【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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監視付き療養

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「え? 明日帰国なさるのですか?」

「ジェルメーヌ王女はリヴィアと王都で買い物をしたかったって涙目だったわ。私が王女なら号泣しているわね」

コーネリア様は私の部屋にお見舞いに来てくださった。メイドにお茶と菓子を持って来させてシュヴァールの客人について教えてくれていた。

「このお菓子、美味しいです」

「良かったわ。
もう一つ、報告があるの」

「はい」

何だろう、改まって。

「ハンナが自害したの」

「え?」

「放火よ。一般牢は燃え広がらない仕組みだから燃えたのはハンナの牢だけ。煙害は避けられなかったから拘留者が軽傷を負ったわ」

「そんな。どうやって放火なんて」

「牢番がランタンを置き忘れたのよ。
他の拘留者の証言では笑いながら火を付けていたって。正気じゃなかったのよ」

「私の…せい?」

「違うわ。リヴィアは被害者だし、ある意味兄様も被害者よ。ハンナは兄様を愛していたわけではないの。次期公爵夫人の座が欲しくて私に近寄って友人になって兄様を狙っていたの。ずっと屋敷に招待しろって煩かったもの。全然隠せていなかったわ。
3年生になって昼食のメンバーにしたのは、リヴィアを知ってもらって、ハンナでは無理だと悟って欲しかったの。
もしかしたら私のせいだわ」

「王太子妃殿下のせいではございません」

「他の人がいないときはコーネリアって呼んで。お願い。信じられる親友はリヴィアだけなの」

「コーネリア様」

「兄様は仕方なく婚姻したけど、彼女と婚姻した理由はハンナが条件をのんだからなの。
兄様ははっきり告げたそうよ。自分は愛している女性がいるからハンナを含めて他の女は愛せないって。だから契約婚として迎え入れるけどそれだけだって。
それでも婚姻したいとハンナが望んだの。なのにリヴィアに嫉妬するなんておかしいでしょう?
彼女は次期公爵夫人の座を手に入れたのによ?」

「ハンナ様が…」

「妻にはしたけど閨事も無いし手さえ握ったことも無い。誓いのキスはフリだったみたい」

「……」

「ハンナは全て自分で選んできたのに欲を張りすぎたのよ。放火なんて身勝手よね。燃え広がらない仕組みだなんて知らなかったはずだから、巻き添えになって他の人達が焼け死んでも構わないと思ったんじゃないかしら。
そんな人のために私達が気に病む必要は無いの」

ハンナの話を終えて別件の話を切り出した。

「あの、明日 お見送りをしたいのですが」

「ヘンリー様が許してくれなさそうだものね。私からもお願いしておくわ」


ヘンリー王太子殿下は自室に戻るなら見張りを付けると言って、私が部屋から出ないようにするためだけに廊下に兵士を立たせた。
殿下と私の主張の間を取って、見張りの兵士には 椅子と小さなテーブルを用意して本を用意したり時々お茶を出したり食事は中に入ってもらって一緒に食べてもらった。お陰で…

“今、ネルハデス卿の見張り…じゃなくて警護が一番人気の職場です。食事も美味しいですし、本も興味に合わせて用意してもらえますし。座っていていいだなんてありがたいです。
お見舞いに来る方は恐い…じゃなくて偉い方ばかりで緊張しますけど、ずっとこの部屋の前の配属でいたいです”
と喜んでいる。

だから、

「ちゃんと休んでいるか?」

「大人しくしています。外の兵士が叱られてしまいますから」

私の様子見と 見張りの兵士の様子を見にカルフォン卿が毎日確認をしに来る。

「また明日、適当な時間に来るからな」

「ヘンリー王太子殿下に叱られませんか?」

「殿下公認だし、報告もしているから叱られないよ。欲しいものはあるか?」

「ありがとうございます、ありません」

「あまりおやつを食べていると太るぞ」

「だって…」

みんなが持ってくるのに…

「……」

カルフォン卿は私の頭を撫でようとしたけど、怪我のことを思い出したのか鼻を指で軽く押した。

「ふっ」

「笑った!酷い!」

「ハハッ」


カルフォン卿が戻ると、

「すごいですね。カルフォン卿、めちゃくちゃ恐いのに」

「私のことなんて怒る気にもなりませんよ。例えて言うなら子猫に叱っても意味がないと思いませんか?せめて危ないぞと言うか、ちゃんと食べろと言うくらいしかありません」

「そうですかねぇ」

「そうですよ」



【 新人近衞騎士 ソラルの視点 】

ヘンリー王太子殿下に呼び出され、コーネリア王太子妃殿下と上司のカルフォン卿まで同席していた。

俺、早速なんかやった?

