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もう1人の決意
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伯父様にサボった理由を聞かれて口篭っていると、お菓子を口の中に入れてくれた。
「シャルロットが理由もなくそんなことをする子じゃない。悩んでいるのも勿論知っている。だけど最初から学校を欠席するのではなく午後から消えたのは直前に何かあったからではないか?」
伯父様を見つめると いつものように微笑んで頭を撫でてくれた。
「実は、」
公女の話をした。
「ベルトナード公女か」
「公女様のご指摘通りだと思います」
「少し違うな。矛先は殿下に行くべきだ。シャルロットは一貫して断り続けたのだから。殿下が一方的に諦めないことを知りながら婚約者候補に残ったということは、この状況に了承して残ったということなんだ。可哀想ではあるが嫌なら辞退すればいい。
何か言いたいなら殿下に言えばいい」
「そう言われたら そうですね」
「私の可愛いシャルロットを虐めるなんていい度胸だよ」
「私は伯父様がいてくださるから幸せです。何故かお父様は腰痛で王都に来てくださいませんし」
「(腰痛な…次に会ったら躾なおさないとな)」
「伯父様?」
「なんでもないよ」
だけど翌夜
「え!?」
「セドリック殿下が第二王子殿下と継承順位を交換した。これは決定事項らしい。
第二王子の成長次第ではまた入れ替わる可能性はあるが、著しくなければセドリック殿下が補うことで済ませるはずだ」
伯父様の説明に血の気が引いた。
「決定ということは陛下も賛成なさったのですね」
「そうだな。婚約者候補にも白紙だと告げたらしい。つまり破談だな」
「……」
「もうセドリック殿下の心は完全に決まったのだろう。となると、シャルロットの決断待ちになるだろうな」
「私のせいですね」
「シャルロットのせいではない。セドリック殿下のせいだ」
「伯父様」
「シャルロットは自分の気持ちを優先すればいい。心配は要らないよ」
「はい」
その後、学園でもその話題で持ちきりで、中には不満を口にする者もいたけど、直ぐに静かになった。
2ヶ月後、今日はクラス別の校外学習だった。
郊外の修道院と孤児院へ訪問していた。孤児院で遊び相手になるグループ、教えるグループ、掃除や修繕をするグループ。修道院で掃除や修繕をするグループ、編み物や繕いものなどをするグループに分かれた。
ロランは孤児院の修繕をやっていて、私は幼い孤児と遊んでいた。
「おねえちゃん。トイレ」
「どこかわかる?」
「うん。でも一緒に来て」
「でもお手伝いするならお兄ちゃんがいいわ」
「え?…自分でできるけど一緒に行ってもらいたいだけ」
「分かったわ」
5歳と3歳の男の子を連れてトイレに向かった。
「私はここでまっているから」
出入口から少し離れたところで待っていた。だけど背後から口を塞がれて身体が宙に浮いた。
「んー!!」
施設の二階の奥の部屋に連れて行かれて、口に布を詰められた。
「暴れるな」
「アレ使おうぜ」
男がポケットから小さな瓶を取り出して私の鼻先で開けた。
「お、力が抜けてきた」
「早く済ませよう。教師達に気付かれる」
「俺 一番がいい」
「ふざけんな、俺が一番だ」
「こいつ、生娘だろう? 俺は後でいいや」
一人は私の制服の上着を脱がそうとボタンを外し、一人は廊下に出て見張り、もう一人は私の脚の間に入り自身のベルトを外した。
《 助けて… 》
ドサッ
「おい、音がしたぞ。見張りは見えるか?」
「ドアが閉まってるから見えないよ」
「廊下を確認しろ」
上着を脱がせていた男が廊下を見に行った。
「信じられないくらい綺麗なお嬢様だな。可哀想に。嫉妬は怖いな。
大丈夫、すぐに終わらせるからな。命を取るわけじゃない。最初は痛いだろうが3人目までには馴染むだろう」
ドサッ
また音がして男は振り返った。
「グッ」
男に剣を突き刺していたのはレオナルド兄様だった。
「シャルロット」
