【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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勝負に勝てない

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お見舞いの品がたくさん届いた。

面会は、カシャ公爵に連れられたルネ様が最初に来てくれた。まるで謝っているかのような顔をしていた。

次にオードリック様が来てくれた。
安堵の顔で手を握っていたけど、刺した犯人の名を知ると悪魔といい勝負の恐ろしい顔に変わった。

あまり怒らせないようにしようと心に誓った。

後はお手紙のやり取りだけにしてもらった。


手紙を出して数日後、お父様とお母様が領地から出て来た。

「娘が刺されたのに、ガニアン公爵家の来国に合わせて来ればいいと書かれていてどれほど悲しかったか」

「すみません」

「そんなに薄情に見えていたのか」

「違います、すみません」

「酷いわ」

「お父様、お母様、すみません」

「犯人はガニアン公爵家が帰国したら処分すると聞いたが、いいのか?」

「はい。少しは反省してもらわないと」

「そうか」

「そういえば、貴女がいなくてもフレンデェ公子が来て来れたわ。お話してからここに来たのよ」

「随分と我が家に馴染んでいるようだな」

「次男なら婿に来てもらいたかったわね」

「仲良くなさっているようで良かったです」

「ゆっくり休むのよ」

「話は進めておくからな」

え?話?

「お父様?」

「先生、よろしくお願いします」

「かしこまりました」

お父様達は帰ってしまった。   


刺し傷が治るまでという設定の安静なので退屈な時間が多かったけど、毎日朝晩、学園が休みの日は頻繁に ヘンリー殿下が話し相手になってくれた。

「また負けました」

「負け方で素直さが分かるよ」

殿下とゲームをして連敗していた。

「一度も勝てないなんてショックです」

「え? ごめんっ」

「どれかは手加減してくれたっていいじゃないですか」

「気が利かなくてごめん」

「半分冗談です」

「それでもごめん」

「じゃあ、次は私が勝てそうなゲームを用意してください」


なのに…。

「ごめん!本当にごめん!」

「酷い。早速勝つなんて。昨日の今日じゃないですか」

「この通り、許してくれ!」

「頭を上げてください」

「でも」

「そこまで謝られると、違う意味で傷付きます」

「え?」

「勝てそうなゲームを選んで持って来たのに また負けた女って自覚しました」

「リヴィアっ」

「ふふっ。大丈夫ですよ。ヘンリー王子殿下に勝てないのは当然です」

「リヴィア、滞在中くらいヘンリーと呼んでくれ」

「ヘンリー様」

「実は、君が顔に出してしまうんだ。それで次の手が読めたり、手に取ってはいけないと分かるんだ。
ごめんね」

「何だかずるいです」

「そう。だから私の反則負けだ」

巻き戻り前に あんなことが無ければ、この優しい殿下とこうして楽しく過ごして支え合える夫婦になっていたのかもしれない。

「リヴィア?」

「次は仮面を持ってきてください」

「リヴィアは瞳だけでも表現してしまうから あまり意味はないよ」

「でしたら、ヘンリー様が目隠しをしてください」

「目隠ししたら確実に負けるじゃないか」

「だって私の表情を見て判断なさるなら、目隠しするしかないですよね」

「帽子だ。ベール付きの帽子を用意しよう。それでどうだ」

「いいですわ」


結局

「もうヘンリー様とゲームはしません」

「ごめんっ!いっそのこと殴ってくれ!」

「ふん!」

「リヴィア」

「ふふっ」

「…ずっとリヴィアと遊んでいたい」

「陛下にしかられますよ」

「そうだな」



殿下に遊んでもらって過ごして、屋敷に戻ってもう少し療養を装うのはいいのだけど、…いや、学園に行きたい。

「殿下とゲーム三昧か」

「三昧というか」

「殿下が何度も謝ってリヴィアの機嫌を取っていたんだって?」

「機嫌を取っただなんて」

「学園のない日はかなり長い間 一緒に遊んでいたんだって?」

「だって退屈だったから」

「私を呼べはいいじゃないか」

「別に私が呼んだわけじゃ…」

「…外出が可能になったら一番に私の部屋を見に来てくれ。見事な汚部屋に仕上がっていて、メイド達はソワソワしてるし、母上は見なかったことにしていたよ」

「だ、ダメですよ。私が遊びに行くまでに、ピッカピカにしておいてください。私が床に寝ても大丈夫なくらいに」

「私の部屋に泊まってくれるんだね?嬉しいよ。約束したからね?また冗談だとか言って次期フレンデェ公爵を弄ばないでくれよ」

「ち、違っ」

「約束を破ったら、お詫びにこの部屋に泊まらせてくれ。いいよね?」

「オードリック様っ」

「さて、屋敷に帰ってメイドに片付けさせよう。君が泊まる時のための必要なものも購入しないとな」

「待って、」

「じゃあ、また」

私の否定を聞かずに帰ってしまった。
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