へ『ソラル卿。座ってくれ』

俺『失礼いたします』

へ『君に大事な任務を頼みたい。最重要案件だ』

俺『私は新人ですが…よろしいのですか』

コ『だからいいのよ。相手の同情を引きたいの』

俺『はい…』

何のことだ?

へ『特務室所属のネルハデス室長補佐に、シュヴァールの王族がいる間だけ近衛の仕事をさせたのだが、公務中に負傷した。
軽傷ではあるが華奢な令嬢で、訓練の類は一切受けていない非力な女性だ。引き倒されて転倒し体を傷めている。
医務室での療養を嫌がって城内の自室に移ったが、安静にしなさそうで心配だ。
だから朝食後から夕食を食べ終えるまでという名目で部屋の外で見張って欲しい』

カ『あの子は有名人だから見舞いも高貴な方々ばかりのはずだ。そして報告もして欲しい』

コ『リヴィアの言うことは何でも聞いてちょうだいね。だけど部屋の外に出したりさせては駄目よ』

へ『やれるかな?』

俺『お任せください』


早速、ヘンリー王太子殿下とカルフォン卿に連れて来られた。さすが特務室の人だ。部屋が俺達と違う。
ネルハデス卿は面接の時にいた人だと思う。変装していたけど目が同じだ。

へ『リヴィア、少しは良くなった?』

ネ『今朝聞いたばかりじゃないですか』

へ『後で母上とコーネリアが来るからね』

母上って王妃様!?

ネ『大した怪我じゃないのに昨日は陛下まで来てくださって申し訳ないです』

うわっ…思っていた以上じゃないか。

カ『彼は新人兵士のソラルだ。初任務にリヴィアの警護をさせることにした』

ネ『カルフォン卿。まさか見張りですか』

即バレた。

カ『まさか。見張るなら俺が見張るよ。油断ならないからな』

ネ『ちゃんと大人しくしています』

カ『リヴィアが部屋を出て彷徨くようなことがあればソラルがクビになるからな』

は!?

ネ『どうしても?』

へ『どうしてもだ。ソラルは平民出身で弟妹も多い。クビになったら大変だろうな』

俺、兄貴しかいないっすよ?

ネ『分かりました!ソラル卿、よろしくお願いしますね』

ソ『はい!こちらこそよろしくお願いします!』

可愛い!

へ『じゃあ、ソラル卿を残して行くからね』


すれ違い様に殿下に小声で威圧された。

『(リヴィアに手を出さないように)』

カルフォン卿にも、

『(リヴィアをシスターだと思え。下品な話はするなよ)』

こっわ!!


『警護じゃなくて見張りでしょう?警戒するのは敵じゃなくて私ですよね?
私が走るのとソラル卿の早歩きは同じ速さだと思います。座っていても良さそうですよね?』

廊下に椅子と小さなテーブルが置かれた。

『時々彼に飲み物を出してあげて』

お茶か果実水が出されるようになった。

『暇ですよね?何の本を読みますか?』

メイドに図書室から本を取って来させた。

『一緒に食べませんか?』

彼女が来客と一緒に食事をしなければ 俺と昼食も夕食も一緒に食べてくれる。来客と一緒に食べるなら俺はその間 食堂へ行ける。
昼食無しの任務だと思っていたけど、ネルハデス室長補佐と食べる食事は豪華だ。多分 王太子殿下が王族用の食事を彼女にも作らせて届けさせているのだろう。

この異例の待遇や人脈は何なんだ!?

3日目はコーネリア王太子妃と一緒にフレンデェ公爵令息が見舞いに来た。何の話をしているのかは分からなかった。貴族の中でも雲の上の存在で、氷のような冷たさを感じる。
なのに退室の時の彼の表情は普段の公子と同じ人間とは思えないほど優しかった。

『リヴィア、治ったら会おう』

名前呼びするほど仲がいい。
そして見舞いの品やカードが届く。


「なあ、任務交代しないか」

「王太子殿下からの指名ですから無理ですよ」

先輩騎士が肩を組んで、できないことを言ってきた。

「何でソラルなんだ?」

「可哀想な若い新人が条件でした」

先輩達は鏡を見ながら、若く見えないかと髪をいじり出した。

そりゃ、廊下で椅子に座ってお茶を飲みながら本を読んでいたら 任務代わりたいって思うだろうな。


のんびりとした任務は、翌日 血に染まることになるとは想像もしていなかった。




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