Arrive 0

黒文鳥

文字の大きさ
上 下
73 / 181
3章

21

しおりを挟む

「んん゛っ、う……あ」

 ああ、そうか。
 あれほど慣らしてもらったと言うのに、受け入れる行為はやはり多少の苦痛を伴うものらしい。
 ゆっくりと瞬きをすると滲んだ視界は少し明瞭さを取り戻す。
 互いに身に纏うものは、すでに何もない。
 アトリに覆い被さったユーグレイは、辛そうに眉を寄せて荒い息を殺すように不自然な呼吸をしていた。
 熱い手はアトリの肩を撫で、髪を梳き、額に触れる。
 そして焦ったいほどの時間をかけて、ユーグレイは自身をアトリの後孔に埋め込んで行く。
 これまでの行為は、何をされても気持ちが良くてずっとイキっぱなしだった。
 痛いとか、苦しいとか感じている余裕はあまりない。
 全ての感覚が快感に置き換わって身体と思考を埋め尽くす、そう言うものだった。
 だから尚更、今夜のアトリの反応が苦しそうに見えるのだろう。
 そんなに気を遣わなくて良いのに。
 
「だ、い……じょうぶ、だから。いつもみたいに、しろって」

「全く大丈夫ではなさそうだが」

 息も絶え絶えに訴えたところで、当然聞き入れてはもらえない。
 額を合わせるようにして顔を覗き込まれる。
 イケメンの無駄遣いだな、と思わずアトリが苦笑すると、ユーグレイは見透かしたように意地の悪い顔をした。
 
「好きなようにして良いのだろう?」

 ぐぐ、と咥え込んだ熱が少し奥へと入り込む。
 呻き声を上げる寸前で、アトリは自身の口を腕で押さえた。
 何故か不服そうな表情をしたユーグレイに、「アトリ」と名を呼ばれる。
 
「辛いなら」

 言いかけたユーグレイに、アトリは首を振った。
 止まって欲しいほどに辛いわけではない。
 防衛反応の暴走で起こる快感は純度が高く、何を考えるより先に達しているみたいな強制力がある。
 けれど今夜のこれは、違う。
 ユーグレイを受け入れた後孔は、限界まで拡がって少し痛い。
 滾ったそれが内臓を圧迫して、苦しい。
 本来排泄器官であるそこに、異物を受け入れる違和感の強さ。
 労わるように慰めるように肌を撫で、時折アトリ自身にも指を絡めるユーグレイの切羽詰まった顔。
 そういうものが積み重なってそしてようやく手が届く快感は、堪らなく鮮烈で到底手放せるものではない。
 要は単純に気持ち良い。
 ちゃんと出来るのかという不安は、全くの杞憂だった。
 だからやめて欲しくはない、とアトリは懇願する。

「き、もち良いから。つ、づけて」

「………………」

 腰を押さえられる。
 不安定に宙を蹴る両足が震えた。
 アトリは顔のすぐ横にあるユーグレイの手首を軽く握る。
 
「嘘は、吐いていないな?」
 
「嘘じゃ、ない」

「ーーーーああ」

 ずりずりと粘膜を擦りながら、ユーグレイが腰を押し込む。
 固い先端が腹の裏側を抉ると、言いようのない快感が溢れた。
 緩く兆したアトリの性器からとろりとした白濁が滲む。
 それは徐々に激しくなる律動に合わせて、ぽたぽたと腹に飛び散った。
 正直自分で見てもちょっとどうかと思う有様だが、もう隠しようがない。
 ユーグレイだって、この状態でアトリが辛いだけなどと思ったりはしないだろう。
 痛い、苦しいという感覚は勿論あるけれど。
 でもそれ以上に。
 こんなにも、気持ち良い。
 
「アトリ」

「んッ、ッ!!」

 ぱちゅ、と水が弾けるような音がした。
 びくっと意図せず跳ねた腰を、ユーグレイの手が押さえつける。
 アトリ本人より余程、どこが悦いのか知っているようだ。
 的確すぎるほどに気持ちの良い場所を突かれて、きん、と耳鳴りがした。
 
「は、あッぁ、ユーグ、ぅ!」

 何度も何度も同じところを突かれる。
 我慢、出来ない。
 触られてはいなかったのに決して少なくない量の欲を吐き出して、同時に全身が痺れるような快感に満たされる。
 一瞬何もわからなくなって、夢中でユーグレイの名前を呼んだ。
 呼びながらただ衝動に流されて、アトリはぎゅうっと彼の熱を締め付ける。
 ユーグレイはぎしりと身体を強張らせた。
 
「……く、う」

「あ、ぁあ、あぅ、う……」

 強すぎる余韻を散らそうと、アトリは掠れた声を上げる。
 ちらちらと明滅した視界。
 互いの息遣いに耳を澄ます。
 殆ど無意識に中が脈打って、まだユーグレイが達していないことにようやく気付いた。
 我慢したのか、何故?
 アトリは頭を傾ける。
 
「……気持ち良く、なかったか?」

「挿れられているのだから、わかるだろう。限界だ」

 まあ、気持ち良くなかったはずはないだろうとは思っていたけれど。
 憮然とした様子で言い返されて、アトリは笑う。
 ユーグレイは「響くから笑うな」と眉を顰めた。
 いつものように出して良いのに、とあっさり言うと彼は何か言いかけて黙り込む。
 ああ、わかった。
 まだ繋がったまま、アトリは慎重に身体を起こした。
 求めるように手を差し出すと、要求を正しく理解してくれたユーグレイが体勢を変えてくれる。
 向かい合って座るような体位を取ると、もうこれ以上はないと思っていたのに更に奥を突かれた。
 痛みにも似た鋭い快感。
 ユーグレイの首に腕を回して、アトリは身体を支えようと爪先に力を入れる。
 
「ア、トリ」
 
 堪え切れないとばかりにユーグレイが呻く。
 いつも涼やかな彼の、欲に塗れた淫靡な表情。
 きついけれど、この顔を見られたならまあ良いか。
 
「ユーグが、欲しいだけ良いって言った。俺も、欲しいって、言った。これ以上、何言わせたいんだよ」

「…………そうだな」

 アトリの首筋に唇を寄せて、ユーグレイは頷く。
 銀髪が肌の上を滑って、擽ったい。
 身動ぎをすると、奥が震えるような感覚がある。
 出して欲しい、と焦がれるように思った。
 取り返しがつかなくなるような少しの恐怖を飲み込んで、アトリはゆっくりと腰を動かす。
 拙い動きに合わせて、ちゅくちゅくと音が響く。
 ユーグレイが耐えるような息をする。
 色々と、流石に羞恥が募った。
 頬に熱が集まるのがわかる。
 それでも、ユーグレイが欲しいのなら言葉にしてあげたかった。
 
「ちゃんと、中に」

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

王子様から逃げられない!

白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

匂いがいい俺の日常

とうふ
BL
高校1年になった俺の悩みは 匂いがいいこと。 今日も兄弟、同級生、先生etcに匂いを嗅がれて引っ付かれてしまう。やめろ。嗅ぐな。離れろ。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...