碧い表紙の夢日記

5月

1話 ある日の碧い夢。

　果てしなく広がる紺碧の世界。海でなければ空でもない。初めて見るその青に14歳の瑞々しい心が戸惑う。

　もとの場所には戻れないんだと、本能が悟る。振り向くこともできず、ただその紺碧に身も心も浸りゆく。

　一滴の光が降ってきた。鉄琴のような細く高い金属音とともに、光の雫は奈落に融けて消えた。一滴、また一滴とまばらに降ってくる。気づけばそれは雨のように降り注ぎ、玩具売り場の鉄琴を子供がいたずらに叩くような音が響く。

　光は雨足を強め、桃色や橙色、黄緑色、水色と、様々に色づき始めた。苦しい。ここから逃げてしまいたい。たまらなく綺麗で、苦しい。

　光の雨の隙間に目を凝らすと、人影のようなものが見えた。たったひとりの世界が変わり始める。人影はますます明瞭になる。光の雨は一層強くなって、紺碧の世界はいろいろな色の光と鉄琴の音で溢れかえった。

　細い髪が揺れている。雪のような肌、澄んだ瞳は真冬の朝のよう。細く頼りない体に似合わず、手は少しだけ筋張っている少年。

　振り向く少年と目が合うやいなや、紺碧の世界全体が星の光に包まれて眩しくて眩しくていてもたってもいられない。

　勢いよく開けられたカーテンから光が溢れ、碧あおいは目を細めた。薫る5月の風が埃っぽい美術室を駆け抜けた。