【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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ハンナ 屈辱

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【 ハンナの視点 】


数日後。

『ハンナ!大変よ!』

『お母様、どうしたのですか』

『フレンデェ公爵家とカシャ公爵家が伴侶の募集を始めたのよ!』

え!? リヴィアは!?

『ネルハデス伯爵令嬢のことはご存知ですか』

『ああ、コーネリア様のために婚約者候補の役をなさった令嬢ね。彼女は就職したわよ。異例の採用だったみたい』

2人はあの女をやっと諦めたのね!

『お母様、フレンデェ家に釣書を送ってください!』


2ヶ月後、公爵邸に呼び出され、お父様とお母様と3人で訪問した。
公爵夫妻とオードリック様が出迎えてくれた。

応接間に通されると、公爵が説明を始めた。

『まず、選考はいくつかの条件で行いました。
伯爵家以上、学園での成績は50位以内、3年生以上24歳以下、初婚、醜聞無し、持病無しという条件でした。
何人か残りましたが、最終面談で1人しか残っていません。ブルーノ侯爵令嬢が断れば、その令嬢で決まりです』

父『最終面談というのは』

オ『私と令嬢だけで話し、婚約後、婚姻後について契約をまとめます。ただし、その内容は契約書として交わしますが他言無用。私と妻となる令嬢のみが知り得る内容です。話が流れたとしても令嬢は他言しないでください』

母『私達は教えていただけないということですか』

オ『はい。私の両親も知りません』

母『それはちょっと』

オ『夫婦としての在り方に関することです』

父『しかし、』

オ『態々お越しいただきありがとうございました。
良い縁談に恵まれますよう祈っております』

そう言って彼は立ち上がった。

私『待ってください!面談を受けます』

母『ハンナ』

父『よく考えなさい』

私『絶対に受けます!』


両親の心配を押し切って、面談を希望すると庭園に案内され、ガゼボに座った。

『私には心に決めた女性がいたが彼女とは結ばれることはなかった。この先も忘れることはないだろう。
だが、公爵家の跡継ぎとしてこのままではいられない。そこで契約妻を娶ることにした。

公爵家に迎え、予算を与える。それだけだ。
社交は最低限。閨事は無し。干渉も無し。
夫婦や家族といった言葉で何かを求めないこと。
フレンデェの名を使って誰かを威嚇したりしないこと。
フレンデェの名を貶めるようなことはしないこと。
妹は王太子妃になることが決まった。君の行動や よく考えずに発した言葉が何を巻き起こすか分からない。何重にも慎重になってもらわねばならない。
この契約を他言しないこと。
1つでも違反があれば離縁に応じること。
どうかな?』

『子はどうなさるのです』

『血縁から養子を取る』

『茶会やパーティは開かないのですか』

『父や母、私が必要と思えば開く。君は友人と会いたければ先方の屋敷に行くなりしてくれ』

『婚姻式は』

『必要最低限の親戚を集めた式と小規模な晩餐会くらいだな』

『初夜は』

『私は愛した女しか抱けない』

『っ!』

『無理はしなくていい。1人残っているから彼女に契約してもらうよ。今日はありがとう』

『します!婚約します!』

『本当に大丈夫か?』

『条件を守ります』

『これは契約書だ。署名をしてくれ』

契約書に署名をして婚約した。


友人達からおめでとうと言われ続けて浮かれていた。だけど…

『婚約パーティに招待してね』

『婚姻式はどこでやるの?』

『公爵家のお茶会やパーティ、楽しみにしているわ』

『婚姻したら夫婦で遊びに来てね。パーティの招待状も送るわ』

『子供が生まれたら子供達を交流させましょう』

『婚約指輪は?』

友人達から投げかけられた言葉は全て 私には無縁だった。曖昧な返事しかできなかった。


婚約式もなく、婚姻式も内輪で済ませたため、妊娠説まで出ていた。

初夜は客室のような部屋で一緒に過ごしたが、私はベッド、彼はソファで仕事をしていた。
あくまで、フリだ。
きっとメイド達は気付いただろう。

食事は義父母がいないと別々。
会話はまるで無い。

届く招待状は見せてはくれるものの、全て家令が欠席の返事を出してしまった。
追って、公爵夫人となるべく 覚えることが大変で当分出席できないと濁した。

王太子夫妻は、まだ跡を継いでいない世代の貴族を招待した披露パーティを開いた。
私にとって初めての夫婦としての社交となった。
彼の知り合いに挨拶をするも、続く会話の内容について行けなかった。

ダンスは踊るけど私を見てくれない。

『リヴィア、久しぶり』

『お久しぶりです。公子、夫人』

『前みたいにオードリックと呼んでくれ』

『もう昔とは違いますわ』

『相変わらず綺麗だ』

『優しいお言葉をありがとうございます』

『お世辞じゃないからな。私と踊ってくれないか』

『いえ、私は…』

『王太子妃殿下の祝いの席なんだ。楽しんでいる姿を見せよう。ほら、行くぞ』

私をひとりぼっちにして、リヴィアの手を握り、ダンスをしに行ってしまった。

お酒の入ったグラスを持ち、夫が未だに忘れられない女と踊る姿を見ていた。
あんな顔、私に向けたことがない。
あんなに腰を引き寄せて顔を近付けて…
あれじゃ恋人じゃない

グラスの酒を一気に飲み干した。
もう一杯手に取ったところで、私の前にいる夫人や令嬢が、私が後ろにいると気付かず話し始めた。

『おかしいと思ったのよ。やっぱり公子は令嬢を諦めきれないのね』

『幸せそう。令嬢と結ばれたら公子は舞い上がったでしょうね』

『今では王太子と王太子妃の親友で、国王陛下直属のエリートだなんて、最初からすごい出世でしたわね』

『令嬢の実力は本物らしいわ。夫が城勤めなのだけど、次々と城内の者が解雇されたり捕まっているらしいの。それは令嬢が城内で婚約者候補として活動し始めてからのことらしいのよ』

『勘が鋭いってことですか?』

『極秘で分からないみたい』

『だとしたら、婚姻させて夫人におさまるのではなく、陛下の直属になるのは納得ね』

『でも公子からすればお辛かったでしょうね。今でもあんな愛おしそうな顔をさせる令嬢を諦めて、他の方と婚姻しなければならなかったのですもの』

『侯爵家のご令嬢でしたけど、公子と並ぶとお似合いとは言えませんものね』

『まあ、政略結婚をして愛人を持つなんて珍しくもないもの。本来なら選ばれないはずの方が 未来のフレンデェ公爵夫人になることができるのだもの。なんだって我慢するわよ』

悔しくて会場を抜け出して庭園に逃げ込んだ。


相談できる人がいなくて、コーネリア様に会いたいと手紙を出しても忙しいと会ってもらえず、手紙に悩みを綴って送っても、“契約したのはハンナ自身なのだから、私には口を挟めないわ”としか返事が来ない。

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