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入れ替わったメイドと姫
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寝起きは良い方ではない。いつもスマホのアラームなしで起きれた事がない。
無音の中、梨沙は珍しくスッキリと目が覚めた。いつもの朝と違うのは、それだけではない。
木製の固い狭いベッド。着慣れないワンピースのパジャマ。昨日夢の中で過ごしたはずの絵本の世界が、目を覚ましてもまだ続いていた。
――――もしかして、夢じゃない?
ベッドに座ったままもたもたと足を床に下ろし、ぎゅっと頬をつねってみる。
「痛っ! え、痛い……」
右手を頬に当てたまま呆然と呟く。
(どうしよう。本当に絵本の中に入ってしまったっていうこと……?)
昨日は完全に夢だと思ってたから何の疑問にも思っていなかったが、侍女のリサとしてこの世界で生きているということだろうか。
今自分は"日比谷梨沙"という意識ではあるものの、頭の奥の片隅に"リサ=レスピリア"としての記憶があることも確かだ。
その証拠に昨日は夢だと思っていたこの世界が現実なのではと思い至ってから、昨日あの場所で倒れていた理由も思い出されてきた。
『早く、このお城を離れないと……』
そう、あれはこの世界のリサの声。リサはこの城から出ていこうとしていたのだ。花婿候補がここに着いてしまう前に。
しかし、なんの因果か梨沙がこのタイミングで絵本の世界にリサとして転生してきたことで、結局城に戻ってきてしまった。
もしこれが現実だとしたら、今日のお昼にはシルヴィアの花婿候補の王子をもてなすパーティーが始まってしまう。
昨日入れ替わりを承諾してしまったということは、絵本の通りシルヴィアとして王子のお相手をしなくてはいけないのではと考え至り、梨沙はベッドの端に腰掛けたまま慄いた。
混乱した頭を抱えながらも部屋に置いてある洗顔ボウルに水差しの水を入れて顔を洗うと、部屋の隅に畳んで置いておいたメイド服に着替えた。
部屋を出て、廊下の端にある階段を1階まで降りると、使用人専用の食堂らしき場所に辿り着いた。
「リサ、おはよう」
ぽんと肩を叩かれて振り向くと、同じメイド服を着たふくよかな女性に声を掛けられた。
「あ、おはようございます」
年は50代前半の岩田と同じくらいだろうか。人の良さそうな笑みを浮かべている。絵本の中に彼女らしき女性が出てきたことはなく、親しげにされて一瞬戸惑ってしまう。
「旦那様から聞いたよ。面白そうなことするねぇ」
梨沙の戸惑いに気が付かないのか、可笑しそうに笑いながら自分のぶんのついでといって梨沙の朝食も一緒に準備してくれる。
頭の奥の片隅の記憶を引っ張り出し、彼女がエマという名前で、ハウスメイドを束ねるメイド頭だということが思い出された。
裏表のなさそうな笑顔に大きな笑い声。話して30分も経っていないのに、梨沙はエマが大好きになってしまった。もう成人した息子が3人もいるという彼女から溢れる母性がそうさせるのかもしれない。
そこからはあれよあれよという間に事は進んでいく。
食事を済ませて簡易的な風呂に入り、姫と入れ替わるためにシルヴィアとともに衣装部屋へ行った。
メイド服を脱ぎコルセットを付け、エマに背中から締め上げられる。押し出された内臓が口から出そうなほどキツく紐を締められ、お姫様はあの美しい微笑みの裏でこんな苦しい思いをしているのかと初めて知った。
スカート部分を膨らませるために何枚もペチコートを重ね、ようやくドレスを着る。そのドレスがまた重い。
桜の花びらのような薄いピンク色をしたドレスに銀色の糸で刺繍が施してあり、一見して分かりにくいが近くで見ると物凄く豪華な造りだ。
さらに首と耳、手首や指にまで豪華できらびやかな装飾品が付けられ、ドレスとアクセサリーの重さで身動きが取りづらい。
エマに化粧をしてもらい、仕上げに1度も染めたことのない真っ黒で艶のある髪を隠すようにブロンドのウィッグを被れば、偽物の姫の出来上がり。
