【完結】求婚はほどほどに

ユユ

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王子の溜息

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【 セドリックの視点 】


二年生の終わり頃。

「アレクサンドル・キャロンがいるかぎり、王命は使えない…というか使わない方が賢明なんだ。
お前は私の次に国王になる。一目惚れだけで未来の王妃を選ぶことは許されない」

次期国王である父上はキャロン伯爵と親友で、唯一父上が恐れる人物だ。それは国王陛下であるお祖父様も同じだった。

「ウィルソン嬢には及ばなくてもの令嬢達と妃に相応しい令嬢達を選別したのよ?いつまでも貴方を避け続ける娘を想っても仕方ないでしょう」

王妃である母上は様々なご夫人からせっつかれるのだろう。

「もう三年生になるんだろう。いつまで夢を見るな。
妃に選ばれたくて婚約者を決めない令嬢達でいっぱいだし、令息達も結果を待ち侘びているのだぞ」

「婚約を希望するお嬢さん達を集めたから、しっかり交流なさい。これは義務よ」


後どのくらい時間稼ぎが出来るだろうか。
仕方なく希望者との茶会に出てみたが、当然シャルロットはいなかった。

「確かに美しいかもしれませんけれど、それだけでは飽きてしまいますわ」

「セドリック殿下の魅力が分からない令嬢など、妾にして好きな時に愛でればよろしいですわ」

「殿下の仰せのままにお慰めいたしますわ」

相変わらず振られ続ける俺に、チャンスだと言わんばかりに女達が言い寄る。大っぴらに求婚しているから、俺がシャルロットを慕っているのは周知の事実だ。

「令嬢は 王子を飽きさせない何かを持っているということだな?今この場で披露してくれ」

「俺がその様なことをする下衆な男だと侮辱するなど、令嬢の家門は面白い教育をしているのだな」

「娼婦を招待した覚えはないのだけどな。同姓同名の娼婦に間違えて招待状を配達したようだ」

馬鹿みたいな王子が辛辣に対応するとは思わなかったのだろう。何も言い返せずに黙り込んだ。


皆、俺が一目惚れだけでシャルロットに拘っていると思っている。

確かにシャルロットは国内一美しい令嬢だ。だがそれだけで選んだわけじゃない。

シャルロットを初めて紹介された日、挨拶する何十分も前にあの子を見かけていた。メイドが手を引いて花摘みに向かっているようだった。
トイレに入るとメイドの叫び声が聞こえ、その数分後に出て来たメイドは少女に何度も礼を述べていた。

メイドが少女と離れた後、何が起きたのか聞いた。

「蛇が出たのです。ウィルソン侯爵令嬢がサッと捕まえて窓から投げ捨ててくださいました」

「危ないからそんなことをさせては駄目じゃないか」

「申し訳ございません」

「兵士を呼んで殺さないと」

「それが、呼ぼうとしましたが令嬢が可哀想だから止めてと仰って」

「ん?」

“ほら、可愛いおめめだわ。舌もチロチロして。見て、掴んでも噛まないわ。窓からでごめんね。見つかると大変だからお庭の茂みで遊ぶのよ”

