【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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決断

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カチャ

カップを置いてバルコニーから見える景色に顔を向けたが ただそれだけで、白い雲も葉をつけた木も 香り立つ花も 彼は全く見てはいない。

「カシャ公子が巻き戻させて、2人とも記憶があるのだな?」

「はい」

「巻き戻り前、君はカシャ公子に心を寄せたと?」

「そうなります」

「彼に抱かれた記憶もあると?」

「はい」

「彼も?」

「記憶があります」

「その上で求婚してきていたのだな?」

「はい」

オードリック様は両手で顔を覆い 溜息を吐いた。

全てを話した。オードリック様が私との婚姻を望んでいる以上 知らせておくべきだと思った。

巻き戻り前、ルネ様に抱かれたのは無理矢理だった。その内 心が受け入れてしまった。
あの環境の中で優しさを見せたのは彼だけだった。生じた気持ちは環境故の産物かもしれない。だけど殿下とサラを殺し、魂を捧げる契約をしてでも私を蘇らせて欲しいと悪魔に祈ったルネ様の気持ちは本物だと思う。

「私に身を引けと?」

「今の私は自分自身がどうしたいのか全く分かりません。どんな答えを出すかも分かりません。
オードリック様は枷のないご令嬢と未来に向いた方がいいのではと思ったのです。オードリック様は高潔で繊細な方ですから、こんな記憶のある私は相応しくありません」

「買い被りすぎだ」

「でも、怒っていらっしゃいますよね」

「ああ そうだ。嫉妬で理性が焼き切れそうだ」

「……」

「もう君を私の付き添い無しに外に出したくない。学園にも通わせたくない」

「それは…」

「カシャ公子と会わないと言ってくれ」

「言えません」

「リヴィア!!」

「無かったことにできるほど薄情な人間ではありません」

「悪魔との契約だって、リヴィアが頼んだわけじゃない。君は勝手に君のためにしたこと全てに責任をとろうというのか?そもそもカシャ公子は君のためにしたことではなくて自分のためにしたことなんじゃないのか?」

「私を妻に迎えたとして、オードリック様はあれこれ巡らせて辛くありませんか?」

「かもな。だけど愛してしまったのだから仕方ないだろう。嫉妬だって愛故じゃないのか」

「……」

「リヴィア」

「はい」

「私を愛してくれ」



オードリック様との話は平行線だった。

あんなに葛藤したオードリック様の姿を見ていると、他のご令嬢と結ばれた方がいいのではと思ってしまう。

“兄の初恋ですよ?愛故に葛藤があって、それ故にリヴィア様を傷付けることを言うかもしれません。
ただ、兄がリヴィア様を諦めて 他の方と恋が出来なかったとき、兄は満たされぬ心と後悔に苛まれることになるでしょう。
カシャ公子は、リヴィア様と毎夜過ごすときに、メッセージを書いた小さな紙を読ませることができたはずです。
あの関係は本当にリヴィア様のためだったのでしょうか。最初はともかく”

コーネリア様の指摘も私を悩ませるものだった。


現実逃避に仕事を選んだ。

「番号に丸を付けた人は歪みました」

40代の女官に見えるよう変装して嫌な面接官を演じている。

「あ~こいつもか」

「もしかして、目を付けていた方でしたか?」

「筆記が今回の採用試験の中で1位だったんだよ」

「私に対して嫌な感情を持っているだろうなって方に印を付けただけですので、参考程度でお願いします。財務室長とは相性が良いかもしれませんよ」

「博打みたいなことはできないよ。お墨付きの君に動いてもらっておいて 採用してだったら、門番まで降格だよ」

「まさか」

「まさかじゃないよ。その階級章は俺より上だからね?しかもその色、陛下直属の色じゃないか。
本当はタメ口きいているだけで僻地に送られちゃうんだよ?」

私は彼の部下役なので敬語は止めてとお願いしていた。

「送られませんよ。そろそろ帰ります」

「お疲れ様。また明日」



ヘンリー殿下には完全な友人宣言をした。

「あの女さえ現れなければ、愛したリヴィアと婚姻できたのにな」

「そうですね。私もきっと喜びに満ちた花嫁になっていたと思います」

「自分に無い記憶が君にあって、それがフラれる理由だなんて ついてないよ」

「しかも悪魔の力をもらいましたから…無理ですよ」

「ネルハデス伯爵家は養子を取るんだって?」

「はい」

「選んだのかな?」

「いえ」

「全く違う2人じゃ比較が難しいか」

「もうすぐ卒業です」

「そうだな」

「卒業後は3年間特務部で働く契約をする予定です。モロー隊長とは話を済ませました」

「誰とも婚姻しないつもりなのか」

「とりあえず3年間は」

「2人は知っているのか」

「いえ。採用内定がでたらお別れを言うつもりです。
私はオードリック様に相応しくありませんし、傷が多すぎてルネ様と純粋な幸せを望めません。
婚姻するなら穏やかに暮らしたいのです」

「じゃあ、私達は友人だ。困ったことがあったら相談し合える友人。そうだろう?」

「そうですね」

私達は友人として握手を交わした。


その後、時間はかからずに内定がでて、オードリック様とルネ様にお別れを告げた。










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