口の詰め物を取って抱きしめてくれた。
「兄様…」
涙が止まらない。
抱き上げられ、廊下に出るとキャロン家の兵士達が残りの二人を縛っていた。二人とも刺し傷があり、ロランの手には血の付いた剣が握られていた。
「王宮騎士が来るまで君達は残って三人を逃がさないでくれ」
「かしこまりました」
「ロラン、院長と教師に封鎖を告げてこい。教師には学生達を学園に連れ戻らせろ」
「はい、兄上」
兄様は私を馬車に乗せるとそのままキャロン邸に向かった。その後3日間 学園を休むことになったが、キャロン邸にはセドリックが滞在し、ずっと私に付き添っていた。
伯父様達は後処理?が忙しいみたいで頻繁に外出した。
【 オフィリアの視点 】
お父様が深い溜息を吐いた。
「あなた」
「全部断られた」
「ベルトナード公爵家との縁談に伯爵家まで断ってきたのですか!?」
婚約者候補が3名に絞られた時にかなりの令息達が婚約を結んでいて、伯爵家以上となると限られていた。
「いや、子爵家もだ」
「っ!」
「そんな!」
「後は困窮している家門に多額の支援金を付けて婚約させるか男爵家まで落とすかだな」
それでも、1ヶ月後には男爵家にまで断られる状態だった。
「他の元婚約者候補は伯爵家と侯爵家に決まった。うちだけこの惨状となるとキャロン家の圧力があるのだろうな。もしくは忖度かもしれない。
多額の借金がある家門からは支援が条件と言ってきているし、難がある家門からは釣書が届いているからな」
「難がある家門ですか?」
「子息が暴力的だったり酒癖が悪かったり様々な難がある相手だ」
「あなた。王妃様に相談しませんか」
「キャロン家に睨まれている限り無駄だ」
お父様は引き続き探すと言って居間を出て行った。
どうして私がこんな目に遭わなくてはならないの!
あの女が悪いんじゃない!
自室で侍女に頼み事をした。
「平民出の私兵の中で3、4人集めてくれる?
お仕置きして欲しい女がいるの」
少し先に1年生の学園行事がある。割り振りが分かりさえすれば大丈夫。1年生に王族の生徒がいないから警備は薄い。
「オフィリア様、本日のお手紙はございません」
「そう」
茶会など誘いの手紙は届かなくなった。お父様達も減ったようだけど私はゼロだった。親類も“当主夫妻限定”と明記して招待状を寄越した。
「ドレスを仕立てるわ。何倍でも払うから引き受ける店を探してちょうだい」
「かしこまりました」
1週間後にやっと見つかり、家族全員で注文した。
布地も何もかも最高級品で、高貴な私に相応しい上品で豪華な仕上がりにしてくれと依頼をした。全額前金で10倍の値で払った。家族全員で30着以上依頼をしたから大金だった。
だけど他にベルトナード家の服を仕立てる店が無くなってしまったから仕方ない。この店もいつ外方を向くか分からないし、作戦が終わったら忙しくなるからたくさん必要になる。だから纏めて注文した。
「この店、どこで探してきたの?」
「探している最中にチラシが入っていたのです」
「なら10倍なんて払う必要がなかったわね」
「ですが、何倍でも払うと持ちかけている噂を聞いてチラシを入れたのかもしれません」
「そうね」
あの女が見知らぬ男、しかも複数の平民に穢されたら、流石のセドリック殿下も冷めるでしょう。
誰だって平民の男達が使ったお古なんて嫌だもの。
校外学習当日、彼等が出発した後、登校しようとしたけど
「え?全頭体調不良?」
「はい。何か悪い物を食べたのか全頭お腹を下しておりますので、馬は使えません。
公爵様は学園を休むようにと仰っております」
「分かったわ」
そして昼過ぎ
「オフィリア様、2時間後にセドリック王子殿下がオフィリア様に会いたいと先触れがございました」
成功したのね。
殿下はやっと相応しい私に目を向けたのね。
第二王子は子供だから、継承順位の入れ替えの撤回も簡単でしょう。
「ドレスは1着も出来ていないのかしら」
「連絡はございません」
「仕上がっているなら間に合うわね。行ってみて。殿下との逢瀬に間に合うかもしれないわ」
