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間章
8
しおりを挟むいやちょっとどうなんだ、と冷静になったのがいけなかった。
とはいえ誰かに相談出来る類の話でもない。
ましてや相棒に伝えるなんてことは当然なしである。
悩みだと言えば悩みだが、それは下らないと一蹴されて然るべき話で。
だからまあ、黙っておくのが一番だときちんと理解していたのだ。
「アトリ」
半分溶けたような思考。
力の抜けた身体はベッドに沈んだまま。
ユーグレイの背中に回したはずの手も、いつの間にかシーツに投げ出されていた。
数秒目を閉じたら、そのまま意識を失うだろう。
ただ柔らかく囁くように呼びかけられたから、何とか返事はしたいと思った。
重く瞬きをすると、微かにユーグレイが笑ったような気配がある。
彼の長い指が額を撫でた。
「いや、眠っていて構わない」
酷く心地の良い体温が離れていく。
薄闇の中、アトリはぼんやりとユーグレイを見上げた。
行為の後の彼はひたすらに優しい。
最早生存確認でもされているのかと思うほどにあちこち触れて、恐ろしいほどに丁寧に後処理をする。
いや、防衛反応がある時は事後など気にする余裕もなく落ちてしまうから構わないのだが。
今夜のように、事情もなく抱かれた日は何とも言えない気分になる。
「…………ん、へーき」
掠れた声で何とか返事をすると、ユーグレイはアトリの胸の上に手を置いた。
まだ繋がったままの身体。
呼吸の度に、彼の手もゆっくりと上下する。
あたたかい。
「まだ、すんの?」
その意図を図りかねて、アトリは問いかけた。
出来ればもう終わりにして欲しいところだが、ユーグレイに「したい」と言われたら拒否する自信はない。
ああ、でもちょっと困るか。
多分これ以上はもう訳がわからなくなる。
「そうしたいところだが、君、もう限界だろう」
するりと肌を滑って行ったユーグレイの手が、濡れた下腹部に触れる。
正直なところ、何度達したか覚えていない。
うっかり防衛反応がおかしくなっていたのではないかと思うくらいだが、こちらが反応するのはアトリが正常だった証でもある。
寧ろ防衛反応のせいに出来れば、色々と悩みもないのだが。
「そー、だいぶ、限界」
アトリは途切れ途切れに答える。
彼の指先が吐き出したそれを掬うのを、止める気力さえない。
何が楽しいのか。
けれど少なくともいつもと変わらない様子の彼に安堵する。
器用にも中でイッて、きちんと欲も吐き出して。
最後の方はいつも頭が真っ白で、聞くに耐えないような声を上げているはずだ。
それも、防衛反応のせいではない。
そう、だから。
ちょっとどうかとアトリは思うのだ。
「…………う、ぁ、待っ」
ぎしりとベッドが軋む。
身体を起こしたユーグレイが、ゆっくりと中から出て行く感覚。
散々に暴かれたそこが律儀に快感を拾い上げた。
もう無理だと思ったのに、身体の芯が脈打つように震える。
どうしたって、気持ち良いものは気持ち良い。
「少し力を抜け、アトリ」
わかっている。
限界だと言っておきながら、まだ抜いて欲しくないと思っている。
ここ最近はどれほど長く交わってもそうだ。
あまりに気持ち良すぎて、おかしい。
絶対に、変だ。
ちょっと前までは、これほどではなかったはずで。
じゃあ何でだと考えても答えは見つからない。
「アトリ」
声を殺そうと噛んだ唇を、ユーグレイに塞がれる。
熱い。
アトリは必死に手を持ち上げて、彼の銀髪に指を埋めた。
「ごめ……、きもち、いい」
「何故謝る?」
いや、だって。
これじゃ欲求不満かと思われても仕方ない。
ユーグレイは呆れたような顔さえしなかった。
必死に追い縋った熱が、奥まで戻って来る。
それだけで、軽く達した感覚があった。
やっぱり、どうにかしないと駄目だな。
本来は、防衛反応を鎮めるという事情がある時だけで十分なはずだ。
こんなに夢中になってしまっては色々問題がある。
アトリが慣れたからいけないのか、それとも彼が上手くなったのが原因なのか。
下らない悩みだが、流石にもう素知らぬ顔は出来そうにない。
でも、どうしたら良いのやら。
ユーグレイにきつく抱き締められて、アトリは思考を諦めた。
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