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黒文鳥

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6章

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「だけどね、そんなの言い訳にならない。実際私は、二人に酷いことをしたんだから。しかも残酷なやり方で。奈々子と莉央は親友なのに、綾華と一緒になって引き裂いたんだよ」
「夏樹、それは」
「事情があったとしても、事実は認めなくちゃいけない」

 頑なな夏樹を前に、私は何も言えず両手を握りしめる。
 あれは綾華の策略。どちらか一人を孤立させるのが目的だった。
 それがあの子のやり方なのだ。

「夏樹と同じように、莉央にも事情があったんだよね?」

 綾華に逆らえない理由があったと、今なら確信を持って判断できる。
 夏樹はうなずくと、莉央の事情について、やるせなさそうに説明した。

「莉央を外そうと言われて、奈々子は断ったよね。しかもきっぱりと。それが綾華にはあり得ない返事で、想定外の反逆だった。案の定、綾華はターゲットを奈々子に変えて、莉央を味方に引き入れようとした。奈々子を仲間外れにすると言われて、もちろん莉央も驚いてたよ。昨日まで自分が外されてたんだから、当然の反応だよね。でも綾華は今度こその反逆を許さず、ノーと言えない契約を莉央に持ちかけたんだ。父親の力を借りて」

 莉央の家が大変な状態であるのを、綾華は知っていた。知っていて彼女を孤立させ、苦しめていたのだと夏樹が苦々しく吐き出す。

「綾華の父親が『かのう屋』に出向き、顧客の紹介と資金援助を申し出たのさ。おかげで店は倒産を免れ、後継ぎのお姉さんも無事に結婚して一家は安泰。その代償を莉央がすべて払うとは知りもせず」

 莉央は綾華に借りを作った。家族を救われたという大きな借りである。
 しかも莉央は、本当の事情を家族に話さなかった。すべては西野綾華との友情による善意という体で、ことを収めた。
 親に負い目を持たせないための気遣いではあるが、綾華に釘を刺されてもいたのだ。

『これからは、私が莉央の一番の親友ね。奈々子とは付き合っちゃダメだよ? お家の人には、「奈々子は私を仲間外れにしたからもう友達じゃない」って説明して? 約束を破ったら援助は打ち切りだからね!』

 莉央は条件を呑み、綾華のグループに完全復帰した。
 それが、彼女の裏切りの真相だった。

「そんなわけで莉央は、綾華に服従することとなった。同じ立場の私は、あの子の気持ちが手に取るように分かったよ。私たちは仲良しグループを演じながら、心の中は惨めさと情けなさでいっぱいだった。でも抜けられない。家族を人質に取られて、仕方ないんだって自分に言い聞かせて。そうでもしなきゃ、罪悪感で潰れそうだったからね。莉央はもっと苦しんでたと思うよ。自分を庇ったせいで孤立した奈々子が、ひとりぼっちなのに……すぐそこに座っているのに、声もかけられないんだから」

 私が保健室登校を始めた頃、莉央も体調を崩したと言う。それを綾華が面白そうに眺めていたとも。

「とにかく綾華は毎日楽しそうだったよ、うんざりするくらいに。ただ、奈々子が外部の高校を受けると知った時は苛立ってたな」

 獲物に逃げられる悔しさだろうか。綾華の嗜虐的な目を思い出し、身震いする。


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