【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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特別な力

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【 サラ・セグウェルの視点 】


美少女だった私に町の人達はこう言った。

“きっと貴族が放っておかないぞ”
“金持ちが求婚しに来るだろうな”
“王子様が白馬に乗って迎えに来るぞ”

私は信じた。

だって

ある時は、

「美味しそう」

「いいよ、持っていくといい」

「ありがとう、ジャンさん」


またある時は、

「綺麗」

「買ってあげるよ」

「ありがとう、ゲイル」


母と二人暮らし。生活は貧しくはないが豊かではない。必要最低限の物しか買えない暮らしを送っていた。だけど私が見つめて微笑み、さらに腕を絡ませたり抱き付いたりして目を合わせると 町の男達は私に優しくしたり愛を囁いたり贈り物をくれた。

その現象は月のモノを迎えてから始まった。
その代わり、町の女達が文句を言い始めた。

“あんたのところの娘はうちの旦那にいつも店の商品をタダで強請っているんだよ!”
“うちの息子は給料の全部をお宅の娘に貢いじまったんだよ!”
“店をやっているか金を持っているか顔のいい男を狙って身体を擦り寄せて!”
“売女を育てるなら他所の町でやりな!”

私に文句を言うと男達が庇うので、女達の矛先は母に向かった。

母は何度も“異性に近寄るのは止めなさい”“欲しくても貰ってはいけない”と口煩かったが無視した。

仕方ないじゃない?
私はいつか王子様が迎えに来るような美しい女の子なんだから。


だけど、町に居られなくなった。

人気のない場所や暗くなると町の女達が 私や母に石を投げたりするし、家には腐った果物を投げ入れられたりするから窓は開けられないし、洗濯物は地面に落とされたり踏みつけられたり破かれるので外に干せなくなった。
そして女性だけが使うようなものが売っている店は私と母には売ってもらえない。仕方なく隣町まで買いに行く必要があった。

生活していけないレベルになると別の町へ引っ越した。何度も。


そのうち母が死んだ。
すると父親だと名乗る人が現れた。セグウェル男爵だった。
私は貴族の娘だったと知って胸が高鳴ったが、腹違いの兄姉達を見て悟った。私は男爵の実子ではないかもしれないと。私は死んだ母にも男爵にも全く似ていなかった。色も違った。

セグウェル男爵は“お父様と呼べ”といい、家庭教師をつけた。お父様に私の力は通じなかったが、姉達よりお金をかけてもらえているのが分かった。

男爵夫人には縁戚の子と紹介した。まあ仕方ない。自分の子だと言えば浮気を認めたことになるから。だけど夫人は信じていなくて、お父様が居ないと“卑しい分際で”と冷たく当たる。
姉2人も私がいるせいで金が減ると無視をする。でも知っている。本当は私のような美人と比べられるのが嫌なのだと。弟はほとんど喋らず傍観している。弟にも私の力は通じなかった。

そして、私の力が通じていないはずの兄は 私を犯した。初めてで酷く痛かった。抵抗する身体を押さえ付けられ無理矢理貫かれたからだ。
泣いて訴えると男爵夫人に殴られた。

『早速うちの息子を誑かして!まるで下賤な娼婦じゃない!』

『私は被害者です!』

帰ってきたお父様はこれを知って、長男を叱ってくれると思ったけど叱らなかった。

夜、眠れなくて一階に降りると、居間のドアが開いていて話が聞こえてきた。

『あなた、サリオンのためにはあの子をこの家に住まわすのは良くないですわ』

『サリオンもそういう歳だから仕方ない。他所でやらかすよりはマシだ』

は!?

『気持ち悪いったらないわ』

『せっかく娘と偽って引き取ったのに。
はぁ…高く売るためには純潔のままでいて欲しかったがな。隠居した金持ちの慰みものとして売るしかないか』

『早く売りはらってください。汚らわしくて仕方ありませんわ』

『だが学園は卒業させないと、完全に平民扱いになって売値が暴落してしまう』

『卒業したらすぐ追い出してください。サリオンが汚れます』

『そう言うな。黙認してやれ。
性欲には個人差があるが、理性がきかないほど勝る者もいるんだ。発散させないと他の令嬢に手を付けるかもしれないだろう。娼館に通わせるには金がかかるし、こうなったら使わせてやれ』

酷い!