「恐れ入りますが、馬車が出せないため徒歩となりますと間に合いません」
「そうだったわね。まだ着ていないドレスにするわ」
「かしこまりました」
そして2時間後、殿下といつもより多い護衛騎士と到着した殿下は両親と私が応接間に入ると出入口を封鎖した。
私「殿下、今日の茶葉は特別に仕入れた東国の希少な茶葉ですのよ」
セ「何がそんなに嬉しいんだ?」
私「え?」
父「殿下?」
セ「シャルロット・ウィルソンを襲って穢す計画を立てて実行に移させたのはオフィリアの単独か?」
私「っ!!」
父「は?」
母「何を?」
殿下が指を立ててクイッと曲げると、ベルトナード家の平民私兵3名が血を流し縛られた状態で引き摺られてきた。
続いて私の専属侍女と2人のメイドが連れてこられて跪かされた。
母「キャアッ」
父「これは一体」
セ「この3人が今日の校外学習で孤児院にいたシャルロットを連れ去り、施設内の奥の部屋で犯そうとしていた。現行犯で捕まえた。
ポケットにはシャルロットの似顔絵と、施設の見取り図と校外学習の割り振り表が入っていて、少し離れた場所にベルトナード家の使用人馬車が隠してあった。
1年生の校外学習の割り振りを漏らした職員は捕らえている。書類を漁っているところを見つかって拘束していた。死罪を回避させてやる代わりに協力してもらったよ。オフィリアに渡すところも現認できた。
3人の私兵はオフィリアの専属侍女の依頼と言っているし、侍女はオフィリアの命令だと言っている。
そして、学園職員から直接受け取った割り振り表を実行犯が所持していたら言い逃れは出来ない。
しかもここ、学園の紋章に細工をしてオフィリアという隠し文字を書いて渡させた。だから第三者のせいには出来ない。これは間違いなく態と渡した表だ。
オフィリアが計画し実行させた。
今はこの犯罪に公爵夫妻が関わっているのか問うている」
父「なんてことを」
母「知っていたら止めましたわ!」
父「キャロン家が守っているウィルソン嬢に手を出すなど、自ら拷問を乞うような行為です有り得ません」
セ「普通はそうだろうな。この4人は聴取を終えて刑も決まったので此処で執行する」
殿下がそう言うと、侍女と私兵の4人が上半身を傾けさせられた。
スッ
音の正体は 殿下が剣を抜いた音だった。
母「あっ」
殿下が4人の首を次々と刎ね、血が吹き出した。応接間は血の海となり血の匂いが充満した。
お母様は気を失い、メイド2人は涙と鼻水を垂らしながら命乞いをしていた。
セ「オフィリアの首を刎ねたかったんだ。だが、苦しませないのはキャロンのやり方ではないと言われてね」
殿下が合図をすると帯剣したキャロン伯爵が入室した。
私「あの女が悪いのよ!顔だけで殿下を唆して!」
セ「別に一目惚れではない」
私「え?」
セ「容姿だけで好きになるわけがないだろう」
私「いずれにしても穢れていては娶らないのでは?」
セ「上着を脱がそうとしていたところでキャロン兄弟が捕らえた。
職員がオフィリアに買収され書類を探していたと学園長がレオナルドに報告したからな。
それだけで捕まえても良かったのだが、あれだけでは不正入手の罪で終わり お前は再犯の可能性があったから仕方なかった。
キャロン家と相談してオフィリアを葬れるところまで泳がせた。つまりシャルロットは純潔だワンピースもブラウスも下着も脱がされていない。上着のボタンを外されただけだ」
私「噂は広まるわよ!」
伯「そんな噂を口にする者は制裁するだけだ。
私の息子達が見張っている中であり得ないことだしな。特にロランはシャルロットに知らせずに囮にすることに反対して、公女を殺してくると言ってきかなかった。一生苦しめるためだと説得するのに疲れたよ。
さて、ベルトナード公爵。私の提案をのむなら今の制裁も解除しよう。ただ元に戻るかは私は強制出来ないから商人達の動きは分からない。私はひとつの店にベルトナード公女がシャルロットに敵意を向けていると漏らしただけで疎外しろなどと命じていない」
公「貴族達は…」