ドレッサーの鏡の中の自分を見て、思わず感嘆のため息が漏れる。
こんなに着飾ったことは生まれて初めてで、恥ずかしいと思いながらちょっとワクワクしている自分がいるのを梨沙は自覚していた。
絵本が大好きだった梨沙は、自分が今まさにそのお姫様になっているのだと心が躍った。
隣で着替えていたシルヴィアをちらりと横目で見ると、そこにはメイド服に身を包んでいても隠しきれない美貌と品の良さを湛えた正真正銘のお姫様の姿。
「まぁリサ! とても似合うわ!」
梨沙を見て花が綻ぶように笑うシルヴィアは、あっと何かと思いついた表情をすると、可愛らしくわざとらしい咳払いをした。
「じゃなくて。とてもお綺麗です、シルヴィア様」
片足を下げて腰を落としてそう言う彼女は、イタズラが楽しくてしょうがない子供のように無邪気な顔をしている。
(なんて可愛い人なんだろう)
シルヴィアは公爵家の姫だというのに、偉ぶったところがひとつもない。
それどころか自らメイド服に袖を通し、このドレスにはこっちのネックレスの方がと梨沙の世話を焼く真似をしだす。
そんなシルヴィアのことをリサは自分のこと以上に大切に思っていて、彼女の笑顔のためならば何でもする。そんな侍女だった。梨沙はおぼろげな記憶を頼りにそんなことを思った。
「お嬢様、リサ、そろそろお時間ですよ」
エマの一言で、梨沙の緊張は否が応にも高まっていく。
「シ、シルヴィア様。私、どうしたら……」
「大丈夫よ! 堂々としてればバレっこないんだから!」
自信満々に言い放つシルヴィアとは対照的に、梨沙は不安で仕方ない。
昨日はどうせ夢だからとあまり真剣に考えていなかったが、自分が侍女のリサとしてこの絵本の世界に転生したと考えると、この入れ替わりの作戦は失敗するわけにいかないというプレッシャーがあった。
この入れ替わりが成功するかで、絵本の通りのハッピーエンドが待っているかどうかが決まる。
早々にバレるわけにはいかない。この世界はハッピーエンドでなくてはならないのだ。
ドレスの胸の前でぎゅっと拳を握りしめ、梨沙は1人気合いを入れた。
無音の中、梨沙は珍しくスッキリと目が覚めた。いつもの朝と違うのは、それだけではない。
木製の固い狭いベッド。着慣れないワンピースのパジャマ。昨日夢の中で過ごしたはずの絵本の世界が、目を覚ましてもまだ続いていた。
――――もしかして、夢じゃない?
ベッドに座ったままもたもたと足を床に下ろし、ぎゅっと頬をつねってみる。
「痛っ! え、痛い……」
右手を頬に当てたまま呆然と呟く。
(どうしよう。本当に絵本の中に入ってしまったっていうこと……?)
昨日は完全に夢だと思ってたから何の疑問にも思っていなかったが、侍女のリサとしてこの世界で生きているということだろうか。
今自分は"日比谷梨沙"という意識ではあるものの、頭の奥の片隅に"リサ=レスピリア"としての記憶があることも確かだ。
その証拠に昨日は夢だと思っていたこの世界が現実なのではと思い至ってから、昨日あの場所で倒れていた理由も思い出されてきた。
『早く、このお城を離れないと……』
そう、あれはこの世界のリサの声。リサはこの城から出ていこうとしていたのだ。花婿候補がここに着いてしまう前に。
しかし、なんの因果か梨沙がこのタイミングで絵本の世界にリサとして転生してきたことで、結局城に戻ってきてしまった。
もしこれが現実だとしたら、今日のお昼にはシルヴィアの花婿候補の王子をもてなすパーティーが始まってしまう。
昨日入れ替わりを承諾してしまったということは、絵本の通りシルヴィアとして王子のお相手をしなくてはいけないのではと考え至り、梨沙はベッドの端に腰掛けたまま慄いた。
混乱した頭を抱えながらも部屋に置いてある洗顔ボウルに水差しの水を入れて顔を洗うと、部屋の隅に畳んで置いておいたメイド服に着替えた。
部屋を出て、廊下の端にある階段を1階まで降りると、使用人専用の食堂らしき場所に辿り着いた。
「リサ、おはよう」
