Arrive 0

黒文鳥

文字の大きさ
上 下
50 / 170
2章

0.3

しおりを挟む

「く……、ぅッ!」

 くん、と腰が反る。
 幾度目かの絶頂。
 硬直した身体が弛緩する前に、ユーグレイはその背中に手を回して支えた。
 子どものようにへたり込んだアトリの局部は、常とは異なり僅かに兆している。
 触れたいが、それをすると彼は理性を失うだろう。
 話が出来ない状態では意味がない。

「っ、ぅ………、う」

「そんなに良いのか」

 まだ小さく痙攣する下腹部を撫でる。
 アトリはユーグレイの問いに返事をせず、けほと咳き込んだ。
 浴室に響いたのが嫌だったのか。
 声を抑えようなどと無理をするからそうなる。
 顎を持ち上げて指先で唇を開かせると、アトリは反抗的な瞳をした。
 優しくしたいはずなのに、こんな風に触れてばかりだ。
 ただ、止まれない。

「……あ、のな!」

 軽く手を払われて、ユーグレイは笑う。
 抵抗する気力があるのならそれも良いだろう。
 振り払われた手を、鼓動を確かめるようにその胸に置いた。
 先端を摘むと、アトリは小さく息を飲む。

「い、ッ!! やめろ、お前っ」

「痛いからやめて欲しいのか、気持ち良いからやめて欲しいのか。どちらだ」

「…………だ、から」

「言ってくれなければ、伝わらない」

 もっと酷くしても良いのか、と囁いて爪を立てる。
 流石に、ユーグレイが本気で言っていることに気付いたのだろう。
 アトリは慌てたように首を振る。
 ただ、思い知って欲しかった。
 ユーグレイは構わず、柔らかい突起を強く引っ掻く。

「ッ、…………ぁう、う」

 堪え切れなかったアトリの声に、腰が重くなった。
 今このまま身体を重ねることが出来たら良かった、と口惜しく思う。
 痛いほどに張り詰めた自身を意識の外にやって、ユーグレイは責めるような愛撫を続ける。
 嫌だと訴えるアトリの目元が赤く染まって、思わず奥歯を噛んだ。 
 明らかに苦痛を孕んだ喘鳴。
 アトリは絞り出すように「まだ、だから」と懇願する。
 まだ?
 指先の動きを止めると、アトリは泣きそうな顔でユーグレイを睨んだ。
 だから、と言って深く息を吸う。

「だからぁ、まだ……、完全に、反応してねぇの!!」

 反応していない、とは。

「君、さっきから随分達していると思うが」

「っ! 違ぇよ馬鹿! 防衛反応が、ってこと! 普通に気持ち良いのにナカでもイッてるし、全然……っ、収まんないし! しんどい!」

 自棄になったように叫んで、アトリは膝を立てて俯いた。 
 呼吸の度に、その肩が震える。
 確かに普段より抵抗すると思ったが。
 
「そうか」

「そうかぁ!? お前、なぁっ……!」

 く、と続くはずの言葉を飲んで、アトリは背中を丸めた。 
 重そうに持ち上げた手がユーグレイの肩を掴む。
 突き放す気配はない。
 もう片方の手が、脚の間に落ちた。
 単調に流れ落ちる湯の音に、くつりと粘り気のある水音が混ざる。
 ああもう、と諦めたような吐息が溢れた。
 
「どーすんだよ、これぇ」

 膝を割り開かなくても、アトリが自身に触れたのだとわかった。
 防衛反応で快感を得てもそれは反応しないのだと、ユーグレイもすでに知っている。
 だから男性として兆している時点で気付くべきだったのだろうが、こちらも冷静ではなかったのだから致し方ない。
 触れたら耐えられなくなったのだろう。
 生々しい水音は、次第に大きくなる。

「辛くはないのか?」

「……つ、辛い、けど」

 じゃあ無理をするなと言うと、アトリは俯いたまま「お前のせいだろ」と消え入りそうな声で言い返した。
 もう出したいのだろう。
 アトリは苦しそうに息を吐きながら、少しだけ視線を上げる。

「ユーグ、見過ぎ……っ」

「見るなと言うのは無理があるな」

「お前、意外と、変態」

 今更、とユーグレイは笑う。
 アトリは言うだけ無駄だと悟ったのか、掠れた声で呻いた。

「無理だって、言ったのに。これ……、した方が楽だったろ」

「君が全く反省もせずに、肝心なことを口にしないからだろう。して良いのなら、するが」

「……しない。お前、もー、ちょっと、黙ってろよ」
 
 防衛反応の暴走に飲まれてしまえば、抵抗のしようもなく快感を享受するしかなくなる。
 ただこの状態では、理性が歯止めをかけてしまえるのだろう。
 大きくなる水音に対して、未だ吐精までは至っていないように見える。
 アトリは濡れた頭を小さく振った。
 ぱたぱたと水滴が落ちる。
 
「く、苦し、い……、ユーグ」

 縋るように名前を呼ばれて。
 何かがぷつりと切れたような気がした。
 気を遣う余裕もない。
 ユーグレイはアトリの膝を乱暴に押さえ、脚を開かせる。
 咎める声を、聞き入れるはずもなかった。
 その下腹部には押し込んだユーグレイの指の跡が淡く残っている。
 性器を握ったアトリの手は、酷く濡れていた。
 
「い、あっ!?」

 夢中だった。
 ユーグレイはアトリの手ごと、勃ち上がったそれを握り込む。
 とろりとした白濁が指の間から溢れた。
 肩を掴んだアトリの手が震える。
 加減せずに擦り上げると、手の中のものは一瞬で弾けた。
 
「ン、う、ーーーーッ!」

 痙攣する身体を抱き寄せる。
 相当に気持ち良かったのだろう。
 アトリはユーグレイの肩に顔を埋めて、絶頂の名残に耐えているように見えた。
 宥めるように背中を撫でているうちに、ぎゅうっと肩を掴んでいたアトリの手が不意に力を失う。
 
「……アトリ?」

 乱れた呼吸に、緩やかに長く息を吐き出す音が混ざる。
 ぐらりと傾いだ頭をはっとして支えた。
 腕の中の身体が脱力する。
 微睡む暇もなく、意識が落ちたのだろう。
 瞼を閉じたアトリはやはり幼く無防備で、牙を剥く衝動は行き場を失って解けていく。
 
「全く、君は」

 これで少しは懲りただろうか。
 いや、またどうせこういうことがあるような気もした。
 指先を擦り合わせると、まだあたたかい粘液が微かに音を立てる。
 恐らくその時はこれくらいで退いてやれないだろうと、ユーグレイは苦笑した。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

あの日の約束

すずかけあおい
BL
「優幸さんのお嫁さんになる」 10歳上の元お隣さん、優幸と幼い和音が交わした約束は今でも和音の心を温かくする。 〔攻め〕優幸 〔受け〕和音

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

消えたいと願ったら、猫になってました。

15
BL
親友に恋をした。 告げるつもりはなかったのにひょんなことからバレて、玉砕。 消えたい…そう呟いた時どこからか「おっけ〜」と呑気な声が聞こえてきて、え?と思った時には猫になっていた。 …え? 消えたいとは言ったけど猫になりたいなんて言ってません! 「大丈夫、戻る方法はあるから」 「それって?」 「それはーーー」 猫ライフ、満喫します。 こちら息抜きで書いているため、亀更新になります。 するっと終わる(かもしれない)予定です。

処理中です...