【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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嫉妬

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土曜と今日の午前中でまた兵士と顔を合わせて選別した。

「リヴィア、困ったことはないか?」

遅くなり、送ってくれたカルフォン卿がまだ屋敷にいた。

「ちょっと忙しくしていますが大丈夫です。来週の4連休のうち、2日は予定を入れずに休もうと思います」

1日は建国記念日でパーティがあるため休み。招待されたのは爵位を持つ者とその伴侶、あとは功績のある者。私は呼ばれていない。翌日も休みだ。

「ご両親はパーティだろう?その間、此処に来てもいいか」

「お仕事は?」

「さすがに特務部は休みだよ」

「うちに来て?」

「休ませてもらう」

「……?」

「実家に帰ると あれこれ煩くて休めないし、宿舎だと個室ではあるが全てが共同だし、何かあれば呼ばれてしまう」

「ふふっ いいですよ“先生”」

「なんだか…いけないことをしている気分になる。俺の名前は“オスカー”だ」

そこにフレンデェ公子が迎えに来た。彼はエントランスで私とカルフォン卿を見て笑みが消えた。

「じゃあ行くよ。またな」

「はい、オスカー様」

彼は私の頭を撫でて帰った。


「ちょっと待ってくださいね、支度をしますので」

「そのままでいいよ」

「ですが、これはいわゆる仕事着で支給品のようなものですから。

フレンデェ公子を応接間へご案内して差し上げて」

「かしこまりました」


着替えて廊下へ出ると公子が壁にもたれて待っていた。

「びっくりした…お、お待たせしました」

「……」

「公子?」

「さっきの騎士を“オスカー”と呼ぶのに 私は“公子”?」

「…オードリック様」

「じゃあ 行こうか」

気のせいだろうか…  

ゴトゴトゴトゴト

馬車の中で公子はじっと私を見つめていた。
話しかければ答えるし、公子も話しかけてくる。だけど目線は外さない。

公子が怒っている気がするのは…気のせいじゃなさそう。怒っているのは私に?何かした?

「この店だ」

到着したのはフレンデェ邸ではなく、紳士服を仕立てる店だった。中に入ると小物も扱っていた。

「こ…オードリック様が贔屓になさっているお店ですか?」

「初めてだな。だからリヴィアに選んで欲しい」

「私がですか?」

「そうだ。うちには堅苦しい服しかないからな」

前回 服を着崩したからね。

「そういうことなら喜んで」


何着か選んだが、お直しが必要だったのでフィッティングルームに公子が入った隙に店長に声をかけた。

「店長。今日の買い物は全てネルハデス伯爵家が支払います」

「かしこまりました」

「あ、これとこれは贈り物用としてネルハデス邸に届けてくださる?今回の請求書と一緒に」

「直ぐにお包みしてお届けに上がります」


戻って来た公子が署名をしようとしたが、

「既にお支払い済みでございます」

「支払い済み?」

「はい」

店長が私を見た。公子も視線で分かったのか私を見た。

「私のにお付き合いいただいたお礼です」

「……」

「オードリック様?」

「フハハッ そうか」

あれ? こんな簡単に機嫌直していいの?

「ではお礼をしなくては」

公子は私の頬に手を添え上を向かせると唇に近い頬にキスをした。

「なっ!?」

は屋敷でな」

店長は目を逸らし、女性店員は頬を染めていた。

続きって何!?

「店長、失礼するよ」

「ありがとうございました」



フレンデェ邸に到着してコーネリア様に間に入ってもらおうと思ったのに…

「え? コーネリア様は登城なさったのですか!?」

「ほぼ決まりの婚約者候補だぞ?妃教育が始まってもおかしくないだろう」

「でも私と公子が2人で会うのは、」

「おかしくない。別に個室に2人きりなわけではない。メイドがいるのにまずいなら、リヴィアはまずいことだらけじゃないのか?」

「え?」

「入り口だって開放しているだろう」

「そうですけど」

「なら問題ないな」

そう言いながら椅子を引いてくれた。

「建国記念日だけど予定がなければ出かけないか」

「オードリック様。私の今の立場では 他の令息ひとと出かけ回ることはできません。偽でも殿下の婚約者候補なのです。婚約者ではありませんからこうして訪問も出来ますが、頻度が多ければ噂が立ちます。これは国王陛下と契約書を交わしたお仕事なのです。契約期間満了まで偽物だとバレてはいけません」

「私にはバレているじゃないか」

「オードリック様は私に悪意を持っていませんし他言しないと信じています。それに故意ではありません。
オードリック様は一体私の何に怒っていらっしゃるのですか?」

「私が君を?」

「今日、屋敷にいらした時からそうでした」

「ちょっと嫉妬しただけだ。リヴィアには男の友人が何人かいるようなのに 私は君の友人に相応しくないと言われているかのように他人行儀だから」

「まだ お会いしたばかりではありませんか」

「だとしても、私が家族と使用人以外でこれだけ一緒に過ごし 心を開いているのはリヴィアだけだ。
屋敷の中では君は私の大親友の位置付けだよ」

「…オードリック様の大親友ですか?もう?」

「そうだ」

「だとしたら問題ですよ?ちゃんとお友達を作りましょう?」

「だが、私に近付く者は男も女も純粋ではないんだ。フレンデェ公爵家と縁を繋ぎたいとか、次期公爵の私に取り入りたいとか、次期公爵夫人になりたいとか、支援して欲しいとか贅沢したいとか。
そんな者達を友人にしたいか?」

「ご自分から近寄ればよろしいのでは?」

「だから近寄っているだろう」

「え?」

「君に近寄っているだろう」

私の手の上に公子が手を重ねた。








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