白の双剣士

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第一章 その体に白を宿して

第15色 赤と青の乱舞

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 「『白洗』」 



 あの声は僕の中から聞こえた。なら、それは『色』を使わないと不可能。何か悪影響があっても困るし、最後に不穏なことを言っていた。なら、すぐ来ることも考えて多少の〈副作用〉があったとしても使うべきだ。そう判断した。

 そして次に机の横に立てかけてある双剣を取る。そして窓を開け、そのまま飛び降りる。この階は二階。そのまま落ちても問題ないとは思うが、一応壁に手をつけて降りる。

 そして少し走り、敷地内の草の広場に出る。



 「『白磑』」



 体を『白』が覆う。この相手だと不意打ちをしてくる。そんな気がした。



 だが、相手は真正面から現れた。



 見たところ、十歳前後の体だ。だが、顔がない。厳密に言えば、塗りつぶされている?そんな感じだ。

 服はボロく、その服も、体も、ドス黒い赤と青で塗り尽くされている。

 そして何より目を引くのは体の中心。心臓の辺りに、剣が刺さっている。

 その剣は、まるであの時感じたかのような黒。

 そこだけ何も存在しないかのように思わせる程の黒だった。



 「ッ!」



 『白磑』が消える。咄嗟に後ろに飛ぶが、追撃は無い。

 飛ぶ瞬間に見たのは、『白磑』があったところでバシャッと落ちた血の塊だった。

 その血はあの者…いや、化け物のところまで伸びている。地面についた血の線から察するにあいつが血を触手のようにしてこちらに飛ばしてきたのだろう。つまり…服の色とも合わせて『赤』か?



 「『白磑』」



 速度も速い。なら、万が一に備えて『白磑』をかけておく。

 すると、あいつの背中に血の触手が六本生える。

 その瞬間、僕は奴を中心に左回りに走る。それを追ってくるように血の触手が後ろから四本追ってくる。残りの二本は奴の両腕にあり、両方腕ごと武器の形になっており、右腕は剣、左腕は斧。

 ただ、血の触手は最初ほど速度がない。外に出す触手の量が関係している?



 ダシャッ!!



 奴が地面を蹴る。その瞬間、まるでカイルのように蹴りに合わせて血を噴射させる。前と後ろからの攻撃。グラドとの戦いを思い出すな。

 ただ、奴は前屈み、後ろの血は足を狙っておりそちらも低い。

 そうして状況確認を済ませると奴が迫る。右手と一体化した血の剣でこちらを斬る。

 それに対し走っていた足を急停止させ、真上に飛ぶ。この速度で動いているのだから触手も急には曲がれないはず…!



 「ぐっ…!」



 三本は奴に当たる。だが怪我になるようなことはなく、腕に吸い込まれる。問題はもう一本。どういうわけか、こちらが飛ぶのをわかっていたかのように飛んだ先に飛ばしてきた。ただ、『白磑』のおかげでダメージはない。奴は僕の下を通り抜ける。その方向を向きながら着地する。だが、落ち着く暇もなく奴が迫る。



 今の僕の選択肢は



 ・まずさっきと同じく『白磑』で保険をかけながらこの音に気づく先生が来るまで耐える。

 

 ・次に『白磑』をつけながら先生のいるところまで逃げる。



 ・そして『白斬』で攻勢に転ずる。なにか奥の手を出される前に倒しきる。



 この3つってところか?ただ、さっきのジャンプも読まれていたところがあった。たまたまかもしれないが警戒するに越したことはない。そしてそのギリギリのラインで耐え続けられるかと言われればそれは無理だ。だから耐えるのは無理。

 次に逃走。正直厳しいと思う。さっきの触手は数が多かったから速度が遅くなっていて避けられたが逃げるとなるともっと数を絞って速くするか何かしらで逃げ場をなくされる。だからおそらく無理。

 なら、消去法で攻撃。やるしか無い、か。



 「『白斬』」



 今度は左右に二本づつ。やや後ろ側から上と下に分けて来る。飛んでも後ろに下がっても捉えられる。

 なら、前に出る。この触手、動きがグラドのものと近い。相手を追尾するのではなく、予め決めた場所に飛んでいく。おそらくダメージを承知で下がったところに合わせてある。一本くらいはくらうかもしれないがそのくらいは今日範囲内だ。



 「CrAaaaaaaaaaaaaa」



 謎の声を上げながら両手で攻撃してくる。それを『白斬』を纏わせた剣で斬る。

 剣と剣が交差する。その瞬間、奴の剣が液体になる。そして僕の剣が奴の胴に当たる…



 ことはなかった。奴の腕が溶けた瞬間、僕の目の前に青黒いモヤの塊が現れた。勢いを止めきれずそのモヤに突っ込む。すると、地上から10メートルほど上空に出現した。違和感はなかった。踏み込もうとした足も、奴に当たるはずだった剣も、全て空を切る。そしてすぐさま落下する。この高さだ。そのまま落ちればなにか怪我をするのは確実。だが、今の僕でどうにか出来るような手札はない。とはいえ諦める訳にはいかない。『白磑』で少しはクッションになるか…?