伯「何も言っていない。ひとつの店が商売仲間に広め、仲間がさらに広め、出入りしている貴族の屋敷で口にしたのだろう。そして聞いた貴族は親類や友人に話したのだろう。
キャロンが動いたなら こんなものでは済まないよ」
公「提案とは」
伯「一つは完全没落だ。
もう一つは公女に一太刀だけ傷を入れる。生涯ベルトナードの籍に置き続けて、傷を隠すことなく社交に連れ回せ。治療を受け傷が塞がった後は引きこもることは禁止する。招待状を断ることなく出席させろ。医師はこちらで用意する。いつまでも治らないなんて誤魔化されてはつまらないからな」
私「そんな話、現実的ではないわ!うちは公爵家なのよ!」
伯「公爵家は何を育てたのかな?躾がまるで成されていない」
父「没落は…お許しください」
私「お父様!?」
伯「では、公爵。娘を羽交締めにして頭部をしっかり押さえてくれ。動くと悲惨なことになる」
お父様な立ち上がり、背後に回ると脇の下へ腕を通して頭を押さえた。
私「止めてください!お父様!!」
伯「メイドの2人。公女の手を押さえろ。無罪放免にしてやる」
メイド2人は走って両側に来ると手首を掴み動けなくした。
私「止めなさい!!止め、」
伯爵は腰の短剣を抜いて私に向かって横に引いた。
一瞬過ぎて分からなかったが直ぐに痛みで理解した。
私「あ、ああ…」
伯「公爵。離れていいですよ」
次に医者が入室した。
医「止血をしましょう」
伯「先生、裂けたままで傷の治療をしてください」
医「かしこまりました」
私「助けて…」
伯「公爵。公女の裂けた口の端が繋がっていたら、今度は鼻を削ぎに来なくてはならない。
無駄に増やす必要はない。そう思うだろう?」
父「もちろんです」
伯「では、私はこれで失礼いたします。公爵夫人が目覚めたら よろしくお伝えください。
セドリック殿下、そろそろ戻りましょう。国王陛下へ報告したいのです」
セ「兵士を3人残し、治るまでオフィリアの見張りに就ける。では公爵、失礼するよ」
公「誠に申し訳ございません」
私の口は左右に裂け、2倍の長さになった。
裂けたまま社交に出なくてはならない。
殿下の置いていった兵士の他に、お父様が私に見張りのメイドと私兵をつけた。自害防止らしい。
何度試みても失敗に終わった。
その後、高額な前金を支払って注文した仕立屋は詐欺だったことが分かった。チラシに書かれた場所に店は無く、店の名を聞いて回っても知らないと言われたらしい。
悔しい…公爵家をこんな目に遭わせるなんて。
徐々に切り口が治ってきた。これでは化け物だ。
学園は自主退学になった。
「シャルロットが理由もなくそんなことをする子じゃない。悩んでいるのも勿論知っている。だけど最初から学校を欠席するのではなく午後から消えたのは直前に何かあったからではないか?」
伯父様を見つめると いつものように微笑んで頭を撫でてくれた。
「実は、」
公女の話をした。
「ベルトナード公女か」
「公女様のご指摘通りだと思います」
「少し違うな。矛先は殿下に行くべきだ。シャルロットは一貫して断り続けたのだから。殿下が一方的に諦めないことを知りながら婚約者候補に残ったということは、この状況に了承して残ったということなんだ。可哀想ではあるが嫌なら辞退すればいい。
何か言いたいなら殿下に言えばいい」
「そう言われたら そうですね」
「私の可愛いシャルロットを虐めるなんていい度胸だよ」
「私は伯父様がいてくださるから幸せです。何故かお父様は腰痛で王都に来てくださいませんし」
「(腰痛な…次に会ったら躾なおさないとな)」
「伯父様?」
「なんでもないよ」
だけど翌夜
「え!?」
「セドリック殿下が第二王子殿下と継承順位を交換した。これは決定事項らしい。
第二王子の成長次第ではまた入れ替わる可能性はあるが、著しくなければセドリック殿下が補うことで済ませるはずだ」
伯父様の説明に血の気が引いた。
「決定ということは陛下も賛成なさったのですね」
「そうだな。婚約者候補にも白紙だと告げたらしい。つまり破談だな」
「……」
「もうセドリック殿下の心は完全に決まったのだろう。となると、シャルロットの決断待ちになるだろうな」
