【完結】求婚はほどほどに

ユユ

文字の大きさ
上 下
1 / 19

お忍び馬車の襲来

しおりを挟む
うちのお父様とお母様は愛し合っている。
見て分かる。
お父様の方が思いが強そうだ。

頭では理解しているのだけど私の心では理解が難しい。異性への好きだとか愛だとか いまいち良く分からない。


父ディオンはウィルソン侯爵家の長男として生まれ、最近侯爵位を継いだ。
母レティシアはキャロン伯爵家の長女として生まれ、タウンハウスが隣で幼馴染の父と婚姻した。

父は平凡に見えてしまう。顔は整っているし普通はカッコいいと言われるはずだと思うけど、周りが普通じゃない。

母と母の兄アレクサンドル・キャロン伯爵は美しさが群を抜いている。伯父様の息子レオナルドとロランも父親似でかなりの美形。

自分で言うのもなんだけど、ディオンとレティシアの娘である私シャルロットも母似でかなりの美しさ。
つまり、伯父様、母、レオナルド、ロラン、私は ほぼ同じ顔をしている。

父ディオンは霞んで見える状態だ。私の弟ケインと一緒に。



5歳のとき。

王宮でエリオット王太子殿下の息子セドリックとの顔合わせがあった。

年齢順で言うと、セドリック、レオナルド、私シャルロット、ロラン。


この日初めてお城に入った。
エリオット王太子殿下とアレクサンドル伯父様が親友ということで、子供達にも交流をと王太子殿下の発案らしい。


対面するなり、

「僕のお姫様です、父上!」

と、セドリック殿下が口にした。

殿下と大人達が話している間にお母様が腹痛を訴えた。お父様じゃなく、伯父様を頼るお母様。
後で聞いたら、私を産んでいる最中のお母様の横でお父様は倒れ、伯父様が付き添ってくれたらしい。



1年後。

「まだまだケインは小さくて可愛いね」

「そうですね」

「シャルは欲しいものは無いの?」

「1人の時間」

「……」

あれから、セドリック殿下は頻繁にウィルソン侯爵邸に来るようになった。もちろん先触れ無し。
しかも私を呼ぶ。

アレクサンドル伯父様が私の父だったら、こうはならないはず。伯父様達はキャロン領に戻ってしまった。


「お母様、私達も領地に行きましょう。ケインも大きくなったから馬車に乗れると思います」

「まだ早いわね」

「じゃあ、私だけでも」

「貴女もまだ小さいから駄目よ」


ウィルソン領に出発できたのは、ケインが産まれて1年半後だった。

ここならセドリックも簡単には訪れることはできない。のんびりと暮らしていた。
時々王家からお誘いの手紙が届いたり、セドリックから誕生日のお祝いをするからパーティに出席して欲しいと招待状が届いたが、全て欠席した。
伯父様がそうしていいと言ったから。


15歳。
ついに学園が始まるため、王都に行かなくてはいけない。

「行きたくない」

「行かなくてはダメよ」

「行かなくてもいいぞ」

「ディオン!」

「…ごめんな シャルロット」

お父様はお母様に弱い。

「だけど滞在先はキャロン邸にしたから大丈夫よ。レオナルドとロランがいるわ」

「いいの!?」

「その方が安心だしね」


数日後、お父様と一緒に王都に向かった。お父様は1週間経てば領地に戻るらしい。

タウンハウスに到着した翌日、隣のウィルソン邸に挨拶に行った。

「待っていたよ、シャルロット」

「伯父様っ」

伯父様に抱き付くとしっかりと抱きしめてくれた。伯父様は我が子よりも私を可愛がってくれる。

「アレク義兄上、シャルロットをよろしくお願いします」

「領地に戻るのか?」

「はい。義兄上はどうなさるのですか?」

「領地と此処を行き来するよ」

「シャル」

「ロラン」

「元気だった?」

「うん。また背が伸びたのね」

「男だからね」

「レオ兄様は学園?」

「そうだよ。夜に会えるよ」

私とロランはこれから入学。レオ兄様は今1年生、セドリック殿下は2年生だ。レオ兄様も本当はギリギリ、殿下と同学年で入学できたのに、それでは1年間しか私と一緒に通えないからと入学を見送ってくれたのだ。

「シャル。入学までひっそり過ごそうね。気付かれると押しかけて来るかもしれないから」

殿下のことね。

「はい」



夕方には帰って来たレオナルド兄様がウィルソン邸に迎えに来てくれた。

「シャル」

「レオ兄様」

力強く抱きしめられた。

「兄様、どんどん大人になってしまって」

「シャルだって 心配なくらい成長してるじゃないか」

「そうかな」

レオ兄様は逞しくなっていた。体に筋肉の厚みがある。

「ん?」

「いつまでこうしていられるのかな」

「シャルが望んでくれたら ずっとだよ」

「レオナルド、食事に呼びにきてくれたんだろう?早く行こう」



こんな生活を8日間過ごした後、お父様は私をキャロン邸に預けて領地へ戻った。

入学まであと2週間、みんなにはいつも通りにしてもらった。私のために何かを買ったりしないでもらった。

入学まであと1週間になると、ウィルソン邸にお忍び馬車が止まるようになった。この頃になると私は窓にも近寄らなかった。

レ「またセドリックが、シャルが来ていないかウィルソン邸に行ったみたいだ。その後にうちに来て探って帰ったよ」

ロ「執着がすごいな。王子じゃなきゃ始末するのに」

伯父「仕方ない。エリオットに会って来るか」


伯父様がエリオット王太子殿下に会いに行くと、セドリック殿下のお忍び馬車は来なくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【完結・全10話】偽物の愛だったようですね。そうですか、婚約者様?婚約破棄ですね、勝手になさい。

BBやっこ
恋愛
アンネ、君と別れたい。そういっぱしに別れ話を持ち出した私の婚約者、7歳。 ひとつ年上の私が我慢することも多かった。それも、両親同士が仲良かったためで。 けして、この子が好きとかでは断じて無い。だって、この子バカな男になる気がする。その片鱗がもう出ている。なんでコレが婚約者なのか両親に問いただしたいことが何回あったか。 まあ、両親の友達の子だからで続いた関係が、やっと終わるらしい。

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる 婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。 それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。 グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。 将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。 しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。 婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。 一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。 一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。 「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

【完結】他人に優しい婚約者ですが、私だけ例外のようです

白草まる
恋愛
婚約者を放置してでも他人に優しく振る舞うダニーロ。 それを不満に思いつつも簡単には婚約関係を解消できず諦めかけていたマルレーネ。 二人が参加したパーティーで見知らぬ令嬢がマルレーネへと声をかけてきた。 「単刀直入に言います。ダニーロ様と別れてください」

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

処理中です...