 その時、僕の周りを風が吹き荒れる。



 「『緑風・緩』!」



 その風のおかげで、ダメージなしで着地できた。



 「こんな夜中に戦うならせめて俺に言えよ。起きたらお前がいなくて焦ったぞ。」

 「悪い。巻き込むのもあれだと思って…」

 「一人で無理なら頼れよ。」

 「あぁ、そうさせてもらうよ。」



 僕とワイドが横に並ぶ。入学して以降、僕とワイドはよく勝負や連携の練習をしている。

 カイルとは戦ってばかりで連携はしていなかったので連携というのは新鮮だった。ただ、それ以上に得られるものも多い。その成果を見せる時が今だ。



 「『緑・風走』」



 ワイドが僕たちを風で押すことで速度を速くする。そうして触手を避けている間に奴の触手と血、最後の青いモヤの情報を共有する。



 「『白粉・霧』」



 『白』を粉のようにして、霧のごとくその場に出す。これを出すときのイメージは粉。ただ、ふれたところの『色』の効果をなくす効果。いかんせん粒が小さいすぎるので完全に消すどころか少し『色』の流れを乱すくらいしか出来ない。ただ、その流れを乱すということが重要だ。



 ワイドと訓練する時、同時に『色』の仕組みについても調べている。その結果、



 ・『色』はそこに存在するものを『色』というエネルギーで動かしている



 ・『白』は例外。何を利用しているか不明



 ・動かしているものの中の『色』は川の水のように流れ続けている



 ・その流れを乱されると、コントロールが取れなくなる



 ということがわかった。ちなみにこのことはまだ誰にも言っていない。



 話を戻すと、『白粉』は『色』の流れを消す。少し消した程度ではなんとも無いが、これが多く付き、『色』の流れを消せば、『色』を保てなくなる。そしてこの『白粉』はいくらでも増やせる。つまり時間が経てば経つほど相手は『色』を使えなくなり、こちらが有利になる。

 ただ、これを僕だけで使うと一箇所に固まったり、風で流されて使い物にならない。

 そこで使うのがワイドの『緑』だ。



 「『緑檻』」



 相手に覆い被さるように風の檻が出来る。全方位から奴に向かって風が吹く、風の檻。

 ただこれだけでは恐らく相手の『青』で簡単に抜けられる。そこで利用するのが『白粉』の特性、〈風に乗る〉ということ。

 この『白粉』、風に乗るようにとイメージしたからかワイドの『緑』には何故か全く干渉しない。

 つまり、『緑檻』と『白粉』を合わせることで、『色』と〈動き〉を無効化することができる牢獄が完成する。ただこれは僕達の『色』を使っているので僕達の体力が切れた瞬間檻は無くなる。

 そこでどう攻撃するか。



 「『白鎧・織』」



 『白粉』が風で飛ぶのであれば、全ての『色』から身を守ることを考えて作った『白鎧』も、風でなびくような羽織をイメージすればワイドの『緑』には干渉しないはず。

 それが『白鎧・織』。その装備のまま奴に突っ込む。



 「『緑突』」



 ワイドはいつも通り『緑突』をする。

 そして僕が『緑檻』にあと少しで入るという時。



 「つぁっ!」

 「!?」



 ワイドが声を上げる。反射的にワイドを見ると、血の触手が『青』を通ってワイドに刺さり、すぐさま『白粉』の影響で乱れて消え



 なかった。



 即座に振り向くが、『青』も、血の触手も見えない。

 ただ一つ特筆すべき点は奴の体勢。顔を下に向け、前かがみになり両手を前で合わせている。

 奴が顔を上げる。それと同時に両手を開く。

 『青』。

 つまり手の中という風があまり入ってこない環境で『青』を作り、そこから一本に絞り、圧倒的な速度の血の触手を飛ばしたということか。



 ただこの状況はこちらの有利に変わりない。ワイドの『緑檻』は今の攻撃で解除されたが目の前にいる事に変わりはない。そう考え、剣を振りかざす…



 「グガァッ…!」



 だが、その剣が奴に届くことは無かった。剣が届く前に腹に一発殴られ、僕が仰け反っている間に体を回転させて『白粉』を飛ばす。そして右手を血の剣に変えてこちらに斬りかかる。かろうじて剣で受け止めたが片方は折れてしまった。そして『白粉』は解除。

 奴は両腕に血を纏わせる。だが、その後の形は両腕共に鞭のようなしなやかさのもので、先端に刃が付いているというもの。体の周りでそれを伸ばしたり縮めたりしている。そして背中の触手は腕と逆に硬く細く長く早く直線にしか移動しなくなった。だが、その先に『青』。

 奴は今体をなじませているのだろうか。

 リズムよく飛びながら鞭のようなものと化した両腕を目にも留まらぬ速さで体の周りで操るその姿は、

 どこかで見た舞のようだった。
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