「私のせいですね」
「シャルロットのせいではない。セドリック殿下のせいだ」
「伯父様」
「シャルロットは自分の気持ちを優先すればいい。心配は要らないよ」
「はい」
その後、学園でもその話題で持ちきりで、中には不満を口にする者もいたけど、直ぐに静かになった。
2ヶ月後、今日はクラス別の校外学習だった。
郊外の修道院と孤児院へ訪問していた。孤児院で遊び相手になるグループ、教えるグループ、掃除や修繕をするグループ。修道院で掃除や修繕をするグループ、編み物や繕いものなどをするグループに分かれた。
ロランは孤児院の修繕をやっていて、私は幼い孤児と遊んでいた。
「おねえちゃん。トイレ」
「どこかわかる?」
「うん。でも一緒に来て」
「でもお手伝いするならお兄ちゃんがいいわ」
「え?…自分でできるけど一緒に行ってもらいたいだけ」
「分かったわ」
5歳と3歳の男の子を連れてトイレに向かった。
「私はここでまっているから」
出入口から少し離れたところで待っていた。だけど背後から口を塞がれて身体が宙に浮いた。
「んー!!」
施設の二階の奥の部屋に連れて行かれて、口に布を詰められた。
「暴れるな」
「アレ使おうぜ」
男がポケットから小さな瓶を取り出して私の鼻先で開けた。
「お、力が抜けてきた」
「早く済ませよう。教師達に気付かれる」
「俺 一番がいい」
「ふざけんな、俺が一番だ」
「こいつ、生娘だろう? 俺は後でいいや」
一人は私の制服の上着を脱がそうとボタンを外し、一人は廊下に出て見張り、もう一人は私の脚の間に入り自身のベルトを外した。
《 助けて… 》
ドサッ
「おい、音がしたぞ。見張りは見えるか?」
「ドアが閉まってるから見えないよ」
「廊下を確認しろ」
上着を脱がせていた男が廊下を見に行った。
「信じられないくらい綺麗なお嬢様だな。可哀想に。嫉妬は怖いな。
大丈夫、すぐに終わらせるからな。命を取るわけじゃない。最初は痛いだろうが3人目までには馴染むだろう」
ドサッ
また音がして男は振り返った。
「グッ」
男に剣を突き刺していたのはレオナルド兄様だった。
「シャルロット」
口の詰め物を取って抱きしめてくれた。
「兄様…」
涙が止まらない。
抱き上げられ、廊下に出るとキャロン家の兵士達が残りの二人を縛っていた。二人とも刺し傷があり、ロランの手には血の付いた剣が握られていた。
「王宮騎士が来るまで君達は残って三人を逃がさないでくれ」
「かしこまりました」
「ロラン、院長と教師に封鎖を告げてこい。教師には学生達を学園に連れ戻らせろ」
「はい、兄上」
兄様は私を馬車に乗せるとそのままキャロン邸に向かった。その後3日間 学園を休むことになったが、キャロン邸にはセドリックが滞在し、ずっと私に付き添っていた。
伯父様達は後処理?が忙しいみたいで頻繁に外出した。
【 オフィリアの視点 】
お父様が深い溜息を吐いた。
「あなた」
「全部断られた」
「ベルトナード公爵家との縁談に伯爵家まで断ってきたのですか!?」
婚約者候補が3名に絞られた時にかなりの令息達が婚約を結んでいて、伯爵家以上となると限られていた。
「いや、子爵家もだ」
「っ!」
「そんな!」
「後は困窮している家門に多額の支援金を付けて婚約させるか男爵家まで落とすかだな」
それでも、1ヶ月後には男爵家にまで断られる状態だった。
「他の元婚約者候補は伯爵家と侯爵家に決まった。うちだけこの惨状となるとキャロン家の圧力があるのだろうな。もしくは忖度かもしれない。
多額の借金がある家門からは支援が条件と言ってきているし、難がある家門からは釣書が届いているからな」
「難がある家門ですか?」
「子息が暴力的だったり酒癖が悪かったり様々な難がある相手だ」
「あなた。王妃様に相談しませんか」
「キャロン家に睨まれている限り無駄だ」
お父様は引き続き探すと言って居間を出て行った。
どうして私がこんな目に遭わなくてはならないの!
あの女が悪いんじゃない!
自室で侍女に頼み事をした。
「平民出の私兵の中で3、4人集めてくれる?
