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3章
21
しおりを挟む「んん゛っ、う……あ」
ああ、そうか。
あれほど慣らしてもらったと言うのに、受け入れる行為はやはり多少の苦痛を伴うものらしい。
ゆっくりと瞬きをすると滲んだ視界は少し明瞭さを取り戻す。
互いに身に纏うものは、すでに何もない。
アトリに覆い被さったユーグレイは、辛そうに眉を寄せて荒い息を殺すように不自然な呼吸をしていた。
熱い手はアトリの肩を撫で、髪を梳き、額に触れる。
そして焦ったいほどの時間をかけて、ユーグレイは自身をアトリの後孔に埋め込んで行く。
これまでの行為は、何をされても気持ちが良くてずっとイキっぱなしだった。
痛いとか、苦しいとか感じている余裕はあまりない。
全ての感覚が快感に置き換わって身体と思考を埋め尽くす、そう言うものだった。
だから尚更、今夜のアトリの反応が苦しそうに見えるのだろう。
そんなに気を遣わなくて良いのに。
「だ、い……じょうぶ、だから。いつもみたいに、しろって」
「全く大丈夫ではなさそうだが」
息も絶え絶えに訴えたところで、当然聞き入れてはもらえない。
額を合わせるようにして顔を覗き込まれる。
イケメンの無駄遣いだな、と思わずアトリが苦笑すると、ユーグレイは見透かしたように意地の悪い顔をした。
「好きなようにして良いのだろう?」
ぐぐ、と咥え込んだ熱が少し奥へと入り込む。
呻き声を上げる寸前で、アトリは自身の口を腕で押さえた。
何故か不服そうな表情をしたユーグレイに、「アトリ」と名を呼ばれる。
「辛いなら」
言いかけたユーグレイに、アトリは首を振った。
止まって欲しいほどに辛いわけではない。
防衛反応の暴走で起こる快感は純度が高く、何を考えるより先に達しているみたいな強制力がある。
けれど今夜のこれは、違う。
ユーグレイを受け入れた後孔は、限界まで拡がって少し痛い。
滾ったそれが内臓を圧迫して、苦しい。
本来排泄器官であるそこに、異物を受け入れる違和感の強さ。
労わるように慰めるように肌を撫で、時折アトリ自身にも指を絡めるユーグレイの切羽詰まった顔。
そういうものが積み重なってそしてようやく手が届く快感は、堪らなく鮮烈で到底手放せるものではない。
要は単純に気持ち良い。
ちゃんと出来るのかという不安は、全くの杞憂だった。
だからやめて欲しくはない、とアトリは懇願する。
「き、もち良いから。つ、づけて」
「………………」
腰を押さえられる。
不安定に宙を蹴る両足が震えた。
アトリは顔のすぐ横にあるユーグレイの手首を軽く握る。
「嘘は、吐いていないな?」
「嘘じゃ、ない」
「ーーーーああ」
ずりずりと粘膜を擦りながら、ユーグレイが腰を押し込む。
固い先端が腹の裏側を抉ると、言いようのない快感が溢れた。
緩く兆したアトリの性器からとろりとした白濁が滲む。
それは徐々に激しくなる律動に合わせて、ぽたぽたと腹に飛び散った。
正直自分で見てもちょっとどうかと思う有様だが、もう隠しようがない。
ユーグレイだって、この状態でアトリが辛いだけなどと思ったりはしないだろう。
痛い、苦しいという感覚は勿論あるけれど。
でもそれ以上に。
こんなにも、気持ち良い。
「アトリ」
「んッ、ッ!!」
ぱちゅ、と水が弾けるような音がした。
びくっと意図せず跳ねた腰を、ユーグレイの手が押さえつける。
アトリ本人より余程、どこが悦いのか知っているようだ。
的確すぎるほどに気持ちの良い場所を突かれて、きん、と耳鳴りがした。
「は、あッぁ、ユーグ、ぅ!」
何度も何度も同じところを突かれる。
我慢、出来ない。
触られてはいなかったのに決して少なくない量の欲を吐き出して、同時に全身が痺れるような快感に満たされる。
一瞬何もわからなくなって、夢中でユーグレイの名前を呼んだ。
呼びながらただ衝動に流されて、アトリはぎゅうっと彼の熱を締め付ける。
ユーグレイはぎしりと身体を強張らせた。
「……く、う」
「あ、ぁあ、あぅ、う……」
強すぎる余韻を散らそうと、アトリは掠れた声を上げる。
ちらちらと明滅した視界。
互いの息遣いに耳を澄ます。
殆ど無意識に中が脈打って、まだユーグレイが達していないことにようやく気付いた。
我慢したのか、何故?
アトリは頭を傾ける。
「……気持ち良く、なかったか?」
「挿れられているのだから、わかるだろう。限界だ」
まあ、気持ち良くなかったはずはないだろうとは思っていたけれど。
憮然とした様子で言い返されて、アトリは笑う。
ユーグレイは「響くから笑うな」と眉を顰めた。
いつものように出して良いのに、とあっさり言うと彼は何か言いかけて黙り込む。
ああ、わかった。
まだ繋がったまま、アトリは慎重に身体を起こした。
求めるように手を差し出すと、要求を正しく理解してくれたユーグレイが体勢を変えてくれる。
向かい合って座るような体位を取ると、もうこれ以上はないと思っていたのに更に奥を突かれた。
痛みにも似た鋭い快感。
ユーグレイの首に腕を回して、アトリは身体を支えようと爪先に力を入れる。
「ア、トリ」
堪え切れないとばかりにユーグレイが呻く。
いつも涼やかな彼の、欲に塗れた淫靡な表情。
きついけれど、この顔を見られたならまあ良いか。
「ユーグが、欲しいだけ良いって言った。俺も、欲しいって、言った。これ以上、何言わせたいんだよ」
「…………そうだな」
アトリの首筋に唇を寄せて、ユーグレイは頷く。
銀髪が肌の上を滑って、擽ったい。
身動ぎをすると、奥が震えるような感覚がある。
出して欲しい、と焦がれるように思った。
取り返しがつかなくなるような少しの恐怖を飲み込んで、アトリはゆっくりと腰を動かす。
拙い動きに合わせて、ちゅくちゅくと音が響く。
ユーグレイが耐えるような息をする。
色々と、流石に羞恥が募った。
頬に熱が集まるのがわかる。
それでも、ユーグレイが欲しいのなら言葉にしてあげたかった。
「ちゃんと、中に」
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