【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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間者の報告

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【 オードリック・フレンデェの視点 】


あの後、王城とカシャ公爵邸に潜ませている間者達に別の司令を出した。

“リヴィア・ネルハデスに関することを拾ってこい”

本当はネルハデス伯爵邸にも送り込みたかったが募集しておらず、しかも引き入れができないと言われた。

“あの屋敷に勤める者はがまるでありません。多分弱みを握って脅しても ネルハデス嬢に報告してしまいます。侵入しようとしましたが、既にが付いていました。あれは王家の影でしょう”


アングラード伯爵邸には簡単に入り込めた。執務を補佐する者を2名募集していた。

クラスメイトの下宿先でアングラード夫人の件で仲良くなったのは知っている。
とんでもない失態だったが、うまく収めた。直ぐに離縁をして犯罪として被害を訴えたことで借金を夫人の実家に押し付けることができた。アングラード伯爵とリヴィアが登城し陛下と謁見してから大きく動いたということは、リヴィアが離縁時期を操作させたのだろう。手配書も早かった。謁見の時には消えた夫人と男の絵姿を持参していたのだろう。
そして金の無いアングラード伯爵家となってしまったが、社交に出て情報戦を上手く利用した。普通の貴族は己の恥を面白おかしく又は同情を誘うように話したりしない。本人が傷を曝け出したことでそれ以上に変な噂を立てる者を防いで見せたばかりか、皆が好意的に受け入れた。今まで縁のなかった者も交流を持つようになったと聞く。

そして不正掘削。地下から侵入した掘削に普通は気付かない。その土地は手付かずの土地だったと聞く。見事に暴き、掘削権を売り大金を得た。

そして採用された間者は、リヴィアがアングラード邸で何をしていたか報告をあげた。
真面目に過去の金の流れを追って帳簿を付け直し、国の調査を受け入れたという。普通は不正の疑いで捜査が入るものだが、アングラード家は調査してくれと申し入れた。これもリヴィアが考えたこと。
“プロを無料で使えるのですよ?有難いことです”
普通は妨害されたり抵抗されたり罵られたり泣き喚かれながら仕事をするのに、大歓迎されながら仕事をした調査官達はしっかり調べてのアドバイスまでして帰って行った。
アングラード伯爵は、5年に一度 10年に一度でもいいから、時間のある時にまた来て調査して欲しいと調査官達と握手をしてお願いした。

何も隠すことがなければ、国の抱えるプロを無料で使い、間違いや方法を見つけてもらえ、しかも“白”というお墨付きを得られる。
体面を重視しがちな貴族は使わない方法だ。

“伯爵はネルハデス嬢に好意を寄せております”

だが、陛下との契約をなんとなく知っているのだろう。友人として距離を詰めようとしている。
大人の男の側にリヴィアが向かうのを止めたいが、今の私にその権利はない。
“絶対に2人きりにするな”そう命じるしかできない。


王城でのリヴィアの様子や、リヴィアに関する王家の動きを細かく知りたかったが、

が主導で近寄れません。
ですが、ネルハデス嬢が現れた場所の使用人や兵士達の一部が捕えられたり解雇されています。彼女は少しずつ婚約者候補の職場見学として見て回っています。ヘンリー王子殿下もネルハデス嬢の行動を注視させて報告をあげさせています。タイミングが合うときは偶然を装ったりして接触を試みていました”

ここまで王子が執着しているのに、何故陛下は王命を使わないのだろう。妃には相応しくないと思っている?ならコーネリアを娶った後にリヴィアを娶ればいい。そのための予約王命でもいいはずだ。
予想だが、リヴィアの能力と王子むすこの気持ちを優先させることを天秤にかけた時に、リヴィアの能力が上だったのだろう。
だが、王子の気持ちは消えるものではない。用心しなければならないのは既成事実だ。王子がリヴィアの純潔を奪い娶る強硬手段も許されてしまうのが王族だ。王子には恋心があるからリヴィアから嫌われたくないのでそれはしないが、嫌われてでも手に入れたかったらやるだろう。

“王子が手を付けそうになったら止めに入れ。国王陛下に逆らうことになりますと言えばいい”


カシャ公爵邸の間者からの報告に体中の血が沸騰した。

「茶会の席で顔色を悪くしたネルハデス嬢を公子が客室へ連れて行き、抱き上げてベッドに寝かせると靴を脱がせました」

「リヴィアは?」

「拒否は口にしましたが、抵抗らしき抵抗はなさっておりません」

「……それで?」

「ネルハデス嬢の体調を気遣いながら近況を聞くと…オードリック様とのことを知って動揺した公子がご自身との縁談のことを口にしましたが、理性が勝ったようです。ただ跪いてネルハデス嬢の手を握り額に付けました」

「リヴィアは?」

「…そのままでした」

「お前はどう感じた」

「……」

「いいから言ってくれ」

「普通のクラスメイトや友人の域を超えた空気をお持ちだと感じました」

「リヴィアもか?」

「……はい」

「2人はもう?」

「いえ。違うはずです」

「本当にリヴィアは求婚を断っているのか?」

「はい。間違いなく2度は断っているようです。ですが諦める気はないようです。
最初は何故 そこまでネルハデス嬢に拘るのかカシャ公爵夫妻は疑問に思っていたようですが、ある手紙が届いてから公子の気持ちを尊重するようになりました」

「手紙は読んだのか」

「いえ。夫人が読み、公爵が読むと夫人が封筒ごと燃やしてしまいました」

「誰からだった?」

「それが、配達業者を装った使者が夫人に直接手渡しをしたので誰もみていません」

「何者か分からないのに夫人に応対させたのか?」

「使者が家令を呼び何かを見せると夫人を呼びに行きました」

「何か特徴はなかったのか」

「鍛え上げられた男としか。外套のフードを被り口元も隠し、目元しか分かりませんでした」

「装飾品は?」

「ありません。ですが、香りがしました」

「香り?」

「はい。何かの花の香りです。疎くて申し訳ございません。ただ、バラや百合やラベンダーやリラではありません。おそらく封筒に付けた香りかと」

「分かった。公子がリヴィアに手を出しそうなら、邪魔をしてくれ」

「かしこまりました」


今日はリヴィアとの約束の日だ。

「馬車を。ネルハデス邸に迎えに行く」


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