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終着点
しおりを挟む戦い疲れた。
金のため、国のため、家族のため、仲間のため。
そんなにも戦って、最後に残ったものはただの喪失感だけだった。
最初はただ金が稼げるからという理由だけでこの傭兵という職業についた。
順調に仕事をこなし、実力もつけてきた。
依頼に失敗することもあったが今となってはいい思い出だ。
そんな俺にも家族が出来た。
その日々は幸せだった。今まで各地を転々としていた中ようやく家を構え、そこを中心に仕事を受ける日々。
近くには川が流れ、いい隣人達。
子供も多く、いつしか俺達の子供もそこに混ざるようになっていた。
ただ、そんな幸せはいつまでも続かなかった。
魔王の復活。
それによってどんどん人間の生活範囲は狭まってゆく。
俺も国からの依頼で前線に出る日が増えた。
だがただ一つの怪我もなく毎回終える。
勝ったときも、負けて逃げ帰ったときも。
そんな中、俺達に一筋の希望が現れた。
勇者。
あの物語でも魔王を打ち倒すとされている存在。
数人の仲間を引き連れて魔王城までの道を切り開いていく。
人々は思った。
あぁ、これで魔物や魔王に怯える日々が終わる、と。
だが俺は違った。心の中でそう思いながら、何か嫌な予感が抜けなかった。
今までの活躍から前線にも常に出なければならない日々。
家に帰る時間も最近はどんどん少なくなっていた。
そんな中だった。
勇者が負けた。
この時を皮切りに、魔物はどんどん人間を殺していき、俺達が住んでいた場所はもちろん、王都までもが落とされた。
村に戻ったときには既に何もかもが終わっていた。
そこからの俺はただひたすらに魔物を殺し続けた。
国が亡くなっても。護るものが無くなっても。何匹殺そうとも。なんのために殺しているのか忘れても。
数年経ち、世界の三分の一が魔王の支配下となった。
ふと気がつくと俺は何処か知らない海の海岸に立っていた。前には果てしない広さの水平線。
両隣には先が見えないほどの砂浜。
後ろにはおびただしいほどの魔物の死体。
しばらくそこに立っていた。
すると、誰かが隣に来た。
魔族だった。だが、不思議とこれまでのような殺意は湧かなかった。
「すこし、話がしたいんだが。傭兵。」
「話か…いつぶりだったかな。誰かと話をするのは。」
殺意どころか嫌悪感すら無い。まるでこれまで苦楽を共にした友のような。
「…疲れたな。」
「あぁ、そうだな。」
一瞬の静寂を破ったのは俺だった。
なんてこと無い、これまでの人生のただの感想。
「なんのためにこんなことしてたんだったか、忘れちまった。」
「私もだ。」
そう言うと、魔族は身の上話をし始めた。
「元々俺は四天王だった。ある日魔王様が変わった。これまで平和主義だった魔王様が突然人間への侵攻を始めたんだ。俺達はそれに反対することが出来なかった。そして勇者が現れた。その仲間と戦って俺は人への認識を改めたよ。人はこんなにも強かったのか、ってね。そして勇者を殺した。だが魔王様は変わらなかった。」
「だから、俺が魔王様を殺した。」
「良くも悪くも魔族ってのは実力主義でね。反対するやつは一人もいなかった。」
「そしてそのまま侵攻を続けた。そこだけはどうあがいても変えられなかった。」
「悲しいよな。魔王になれても魔族全体は変えられない。」
「…あんた魔王だったのか。」
まずでてきたのはそれだった。そして少し間を開け、俺も自分のことを話した。
「…お互い、悲しい生き方をしているな。」
「そうだな。」
不思議と敵とは思えなかったのはここかもしれない。
「…私は、ここに来るまでに既に魔族はあらかた殺してきたんだ。これまでの罪滅ぼしとでもしたかったのかは分からないがな。」
「俺も人を殺したほうが良かったか?」
「いや、同族殺しなんてするもんじゃない。気分が最悪だぞ。」
笑うような話でもないのに笑う。
ああ、俺達が何より先に出会えていたらな。多分、ふたりともそう思った。
そして、おもむろに剣を取り出す。
二人同時に。
「ここが終着点。それが、一番かは分からないが、いいだろ。」
「そうだな。お互い、疲れたんだ。」
二人の間の水平線から、朝日が顔を出す。それと同時に二人は駆ける。
ただ一つの魔法も、その立派な翼も、最上級のポーションも使わず。
一人はかつて妻だったものからもらったネックレスを大事に首から下げ。
一人はかつて未来を見ていた者の持っていた手袋を何か思い出すように着けて。
なんの小細工もない。
ただただ剣での戦いをした。
数週間後、人類と魔族との戦いは終結した。
傭兵と魔王の想いは知られること無く。
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