ぽんと肩を叩かれて振り向くと、同じメイド服を着たふくよかな女性に声を掛けられた。
「あ、おはようございます」
年は50代前半の岩田と同じくらいだろうか。人の良さそうな笑みを浮かべている。絵本の中に彼女らしき女性が出てきたことはなく、親しげにされて一瞬戸惑ってしまう。
「旦那様から聞いたよ。面白そうなことするねぇ」
梨沙の戸惑いに気が付かないのか、可笑しそうに笑いながら自分のぶんのついでといって梨沙の朝食も一緒に準備してくれる。
頭の奥の片隅の記憶を引っ張り出し、彼女がエマという名前で、ハウスメイドを束ねるメイド頭だということが思い出された。
裏表のなさそうな笑顔に大きな笑い声。話して30分も経っていないのに、梨沙はエマが大好きになってしまった。もう成人した息子が3人もいるという彼女から溢れる母性がそうさせるのかもしれない。
そこからはあれよあれよという間に事は進んでいく。
食事を済ませて簡易的な風呂に入り、姫と入れ替わるためにシルヴィアとともに衣装部屋へ行った。
メイド服を脱ぎコルセットを付け、エマに背中から締め上げられる。押し出された内臓が口から出そうなほどキツく紐を締められ、お姫様はあの美しい微笑みの裏でこんな苦しい思いをしているのかと初めて知った。
スカート部分を膨らませるために何枚もペチコートを重ね、ようやくドレスを着る。そのドレスがまた重い。
桜の花びらのような薄いピンク色をしたドレスに銀色の糸で刺繍が施してあり、一見して分かりにくいが近くで見ると物凄く豪華な造りだ。
さらに首と耳、手首や指にまで豪華できらびやかな装飾品が付けられ、ドレスとアクセサリーの重さで身動きが取りづらい。
エマに化粧をしてもらい、仕上げに1度も染めたことのない真っ黒で艶のある髪を隠すようにブロンドのウィッグを被れば、偽物の姫の出来上がり。
ドレッサーの鏡の中の自分を見て、思わず感嘆のため息が漏れる。
こんなに着飾ったことは生まれて初めてで、恥ずかしいと思いながらちょっとワクワクしている自分がいるのを梨沙は自覚していた。
絵本が大好きだった梨沙は、自分が今まさにそのお姫様になっているのだと心が躍った。
隣で着替えていたシルヴィアをちらりと横目で見ると、そこにはメイド服に身を包んでいても隠しきれない美貌と品の良さを湛えた正真正銘のお姫様の姿。
「まぁリサ! とても似合うわ!」
梨沙を見て花が綻ぶように笑うシルヴィアは、あっと何かと思いついた表情をすると、可愛らしくわざとらしい咳払いをした。
「じゃなくて。とてもお綺麗です、シルヴィア様」
片足を下げて腰を落としてそう言う彼女は、イタズラが楽しくてしょうがない子供のように無邪気な顔をしている。
(なんて可愛い人なんだろう)
シルヴィアは公爵家の姫だというのに、偉ぶったところがひとつもない。
それどころか自らメイド服に袖を通し、このドレスにはこっちのネックレスの方がと梨沙の世話を焼く真似をしだす。
そんなシルヴィアのことをリサは自分のこと以上に大切に思っていて、彼女の笑顔のためならば何でもする。そんな侍女だった。梨沙はおぼろげな記憶を頼りにそんなことを思った。
「お嬢様、リサ、そろそろお時間ですよ」
エマの一言で、梨沙の緊張は否が応にも高まっていく。
「シ、シルヴィア様。私、どうしたら……」
「大丈夫よ! 堂々としてればバレっこないんだから!」
自信満々に言い放つシルヴィアとは対照的に、梨沙は不安で仕方ない。
昨日はどうせ夢だからとあまり真剣に考えていなかったが、自分が侍女のリサとしてこの絵本の世界に転生したと考えると、この入れ替わりの作戦は失敗するわけにいかないというプレッシャーがあった。
この入れ替わりが成功するかで、絵本の通りのハッピーエンドが待っているかどうかが決まる。
早々にバレるわけにはいかない。この世界はハッピーエンドでなくてはならないのだ。
ドレスの胸の前でぎゅっと拳を握りしめ、梨沙は1人気合いを入れた。
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