生、こんにちは」
形式張らない簡単な挨拶だけ済ませて差し入れの焼き菓子を渡すと、子供達は「頂いた焼き菓子を食べましょう」と言った司祭に連れられて、孤児院の中に入っていく。
それを見送り、リサはテオドールに手を引かれてバラ園へと足を踏み入れた。
そこには開花間近の真っ白なバラの蕾が並んでいた。
バラの生育はとても難しい。虫が付きやすく水やりも気温や湿度との兼ね合いを考えながらしなくてはならない。冬には剪定する必要もある。
それらを孤児院の子供たちで協力しながらすることで、楽しんで学びながらコミュニケーションを取ってくれたらいいとバラ園の管理を任せている。
そんなリサの期待に、ここの子供たちは見事に応えてくれた。きっと次に来る時には大輪の花を見られそうだとリサはテオドールに向けて微笑んだ。
「上手に育ててるね。蕾が開くの楽しみ」
「リサのために一生懸命育てたんだ」
「私の? ふふ、ありがとう」
「これで俺の嫁になる気になったか?」
隣に立つテオドールが、リサの手をぎゅっと握った。
ここ1年程、年頃になったテオドールはリサを口説き落とそうと必死だった。そんな彼に少しだけドキドキしつつ、やはり可愛く思いながらリサは言葉を探した。
「テオの周りには、もっと可愛い女の子がたくさんいるでしょう?」
「俺はリサがいい。だから俺と結婚しよう」
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