お仕置きして欲しい女がいるの」
少し先に1年生の学園行事がある。割り振りが分かりさえすれば大丈夫。1年生に王族の生徒がいないから警備は薄い。
「オフィリア様、本日のお手紙はございません」
「そう」
茶会など誘いの手紙は届かなくなった。お父様達も減ったようだけど私はゼロだった。親類も“当主夫妻限定”と明記して招待状を寄越した。
「ドレスを仕立てるわ。何倍でも払うから引き受ける店を探してちょうだい」
「かしこまりました」
1週間後にやっと見つかり、家族全員で注文した。
布地も何もかも最高級品で、高貴な私に相応しい上品で豪華な仕上がりにしてくれと依頼をした。全額前金で10倍の値で払った。家族全員で30着以上依頼をしたから大金だった。
だけど他にベルトナード家の服を仕立てる店が無くなってしまったから仕方ない。この店もいつ外方を向くか分からないし、作戦が終わったら忙しくなるからたくさん必要になる。だから纏めて注文した。
「この店、どこで探してきたの?」
「探している最中にチラシが入っていたのです」
「なら10倍なんて払う必要がなかったわね」
「ですが、何倍でも払うと持ちかけている噂を聞いてチラシを入れたのかもしれません」
「そうね」
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「はい。何か悪い物を食べたのか全頭お腹を下しておりますので、馬は使えません。
公爵様は学園を休むようにと仰っております」
「分かったわ」
そして昼過ぎ
「オフィリア様、2時間後にセドリック王子殿下がオフィリア様に会いたいと先触れがございました」
成功したのね。
殿下はやっと相応しい私に目を向けたのね。
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「仕上がっているなら間に合うわね。行ってみて。殿下との逢瀬に間に合うかもしれないわ」
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「かしこまりました」
そして2時間後、殿下といつもより多い護衛騎士と到着した殿下は両親と私が応接間に入ると出入口を封鎖した。
私「殿下、今日の茶葉は特別に仕入れた東国の希少な茶葉ですのよ」
セ「何がそんなに嬉しいんだ?」
私「え?」
父「殿下?」
セ「シャルロット・ウィルソンを襲って穢す計画を立てて実行に移させたのはオフィリアの単独か?」
私「っ!!」
父「は?」
母「何を?」
殿下が指を立ててクイッと曲げると、ベルトナード家の平民私兵3名が血を流し縛られた状態で引き摺られてきた。
続いて私の専属侍女と2人のメイドが連れてこられて跪かされた。
母「キャアッ」
父「これは一体」
セ「この3人が今日の校外学習で孤児院にいたシャルロットを連れ去り、施設内の奥の部屋で犯そうとしていた。現行犯で捕まえた。
ポケットにはシャルロットの似顔絵と、施設の見取り図と校外学習の割り振り表が入っていて、少し離れた場所にベルトナード家の使用人馬車が隠してあった。
1年生の校外学習の割り振りを漏らした職員は捕らえている。書類を漁っているところを見つかって拘束していた。死罪を回避させてやる代わりに協力してもらったよ。オフィリアに渡すところも現認できた。
3人の私兵はオフィリアの専属侍女の依頼と言っているし、侍女はオフィリアの命令だと言っている。
そして、学園職員から直接受け取った割り振り表を実行犯が所持していたら言い逃れは出来ない。
しかもここ、学園の紋章に細工をしてオフィリアという隠し文字を書いて渡させた。だから第三者のせいには出来ない。これは間違いなく態と渡した表だ。
オフィリアが計画し実行させた。
今はこの犯罪に公爵夫妻が関わっているのか問うている」
父「なんてことを」
母「知っていたら止めましたわ!」
父「キャロン家が守っているウィルソン嬢に手を出すなど、自ら拷問を乞うような行為です有り得ません」
セ「普通はそうだろうな。この4人は聴取を終えて刑も決まったので此処で執行する」
殿下がそう言うと、侍女と私兵の4人が上半身を傾けさせられた。
スッ
音の正体は 殿下が剣を抜いた音だった。
母「あっ」
殿下が4人の首を次々と刎ね、血が吹き出した。応接間は血の海となり血の匂いが充満した。
お母様は気を失い、メイド2人は涙と鼻水を垂らしながら命乞いをしていた。
