【完結】求婚はほどほどに

ユユ

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最後の試練

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【 レオナルド・キャロンの視点 】


うちのお姫様は淀みが無い。
 
反対にキャロン家の男は淀みの塊と言えよう。

お祖父様の代までは気付かれずに情報を使って敵を排除してきた。
しかし父上であるアレクサンドルは輪をかけて攻撃的で支配的な性格だった。

お祖父様は笑って話してくださったが、全く笑えないものだった。

“彼女の存在が無ければ今のアレクサンドルは存在していない”

それは生存云々ではなく、人格形成の話だった。

父上は幼少の頃から他人に容赦がなかった。
自分と両親を悪く言ったりする者には直接的な制裁を行っていた。

屋敷に来た貴族親子がキャロン家より格上だといわんばかりの態度を取り、当時 幼い父上より3歳上の子息が目の届かないところで突き飛ばしたり足を掛けてきた。

父上は夜、客室の子息の荷物に、祖先が陛下から賜った褒美の家宝を忍ばせた。

別にキャロン家にとって大事ではない。大事に扱っていると思わせるためにそれらしく扱っているだけだ。一級応接間のローテーブルは収納ケース状になっていて、硝子の天板になっている。その中に数点保管と同時に高貴な来客へ見せているのだ。
日中、子息がソレを触りたいと粘っていて さすがに両親に嗜められていた。

翌朝、騒ぎになっていた。
ローテブルの鍵がはずされていたのだ。側に落ちていたのは針の部分が曲がった小さめのブローチだった。裏には客である貴族の家門が刻まれていた。

本当は針を曲げて鍵穴をいじったところで解錠できるようなものではない。だけどソレを知らない親子は懸命に無実を訴えた。

相手の爵位は侯爵。本来なら荷物検査などできないのだが、

『デボン様が見たがっていた物だけ消えるなんて絵本のお話みたいですね』

子供だった父上は無邪気を装って言った。

『何て無礼なの!』

『では、我々の荷物でも調べてもらおう』

『よろしいのですか?侯爵様』

『その代わり、潔白が証明された場合は…そうだな。アレクサンドル君を跡継ぎから外したまえ』

唯一の男児アレクサンドルを外せと要求した。

『アレクサンドルをですか!?』

『この子が言い出したことなのだ。幼いとはいえ己の発言に責任を負うのが貴族だろう?』

『ですが、』

『もし、当たっていたらどうするのですか?』

『アレクサンドル君の好きな物をやろう』

『わーい!やったー!』

4歳児が抱えるぬいぐるみに侯爵家は油断をしたのだ。もしものことがあっても玩具だろうと。


結果、

『僕じゃない!違う!知らない!』

侯爵の息子の鞄の中の洗濯袋、つまり前日に着ていたシャツに包まれて発見した。

『王様、すごく怒りそう。怖いのかなぁ』

ぬいぐるみを抱えた4歳児の父上は首を傾げた。

『こ、こいつが犯人だ!僕を恨んでやったに決まってる!』

ここでお祖母様が反応した。

『恨み?4歳のアレクサンドルに恨みを買うことをデボン様はなさったのですね?』

『え?…あ…』

『アレクサンドル、デボン様に何かされた?』

『ううん。遊んでもらったよ』

青ざめていたデボンはホッとしたが、それは一瞬しか保たなかった。

『後ろから押されて転んだり、足をかけられて転んだりして“ドンクサイ”って言われたんだ。どういう意味か聞いたら、ほめ言葉だって』

『なるほど。何故か怪我をしていたのはそのせいなのですね』

『デボン!』

子息は泣き出して、侯爵は口止め料を払おうとした。だが、父上は侯爵の服の裾を掴んで言った。

『“クチドメリョウ”って何ですか?僕の好きな物をくれると言っていたはずです』

侯爵は玩具を沢山買って安く済ませられると思ったのだろう。

『すまないな。そうだった。貴族は約束は守らねばな。何が欲しいんだ?アレクサンドル君』

『本当に何でもいいのですか?』

『侯爵として誓おう。何でも好きな物を与えよう』

『ありがとうございます、侯爵家のタウンハウスをそのままください』

『は?』

『使用人は要りません。何も持ち出さずにタウンハウスをそのまま僕にください』

『なっ!』

『4歳だとちょっと難しかったのね、オホホホホッ』

侯爵は青筋を立て、夫人は扇子を広げて無理矢理笑みを浮かべた。

『あれ?侯爵の誓いって、貴族の約束を破ることですか?』

『っ!!』

『父上、今すぐ紙に書いて侯爵から名前を書いてもらってください。
ちゃんと、“タウンハウスの中身ごと”と書いてくださいね。紙一枚、雑草一つ持ち出せばドロボウだと書いてください』

『こんな!
さては伯爵の罠だな!4歳児がこんなことを考えて言うはずがない!』

『僕、明日5歳です。僕はいつも父上から仕事の話を聞いています。ほとんど分からなくても、紙に書いて名前を書かせたら絶対に守らなくてはならないことは知っています。デボン様が持っていたキャロンの家宝の意味も』

伯爵家の私兵に囲まれたので仕方なく侯爵は署名し、キャロン領の屋敷から慌てて馬車でタウンハウスに向かったが、キャロンの私兵や側近が馬に跨って疾走するスピードには敵うわけもなく、到着した頃には侯爵家のタウンハウスはキャロン家に掌握されていた。

門は鎖と南京錠で施錠の上、兵士が立っていた。
侯爵邸の使用人達には、金庫にあった金を渡して開放した。

タウンハウスでは侯爵家の悪事の証拠が見つかり、証拠を国王陛下に提出した。

国は侯爵家を罰すると同時に侯爵家の資産を差し押さえた。だが、証拠の提出前にキャロンの側近がタウンハウス丸ごと譲渡の手続きを終えてしまって“キャロン邸”とプレートを門にさげていたので、手を付けることはなかった。

