Arrive 0

黒文鳥

文字の大きさ
上 下
26 / 181
1章

25

しおりを挟む
とりあえずハッピー先生は後回しにして山小屋へ向かう。

すっかり忘れていたがあの眠り姫がようやく目を覚ましたらしい。

今どうしてることやら。少々気になる。


「いらっしゃい。あれ珍しいお客さんだ。何の用? 」

いつも料理でお世話になってる管理人の女性。

それだけでなく人手が足りないと駆り出されるのでほぼ毎日顔を合わせている。

決して自分から積極的に関わろうとせずサポート役に徹している。

だからなのか名前を知らない。

勝手に管理人さんだとか。山小屋のおばさんと呼んでいる。

本名を知らないから適当に。だからこういう場面では困る。

まあここは素直に奥さんでいいか。


「お邪魔します。ちょっと用事が。二階に上がらせてもらいますね奥さん」

「奥さんって言わないの。二人は夫婦じゃないんだから」

照れながら訂正する。

もちろん知ってるんだけどな……

「二階って? ああそうか。君も見たか。ぜひ見舞ってやってくれ」

謎の少女の存在を隠す訳でもなく会わせない訳でもない。

お見舞いの許しを得る。

「はい、ではお言葉に甘えまして」

「お客さんが一人先に来てる。それと私はちょっと出かけるから留守を頼むよ」

そう言うと女は走って行ってしまった。

これはチャンス? それとも俺は嵌められた?

俺を試すつもりかもしれない。

留守を頼むか…… シードクターもお出かけか。

相談したいことがあったのに。次の機会だな。


二階に上がろうとしたその時声が……

気付かれないように足音を立てずに上へ。

「お名前は? 」

「あーちゃん」

「もう一度。お名前は? 」

「アリー」

「年齢は? 」

「十六歳」

「もう一度」

「十六歳と数ヶ月」

「家族は? 」

「いないよ」

「家族は? 」

「家族なんかじゃない。あいつらは家族なんかじゃない」

さっきまで天使のような少女が声を荒げる。

やはり彼女にも何かしらの過去があるのだろう。

ここに来た者は皆そうだ。トラウマ級の思い出。

何かしら重いのを抱えてる。俺も含めて……


「ここに来た目的は? 」

「連れて来られた」

「目的は? 」

「マウントシーで暮らすこと」

「はいもういいよ。頑張ったね」

聞き取りを終える。

「ねえ一緒に遊ぼう? 」

「ダメダメ! 今日は忙しいの」

甘えん坊のあーちゃんとつれないエレン。

甘える妹とそれを咎める姉。

まるで本当の姉妹のよう。


「彼女の容態はどうだ? 」

ノックもせず入るのは俺の主義じゃないがドアが開いていたら仕方がない。

尋問が終わるまで大人しくしていたのだから文句ないだろ?

「ちょとあなた…… 」

俺の顔を見て怯えている。何かあるのか?

「君の名は確か深海さんだっけ? 俺は大河だ」

知ってるだろうがあーちゃんにも自己紹介しなくてはな。

「知ってますよ。ですが勝手に入るあまりの非礼。この子だって怯えてるじゃない」

よく見ると確かに震えている。これはまずかったかな。

「俺も用があってな。お見舞いに来た」

「彼女が嫌がってます。それ以上近づきにならないで」

あーちゃんの前に立つ。弱いものを守ろうと必死だ。


「君はあーちゃんて言うのか? 」

「聞き耳を立ててたんですね? まったく困った人」

受け入れる気配が無い。

「あーちゃん俺だ。初めてじゃないはずだ」

そう俺もこの子も一緒にベットに寝かされていた。

そう言う意味では深い関係にあると言っても過言ではない。

彼女も俺をうっすら覚えてるかもしれない。

あの時は眠り姫に興味を示さなかった。

なぜなら俺には彼女たちがいたから。

マウントシー攻略が俺の使命。

間違ってもこんな小さな女の子をターゲットにしない。

見た目は十歳前後だが二人の会話から十六歳だと分かりビックリしている。

幼過ぎる見た目。かわいい女の子は嫌いじゃない。

いや俺は変態じゃない。


「あーちゃん。俺だ忘れたか? 」

手を差し出し歩き出す。

「近づかないでと言ったでしょう」

えらい剣幕で顔を紅潮させる。

「ハイハイ。分かったよ。それで彼女の容態はどうなんだ? 」

なおも近づこうとすると無理矢理止められる。

「なぜあなたにお答えしなければならないんですか? 」

確かによく考えればそうだ。まさしく正論。

俺もそれが聞きたいくらいだ。

「ここの管理人にはお世話になってる。ここに来れたのは彼らに認められた証拠さ」

「分かりました」

結局折れるエレン。

警戒するエレンを無視してあーちゃんを見舞うことに。



                 続く
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

王子様から逃げられない!

白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

匂いがいい俺の日常

とうふ
BL
高校1年になった俺の悩みは 匂いがいいこと。 今日も兄弟、同級生、先生etcに匂いを嗅がれて引っ付かれてしまう。やめろ。嗅ぐな。離れろ。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...