セ「オフィリアの首を刎ねたかったんだ。だが、苦しませないのはキャロンのやり方ではないと言われてね」
殿下が合図をすると帯剣したキャロン伯爵が入室した。
私「あの女が悪いのよ!顔だけで殿下を唆して!」
セ「別に一目惚れではない」
私「え?」
セ「容姿だけで好きになるわけがないだろう」
私「いずれにしても穢れていては娶らないのでは?」
セ「上着を脱がそうとしていたところでキャロン兄弟が捕らえた。
職員がオフィリアに買収され書類を探していたと学園長がレオナルドに報告したからな。
それだけで捕まえても良かったのだが、あれだけでは不正入手の罪で終わり お前は再犯の可能性があったから仕方なかった。
キャロン家と相談してオフィリアを葬れるところまで泳がせた。つまりシャルロットは純潔だワンピースもブラウスも下着も脱がされていない。上着のボタンを外されただけだ」
私「噂は広まるわよ!」
伯「そんな噂を口にする者は制裁するだけだ。
私の息子達が見張っている中であり得ないことだしな。特にロランはシャルロットに知らせずに囮にすることに反対して、公女を殺してくると言ってきかなかった。一生苦しめるためだと説得するのに疲れたよ。
さて、ベルトナード公爵。私の提案をのむなら今の制裁も解除しよう。ただ元に戻るかは私は強制出来ないから商人達の動きは分からない。私はひとつの店にベルトナード公女がシャルロットに敵意を向けていると漏らしただけで疎外しろなどと命じていない」
公「貴族達は…」
伯「何も言っていない。ひとつの店が商売仲間に広め、仲間がさらに広め、出入りしている貴族の屋敷で口にしたのだろう。そして聞いた貴族は親類や友人に話したのだろう。
キャロンが動いたなら こんなものでは済まないよ」
公「提案とは」
伯「一つは完全没落だ。
もう一つは公女に一太刀だけ傷を入れる。生涯ベルトナードの籍に置き続けて、傷を隠すことなく社交に連れ回せ。治療を受け傷が塞がった後は引きこもることは禁止する。招待状を断ることなく出席させろ。医師はこちらで用意する。いつまでも治らないなんて誤魔化されてはつまらないからな」
私「そんな話、現実的ではないわ!うちは公爵家なのよ!」
伯「公爵家は何を育てたのかな?躾がまるで成されていない」
父「没落は…お許しください」
私「お父様!?」
伯「では、公爵。娘を羽交締めにして頭部をしっかり押さえてくれ。動くと悲惨なことになる」
お父様な立ち上がり、背後に回ると脇の下へ腕を通して頭を押さえた。
私「止めてください!お父様!!」
伯「メイドの2人。公女の手を押さえろ。無罪放免にしてやる」
メイド2人は走って両側に来ると手首を掴み動けなくした。
私「止めなさい!!止め、」
伯爵は腰の短剣を抜いて私に向かって横に引いた。
一瞬過ぎて分からなかったが直ぐに痛みで理解した。
私「あ、ああ…」
伯「公爵。離れていいですよ」
次に医者が入室した。
医「止血をしましょう」
伯「先生、裂けたままで傷の治療をしてください」
医「かしこまりました」
私「助けて…」
伯「公爵。公女の裂けた口の端が繋がっていたら、今度は鼻を削ぎに来なくてはならない。
無駄に増やす必要はない。そう思うだろう?」
父「もちろんです」
伯「では、私はこれで失礼いたします。公爵夫人が目覚めたら よろしくお伝えください。
セドリック殿下、そろそろ戻りましょう。国王陛下へ報告したいのです」
セ「兵士を3人残し、治るまでオフィリアの見張りに就ける。では公爵、失礼するよ」
公「誠に申し訳ございません」
私の口は左右に裂け、2倍の長さになった。
裂けたまま社交に出なくてはならない。
殿下の置いていった兵士の他に、お父様が私に見張りのメイドと私兵をつけた。自害防止らしい。
何度試みても失敗に終わった。
その後、高額な前金を支払って注文した仕立屋は詐欺だったことが分かった。チラシに書かれた場所に店は無く、店の名を聞いて回っても知らないと言われたらしい。
悔しい…公爵家をこんな目に遭わせるなんて。
徐々に切り口が治ってきた。これでは化け物だ。
学園は自主退学になった。
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「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
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