少女はそう言って掴んだ蛇を窓から逃したと メイドが説明した。

見かけた時は顔など見えなかった。だが他の貴族が連れて来る令嬢より面白そうだと思った。

その後 顔合わせで美少女だと知った。

“僕のお姫様です、父上!”
そう言って、どう反応するか観察した。嫌そうな顔をした。

その後、少女の弟が産まれたので、赤ちゃんを見に行くと行ってウィルソン邸に何度も押しかけた。

少女は毎度迷惑そうな顔をして、愛想を振り撒かず、真顔で俺に“迷惑だ、早く帰れ、もう来るな”と口にする。

そのくせにレオナルドや伯爵には全力で甘える。

そして少女の弟が移動できるようになると領地へ行ってしまった。

他の令嬢よりは面白いだろう程度に思っていたのに、会えなくなって日常が退屈になった。

招待状を出しても欠席の返事が届くし、ウィルソン夫妻がパーティに出席したなら王都に来ていると期待しても領地に置いてきたと言われがっかりした。

「ええ、今、シャルロットはキャロン領に遊びに来ています。ロランが手を繋いでいつも一緒にいますよ」

キャロン伯爵が父上とシャルロットの話を始めたので聞き耳をたてた。

「2人は従姉弟だから婚姻は可能だな」

「そうですね。ですがレオナルドともロランとも婚姻させる気はありません。あまりにもシャルロットに相応しい男が現れなければロランにするかもしれませんがね」

「どんな男を探しているんだ?」

「文武両道でシャルロットだけを愛する男ですね。
例え愛していなくてもシャルロットだけを大事にするなら構いません」

何故ウィルソン侯爵家の娘のことをキャロン伯爵が決めようとするのか後で聞いたら、“あの二家は一つと見た方がいい。そしてキャロン伯爵が二家のキングなんだよ”と父上が苦笑いをした。


それ以来、より一層勉強し武術を学んだ。学園が始まり波のように寄って来る女達をあしらった。

やっと入学してきたシャルロットに数年ぶりに再会出来た時にはもう揺るぎない気持ちを確信できた。

まだ少し幼さの残る開花直前のシャルロットをロランが意識しているのが分かった。
そしてロランも俺と同じ思考の持ち主だと知った。

入試結果は1位。
キャロン家に転職した元近衞騎士と交流のある現役に聞くと、ロランの腕前はかなりのものらしい。

アレクサンドル・キャロンが次期当主として厳しく育てているレオナルドは、父親と同じく王族の側近を望んでいない。父上が残念がっていた。俺と友人にもなろうとせず入学時期を見送ったのはシャルロットの為。俺が言い寄っていなければ、父上達のように友人にはなれたのかもしれない。

そして熱い眼差しを向けるロランはシャルロットが触れると動きが一瞬止まり嫌がる。思春期の葛藤故だろう。
だが、それは俺にとってチャンスでしかない。


剣闘会後のロランとの模擬戦で、ロランのと優劣を伯爵に知らしめたかったが、予想以上に強かった。
体格差もあったのに見事に相打ちというかたちで一撃を入れてきた。肋骨が折れたのかと感じるような衝撃と痛みだった。
もう次の攻撃では目の前の男を殺さなくてはと理性が飛びかけた。よく手合わせをしている団長が察して止めに入った。


「殿下、何をなさっておいでですか」

「ハハッ 頭に血が昇ったというのか?アレは」

「キャロン家で指導しているルフレは私の席を狙えた男です。調査結果は聞いておりましたが、あそこまで仕込んでいたとは思いもよりませんでした」

「当分痛みが付き纏いそうだな」

「もう彼と剣を交えるのはお止めください」

普通は王族の俺にこんな打ち込み方をしないからな。

「善処するよ」


だが この怪我のおかげで、初めてシャルロットから手紙を寄越し会いに来てくれた。
全く着飾っていないのは態とだろう。だが、お前の瞳が唇が宝石のように輝いていることを知らないのだろうな。

俺の内出血を見て すまなそうな顔をした。今日は初めてのことが多くて嬉しい。

もしかして

「俺、死ぬのか?」

「ニヤニヤしながら何を馬鹿なことを言っているの」

「シャルロット嬢に付き人などと、お前は全く。
変なことはするなよ」

母上も父上も呆れながら食事を続ける。

「変なことって?」

弟メディオはまだ7歳だ。分からないのだろう。

「…嫌がることよ」

「兄上は女の子をいじめたりしません」

「そうだよな。俺の弟は賢いな」

「シャルロット様は絵本の女神様のようでした。
いい匂いがして、唇が柔らかかったです」

「は?」

「メディオったら、令嬢の帰り際に遭遇して、座っていた令嬢を抱きしめるとキスをしたのよ」

「頬にしたかったのですが、間違えて唇の端になりました」

「お前…」

真のライバルはロランじゃなくてコイツかもしれない。

「メディオ、二度とするんじゃないぞ」

「キャロン伯爵が恐ろしいので もうしません」

 シャルロットのことが心配になってきた。こんなに無防備とは。うっかりキスをしたり貞操を奪われたりしそうで不安だ。




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