侯爵領の屋敷にある物を没収し、本来納めるべき分と罰金に充てた。侯爵家の没落と連鎖投獄が相次いだ。

陛下に呼ばれて謁見したお祖父様は、“息子の策略です”と苦笑いし、陛下は小さな父上を見てお願いした。

『アレクサンドル。害が及ばなければ王家に手出しはしないな?』

『はい。キャロン家に意地悪をしなければ』

『そうか。キャロン伯爵 そしてアレクサンドル、大義であった』

陛下はアレクサンドルの頭を撫でて手土産を持たせた。

『何かあればコレを使って手紙を出してくれ』

『はい』

王家宛の密書に使うキャロン家専用の蝋印だった。

その後、金目の物を換金してキャロンの私兵の制服や装備や馬、料理人やメイド達の制服や仕事道具、そして全員への特別ボーナスに使った。
タウンハウスは売りに出し、蓄えにした。

父上は直接的に制裁する人だとキャロン家の者や王家は認識した。


その後も採用された新人兵士がメイドに乱暴しようとしていた場面に出会した父上は、新人兵士を牢屋に入れた後 男がやろうとしていたことの説明をお祖父様に求めた。早いとは思ったがお祖父様は閨教育の講師を呼んだ。
講義後に理解した父上は、新人兵士の性器の3分の2を切り取らせた。そして手厚い治療をさせた。

全部切り取らないのか?と聞くと、“多少残っていた方がが出て楽しそうじゃないですか。もし、機能が残っていたとしても3分の1のサイズでは笑い者だと別の兵士が言っていました”

そして、巾着袋に切り取ったモノを入れて、襲われかけたメイドに火をつけさせた。
踏み潰す?と聞いたけど、感触が嫌だと火炙りにすることにした。

父上は炎に包まれたモノを枝で突きながら、集めた使用人や兵士全員に告げた。

『僕達は君達に守られている。だけど僕達だって君達を守りたい。仲間だと思っているけど裏切ればこうなる』

灰になるまで入念に燃やし続けた。


そんな父上に妹が産まれた。それがレティシア叔母上だ。彼女の存在はとても大きかった。

彼女には知られないようにやり方を変えた。お祖父様達のように。そうでなければ矛先が彼女に行くかもしれないから。

それはもう、過保護な溺愛に包んだ。
それでも彼女は隣の令息と恋に落ちた…というか落とされた。

その彼女が産んだのがシャルロット。
父上は自分達に似たシャルロットを一目で保護すべき子として、私にキャロン家の教育の他にシャルロットを守る使命を与えた。

私ともそっくりの女の子。柔らかくていい匂いがした。笑顔は天使だし、泣かれるとどうしていいのか分からなくなる。父上もこんな気持ちだったのだろうか。
よく世話をしてやるとシャルはすぐに懐いた。

シャルのすぐ後に産まれた私の弟ロランは、言葉を発する前からシャルといると機嫌が良かった。離すと泣き喚く。
多少言葉が理解できるくらいになると、キャロン領に行かずにウィルソン領へ行きたいと言い出した。

『ロラン。頭の悪い男も、弱い男も嫌われるぞ。
特にシャルロットは守ってやらなきゃいけない女の子なんだ。役立たずなんか相手にしてもらえない。
賢くて強い男を好きになるぞ』

それからは決して泣かず、シャルと一緒にいない時間は勉強を始め、ある程度大きくなると武術を習い始めた。


だけど、域にライバルがいた。
セドリック殿下だ。

ロランは敵意剥き出しだった。同い歳なら互角だったのか…この時期の2歳差は大きい。
シャルロットが殿下を選ぶなら妃教育があるし重圧もある。そして自分以外の女を容認しなくてはならない。
ロランの場合は双子の様に似過ぎているというデメリットがある。シャルはロランを弟としてしか見ていない。更に父上から婚姻の許可を得るのは無理だろう。私とロランに 原則シャルと婚姻させないと宣言したからだ。


この頃、シャルがセドリック殿下に心を傾けたのは気付いている。だが、心を決めた後に直面させるのは可哀想だ。だから側妃の話を出した。嘘ではない。可愛いシャルへの試練だ。乗り越えてでもセドリック殿下を選ぶならレオナルド・キャロンが後ろ盾になろう。

そしてもう一つ。シャルが彼を諦め 相応しい男が現れなければロランに許可が出る可能性も僅かにある。可愛い弟への可能性の低いチャンスを作れただろうか。

淀みの無いお姫様は熱い眼差しで見つめるロランに気付かず、幼い頃のように抱き付いたりする。腕を絡ませたり筋肉に触れたり。
ロランの理性が悲鳴をあげている。勿体無い。抱きしめて頬や額にキスをしたり手を繋いだりできるのに、抑えが効かないからと距離を置こうとする。


「兄上、シャルロットが部屋から出てきません」

「時間をあげてやれ」

「教えてください」

「妃の宿命を再認識させたんだ」

「……」

「そう怒るな。妃教育の最中に教わって後悔してからでは遅いだろう」

「シャルロットはあいつを選んだのですね」

ロランを抱きしめて背中を軽く叩いた。

「耐えられそうにありません」

「クソみたいな男に引っかかるよりはマシだと思うしかない」

「僕に勝算は?」

「勝ち負けじゃない。父上の意向もあるし、シャルロットが弟だと思っているから仕方ない。双子みたいな容姿では」

「母上に似たら良かったのですね」

「そうかもな」






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