我慢出来ずに怒鳴り込んだ。

『私はサリオンの玩具じゃない!お父様の子でしょう!』

『こんなに似ていないのに親子の証明などできないだろう。俺の子ではない。きっと追い出されて身でも売ったのだろう』

『じゃあ、何で』

『俺の管理する土地に男を誑かす娘を持つ母子が町を転々としていると聞いてな。見に行ったら男を手玉にとる見た目のいいガキがいたから連れてきたんだ。俺の婚外子で母子を面倒みていたということにすれば親権も手に入るし男爵令嬢として値が付くだろう。せいぜいお得意の技で金持ち貴族を捕まえてくれよ』

『っ!!』

何で!何でこいつらには私の力が通じないの!?


その後も勉強や令嬢としての教育を受けながら、毎日のように夜明け前後になると、長男サリオンが私の部屋に来て犯していく。
いつも股間を膨らませて現れて、無理矢理下着を脱がせてうつ伏せにして 秘部に唾を垂らしていきなり挿入する。

『痛い!』

私の後頭部を掴み顔を枕に押し付けて サリオンは一心不乱に腰を振る。

『くっ…あっ……………はぁ』

吐精が終わると私の寝巻きで汚れたアレを拭いて部屋を出ていく。

バタン

『うううっ…』

本当に毎朝 私の身体は使われているだけ。


学園が始まった。入学式では私の知らなかった本物の貴族の子達がキラキラと輝いていた。男爵家うちとはまるで違う。

『入学式には現れなかったわね』

『それはそうよ。王子殿下は2年生なのよ』

『あと1年早く産まれたら、学友のチャンスがあったのに』

『宰相のご子息も綺麗らしいわよ』

『団長のご子息も素敵らしいわ』

そっか。王子様に力を使えばいいのね。ついでに宰相の息子と団長の息子も…いっそのこと権力者や大金持ちの息子を私のものにすればいいのよ。


だけど…

『ねえ、こんなに厳しかったのね』

『お父様達のときは、こんな規則は無かったらしいわ』

他の教室に入れない、他学年のフロアには行けない。使う階段も違うのですれ違わない。行きは警備が厳重で、王子待ちができない。帰りは学年ごとに終わる時間が違うので会えない。待っているのが見つかると厳しく注意を受けた。

私のものになったのは、騎士団の息子と、同学年の狙っていなかった子息だけだった。
どうしてこんなに力がきかないの!?

偶然すれ違うことができた王子様も美しい宰相の息子も全く力の効果は無かった。
団長の息子は使いどころが無かった。王子達に引き合わせてくれないし、大した物は買ってもらえないし、馬鹿みたいに片膝ついて手の甲に唇を付けて価値のない歯の浮いたセリフを言うだけ。私が欲しいのは大金と王子妃の座よ。
そんな団長の息子も進級前に力の効果が無くなったみたいで近寄らなくなった。いちいち手を洗うことにならなくて済んだからいいけど。


進級すると始業式が2、3年生合同だった。
王子様を見つけて近寄ると昼食の話をしていた。
王子様が別のグループと食べたがっていた。チャンスだと思ったのに、決定権を持つ者が女だった。何故か女は私を避けた。それを見た王子様が女を背に隠した。

は?この女も婚約者候補なの!?

私には分かる。王子様の本命はこの女だ。


翌朝、馬車の乗降場で昨日 私の力がきいた男を見かけたので声をかけた。

「おはようございます、昨日の話なんですけどぉ」

腕に絡んで胸を押し付け瞳を見つめたのに、

「君、男爵令嬢だよね。何でそんな酒場の身売りの真似なんかするんだ?
離れてくれ。誤解されたくないし仲間に嫌われたくない。そもそも君と一緒になんて無理に決まってるだろう。殿下が断ったんだしリヴィアも断ったんだから、もう近寄らないでくれ」

は? もう解けたの!?


気に入らない。王子様も宰相の息子もリヴィアを大事にするし。

あの女が這いつくばって泥水を啜る姿を見ないと気が済まない。
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