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5月
第7話 君の横顔。
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「と、言うわけで、私、美術展に出ることに決めました!!」
腕を組み、足を組み、にんまりと笑って茜は美術室の真ん中で高々と叫んだ。
「よかったね、茜ちゃん。私応援するわ。」
萌黄が小さく拍手した。栗色の髪を揺らしながらほわほわと微笑んでいる。朝の雨はすっかり上がって放課後のグランドを、中庭の芝生を、美術室の窓ガラスをきらめかせていた。風はまだ爽やかに美術室を吹き抜け、カーテンは遊んでいる。
朝はあんなに泣いていたくせに。口には出さないが碧はそんなことを思って茜が可愛らしくて思えた。
「碧、ほんとありがとう。今日からはライバルだからね!」
茜に指を刺されてびくりとしながら、碧は満たされた気持ちになった。茜が元気になったこと、茜が本心を話してくれたこと、憧れの存在だった茜がライバルに変わったこと。たった1日で茜という存在がもっと身近に感じられた。
「ところで、茜ちゃんはなんの絵を描くの?」
萌黄の一言に茜は頭を殴られる。
「まだ決めてないんだ。」
碧はさっきから茜が可愛くて柄にもなくつい意地悪を言う。
「うるさーい!私はね…。うーん。碧には秘密!萌黄には後で教えてあげる!」
碧はえーっと悔しがって机に身を乗り出した。萌黄は茜と碧を愛おしそうに見つめて小さく笑っていた。
碧は夢の絵の制作に取り掛かり、一歩出遅れた茜はスケッチブックに下書きを描き続けていた。
碧は丁寧に青を重ねる。2度見た青。最初は戸惑ったけど、2回目は慣れて。2度目で見た雨は、もしかすると、茜の心の中だったのかもしれない。13歳になって、14歳になって、少しずつ学年が上がるたびによくわからないことに出会う。茜の胸中も、わからなかった。あの廊下で、碧の足に引っかかって転んだ茜の涙は笑い泣きではなかったんだって、今ならわかる。よくわからない、その気持ちはあの夢の中に初めて入ったときのようだった。もう小学校の頃のようには戻れないんだ。その感覚はあの夢で後には引き返せないと悟った気持ちにそっくりだった。もしかして、あの夢は。
茜の視線を感じる。碧が一筆、もう一筆乗せるたびに茜の目が動く。
「茜、なに?」
キャンバスから目を離さずに碧が聞く。
「なんでもー。」
またちらり、ちらりと碧を見つつ、茜はとぼけた声で答えた。
「私は見ていい?」
美術受験をしない萌黄は美術室を自習室にしていた。いいよという茜をすっと覗き込んだ萌黄はハッと口に手を当てた。
「茜、なに?」
「ふふ、なんでも。」
今度は萌黄が答えた。窓ガラスの雨粒で晴れた美術室は一層眩しい。吹く風が今度は茜のスケッチブックをパタパタと揺らし始めた。
腕を組み、足を組み、にんまりと笑って茜は美術室の真ん中で高々と叫んだ。
「よかったね、茜ちゃん。私応援するわ。」
萌黄が小さく拍手した。栗色の髪を揺らしながらほわほわと微笑んでいる。朝の雨はすっかり上がって放課後のグランドを、中庭の芝生を、美術室の窓ガラスをきらめかせていた。風はまだ爽やかに美術室を吹き抜け、カーテンは遊んでいる。
朝はあんなに泣いていたくせに。口には出さないが碧はそんなことを思って茜が可愛らしくて思えた。
「碧、ほんとありがとう。今日からはライバルだからね!」
茜に指を刺されてびくりとしながら、碧は満たされた気持ちになった。茜が元気になったこと、茜が本心を話してくれたこと、憧れの存在だった茜がライバルに変わったこと。たった1日で茜という存在がもっと身近に感じられた。
「ところで、茜ちゃんはなんの絵を描くの?」
萌黄の一言に茜は頭を殴られる。
「まだ決めてないんだ。」
碧はさっきから茜が可愛くて柄にもなくつい意地悪を言う。
「うるさーい!私はね…。うーん。碧には秘密!萌黄には後で教えてあげる!」
碧はえーっと悔しがって机に身を乗り出した。萌黄は茜と碧を愛おしそうに見つめて小さく笑っていた。
碧は夢の絵の制作に取り掛かり、一歩出遅れた茜はスケッチブックに下書きを描き続けていた。
碧は丁寧に青を重ねる。2度見た青。最初は戸惑ったけど、2回目は慣れて。2度目で見た雨は、もしかすると、茜の心の中だったのかもしれない。13歳になって、14歳になって、少しずつ学年が上がるたびによくわからないことに出会う。茜の胸中も、わからなかった。あの廊下で、碧の足に引っかかって転んだ茜の涙は笑い泣きではなかったんだって、今ならわかる。よくわからない、その気持ちはあの夢の中に初めて入ったときのようだった。もう小学校の頃のようには戻れないんだ。その感覚はあの夢で後には引き返せないと悟った気持ちにそっくりだった。もしかして、あの夢は。
茜の視線を感じる。碧が一筆、もう一筆乗せるたびに茜の目が動く。
「茜、なに?」
キャンバスから目を離さずに碧が聞く。
「なんでもー。」
またちらり、ちらりと碧を見つつ、茜はとぼけた声で答えた。
「私は見ていい?」
美術受験をしない萌黄は美術室を自習室にしていた。いいよという茜をすっと覗き込んだ萌黄はハッと口に手を当てた。
「茜、なに?」
「ふふ、なんでも。」
今度は萌黄が答えた。窓ガラスの雨粒で晴れた美術室は一層眩しい。吹く風が今度は茜のスケッチブックをパタパタと揺らし始めた。
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