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2章
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しおりを挟むそこに指が触れた瞬間は、流石に腰が引けた。
下穿きとズボンを少し下ろされて、膝裏を支えられる。
一秒も惜しいとばかりに性急な動きは、そこに来て酷く慎重になった。
指先が後孔に埋まる感覚。
優しく縁を拡げられて、叫びたいような気持ちになる。
ユーグレイはゆっくりと息を吐いた。
「そ、んなしなくていい」
言ってしまったことが取り消せないのなら、もう早く挿れて欲しい。
羞恥も切なさも、受け入れてしまえば後は溶けるだけだと知っている。
丁寧にしなくて良いと訴えたアトリに、ユーグレイは「痛い方が好きなのか?」と意地悪く笑う。
そうじゃないけれど、まだ痛い方が耐えられる。
「あの時は担当医が色々と揃えてくれたが、残念ながら備えがない。もう少し待て」
ユーグレイの人差し指が、浅いところを押し拡げながら撫でていく。
そもそもそこは受け入れるための器官ではないし、都合良く自然と濡れたりはしない。
だからその愛撫は必要なものだとわかってはいる。
わかってはいるが、もう限界でもあった。
後ろにユーグレイの指を突っ込まれて気持ち良くて死にそうとか、笑えない。
その上もっと奥に触れて欲しいなんて。
どうかしてんじゃねぇの、本当。
「も、良いから。ちょっとくらい痛くても、良い。だから」
「ーーーー君は」
ぐっとナカを抉るようにして、指が出て行く。
アトリはシーツを握り締めて仰け反った。
堪えようにも声を出さずにはいられなくて、瞑った目尻がじわりと熱くなる。
とん、と後孔を突かれて背筋が震えた。
熱を持ったそれはユーグレイ自身だ。
「あ、あっ、う……、ユーグ」
ユーグレイはアトリの脚を抱えたまま、繰り返し腰を押し付けた。
先走りで濡れた先端が、何度も綻んだ窄みを押して離れる。
小さな泡が潰れるような水音が響いた。
見上げたユーグレイは眉を寄せて、肩で息をしている。
勃つのか、なんて今更の感慨があった。
「んッ、あ、うッ!?」
くちゅと音を立てて、先端がナカに入り込む。
後は押し込んでくれるだけで良いのに、ユーグレイは一向に動かない。
思わず「何で」と問うと、彼は掠れた声でアトリの名を呼んだ。
「な、に……?」
「アトリ」
額に張り付いた銀髪。
欲を孕んだ碧眼。
ユーグレイは僅かに身を乗り出すようにして息を詰めた。
ごく浅い場所で、熱が弾ける。
少しだけ拓かれた内腔の奥へ、それはとろりと流れ込んだ。
「ーーーーあ」
じんと、痺れが走る。
大き過ぎる快感に浸って、アトリは息を飲む。
ユーグレイは乱れた呼吸を数秒で整えて、今度はゆっくりと腰を押し進めた。
受けたもので濡れた内部は、何の抵抗もなく彼を飲み込んでいく。
そのためにわざわざ。
いつも涼しげな顔をしているくせに、とんでもないことを。
「ふっ、あ、は……!」
不規則に揺れた身体を案じるように、ユーグレイは動きを止めた。
けれどアトリが笑っていることに気付くと、怪訝そうな顔をして「どうした?」と訊く。
本当はそんな余裕もない癖にと思うと、益々可笑しい。
「お、前、そんなエロいこと、すんの?」
「……君が煽るからだろう。先程からイキっぱなしの君に、言われたくはないな」
「俺のは、不可抗力だと……、うあ゛ッ!」
ずりと腸壁を擦り上げながら、ユーグレイが奥を突く。
制止しようと浮いた両手を掴まれて引っ張られる。
否応なく結合が深まって、一瞬意識が飛んだ。
「ん゛ぅ、あッ、うぅ」
ぱん、と肌がぶつかる音がして、ほとんど無理矢理に意識を呼び戻される。
泡立った精液が抜き挿しの度にそこから溢れた。
息が止まるほどにきつく、ユーグレイに抱き締められる。
もう絶対に、その腕の中から逃げられないんじゃないかと思うほどに。
刹那、まだ名前の付けられない感情が幾つも浮かんで弾ける。
アトリはユーグレイの銀髪に指を差し込んで、その首筋に額を擦り付けた。
「ちゃんと、ユーグも……、気持ち、良いんだよな?」
彼はふうっと息を吐いて、頷く。
「君は、本当に、僕のことばかりだな」
「そう、だな」
ゆるゆると身体を揺さぶられる。
まだ、もう少し。
夢中になって喘ぎながら、アトリはユーグレイを抱き返す。
熱い身体。
必死になってアトリを求めるユーグレイが、大切で、どうしようもないほどに。
「俺、やっぱり、お前の隣にいたい」
視界がふわりと溶ける。
泣いていると気付いた時には、ユーグレイの唇に囚われていた。
隙間などないほどに重なって、後は。
どこまでも落ちて行くだけだった。
「は………あぁ、ぅ、っん」
どれくらいそうしていたか、わからない。
ぬると胎内からユーグレイが出て行く感覚で、アトリはぼんやりと目を開いた。
まだすぐに燃え上がりそうな熱が奥で燻っている。
下腹部を撫でて、アトリは呻いた。
いや、もう死にそうだ。
ここのところの無茶が祟って、半分夢の中に足を突っ込んでいるような感覚である。
そもそも今日は普通にリンの研修もして、ユーグレイには魔力を叩きつけられて、これだ。
もう、眠い。
「…………ん、あっ?」
ふわふわとした意識は、内腿を掴まれて覚醒する。
ユーグレイだ。
「え、なに……? は、え?」
「煽ったのは君だ。まだ、付き合ってもらう」
嘘だろうと怯える暇さえなかった。
泥濘んだそこに、再度熱を突き入れられる。
掠れた声で悲鳴を上げても、ユーグレイは容赦がない。
「む、りっ! も、う無理だって、ユーグ!」
嫌々と首を振って泣いても、結局ユーグレイは許してはくれなかった。
息も絶え絶えに終えた二回目。
そして当然のように始まった三回目の途中で。
アトリはやっと意識を手放した。
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